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第百十話

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 2日目はゴブリンとホーンラビットが出たがリュートの魔法で簡単に片付いた。退治すると言うより追い返すと言った感じが正しいだろう。弱い魔物が多いので1匹倒すと暫くは出て来なくなる。

 1回休憩を挟み4時間程歩いたが4度馬車とすれ違った。結構人通りはあるようだ。これだけ頻繁に人が通るなら魔物が少ないのも理解できる。

 乗合馬車も出ているし、この街道は比較的頻繁に魔物を討伐しているので街道を通る限りはこんな感じらしい。問題は夜だけだそうだ。

 昼休憩を取りエリシアとこの国の情勢などを聞きながら領都へと歩き出す。2時間程歩き、そろそろ休憩しようかと思った時にそれは起きた。

 リュートのサーチに何かが掛かる。

「戦闘ですね。500メートルくらい先で誰かが戦ってます。」

「馬車が魔物と接触したか?」

「解りません。とりあえず行ってみましょう。」

 2人は駆け出した。数分走ると、馬車が見えて来る。戦っているのは護衛の冒険者らしい。相手はオークだ。

「こういう場合は手出しして良いんでしょうか?」

「いや、冒険者が優勢だ。止めて置け。」

 どうやらオークは3匹で既に2匹は地面に倒れている。冒険者は4人居る。残りのオークも時間の問題だろう。

 その場で見守り何時でも魔法を撃てる準備をして置く。

 最後のオークが倒れるとエリシアが歩き出したのでリュートも慌てて付いて行く。サーチで周辺を警戒するが、今の戦闘で他の魔物や動物は逃げたらしい。

「災難だったな。」

「いや、このくらい働かないと暇だしな。」

 エリシアの言葉に向こうの冒険者が答える。

 どうやら商会の馬車らしく荷物が多いので冒険者は歩きで護衛らしい。

 馬車を見送って僕らも歩き出す。10分程歩き休憩を取り、また2時間程あるくが魔物は出なかった。リュートはもっと危険な旅を想定していたのでなんかのんびりしてるんだなと感想を呟くとエリシアの耳に届いた様で。昼間はこんなものだと返された。

 夕刻が近くなるとエリシアが野営の跡に注意しながら歩けと言う。注意してみていると結構野営の跡を見かける。どうやら他の冒険者とあまり変わらない速度で旅をしている様で安心する。

 今日は曇り空なので何時もより暗くなるのが早い。野営跡を一つ指さし、あそこで今日は野営しようと。エリシアが言うので頷く。

「もしかしたら雨が降るかもしれんな。」

「雨だと不味いんですか?」

「焚火の火が消えると魔物に襲われやすくなる。」

 そう言って普段より多めに薪を集めるエリシアだった。

 やはりBランクだけあって若くても頼りがいがある。

 食事をしている最中もエリシアは空を気にしていた。言われてみれば湿度が高いのか森の匂いが濃い気がする。

「今夜は来るかもしれん。気をつけろ。」

「解りました。」

 昨日と同じ順番で見張りをする事になり。リュートは薪が無くならない程度に強めの火力を保つ。

「では、私が先に寝る。何かあったらすぐに起こせ。」

「はい。解ってます。」

 リュートはサーチを張り巡らせて警戒しながら焚火の火を見ている。2時間程経過した時小雨が降って来た。

「エリシアの予想が当たったな。」

 小雨でも焚火の火力が若干落ちる。少し多めに薪をくべてなるべく火力を保つ。

 焚火と格闘していると、何やらサーチに引っ掛かる感じがある。多分魔物だ。だが襲って来る気配が無い。やがて引き返して行く。ホッとていると、また魔物の気配が。今度は数が多い。仲間を呼んだか?徐々に迫って来る。

「エリシア敵襲だ!」

 大声を出すとエリシアがテントから転がり出て来る。

「どっちだ?数は?」

 向こうですと森の方を指さし。数は最低でも20匹と答える。

「20匹か、数が多いな。速度は?」

「あまり早くはありませんね。でも確実にこちらに向かってます。」

「オークだとちとやっかいだな。」

「オーク程大きい反応ではありませんね。」

「ふむ、だとすると狼系の魔物かもしれんな。」

「狼系ですか?」

「奴らは群れるのが好きだからな。」

「来ます!」

 森から魔物が飛び出してくる。

「フォレストファングだ。厄介だぞ!」

 フォレストファングはフォレストウルフの上位種に当たる魔物だ。

「リュート、とりあえず魔法で削れ。止めは私がさすから数を減らす事だけ考えろ。」

「解りました。ウインドカッターで行きます。」

 そう言って、リュートはフォレストファングの群れに向かってウインドカッターを乱れ撃つ。

 見えない刃はフォレストファングを血だらけにして行く。白い毛皮が赤く染まって行くが、引く気は無いらしい。余程飢えているのか?

