【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

2626

文字の大きさ
31 / 297
First Chapter

手に入らないからこそ求めてしまう

しおりを挟む
 「私はね、愛して欲しかったの。家族から……娘として、妹として、愛して欲しかったの」

 『ヴォイドに堕ちた者はもうヒトには戻れない』

 「分かっていたのよ、あの人達からは絶対に愛して貰えない事。私の固有魔法が『発情』だと知った途端に、最初の借金の形にされて遊郭に売られちゃったくらいだったしね」

 『「神々の血雫」を使用した者は、厳正に法に則り処刑する必要がある』

 「本当はね、お医者様になりたかった。ずっと隠れて勉強していたっけ……。どうせなれない事は分かっていたけれども、ほら、夢まで捨てたらあの人達と同じになってしまうでしょう?」

 『人類の魂を無差別に喰らう化物』

 「立派なお医者様になったら、いつかあの人達の心を治せるんじゃないかって。そうしたら今度こそ私達、幸せな家族になれるんじゃないかって……ずっと……ずっと……。
でもね、あの人達は私の事が心底『都合の良い道具』だったんだなって……これを渡された瞬間に分かってしまったわ。確かに私は汚い娼婦だけれど、これが何か分からないほどバカじゃないつもり。『神々の血雫』……身に着けたら問答無用で死刑……そうでしょ?」

 「死刑だって分かっていたなら、どうして、どうして、どうして身に着けちゃったんだ……フェーアさん!」
『エルダー』級のヴォイドでも突破できない特殊な構造の地下牢の前で、ゲイブンは膝を突いて泣き崩れていた。
ロウがその背中に手をやっていた。
ゲイブンには見えていないが、『パーシーバー』もゲイブンを抱きしめて一緒に泣いている。
「おいら、フェーアさんの事好きだったんですぜ!あの日……結婚式だったのに、全部全部全部メチャクチャにされた姉貴そっくりだったから……!」
フェーアは呟くように言った。
「そっか……ごめんね……。何か、『もう、いいや』『もう、疲れた』って思っちゃってね……」

 「一緒に逃げようですぜ!二人だけで暮らせる所まで――お願いですぜ!」
 「あはは……君が最初から私の家族だったら、良かったのにね」

 そこでフェーアはオレ達の姿を見て、ふっと微笑んだ。
「ああ、貴方が噂の『シャドウ』でしょ?本当に……噂じゃ無くて、実在したのね」
ゲイブンが振り返って、笑いながら泣き出した。
いや……顔だけ笑って、心は泣いているのだろうか。
「ははは……あははははっ……ははっ……もう……もう……来たんですか」
夜明け前の暗闇に紛れて、オレ達は帝国城を抜け出してきた。
「ああ」
オレ達は2丁拳銃『シルバー』&『ゴースト』を構えた。
フェーアは黙って目を閉じた。
『チャイルド』級のヴォイドとは思えない態度だった。
「『シャドウ』さん……!」
ゲイブンがオレ達にすがるように手を伸ばして、ロウが黙って抑え込む。
「一つ、聞かせてくれ」
オレ達は彼女に訊ねた。
「どうしたの?」
「どうしてロウの所に来た?」
「何でだろう……よく分からない……。あの人達から逃げたくて、無我夢中で遊郭さえ飛び出して――気付いたらここに来ていたの。どうしてだろうね。……『よろず屋アウルガ』って、あくどい依頼じゃなければ何だって叶えてくれるって有名だから、きっと楽にしてくれるって思ったのかな……。ああ、もしかしたら、ブンちゃんに会いたかったからかも……」
「遺言はあるか?」
「えっと……」
彼女は少し黙ってから――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...