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 ストレージを使った魔道具作りは次の段階へ移った。今度は多重付与と言うのを覚えた。防御の魔法の他に自己治癒の魔法を重ね掛けするのだ。これにより、防御の魔法が防ぎきれない攻撃を受けた時でも、自己治癒が発動して、傷は最小限で済む。

 ブラスマイヤーに教わったのだが、多重付与は錬金魔法では難しいらしく、ストレージを持っている僕だからこそ出来る技術だそうだ。

 ちなみにブラスマイヤーは神になってからストレージを手にしたのだそうだ。神になってからの2500年分の知的好奇心が、今の僕のストレージに入っているらしい。かみ砕いて言うと、地上を眺めていて気になった物を創造魔法でコピーしストレージで色々解析していたのだそうだ。だから、この国の銀貨が入ってたんだね。実は気になっていたんだ。

 指輪と腕輪が100個ずつ出来た頃、妙な客が子爵邸を訪れた。

「初めまして、私は商人のクローネンバーグと言います。こちらの指輪を作ったのはあなたで間違いないでしょうか?」

 そう言って、僕が商業ギルドに収めた指輪を1つ掌に乗せて見せてくれた。

「そうです。それは僕が作った物ですが、何か不具合でも?」

「いえいえ、そうではありません。私はこの素晴らしい指輪を金貨5枚で手に入れました。あなたは商業ギルドに幾らでこれを卸したのかが気になりましてね。」

 ん?金貨5枚?指輪は確か金貨1枚で卸したはず。商業ギルドめ買い叩きやがったな。

「商業ギルドへは金貨1枚で卸してます。」

「やはりそうでしたか。商業ギルドは、こう言う美味い儲け話があると商人に下ろす前に横取りするんですよ。」

「そうなんですか?」

「そうなんです。もう、ギルドに卸すのは止めた方が良いですよ。」

「しかし、僕にはギルド以外に卸す先がありません。」

「そこで私が、来たわけですよ。」

「あなたの商会へ卸せと?」

 おいおい、話がきな臭くなって来たぞ。詐欺か?

「いえいえ、そうではありません。あなたご自身で商会を立ち上げては如何でしょう?」

「ん?僕が商会を?でも、それが出来るならとっくにやってますよ。出来ないから卸をやっている訳で。」

「でも、ご自身で商会を持てば好きな価格設定が出来ますよ、儲けも全てあなたの物になります。正直、この指輪なら金貨8枚でも買う人は居ます。それなのに手元に金貨1枚では材料費や手間などを考えると赤字ギリギリなのでは?」

 いや、金貨1枚でも大儲けなんだけどね。

「僕が商会を立ち上げたら商業ギルドが圧力をかけてきませんかね?」

「あり得ない話ではありませんが、貴族であるあなたに圧力を掛けて来る可能性は低いと思われます。」

「しかし、僕には商売のノウハウが無い。誰に頼れと?」

 さあ、そろそろ尻尾を出すかな?

「私は商人です。商売のノウハウを私から買いませんか?」

 ほう?そう来たか?

「ノウハウだけで商売が成功できますか?」

「出来ないでしょうね。」

「では、この話は無かったことに。」

「急ぎ過ぎは良くありませんよ。儲けを逃します。商売に必要なのは商才です。商才が無ければノウハウがあっても成功しません。しかし、一つだけ例外があるのです。」

「例外?」

「そう、絶対的に有利な商材を持っている事。これが叶えば商才など無くても成功できるのです。そしてあなたはそれを持っている。」

「なるほど、面白い話だ。だが、あなたは話し過ぎた。それだけヒントを与えたら聡い者なら、自分でなんとかするよ。あなたのノウハウは売れない。」

「なんと?」

「子供だと侮ったな。」

「くっ!私はあなたの為を思って来たのに恩を仇で返すのですか?」

「いや、あなたに恩は無いと思うぞ。」

 詐欺師退場だな。

「悪いが詐欺師に付き合ってる暇はない。帰ってくれ。」

「きっと、後悔するぞ!」

 思いっきり悪人の捨て台詞だな。

 自室に戻りブラスマイヤーに相談する。

「さっきの話どう思う?」

「ふむ、商業ギルドが当てにならないのならば、魔道具屋に直接売り込みに行くか?」

「直接売り込みってありなのか?」

「まずは見本を1つ鑑定して貰え、そうすれば、あの男の言う通りだ。絶対的に有利な商材を持つお前を見過ごす商人は居ないだろう。」

「なるほどね。明日にでも行ってみるか。しかし、商業ギルドがあそこまでセコイとは思わなかったよ。」



 翌日も朝はルシルと稽古をした。問題は午後だ。魔道具屋に行くつもりだが、ルシルをどうしよう?

