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とりあえず顔が解って居る『救済の箱舟』の関係者はリッツバーグ侯爵のみだ、国やギルドとも連携して奴の所在を探している。
だが、王都60万人から1人を探し出すのは至難の業だ。まして、王都に確実に居るとも言えない状態だ。
ちょっと待てよ、リッツバーグ侯爵が何時から『救済の箱舟』と関係しているのかは判らないが、『救済の箱舟』の目的は国家転覆、だとすれば、セリーの拉致事件にも関係していた可能性がある。
セリーは既に結婚して、公爵家から離れている。奴らの標的になる可能性は下がったとは思うが、安心は出来ない。ルシルを護衛に付けて置くのが良いかもしれない。
狙われると言えば王家の人間は大丈夫なのだろうか?
さて、奴らは表舞台に出る事を嫌っている。リッツバーグ侯爵が『救済の箱舟』で、どれだけの地位に居たのかは判らないが、もし、下っ端なら既に抹殺されていると言う可能性だってある。
リッツバーグ侯爵が消されていたのならば、大きな手掛かりを失う事となる。
失脚した元侯爵に利用価値があるのか、あるいはリッツバーグ侯爵が、組織の中枢まで食い込んでいれば生存の可能性は高くなる。
だが、『救済の箱舟』は僕らがその存在を明らかにしようと動き出した事に気が付いているだろう。組織の規模にも寄るだろうが、組織が大きければトカゲのしっぽ切りも平気でやって来るだろう。
そして、それは2日後に現実となる。王都の西を流れる川でリッツバーグ侯爵と思われる水死体が上がった。
「手がかりを消されたか。思ったより厄介な連中だな。」
「エイジさん。リッツバーグ侯爵が下っ端と言う事は、組織の上は彼よりも権力があると言う事になりますよね?」
「理屈はそうだが、組織の上下関係が権力と決まっている訳では無い。財力や腕力かもしれないぞ?」
「一つ気になる事があるんですが、魔道具屋のお婆さんの所に定期的に若返りの秘薬を買いに来る客が居るんです。それも複数。」
「それは、リッツバーグ侯爵より以前の侯爵と言う可能性を言って居るのか?」
「それは解りませんが、少なくともそれ程の長命の人物が複数いると言うのは普通ではありません。彼らは何を目的に長生きをしているのでしょうか?」
ふむ、若返りの秘薬はそう安い物では無い、ただ長生きしたいと言うだけで買い続けられる程の道楽老人が、そう何人も居ると考えるのは確かにおかしい。
「まあ、手掛かりも無くなったし、調べて見るだけ調べてみるか。」
僕はクラ―ネルと一緒に魔道具屋に転移した。
「ご無沙汰してます。」
「おお、お主か。クラ―ネルを立派に育ててくれた様だね。」
「いや、僕にも利がある事ですので礼は要りませんよ。」
「で、今日は何の用じゃな?」
「若返りの秘薬について少し話を聞かせて貰おうと思いまして。」
そ言うと、店内の品物を弄っていたお婆さんが何時もの席に座りなおした。
「まだ、若返りの秘薬に興味を持つ年齢では無いだろう?」
「正確には若返りの秘薬を使っている人間についてですね。実際効果はどの位あるのでしょう?また、副作用は?」
「ふむ、若返りの秘薬はその効果年数によって値段が大きく変わって来る。数年なら白金貨20枚程度、じゃが、20年ともなると、白金貨500枚上はするね。副作用は無い訳では無いが、若返りの効果に比べれば微々たるものさ。」
「若返りの秘薬を定期的に飲めば不老不死になれると言う認識で良いですか?」
「理論的にはそうじゃな。じゃが、病気に掛からない訳では無いし殺されれば死ぬぞ。」
「この店で若返りの秘薬を定期的に購入している客が居ると言うのは本当ですか?」
「うむ、そう言う客も居る。」
「顧客情報は当然秘密ですよね?」
「ああ、信用商売なのでな。」
「じゃあ、最後に一つだけ、若返りの秘薬を使うと見た目も若返るのでしょうか?」
「ああ、人体の組織に作用するらしくて、見た目も若返るぞ。」
なるほど、細胞レベルで若返るのか。この世界には細胞と言う概念が無いからお婆さんはこう言う言い方をしたが、細胞レベルで若返るなら病気もし難くなるはずだ。若返りの秘薬とは良く言った物だ。
