爆弾

ボブえもん工房

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第3章 遺書からの始まり

不快な廃墟

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僕は小学校近くの廃墟に来ている。
鍵を使わずに大きな扉を開けようとしたが、開かなかった。
やはりこの鍵が無いと入る事が出来ないのだろう。
古くなった鍵穴の中へ、僕が持っている鍵を挿す。
多少回すのには錆びていて硬かったが、低い音と共に鍵が開いた。
そっと鍵を抜き、大きな扉の取っ手に手を掛ける。
スライド式の扉は重く、開けるのも容易では無かった。
扉を全開まで開けた僕はその場に座り込んだ。
「はぁ…、はぁ…、はぁ。」
息切れをし、肩が揺れるが、最後に大きな深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
息が整い、座り込んだまま廃墟の中に目を向けると、物凄い鳥肌が立った。
おどろおどろしい、不快、気持ち悪い。
そんな言葉が似合っている。
まるで自ら口の中に入る餌を、じっと待ち構えているかのような、化け物が今か今かと僕を見ているかのような。
そんな気味悪さを感じた。
震える足に力を込めて立ち上がった僕は、ゆっくりと廃墟の中へと入っていく。

とても静かだ。
当たり前だ、誰も使っていないのだから。
しかし、音の無い世界に紛れ込んだのではないかという錯覚に陥る程、不自然な程静かだ。
廃墟の中には1つのベッドが置かれていた。
「写真と同じ場所、ここを撮ったんだ。」
そのベッドは壁の近くに配置され、反対の壁には小学校が見える窓がある。
そこから綺麗な光が差し込む。
僕は写真の意図を知りたくて、もう少しベッドに近づいた。
すると、
「臭っ…!何この悪臭…。」
ベッドに近づけば近づく程悪臭が漂う。
「カビの匂いじゃない、何の匂いだよ。」
僕は嗅いだことの無い匂いに、鼻を手で塞いだ。
少しベッドの近くまで来たが、よく見るとウジ虫が沸いている。
「うえっ、ここは後にしよう。」
その光景が気持ち悪く、僕は2階へと続く階段へ逃げるように移動した。
今にも壊れそうな階段を恐る恐る登った。
最後まで登ったが、2階には特に何も無い。
あった物と言えば、綺麗に並べられている建築道具だけだ。
「ここで建築家達が休憩とかしてたのかな。」
呟きながら建築道具の前までやってくる。
僕は何となくハンマーを手にした。
重たくて冷たい。
今の僕みたいだ。
手にしたハンマーを軽く振ってみたり、撫でてみたりする。
すると、ある物を見つけた。
「番号が書いてある。無くならないようにかな。」
他の道具も見てみると、全ての道具に1~10の番号が書かれてある。
しかしある不自然さに気がついた。
「あれ…、3番が無い。」
どんなに探しても3番だけが無いのだ。
こんなに丁寧に並べられていて、番号まで書いてあるのに、誰も確認せずに直してある事がおかしい。
誰かが取ったとしか思えない。
僕はまた1階に降りて、無くなった建築道具を探す。
どれ程の時間が経っただろうか。
どれだけ探しても見つからなかった。
僕は疲れて小学校が見える窓の壁側に座り込んだ。
「ここには何も無いのかな。道具が無かったのも誰かのミス…?偶然無いだけ?それとも本当に誰かが取ったのか。」
また独り言が進む。
思考を巡らせながら、ベッドの足元に目をやると、ベッド側の壁に小さく何か書いてあった。
僕は悪臭を我慢して近づき、その文字を確かめた。
「山…?」
そこには赤黒い文字で、山と書かれている。
「山って何だ…。」
しばらく考え込む。
………。
「…!これ、血で書いてある。」
それに気がついた僕は後退りをした。
赤いインクにしては黒すぎる。
カスカスに書かれたこの文字は、血で書いてあるに違いない。
そう考えると全てが分かった。
「血山。」
この地域には血山公園という場所がある。
その公園は昼間、多くの子ども達が遊びに来る。
しかし17時の地域放送が鳴った瞬間、子ども達は帰り、騒がしかった景色は一気に寂しく暗くなっていく。
血山公園には山奥へと繋がる坂がある。
その山の名前が血山だ。
しかしそこは誰もが気味悪がって入りたがらない。
僕も入った事がない。
噂でその山を登った人間は、山の神様に身体をバラバラにされるという話がある。
本当に神様がいるかは分からないが、坂を登る入口付近に地蔵がいる。
そんな物を見たら、噂を信じてしまう人も多くなるだろう。
しかし、そんな噂があって誰もが近づかないとするなら、1人になるにはぴったりの場所だ。

僕は恐ろしい気持ちを抑えて、血山を登ることにした。
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