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【最強の敵、半兵衛君を説得せよ、美濃攻略編】
第48話 長谷川真昼、夢幻のごとく
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岐阜城、天守閣。
つい最近まで『稲葉山城』なんていかつい名前だったこの場所も、今や織田家の新しいホームグラウンド。
眼下に広がる美濃の街並みは、夕日に照らされてキラキラ輝いている。
……うん、絶景かな絶景かな。令和のタワマンの最上階もこんな感じなのかな? 住んだことないから知らんけど。
そんな景色を背に、信長様がポツリと呟いた。
「道三もおらぬ。義龍も逝った。……帰蝶は猿になりおったし、吉乃も……」
手の中でセンイチを転がしながら、いつになくしんみりモードの信長様。
そんな信長様の隣には、政僧の沢彦のおじいちゃん、光秀さん、そして秀吉さんが控えている。
「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻のごとく、か……。獲ったものは大きいが、失ったものも多いのう」
沢彦のおじいちゃんが、岐阜の町を見おろしながら呟いた。
「ようやく道三様の遺言を完了でき、私も感無量でございます」
光秀さんが涙ぐみ、嗚咽する。
そんなしんみり空気を変えるように、沢彦のおじいちゃんがニヤリと笑って秀吉さんに顔を向けた。
「のう木下藤吉郎秀吉。美濃も平定されたことじゃし、帰蝶に戻っても誰も文句は言わんぞ? 奥方に戻って、信長様を支えんか?」
「……っ!」
秀吉さんは一瞬だけ肩を震わせたけど、すぐにキリッとした顔で首を横に振る。
「お戯れを。秀吉はあの日、女を捨てました。今さら豪華な着物に身を包んで奥に引っ込むなど、退屈すぎて死んでしまいます。私の戦場は、信長様の隣……内野の要、ショートの守備位置にこそあるのですから」
カッコいい! 一生ついていきます秀吉さん!
「やれやれ、平手政秀が生きていたら、卒倒する答えじゃわい」
沢彦のお爺ちゃんがガッカリした感じで嘆息する。
「そ、それは……! 我が父・道三と信秀様を説得して、私と信長様を結びつけた政秀殿には顔向けできませぬが……」
「冗談じゃわい。極楽で道三と信秀と一緒に笑っておろう」
信長様も、秀吉さんの答えを予想していたのか、フッと口角を上げた。
「ふん、そうだな。今さらお前が女に戻ったら、ねねが鬼のような顔で俺の寝所にまで怒鳴り込んでくるわ。想像しただけで身の毛がよだつ」
「左様です。あの子の独占欲、信長様もご存知でしょう?」
天下の織田信長と木下秀吉が、ねねちゃんの名前を出しただけでガタガタ震えてる。
((……どんだけ木下ねねが怖いんだよ、この主従は))
光秀さんと沢彦のおじいちゃんは、そんな感想を抱いたそうな。
「それに」と、光秀さんが補足する。
「美濃攻略にこれほどの功あった秀吉殿が忽然と姿を消せば、家中も他国も疑念を抱きましょう。……もはや帰蝶様は、木下藤吉郎秀吉としての生を全うするほかありません」
「うむ。……だがのう信長」
沢彦のおじいちゃんが、さらに踏み込んだ質問を投下しちゃう。
「天下布武を掲げる者が、いつまでも男やもめでは格好がつかん。吉乃殿の遺志を継ぎ、隣で采配を支える正室が必要じゃろう。……心当たりはあるんじゃろ?」
その瞬間、光秀さんが邪悪な笑みを浮かべた。
「そうですよ信長様。隠さずとも家中の者は察しております。意中の人は決まっているのでは?」
「……うるさい。十兵衛、黙れ」
信長様が顔を背ける。顔は般若のようだ。
「信長様、私も異論はございませぬ。真昼とねねが約束した木下家の養子も、信長様の子供を育てることができたなら秀吉としても帰蝶としても、これ以上ない喜びでございます」
秀吉さんからの一言に、信長様は舌打ちする。
「……あのうつけが。……自分から『私を寝床でも恋女房にしてください!』と土下座して泣きついてくるなら、考えてやらんでもない。……まあ、あいつにそんな殊勝な真似ができるとは思えんがな」
うっわ、寝床って! JKをどうする気だよ!
光秀さんが「それは一生無理ですね」と小声でツッコむ横で、秀吉さんが「外堀から埋めるか……」と不穏な相談を始めたていると。
――ドタドタドタドタッ!
