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First Chapter
報われないが故の愛
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オユアーヴは己が異端児である事を誰よりも理解している。
物心付いた時から、己がこの世界にとっての異物であると常に感じていた。
いつか雪が深く高く降りつもって、世界中を白く埋め尽くしたとしても――己だけは炭のように真っ黒のままその中で一人立ち尽くしているだろう、と。
オユアーヴは帝都の救貧院で育った孤児の出である。嬰児の時に、白い絹布に少しの金子と共に包まれてその救貧院の前に置かれていたそうだ。
オユアーヴと名付けたのは救貧院の責任者であった年老いた女神官で、それは例の絹布にOYUAVと赤い糸で小さな刺繍があったからだった。もっともその絹布は、救貧院の貧乏故にすぐ売られてしまったのだが。
4つの時に『あれはどこぞのお貴族様の火遊びで生まれたのだろう』と大人達が話しているのを聞いたが、彼は、そうなのか、と曖昧にしか思わなかった。
彼はどうしてか、空想上の親の姿にも、隣の煎餅布団の中で夜な夜な親や家族を恋しがって泣く救貧院の仲間にも、ろくに心が動かないのだった。
その彼の心が大いに動いたことがある。7つの時だ。
――それを見たのは、さる高貴なお方が慈善のため、家来衆に救貧院へ寄付の品物を運び込ませている、その搬入作業の真っ最中であった。
高貴なお方は上から下まで赤貧に喘いでいる救貧院を扇越しに物憂げな顔で眺めていた。周りの護衛は、柄に美しい装飾の施された槍を地面にドンと突いて――彼らは無表情を貫いていたが、居丈高に孤児達や貧乏神官達を睨めつけていた。
――槍。
その鋼色に輝く武器を見た瞬間、オユアーヴは生まれて初めて心臓が高鳴った。
美しい。何て美しいのだと感動した。誇張でなく、彼の魂が震えた。涙がにじんだ。
それは相手が人でないだけで、正真正銘の初恋だったのかも知れない。
フラフラと無我夢中で護衛達に近づこうとした彼に、神官の一人が気づいてすぐに羽交い締めにして止めた。
「何をするんだ!」
「あれ!」
欲しい、欲しいと生まれて初めてオユアーヴは叫んだ。いつも一人で地面に絵を描いて遊んでいるような子供だったのに、その時だけは火が付いたようにけたたましく泣いたのだった。
「……あの小僧の名は?」
当然、この騒ぎに高貴なお方が気が付いて、従者に耳打ちした。
従者がやって来て、神官を声高に問い詰める。
「御夫人がその小僧の名をお訊ねである!答えよ!」
神官は真っ青になった。
「お、オユアーヴ、オユアーヴでございます。どうか、どうかお許しを!」
「オユアーヴ……?」
高貴なお方はしばし考え込んだが、何かに思い至ったのかまた従者に耳打ちした。
「えっ!?」
従者が驚いている。が、すぐにまた神官の所にやって来た。
「御夫人はその小僧を直ちに引き取られると仰せである!」
物心付いた時から、己がこの世界にとっての異物であると常に感じていた。
いつか雪が深く高く降りつもって、世界中を白く埋め尽くしたとしても――己だけは炭のように真っ黒のままその中で一人立ち尽くしているだろう、と。
オユアーヴは帝都の救貧院で育った孤児の出である。嬰児の時に、白い絹布に少しの金子と共に包まれてその救貧院の前に置かれていたそうだ。
オユアーヴと名付けたのは救貧院の責任者であった年老いた女神官で、それは例の絹布にOYUAVと赤い糸で小さな刺繍があったからだった。もっともその絹布は、救貧院の貧乏故にすぐ売られてしまったのだが。
4つの時に『あれはどこぞのお貴族様の火遊びで生まれたのだろう』と大人達が話しているのを聞いたが、彼は、そうなのか、と曖昧にしか思わなかった。
彼はどうしてか、空想上の親の姿にも、隣の煎餅布団の中で夜な夜な親や家族を恋しがって泣く救貧院の仲間にも、ろくに心が動かないのだった。
その彼の心が大いに動いたことがある。7つの時だ。
――それを見たのは、さる高貴なお方が慈善のため、家来衆に救貧院へ寄付の品物を運び込ませている、その搬入作業の真っ最中であった。
高貴なお方は上から下まで赤貧に喘いでいる救貧院を扇越しに物憂げな顔で眺めていた。周りの護衛は、柄に美しい装飾の施された槍を地面にドンと突いて――彼らは無表情を貫いていたが、居丈高に孤児達や貧乏神官達を睨めつけていた。
――槍。
その鋼色に輝く武器を見た瞬間、オユアーヴは生まれて初めて心臓が高鳴った。
美しい。何て美しいのだと感動した。誇張でなく、彼の魂が震えた。涙がにじんだ。
それは相手が人でないだけで、正真正銘の初恋だったのかも知れない。
フラフラと無我夢中で護衛達に近づこうとした彼に、神官の一人が気づいてすぐに羽交い締めにして止めた。
「何をするんだ!」
「あれ!」
欲しい、欲しいと生まれて初めてオユアーヴは叫んだ。いつも一人で地面に絵を描いて遊んでいるような子供だったのに、その時だけは火が付いたようにけたたましく泣いたのだった。
「……あの小僧の名は?」
当然、この騒ぎに高貴なお方が気が付いて、従者に耳打ちした。
従者がやって来て、神官を声高に問い詰める。
「御夫人がその小僧の名をお訊ねである!答えよ!」
神官は真っ青になった。
「お、オユアーヴ、オユアーヴでございます。どうか、どうかお許しを!」
「オユアーヴ……?」
高貴なお方はしばし考え込んだが、何かに思い至ったのかまた従者に耳打ちした。
「えっ!?」
従者が驚いている。が、すぐにまた神官の所にやって来た。
「御夫人はその小僧を直ちに引き取られると仰せである!」
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