【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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First Chapter

バテシバ①

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 再会の機会は意外にも早くやって来た。
3日後にゼーザ家の隣の家の者が『赤斧帝』の粛正に遭い、無人になった家が売りに出されたのである。
これは神々が己に与えた好機だ、とすぐさまサロフはその家を買いあげ、別邸とした。
訝しがる妻には、これは武官になりたいと願っている長男のためだ、別邸とは言え隣人が第一等武官であれば将来どれほどの扶けになるか分からない、と上手く言いくるめた。
夫としてはともかく、子供達の父親としてのサロフはしっかりと義務を果たしていたので、妻ウビノはこの時はそこまで疑わなかった。

 「この度事情あって隣に長男共を住まわせる事となりました。手前はブラデガルディースの当主サロフと申しまする。どうぞ今後ともよろしゅう申し上げまする」
挨拶に行った先では、あのゼーザ夫人が出迎えた。
「あら、お初にお目にかかりますわね。妾はヌルベカと申します。こちらこそ、よろしく申し上げますわ。お近づきの印にこちらをどうぞ」
そう言って彼女が庭師に命じて庭に生える花木の枝を少し切らせ、サロフへ差し出させた。
「――っ!!!」
偶然ではない。サロフは歓喜に震えた。差し出されたのが、あの花見の際にヌルベカがその下で過ごしていた――その花の枝だったからだ。
「これは美しい花を。心より感謝申し上げまする」
それから彼は慎重に時を伺った。
彼は焦らずに待つ事が出来る男だったから、寵臣としても上手くやれていたのだ。
やっと、子供達と妻が本邸へ出かけている時を狙って、サロフはあくまでも花の枝の返礼のためと言う体裁で――ゼーザ家を再び訪問したのだった。


 「おや、これはかたじけない」
その時には折悪しくヌルベカの夫であるアウルガがいた。
「いえいえ、良き花を頂けたので妻女が喜びまして」
しかしサロフは何一つ不審な態度を見せず、あくまでも息子のために規範となる人物の近くに家を借りたかった、とむしろアウルガを立てるような事まで述べた。
「そうか、貴公も子を持つ父親であったな……」
アウルガは『赤斧帝』の寵臣の意外な一面に、頷き、少し感動さえしているようだった。
「ええ、血を分けた子は本当に可愛いものです」
――父様、父様、と父親を呼ぶ息子の声がしてそこに杖を付いた少年がやって来た。
彼を近くで見て、サロフはギョッとした。
「お父様……お父様、あれ、お客様?」
「ああ、そうだ。お隣に引っ越していらっしゃったサロフ様だ。かの大貴族ブラデガルディース家のご当主なのに、自らご挨拶にいらして下さったのだ。お前もご挨拶しなさい」
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