「お主らが何をしようとしているのかは判らんが、一つだけヒントをやろう。定期的に高い買い物をするのが上級貴族だと言う思い込みは危険じゃぞ。」
このお婆さんは、本当に解って居るのか解って居ないのか理解に苦しむな。が、言われてみればその通りだ。他の店ならともかく、この魔道具店なら、金さえ積めば何でも手に入る。
一見、新しい手掛かりが手に入ったと思えるが、実はそう簡単では無い。金を持っているかどうかは見た目では判らないからだ。
例えば、僕やクラ―ネルを一見して金持ちだと見抜ける人間は居ないだろう。
だが、お婆さんのお陰で、上級貴族は容疑者から外す事が出来た。これは収穫だ。後は、下級貴族や商人等で、姿形が長年変わらない人物を探せば、もしかしたら、『救済の箱舟』に近づけるかもしれない。
しかし、『救済の箱舟』の幹部が上級貴族で無いと言うのはある意味悪い知らせだ。権力で支配していないと言う事は恐怖支配の可能性が上がって来る。
「エイジさん、姿がずっと若いままって言うのは大きな手掛かりなんじゃ無いですか?」
「そうか?もしクラ―ネルが何百年も年を取らなかったらどうする?」
「あ、そうですね。外には出られません。」
「だろう?そう言う事も相まって、『救済の箱舟』は地下組織になったんじゃないかな?」
「だとすれば、探す術がありませんね。」
「いや、そうとも限らないぞ。人間生きていれば食事もするし、たまには外出もするかもしれない。まずは噂レベルで良い。何か変わった情報を拾ってみてくれ。」
「解りました。エイジさんはどうするんですか?」
「まあ、かなり大きな組織っぽいからな。幹部は無理でも下っ端なら捕まえられるかもしれない。この王都に大規模な組織が隠れられる場所が無いか調べてみるよ。」
再び2手に別れて探索を続ける。だが、その日も収穫は無かった。
それから3日ほど経過する。僕とクラ―ネルは『救済の箱舟』と言う単語を意図的に多用して聞き込みをしている。聞き込みの成果は現れないが、『救済の箱舟』にとって僕らは目障りな存在になった事だろう。
これで、僕かクラ―ネルを狙ってくれれば成功なんだがな。
と、夕方にクラ―ネルと合流して、情報交換をしている最中に、僕のサーチに2名の不審者が引っかかる。クラ―ネルも感づいた様だ。
「エイジさん?」
「おそらく待ち人だ。殺すなよ。」
小声で打ち合わせしながら家に向かってゆっくりと歩く。
やがて曲がり角が見えて来る、曲がろうとした瞬間魔法が飛んで来た。幾ら人気が無いとは言え、街中で魔法を撃つとは思わなかった。
僕が魔法を霧散させている間にクラ―ネルが、一人を捕縛する。魔法を使った方だ。もう一人は監視役かな?僕は転移でそいつの後ろに回り、肩を掴んだ。
「救済の箱舟に栄光あれ!」
そう叫ぶと男は何やら毒物らしきものを口にした。え?忍者?
クラ―ネルの方を見るとそちらも自殺した様だ。
「さて、自殺した位で死ねると思うなよ。」
僕は先に自殺した方に蘇生の魔法を掛け、更にリカバリーを掛ける。とりあえず、舌を噛み切らない様に猿轡を噛ます。
もう一人は放って置いて良いだろう。
捉えた一人を連れて王城に転移し、騎士団に引き渡し、宰相に伝言を頼む。後は宰相の部下が色々と情報を引き出してくれるだろう。
まあ、僕がやっても良かったのだが、ここは宰相にも手柄を与えて置いた方が後々の為だと考えた。
時間的に夕飯が近いって言う理由もあったしね。
さあ、明日には何か情報が手に入るだろう。楽しみに待ちながら美味しい夕食を食べるとしよう。
だが、王都60万人から1人を探し出すのは至難の業だ。まして、王都に確実に居るとも言えない状態だ。
ちょっと待てよ、リッツバーグ侯爵が何時から『救済の箱舟』と関係しているのかは判らないが、『救済の箱舟』の目的は国家転覆、だとすれば、セリーの拉致事件にも関係していた可能性がある。
セリーは既に結婚して、公爵家から離れている。奴らの標的になる可能性は下がったとは思うが、安心は出来ない。ルシルを護衛に付けて置くのが良いかもしれない。
狙われると言えば王家の人間は大丈夫なのだろうか?
