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 侯爵邸に入るとリリがハンターの格好をしていた。意外に様になって居るが、11歳ではハンターに登録できない。

 さて、ここで困った。僕は帝都のハンター事情を知らない。ハンターは何処で狩りをするのだろう?困った時はギルドに行くか。

 ハンターギルドに行くとリリが興奮していた。いやいや登録は出来ないからね。はぐれたら困るのでリリを連れて中に入る。

 午後一と言う時間帯の為か、前に来た時よりは空いている。適当な列に並んで順番を待つ。

「おいおい、子連れで何しに来やがった?」

 お?これはもしやテンプレとか言う奴だろうか?ガラの悪そうなハンターの声にリリが怯えている。アルコールも入って居そうだ。

「何、無視してやがる。お前の事だよ。」

 こう言う場合どう答えるのが正解なのだろうか?

「プレイスンさん止めて下さい。今度騒ぎを起こしたらギルドカード剥奪ですよ。」

 ギルドの職員が止めに入ってくれた。ホッとしていると。

「うるせえ、俺は弱い奴が嫌いなんだよ。」

 そう言ってリリの髪の毛を掴もうとした。僕はその手を軽く弾いた。

「止めた方が良いですよ、この方は侯爵家のご令嬢です。カード剥奪どころか首が飛びますよ。」

 だが相手は聞いてはいない。手をはじき返された事に怒っている。更に腰の剣に手をかけた。これはもう正当防衛成立だよね?

 抜こうとする剣を足で押し戻し、動きを止める。相手が怒って殴りかかって来るのを躱す。バランスが崩れた所に足を引っかけると、派手に転んだ。周りから笑い声が上がる。男は更に逆上し、今度は剣を抜いてから切りかかって来る。剣を指で折ってやったら大人しくなった。ついでにギルド内も静かになってしまった。

 あら?目立ちすぎたかな?

 さっき止めに入ったギルド職員にこれって正当防衛ですよね?と聞いたら。首を縦に大きく振っていた。

 少し離れた位置でリリがキラキラとした目で僕を見ている。あれ?怖がってたんじゃなかったっけ?

「先生は魔法だけじゃなくて、体術も強いんですね。」

「いや、今のは相手が弱かっただけだよ。お酒も呑んでたみたいだしね。」

「いえいえ、プレイスンさんは弱くは無いですよ。あれでもBランクハンターですから。」

 ギルドの職員さんが余計な情報をくれた。なんとか話題を逸らさねば。

「実はこの子の魔法の練習場所を探しているんですが、良い場所は無いでしょうか?」

「それでしたら西門を出て少し歩いた所に大きな草原があります。あそこなら大した魔物も出ませんので練習には最適かと。」

「西門ですか?ありがとうございます。リリ行って見よう!」

「はい、先生。」

 歩いて西の草原に向かう。サーチを掛けているが、本当に大した魔物は居ない様だ。いや、居なさすぎる。多分定期的に討伐されているんだろうな。これじゃあ練習にならないぞ。出来ればゴブリン位は出て欲しいのだが、呼んでみるか?

 魔物は魔素に誘われて寄って来る性質がある。なので魔法を発動しないで魔素だけを集めて魔物を誘引してみる。

 するとサーチにポツポツと反応が現れ始めた。この位で良いだろう。魔素を散らす。

「さて、リリさん。この草原には少ないですが、魔物が居ます。どんな魔法が戦いに適しているのか、どの場面でどの魔法を使うか、考えながら魔物退治をして下さい。」

「いきなり魔物と戦うのですか?」

「練習ですから思い切ってやって下さい。危ないようなら僕が助けます。まあ、そこまで危険な魔物は居ませんけどね。」

「解りました。考えながら戦う事が重要なのですね?」

「そうです。魔物の退治方法は一つではありません。だったら自分に一番負担が少ない方法で倒すのが得策だと思いませんか?」

「そうですね。敵は1匹とは限りませんから。」

「その通りです。そして魔法使いは皆同じではありません。それぞれ得意な魔法が違います。自分に合った戦い方を覚えて下さい。」

 まず出て来たのは一角兎、これはファイヤーボールで難なく倒した。次に出て来たのは犬の魔物、大きさと速度に驚いたのかリリはファイヤーストームを使った。オーバーキルだよ。

「足の速い魔物にはウインドカッターが有効だ。足を止めれば後はどうにでもなる。」

「はい。」

 再度出て来る犬の魔物、今度はウインドカッター2発で倒した。うん。この辺の魔物なら初級魔法で対処しないとね。

 さて、肩慣らしが終わったので、少しだけ森に近づく。さっきからゴブリンがこっちの様子を伺っていたのは解って居る。

「リリ、基本はウインドカッターで足を止め、ファイヤーボールで止めを刺す。君の戦い方はこれが合ってると思う。だが、ファイヤーボールを使うと魔物の素材が駄目になってしまうよね?」