 3度ウインドカッターを放つと、フォレストファングの数は半分程になる。

「よし、魔法はもういい。突っ込むぞ!」

 エリシアがど真ん中を目掛けて走り出すのでリュートは右手から回り込む。

 リュートが1匹仕留める間にエリシアは4匹くらい仕留めている。戦闘は10分程で終わった。

「やはり君が居ると楽で良い。」

「そうですか?僕も後半楽でしたけど。」

「お互い良い相棒を持ったと言う事にして置こう。」

「そうですね。」

 その後体に返り血が付いたのでクリーンの魔法で綺麗にする。時間的に中途半端だが見張りを交代しようと言われ。テントに押し込まれた。雨が降って気温が下がったので毛布を1枚出して敷いてその上で寝た。

 3日目は何事もなく過ぎ、4日目の昼に領都サームへと着いた。ちなみに二日半と言うのは60時間と言う事で、馬車なら3日、歩きなら4日掛かるのが普通らしい。

 領都は確かに大きかった。ベスグラント王国の王都ほどでは無いが、商会や商店も多く、学校があるのも似ている。

 時々緑やピンクの髪の女性を見かける。緑の髪の毛が珍しくないと言うのは本当らしい。どうやら、向こうの大陸とこちらの大陸では人種が違うらしい、だが、髪の毛以外の見た目はさほど変わりが無い気がする。

「まずは宿屋を確保しよう。」

「ここにはどの位留まる予定ですか?」

「特に決めては居ないが君の成長を考えると最低半年くらいは留まる必要があるかもしれん。」

「だったら、家を借りた方が安いのでは?」

「ふむ、それも一理あるな。では商業ギルドへ行ってみるか。」

 2人は時々道行く人に聞きながら商業ギルドへと向かった。

 商業ギルドは領都の中央部にあった。2人が入った、東門からは1時間程かかる。

「済まない。家を借りたいのだが、担当者は居るか?」

「それでしたら、あちらのカウンターへどうぞ。」

 そう言われて一番奥のカウンターを教えられた。暫く待っていると、中年の男性職員が現れた。

「家を借りたいそうだが、どの程度の物件をご希望で?」

「家は2人住めれば良い。出来れば庭が広い事と冒険者ギルドが近いと助かる。」

 それを聞くと職員は資料を開き、地図をカウンターに広げる。

「ご希望に沿う物件が2軒あります。こことここですね。」

 そう言って地図に丸を書く。

「ちなみにここがこのギルドで、ここが冒険者ギルドです。」

 2軒とも冒険者ギルドから近い。商店街から離れているので値段は安いそうだ。

「ちなみに庭の広さは?」

「こちらの方が若干広いですが、そう大きな違いはありません。」

「値段は?」

「両方とも古い家なので月に銀貨8枚と言った所でしょうか。」

「なら庭の広い方にする。」

 エリシアが現物を見ずに決めてしまった。

 5か月分の金貨4枚を支払いカギを貰い。地図も貰って、商業ギルドを後にする。

「見ないで決めてしまって良かったんですか?」

「構わん。どんな家でも野営よりはましだろ?」

「まあ、そうですけど。」

「それより腹が減らないか?何か食ってから行こう。」

 そう言ってエリシアに引っ張られて行くリュートであった。まあ、この辺は商業ギルドの近くだから、商店街も近いし食べ物屋も多いだろう。

 数分歩くと商店街に着く、後で色々買い物しないといけないが先に建物を見ないとな。そう思って居ると。エリシアが何やら店の人に話を聞いている。

「何を聞いていたの?」

「美味い食堂が無いか聞いていた。商店街の1本向こうの道に食堂が多いそうだ。その中でも『黄金の麦亭』と言うのが評判らしい。」

「なるほど、情報収集は大事って事ですね?」

 2人は商店街を越えて『黄金の麦亭』に向かう。時々人に尋ねながら進むとすぐに目的の店は見つかった。

 『黄金の麦亭』は決して大きな店では無かったが大いに賑わっていた。

「お勧めを2人前、それとエールを2杯頼む。」

 座るや否やエリシアが注文する。僕の意見は?

 まずエールが出て来る。エリシアが冷やせとジョッキをこちらに差し出す。氷魔法で冷やしてやると嬉しそうにゴクリと呑む。

 自分の分のエールも冷やしていると、食事が運ばれてきた。角煮の様な物と野菜炒め、それとパンだ。ん?スープが無い?

 不思議に思いパンを齧ると吃驚した。柔らかくは無いが、水分が多めでパサパサしていない。これならスープが要らないのが判る。このパンに角煮の様な物を乗せて食べると絶品だ。店員を捕まえて同じ物をあと4人前注文する。店員が吃驚していたのでマジックバッグを持っていると言ったら納得していた。

 食事を済ませたら、借りた家に向かう。どんな家だろう?

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