「みんなー! こんなところで黄昏れてる場合じゃないですよー!」
私が天守閣の重い扉を蹴破らんばかりの勢いで乱入した。
背中には遠征用の特製リュック、手には書きかけの『新るるぶ京都・戦国版』。
「真昼。……お前、雰囲気を読むという言葉を知らんのか」
「読みましたよ! 『早く京都に行きたいなぁ』っていう信長様の心の叫びをね! ほら、お市ちゃんから速報です!」
私は持ってきた手紙を信長様の鼻先に突きつけた。
「お市ちゃんからの情報によると、京の三好三人衆とか松永久秀が、仲間割れ起こして争ってるんですって! とっとと上洛して喧嘩両成敗させましょう! 私の八つ橋食べ歩き計画を邪魔する奴らは、この金属バットで一掃しますんで!」
信長様は呆然として私を見つめ、やがて「……ハハッ」と小さく笑い出した。
笑い声はどんどん大きくなって、天守閣全体に響き渡る豪快な爆笑になった。
「ハハハハハ! 全くだ、感傷に浸るなど俺らしくもない! 天下布武、そして天下球武! この国の決まり事の全てを、俺が書き換えてやる!」
信長様が立ち上がり、私の肩をガシッと掴んだ。
「真昼! 六角攻めの先鋒を命じる! お前のフルスイングで、京までの道を切り拓け!」
「はあああ⁉ なんで私⁉ 野球知識皆無のJKを先鋒に使うとか、ブラック企業を通り越して地獄ですよ! 私はか弱い女子高生なんですってばー!」
私が絶叫する中、信長様は「うるさい、行くぞ!」と私の腕を引いて歩き出した。
センイチも、負けじと声を張り上げる。
『ガッハッハ! 信長の言う通りじゃ! 次は京の都、関西圏よ! 猛虎や猛牛、ブレービーの血脈に旧ホークスの猛者どもがゴロゴロいるはずじゃ! ボール回収も忙しくなるぞ!』
天守閣から階段を駆け下りる私たちの後ろを、秀吉さんと光秀さんが「やれやれ」と顔を見合わせながら、でもすごく頼もしい足取りでついてくる。
岐阜の空は、これから夜の闇が訪れる。
でも私たちの前には、見たこともないほど明るい未来が広がっている。
「者共、準備はいいか! 京の都まで一気に進軍するぞ!」
「「「オオオオオッ!」」」
戦国時代、美濃を平らげた織田家による、天下統一という名のリーグ戦が開幕する。
「なんで私⁉」
私の叫びを号砲に、信長様が不敵に叫んだ。
「プレイボールだ!」
――【最強の敵、半兵衛君を説得せよ、美濃攻略編】完
【目指せ京の都、将軍義昭上洛編】に続く
つい最近まで『稲葉山城』なんていかつい名前だったこの場所も、今や織田家の新しいホームグラウンド。
眼下に広がる美濃の街並みは、夕日に照らされてキラキラ輝いている。
……うん、絶景かな絶景かな。令和のタワマンの最上階もこんな感じなのかな? 住んだことないから知らんけど。
そんな景色を背に、信長様がポツリと呟いた。
「道三もおらぬ。義龍も逝った。……帰蝶は猿になりおったし、吉乃も……」
手の中でセンイチを転がしながら、いつになくしんみりモードの信長様。
そんな信長様の隣には、政僧の沢彦のおじいちゃん、光秀さん、そして秀吉さんが控えている。
「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻のごとく、か……。獲ったものは大きいが、失ったものも多いのう」
沢彦のおじいちゃんが、岐阜の町を見おろしながら呟いた。
「ようやく道三様の遺言を完了でき、私も感無量でございます」
光秀さんが涙ぐみ、嗚咽する。
そんなしんみり空気を変えるように、沢彦のおじいちゃんがニヤリと笑って秀吉さんに顔を向けた。
「のう木下藤吉郎秀吉。美濃も平定されたことじゃし、帰蝶に戻っても誰も文句は言わんぞ? 奥方に戻って、信長様を支えんか?」
「……っ!」
秀吉さんは一瞬だけ肩を震わせたけど、すぐにキリッとした顔で首を横に振る。
「お戯れを。秀吉はあの日、女を捨てました。今さら豪華な着物に身を包んで奥に引っ込むなど、退屈すぎて死んでしまいます。私の戦場は、信長様の隣……内野の要、ショートの守備位置にこそあるのですから」
カッコいい! 一生ついていきます秀吉さん!