さて、奴らは表舞台に出る事を嫌っている。リッツバーグ侯爵が『救済の箱舟』で、どれだけの地位に居たのかは判らないが、もし、下っ端なら既に抹殺されていると言う可能性だってある。
リッツバーグ侯爵が消されていたのならば、大きな手掛かりを失う事となる。
失脚した元侯爵に利用価値があるのか、あるいはリッツバーグ侯爵が、組織の中枢まで食い込んでいれば生存の可能性は高くなる。
だが、『救済の箱舟』は僕らがその存在を明らかにしようと動き出した事に気が付いているだろう。組織の規模にも寄るだろうが、組織が大きければトカゲのしっぽ切りも平気でやって来るだろう。
そして、それは2日後に現実となる。王都の西を流れる川でリッツバーグ侯爵と思われる水死体が上がった。
「手がかりを消されたか。思ったより厄介な連中だな。」
「エイジさん。リッツバーグ侯爵が下っ端と言う事は、組織の上は彼よりも権力があると言う事になりますよね?」
「理屈はそうだが、組織の上下関係が権力と決まっている訳では無い。財力や腕力かもしれないぞ?」
「一つ気になる事があるんですが、魔道具屋のお婆さんの所に定期的に若返りの秘薬を買いに来る客が居るんです。それも複数。」
「それは、リッツバーグ侯爵より以前の侯爵と言う可能性を言って居るのか?」
「それは解りませんが、少なくともそれ程の長命の人物が複数いると言うのは普通ではありません。彼らは何を目的に長生きをしているのでしょうか?」
ふむ、若返りの秘薬はそう安い物では無い、ただ長生きしたいと言うだけで買い続けられる程の道楽老人が、そう何人も居ると考えるのは確かにおかしい。
「まあ、手掛かりも無くなったし、調べて見るだけ調べてみるか。」
僕はクラ―ネルと一緒に魔道具屋に転移した。
「ご無沙汰してます。」
「おお、お主か。クラ―ネルを立派に育ててくれた様だね。」
「いや、僕にも利がある事ですので礼は要りませんよ。」
「で、今日は何の用じゃな?」
「若返りの秘薬について少し話を聞かせて貰おうと思いまして。」
そ言うと、店内の品物を弄っていたお婆さんが何時もの席に座りなおした。
「まだ、若返りの秘薬に興味を持つ年齢では無いだろう?」
「正確には若返りの秘薬を使っている人間についてですね。実際効果はどの位あるのでしょう?また、副作用は?」
「ふむ、若返りの秘薬はその効果年数によって値段が大きく変わって来る。数年なら白金貨20枚程度、じゃが、20年ともなると、白金貨500枚上はするね。副作用は無い訳では無いが、若返りの効果に比べれば微々たるものさ。」
「若返りの秘薬を定期的に飲めば不老不死になれると言う認識で良いですか?」
「理論的にはそうじゃな。じゃが、病気に掛からない訳では無いし殺されれば死ぬぞ。」
「この店で若返りの秘薬を定期的に購入している客が居ると言うのは本当ですか?」
「うむ、そう言う客も居る。」
「顧客情報は当然秘密ですよね?」
「ああ、信用商売なのでな。」
「じゃあ、最後に一つだけ、若返りの秘薬を使うと見た目も若返るのでしょうか?」
「ああ、人体の組織に作用するらしくて、見た目も若返るぞ。」
なるほど、細胞レベルで若返るのか。この世界には細胞と言う概念が無いからお婆さんはこう言う言い方をしたが、細胞レベルで若返るなら病気もし難くなるはずだ。若返りの秘薬とは良く言った物だ。
「お主らが何をしようとしているのかは判らんが、一つだけヒントをやろう。定期的に高い買い物をするのが上級貴族だと言う思い込みは危険じゃぞ。」