「連れて行けばよいでは無いか?」

 え?ブラスマイヤーさんどう言う事ですか?

「子連れで行って足元を見る様ならその魔道具屋は駄目って事だ。」

「ほう?魔道具屋をテストするって事か?」

「面白いでは無いか。」

 ん~。ブラスマイヤーさん性格変わってません?

 まあ、良い、散歩がてら魔道具屋に行き帰りに飯でも食って来るか?たまには冒険者風のガッツリした料理が食いたいし。

 ルシルと2人で商店街を抜けて商会の多い通りへと出る。その一角に魔道具屋を発見したので入ってみる。

 店主は子連れの若い僕を見てあからさまにがっかりした顔をした。

 一応指輪を鑑定して貰う。

「この指輪なんですけど、幾ら位で売れますかね?」

「見た所普通の指輪だが、魔道具なのかい?」

「ええ、防御の魔法が付与されています。」

「ほう?」

 一応は関心を示した様で指輪を色々と調べている。

 5分程調べてから。

「まあ、そこそこの出来だな。この位の品だと精々金貨1枚って所だな。」

「そんな物ですか?じゃあ売らないで自分で使います。」

 そう言って魔道具屋を出た。

 2重付与に気付かない時点で駄目だな、次に行こう。

 そんな感じで何軒か回ったが何処も似た様な対応だった。ここが駄目なら帰ろうと最後に入った店は、今までと違った。

 店に入るが店員が居ない。辺りを見回すが、今までの魔道具店とは置いてある品物が違う様に思う。

 ルシルが袖をクイクイと引っ張るので後ろを向くとお婆さんが居た。

「何の用じゃ?」

「あの、この指輪を鑑定して欲しくて。」

 そう言って指輪を差し出す。

「ほう?2重付与か、お主錬金魔法師か?」

「まあ、そんなもんです。」

「これ1個なら金貨8枚で買い取ろう。まだあるなら1個金貨7枚だ。」

「それで構いません。あと同じ付与の腕輪もあるんですが?」

 そう言って腕輪も出す。

「腕輪は金貨10枚だな。指輪の方が売り易い。」

「解りました。両方100個ずつあります。」

「支払いは白金貨で良いか?」

「構いません。」

 そう言うとお婆さんは小さな麻袋を掌に出した。アイテムボックス持ち?

 麻袋の中には白金貨が17枚入っている。この小さな店で白金貨をポンと出すとは只者じゃ無いな。

「また、面白い物を作ったら持って来な。」

「はい。ありがとうございました。」

 帰り道食堂へ向かう途中、ルシルが変な事を言っていた。

「先程の者見た目通りの歳では無い様だ。」

「あのお婆ちゃん?70歳くらいに見えたけど?」

「多分、300歳は超えてるぞ。」

 マジか?この世界、長命種とか居るのか?

 久しぶりに食べた冒険者食は美味かった。上品では無いが、何と言うか活力が沸く味だ。ルシルも美味そうに1人前平らげていた。かなりの量があったので周りの人が吃驚していた。

 家に帰り着くとルーメンさんが待っていてくれた。食事は要らないって言って出たんだけどな。

「何かあったのか?」

「いえ、ご主人様のお帰りを迎えるのも執事の仕事ですので。」

 ああ、苦労掛けるね。今日貰った麻袋をルーメンさんに渡した。

「これ、今月の収入ね。やりくりは任せるよ。」

「畏まりました。」

 そう言えば何時の間にか使用人が揃っているが、僕がまだ把握出来て無いぞ、不味く無いか?

 それにアレを出せば伯爵になるんだよな。伯爵は何人使用人を雇うんだろう?

 って言うか伯爵になるのはどうなんだ?なった方が良いのか、このままが良いのか悩むところだ。

 公爵の娘をくれるって言うのは何処まで本気なんだろう?
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