「あ、そうですね。戦うだけなら問題無いですけど、素材を取るハンターとしては失格ですね。」

「うん。そこで止めにはファイヤーアローかロックバレットを使うのがハンターの戦い方だ。どっちが合ってるかは自分で確かめると良いだろう。」

 そう話をしているうちにゴブリンが近づいて来る。

「リリ、右から来るぞ!」

「ご、ゴブリン!」

「慌てるな。慌てなければ倒せる敵だ。基本を思い出せ!」

 リリは基本通りに足にウインドカッターを当て足を止めてから、ファイヤーアローで止めを刺した。

「そうだ、それで良い。ゴブリンは基本強い敵では無い。慌てずに1匹ずつ対処すればリリでも3匹位までは初級魔法で対処できる。それ以上出たら迷わず中級魔法を使え。」

「はい!」

「もう一匹来るぞ。次はロックバレットを試してみろ。」

「解りました。」

 今度は足止めせずにロックバレットを2連続で叩き込む。一回に10発それが2回。外れる弾もあるので15発くらいがゴブリンに当たった。ゴブリンはゆっくりと崩れ落ちた。

「悪く無いな。発動も早いし、十分実戦で使えるぞ。」

「本当ですか?先生のおかげです。」

「ご褒美に上級魔法を見せてあげよう。」

 そう言って、リリを連れて侯爵邸の前に転移した。

「え?これって?もしかして、転移魔法?」

「内緒だよ。じゃあ、また明日来るね。」

 そう言ってショッピングモールに転移する。お土産買って行かないと怒られるからね。何にしようかとぶらついているとなんとチョコレートらしきものを発見した。店員を捕まえて説明を聞く。やはりチョコレートで間違いない。しかし、かなりビターな様だ。お土産にするには大人の味過ぎるな。

 と言う事で自分用にチョコレートを買った。お土産には、カステラの様なふんわりとしたお菓子を購入する。大量買いしたので店員はホクホク顔だ。

 よし家に帰るぞ!

 待てよ、カステラの様な物があるって事はスポンジケーキを作れるって事だよな?この国に生クリームは無いが、家にはある。併せれば生ケーキが作れるんじゃね?更にミルクチョコも作ればチョコレートケーキも作れるぞ。甘味革命が起きるぞ!

 家に帰るとセリーとメイド長が待っていた。ああ、待っていたのはお土産の方ね。解ってました。

 僕はそそくさとお風呂に向かう。風呂の中で帝国から何を輸入しようか考える。活版印刷機はまだ早いだろう。そう言えば街灯は電気ではなくガス灯だった。あれなら輸入しても問題無さそうだ。この国には石炭は合ってもガスは無い。探せば天然ガス位見つかるはずだ。

 料理のレシピ本は翻訳すれば売れるだろう。特に帝国はお菓子が充実している。あとは、農機具やガラス製品などは帝国の方が進んでいる。特に鏡だな。まあ、家で使って見て売れそうなら大量に仕入れて販売してみよう。

 翌日は宰相と約束していた時間に王城の中庭で、大森林で討伐した魔物の素材を受け渡す。大型の魔物ばかり1500匹程間引いたのだが、半分も出さない内に、今日はここまでにしてくれと言われた。

「大森林にはこんなのが普通にごろごろと居るのか?」

「ああ、多分、冒険者が小型の魔物ばかり狩るので生態系が狂ったのでは無いでしょうか?小型を餌にしていた中型が餌を求めて王都に近づく、すると中型を餌にしている大型も釣られて王都に近づいて来ると言った感じでしょうか。」

「なるほどなぁ。こうなると定期討伐も少し考えないといかんな。」

「今回、大型と中型をメインに間引いて来たので、時間を置けば、小型の魔物が増えるはずです。小型が増えれば生態系が元に戻るはずです。」

「どの位持ちそうだ?」

「僕も定期的に様子を見ますので、50年は問題無いかと。」

「ふむ、大規模討伐を行って居たらどれだけの被害が出たのか考えると頭が痛いな。今回の大森林の討伐と素材、合わせて白金貨50枚、陛下から預かっている。功績に対して報酬が少ない気もするが、別の機会に埋め合わせさせて貰う事にしよう。」

 僕は白金貨50枚を貰い王城を後にした。残りの魔物は1週間後に持って来てくれと言われた。
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