このお婆さんは、本当に解って居るのか解って居ないのか理解に苦しむな。が、言われてみればその通りだ。他の店ならともかく、この魔道具店なら、金さえ積めば何でも手に入る。
一見、新しい手掛かりが手に入ったと思えるが、実はそう簡単では無い。金を持っているかどうかは見た目では判らないからだ。
例えば、僕やクラ―ネルを一見して金持ちだと見抜ける人間は居ないだろう。
だが、お婆さんのお陰で、上級貴族は容疑者から外す事が出来た。これは収穫だ。後は、下級貴族や商人等で、姿形が長年変わらない人物を探せば、もしかしたら、『救済の箱舟』に近づけるかもしれない。
しかし、『救済の箱舟』の幹部が上級貴族で無いと言うのはある意味悪い知らせだ。権力で支配していないと言う事は恐怖支配の可能性が上がって来る。
「エイジさん、姿がずっと若いままって言うのは大きな手掛かりなんじゃ無いですか?」
「そうか?もしクラ―ネルが何百年も年を取らなかったらどうする?」
「あ、そうですね。外には出られません。」
「だろう?そう言う事も相まって、『救済の箱舟』は地下組織になったんじゃないかな?」
「だとすれば、探す術がありませんね。」
「いや、そうとも限らないぞ。人間生きていれば食事もするし、たまには外出もするかもしれない。まずは噂レベルで良い。何か変わった情報を拾ってみてくれ。」
「解りました。エイジさんはどうするんですか?」
「まあ、かなり大きな組織っぽいからな。幹部は無理でも下っ端なら捕まえられるかもしれない。この王都に大規模な組織が隠れられる場所が無いか調べてみるよ。」
再び2手に別れて探索を続ける。だが、その日も収穫は無かった。
それから3日ほど経過する。僕とクラ―ネルは『救済の箱舟』と言う単語を意図的に多用して聞き込みをしている。聞き込みの成果は現れないが、『救済の箱舟』にとって僕らは目障りな存在になった事だろう。
これで、僕かクラ―ネルを狙ってくれれば成功なんだがな。
と、夕方にクラ―ネルと合流して、情報交換をしている最中に、僕のサーチに2名の不審者が引っかかる。クラ―ネルも感づいた様だ。
「エイジさん?」
「おそらく待ち人だ。殺すなよ。」
小声で打ち合わせしながら家に向かってゆっくりと歩く。
やがて曲がり角が見えて来る、曲がろうとした瞬間魔法が飛んで来た。幾ら人気が無いとは言え、街中で魔法を撃つとは思わなかった。
僕が魔法を霧散させている間にクラ―ネルが、一人を捕縛する。魔法を使った方だ。もう一人は監視役かな?僕は転移でそいつの後ろに回り、肩を掴んだ。
「救済の箱舟に栄光あれ!」
そう叫ぶと男は何やら毒物らしきものを口にした。え?忍者?
クラ―ネルの方を見るとそちらも自殺した様だ。
「さて、自殺した位で死ねると思うなよ。」
僕は先に自殺した方に蘇生の魔法を掛け、更にリカバリーを掛ける。とりあえず、舌を噛み切らない様に猿轡を噛ます。
もう一人は放って置いて良いだろう。
捉えた一人を連れて王城に転移し、騎士団に引き渡し、宰相に伝言を頼む。後は宰相の部下が色々と情報を引き出してくれるだろう。
まあ、僕がやっても良かったのだが、ここは宰相にも手柄を与えて置いた方が後々の為だと考えた。
時間的に夕飯が近いって言う理由もあったしね。
さあ、明日には何か情報が手に入るだろう。楽しみに待ちながら美味しい夕食を食べるとしよう。
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