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 昨日から夜を徹しサーバンスの様子を伺っているが、動きが無い。作戦が失敗に終わった事は解って居るはずだ。なのに何故何も対処しないんだ?

 サーバンスの家は豪邸だ。だが、奴は貴族では無い。魔導士団の団長は子爵位が貰える。だが、筆頭とは言えサーバンスは一介の魔術師だ。給料はかなり貰っているだろうが、爵位は貰えない。

 筆頭と言うからには団長より魔法の腕前が良いと言う事だ。それなのに団長になれないと言うのは人間性に何か問題があるとしか思えない。

 まあ、実際に国家転覆を謀っているんだから、とんでもない奴なのは間違いないな。しかも方法がえげつない。

 屋敷の外からでも奴の行動は手に取る様に解る。だが、何かおかしな事をしている様子は無い。こんな事なら家でゆっくり食事を取りたかった。

 サーバンスが部屋に入り動きが止まった。多分寝たのだろう。僕も家に帰って寝るかな?いや、深夜に動く気かもしれないし、どうする?

 行動が読めないので、こっちも先手を打つ事が出来ないでいる。

 結局朝まで、見張り続けた。そして、早朝、時間的には4時過ぎだろうか。奴が起きた。

 えらい早起きだな。そう思いながら見張っていると、何やら不審な行動。

 ん?この屋敷、地下があるのか?地下に入られると探知の精度が低くなる。困ったな。

 透視を使うと言う手もあるが、こちらの存在がバレる可能性が高い。

 そうこうしていると魔法が発動した気配がする。何の魔法だ?

 バレるのを覚悟で透視の魔法を使う。地下室がぼんやりと見えて来る。徐々に視界がハッキリしてくると、サーバンスの他に複数の人間の姿が見えた。

 ここは地下牢?何処かから攫って来たであろう人間を閉じ込めている様だ。その内の一人に何やら魔法を掛けている。

 人がゾンビに変わって行く。ゾンビパウダーを使った様子は無い。何をした?

 僕は地下牢に転移する。

「サーバンス!何をした!」

「ほう?エイジ・フォン・ゼルマキアでは無いか、やはり邪魔をしたのは貴様か?」

 驚きもせずにサーバンスが言い放つ。

「こっちの動きを予測していた様な言い方だな。」

「昨日の作戦が失敗した時点で、貴様の介入は予測できた。まあ、想定の範囲内と言う事だよ。」

「僕が、今、ここに居るのも想定の範囲内か?」

「ああ、貴様を葬り去る作戦だからな。」

 何?って事はここに捉われている人たちは、僕のせいで捕まったのか?

「さあ、どうする?人質は沢山居る。貴様が何かする度にゾンビが増えるぞ。」

「僕がその程度の脅しに屈すると?」

「貴様が昨日回収したゾンビパウダーは100万人分だ。残りの半分は今、何処にあるのだろうな?」

 そう言う手で来るか。しかし、こいつは一体何者なんだ?

