キラキラ大学生のこの俺が、陰キャオタクのお嫁さん?

ぽんぽこまだむ

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第二章 婚姻届編

(5)距離感がマトモでコミュ力があって社会的地位もある高身長でスタイリッシュな年上の男②

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「電車でいいの?」
「ええ、お腹いっぱいになっちゃって。車酔いするといけないから……」

 テスラで芦花公園まで送ってくれるという佐伯さんの申し出を断り、俺はマークシティから井の頭線に乗った。
 ととんたたんっ、ととんたたんっ……。
 きわめて庶民的な音を立てて、井の頭線が夜の住宅街を駆けていく。

――なんで俺、あんなにビクビクしてたんだろ……。

 仮に、仮にだ。佐伯さんに「その気」があったとしてもだ。荒巻よりも、まともな相手であることは、確実じゃないか?
 ハイスペ起業家、洗練されたふるまい、適切な距離感。大学を卒業したら、就職の世話もしてくれると言っているのだ。いろんな新しいことに挑戦できるだろう。
 俺はイベントサークルをやって、こういう風に人を結びつける仕事って楽しいなと思った。その気持ちは今この瞬間も変わらない。

――だったら……。でも……。
「明大前~、明大前~」

 ぷしゅ~っ。
 目の前でドアが開き、人がドヤドヤと下りてそして乗ってきて、またドアが閉まっていく。
 俺はまた、明大前で京王線に乗り換えるチャンスを逃して、西永福の荒巻のアパートに行ってしまった。

 ◇ ◇ ◇

「諒真さんっ! 帰ってきてくれたんですね!」

 帰るなり、半纏を羽織った荒巻が抱き着いてきた。

「二次会に行っちゃったかと思いましたよ~~!」
「行ってないよ。打ち合わせに二次会なんかないし」
「なんかいつもと違う匂いがするっ!」

 スンスンスンと荒巻が俺の肩に鼻をうずめて叫んだ。

「お店の匂いだろ。あ、匂いと言えば……」

 俺はメゾン・マルジェラの香水を、紙袋ごと荒巻に手渡した。

「はい、約束どおり、もらったものをそのまんま渡したぞ」
「なんですかこれ?」
「開けてみれば? 多分俺、使わないと思うから使っていいよ」
「はあ。……めいぞん、まるぎえら?」

 箱からガラス瓶を出して、プシュッとした荒巻は、うわっと鼻をしかめた。

木酢液もくさくえきじゃないですか」
「ブフッ!」

 思わず俺は噴き出した。確かに、「暖炉の火をイメージしました」ってネットに書いてあったけど……。二万四千円する香水だぞ?

「ちょっと、精魂込めて作った調香師ちょうこうしさんに失礼だろ」
「でもこれ、絶対木酢液もくさくえき入ってますよ。青森ではリンゴとかに散布するやつです」

 木酢液もくさくえきの匂いのほうを俺は嗅いだことないけど、そうなんだ……。

「ともかく、ちゃんとお返し考えておいてくれよ」
「まかせてください! 婚姻届の証人欄に書いてくれる人が必要ですからね!」

 佐伯さんに婚姻届の証人欄を書いてもらうつもりなのか?
 やめろよ~! 今から共感性羞恥で死にそうになるだろ!
 しかし荒巻は、いそいそとネットで何やら検索し始めている。
 なんだか俺は気が抜けてしまい、荒巻の家で風呂に入ってそのまま泊まることにした。


 明かりを消した部屋の中で、ベッドに寝ていると、荒巻が後ろからもぞもぞと抱き着いてきた。

「諒真さん……。今日の人……佐伯さんとは、よく出かけるんですか」
「うん、インターンに行ってから、イベントやるのに、よくお世話になってるし……」
「他には、どんなのもらったんですか」
「う~ん、チョコとかマカロンとか……あとはマフラーとか小さいバッグとか……。食べ物系は、友達と分けたよ」

 荒巻は、何も言わずに後ろから俺を抱きしめて、背中に頭をうずめてきた。黙ったまま、俺の胴体をぎゅうっと強く抱きしめる。
 しばらくたってから、くぐもった小さな声が聞こえてきた。

「俺だって……俺のほうが……」

 それは、俺に言っているというよりも、荒巻自身に言い聞かせているようだった。

「俺の、お嫁さんなんだ……」
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