【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

2626

文字の大きさ
69 / 297
First Chapter

ヴォイドにならずとも

しおりを挟む
 ――1時間もしない内に小走りでクノハルが戻ってきた。
「オユアーヴは何処ですか!?事件のあった日からソーレが御印工房に来ていないらしいのです!」
局長がすぐさまソーレへの事情聴取を行おうと自ら出向いた所、事件のあった日から欠勤していると分かったのだ。急病だと言う。局長は精鋭の調査員にソーレの邸宅に向かわせたが、恐らくそこにもいないだろう事は明白だった。
ユルルアちゃんも俺も血の気が引いた。
「ロウの所に事情を伝えに向かわせてしまった……ついでに調味料の買い物に行くと!」
「追い詰められた者は何を考え何処で仕出かすか分かりません!もしかすれば因縁のあるオユアーヴに危害を加えるつもりかも――!」
焦るクノハルに、ユルルアちゃんが無音通信を行う機器を指差して言った。
「ロウに急ぎで連絡を取りましょう!もしもオユアーヴが来ていなければ……」
「僕が出る」
――時は黄昏、夕闇から本当の夜の闇へと変わろうとしていた。


 ロウ達のいる『よろず屋アウルガ』への道を歩みながら、オユアーヴは買ったばかりの香辛料数種類と調味料が入った袋を抱えて、今夜の夕餉の献立を考えていた。
「……」
そのオユアーヴの前に、突如人影が立ちはだかった。
「強盗なら止めてくれ。俺はロウの知り合いだ」
治安の良くない貧民街ではままある事で、その時にはロウの名前を出せば必ず魔除けになる事を経験済みだったから、オユアーヴは冷静だった。
「……」
だが、人影は逃げようともしない。逆に、一歩一歩とオユアーヴに迫ってきた。
(ここの住人じゃない、のか?まさか――)
その可能性に気づいて、オユアーヴは背筋が冷えた。
「……なあ、オユアーヴ」
聞いた事がある声の持ち主が誰なのかは、すぐに分かった。
「どうして貴様に……貴様ごときに……」

 ――娼婦を残虐な方法で殺したか、死後に『分解』した。

 冷水を浴びたように全身が凍りついて、オユアーヴは思わず後ずさる。悲鳴を出さなければならないのに、『助けてくれ』と大声さえ出せば、勘の良いロウが気付いてゲイブンを連れて実際に助けに来てくれるかも知れないのに、どうしてか喉が渇いて意味のある声が出ない。
「そ……そ、ソーレ……なの、か?」
「貴様だけは、認めない」

 オユアーヴは逃げた。懸命に逃げようとしたのにどうしてか抱えている袋を捨てられなくて、すぐに追いつかれる。脳天に凄まじい衝撃が走って、地面に倒れたと同時に意識が途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...