「お前は一体何者だ?そして何が目的だ?」

「ネクロマンサーと言うのを知っているかね?」

 確か、死霊を操る魔法使いの事だよな?まさか、こいつ。

「ダンジョンのエルダーリッチと何か関係があるのか?」

「エルダーリッチなど所詮は捨て駒だ。私の魔法とゾンビパウダーがあれば一瞬にして王都を死の国に変える事が出来る。しかし、それには貴様が邪魔なんだよ。」

「王都を死の国に変えてどうする?お前はそこでどう生きるつもりだ?」

「ネクロマンサーの本当の恐ろしさを知らん様だな。私は私自身の自我を保ったまま、アンデットの王になる。」

 駄目だなこいつ完全に逝っちゃってる。

 なんかバカバカしくなって来たぞ。さっさとこいつを捕まえて宰相にでも渡して終わりにしよう。

「おっと、動くなよ。貴様が動けばこいつらがゾンビに変わるぞ。それに私を捕らえたり殺したりすれば、王都にゾンビパウダーがばら撒かれるぞ。」

「ああ、そう言うの面倒だから気にしない事にするよ。」

「な、貴様。王国民を見殺しにするのか?」

 いやいや、お前が言うなよ。

「そう言うのは後で何とでもなるからな。とりあえずお前をぶっ飛ばす。」

「待て、取引次第ではゾンビパウダーの場所を教えるぞ。」

「だから、そう言うの面倒なんだよね。」

 そう言って、瞬動で近づき、思いきりぶん殴ってやった。ラスボスにしては歯ごたえが無い。一発で気絶してしまった。

 牢の鍵が無いので力で鉄格子を壊し、捉えられていた人々を開放する。

 僕はサーバンスを掴んで王城へ飛ぶ。

 王城で宰相に詳しい話をして、サーバンスを引き渡した。くれぐれも奴に衛兵を近づけない様に幽閉して欲しいと言って置いた。

 一応これで事件は解決なんだが、ゾンビパウダーがまだ半分程残っているらしい。どう言う手段でばら撒くつもりなのか解って居ないので、警戒を続ける。

 んー、どうしよう?奴のペースで事を進めるとなんかヤバい感じがしたんだよね。ほら、ここの所、僕が空回りしていたり噛み合ってなかったでしょ?

 ここは、僕のペースで事を進めるのが、最善と判断したのだが、間違って無いよね?

 まあ、何か不味い事態になったら最悪時間逆行の魔法を使うつもりだ。

 王都にゾンビパウダーを撒くとしたら、僕なら空から撒く。奴は風を使ったが、あれは効率が悪い。同じ風魔法を使うにしても、王都の中心で上空にゾンビパウダーを飛ばした方が効果が高いと思うのだが、そこまでの魔法が使えないのかな?

 帝国に比べれば王国の魔法使いの方が実戦的な魔法を使う。しかし、サーバンスの子飼いの魔法使いは大した使い手が居なさそうだ。

 だが、サーバンスは自信満々で王都を死の国に変えると豪語していた。何か奥の手が存在するのかもしれない。

 そして、それの存在に僕が一番に気が付いた。まだ、王国に入っていない。チャンスだ。

 王都の東門に転移しそこからフライで飛び立つ。間に合ってくれ。

 飛び立ってすぐにそれに遭遇した。黒い巨体。ドラゴンゾンビだ。

 サーバンスはこんな物を用意していたんだな。

 さて、どうする?おそらくこの巨体の体内にゾンビパウダーが充満しているに違いない。

 奴を傷つければ、ゾンビパウダーをばら撒く事になってしまう。傷つけずに倒す事は難しい。なにしろ既に死んでいるのだから。

 とりあえず奴の気を引いて、王都から逸らさなければと、奴の目の前に転移して、横っ面を蹴り飛ばしてみたが、一瞬ふらついただけで、王都へと向かって悠々と飛んでいる。

 ネクロマンサーの指示が切れない限り奴の侵攻は止められない様だ。

 時間はあまり無い。手っ取り早く奴を行動不能にして、回収しなければ。

 僕は大気中の魔素を大量に集めて、氷魔法を発動する。これだけの巨体を氷漬けにするのは結構手間がかかる。ドラゴンゾンビが僕に攻撃してこないのが救いだ。

 1分程かかって、氷漬けになったドラゴンゾンビが落下し始める。しかし、このままではストレージに仕舞う事が出来ない。今度は神聖魔法を照射する。

 しかし、奴を沈黙させるには至らなかった。巨体が地面に轟音と共に落下する。

 何事かと近づいて来る冒険者も居たが、気にしては居られない。神聖魔法を巨体に注ぎ込む様に浴びせる。

 奴には生命反応が無い。だが、アンデット特有の反応がある。その反応が消えるまで神聖魔法を止める訳には行かない。

 その時、上空に大きな反応を感じる。まさか、もう一匹居るのか?

 魔法を止めずに上を見上げると目の前のドラゴンゾンビより更に大きな巨体が悠然と飛んでいる。

 まさか、こっちが囮であっちが本命じゃ無いよね?

 僕はこっちのドラゴンゾンビに掛かりきりで、向こうまで相手をする余裕が無い。向こうが本命で、もしゾンビパウダーをばら撒かれたら、時間を戻すしか手が無くなる。

 こっちのドラゴンゾンビが完全に機能停止するまであと数分かかる。数分もあれば、もう一匹のドラゴンは王都の中央に辿り着いてしまうだろう。

 本命はどっちなんだ?

 そう思った時、もう一匹のドラゴンが引き返して来た。ん?何をする気だ?

 まさか、こいつを助けに来たのか?
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