「やれやれ、平手政秀が生きていたら、卒倒する答えじゃわい」
沢彦のお爺ちゃんがガッカリした感じで嘆息する。
「そ、それは……! 我が父・道三と信秀様を説得して、私と信長様を結びつけた政秀殿には顔向けできませぬが……」
「冗談じゃわい。極楽で道三と信秀と一緒に笑っておろう」
信長様も、秀吉さんの答えを予想していたのか、フッと口角を上げた。
「ふん、そうだな。今さらお前が女に戻ったら、ねねが鬼のような顔で俺の寝所にまで怒鳴り込んでくるわ。想像しただけで身の毛がよだつ」
「左様です。あの子の独占欲、信長様もご存知でしょう?」
天下の織田信長と木下秀吉が、ねねちゃんの名前を出しただけでガタガタ震えてる。
((……どんだけ木下ねねが怖いんだよ、この主従は))
光秀さんと沢彦のおじいちゃんは、そんな感想を抱いたそうな。
「それに」と、光秀さんが補足する。
「美濃攻略にこれほどの功あった秀吉殿が忽然と姿を消せば、家中も他国も疑念を抱きましょう。……もはや帰蝶様は、木下藤吉郎秀吉としての生を全うするほかありません」
「うむ。……だがのう信長」
沢彦のおじいちゃんが、さらに踏み込んだ質問を投下しちゃう。
「天下布武を掲げる者が、いつまでも男やもめでは格好がつかん。吉乃殿の遺志を継ぎ、隣で采配を支える正室が必要じゃろう。……心当たりはあるんじゃろ?」
その瞬間、光秀さんが邪悪な笑みを浮かべた。
「そうですよ信長様。隠さずとも家中の者は察しております。意中の人は決まっているのでは?」
「……うるさい。十兵衛、黙れ」
信長様が顔を背ける。顔は般若のようだ。
「信長様、私も異論はございませぬ。真昼とねねが約束した木下家の養子も、信長様の子供を育てることができたなら秀吉としても帰蝶としても、これ以上ない喜びでございます」
秀吉さんからの一言に、信長様は舌打ちする。
「……あのうつけが。……自分から『私を寝床でも恋女房にしてください!』と土下座して泣きついてくるなら、考えてやらんでもない。……まあ、あいつにそんな殊勝な真似ができるとは思えんがな」
うっわ、寝床って! JKをどうする気だよ!
光秀さんが「それは一生無理ですね」と小声でツッコむ横で、秀吉さんが「外堀から埋めるか……」と不穏な相談を始めたていると。
――ドタドタドタドタッ!
「みんなー! こんなところで黄昏れてる場合じゃないですよー!」
私が天守閣の重い扉を蹴破らんばかりの勢いで乱入した。
背中には遠征用の特製リュック、手には書きかけの『新るるぶ京都・戦国版』。
「真昼。……お前、雰囲気を読むという言葉を知らんのか」
「読みましたよ! 『早く京都に行きたいなぁ』っていう信長様の心の叫びをね! ほら、お市ちゃんから速報です!」
私は持ってきた手紙を信長様の鼻先に突きつけた。
「お市ちゃんからの情報によると、京の三好三人衆とか松永久秀が、仲間割れ起こして争ってるんですって! とっとと上洛して喧嘩両成敗させましょう! 私の八つ橋食べ歩き計画を邪魔する奴らは、この金属バットで一掃しますんで!」
信長様は呆然として私を見つめ、やがて「……ハハッ」と小さく笑い出した。
笑い声はどんどん大きくなって、天守閣全体に響き渡る豪快な爆笑になった。
「ハハハハハ! 全くだ、感傷に浸るなど俺らしくもない! 天下布武、そして天下球武! この国の決まり事の全てを、俺が書き換えてやる!」
信長様が立ち上がり、私の肩をガシッと掴んだ。
「真昼! 六角攻めの先鋒を命じる! お前のフルスイングで、京までの道を切り拓け!」
「はあああ⁉ なんで私⁉ 野球知識皆無のJKを先鋒に使うとか、ブラック企業を通り越して地獄ですよ! 私はか弱い女子高生なんですってばー!」
私が絶叫する中、信長様は「うるさい、行くぞ!」と私の腕を引いて歩き出した。
センイチも、負けじと声を張り上げる。
『ガッハッハ! 信長の言う通りじゃ! 次は京の都、関西圏よ! 猛虎や猛牛、ブレービーの血脈に旧ホークスの猛者どもがゴロゴロいるはずじゃ! ボール回収も忙しくなるぞ!』
天守閣から階段を駆け下りる私たちの後ろを、秀吉さんと光秀さんが「やれやれ」と顔を見合わせながら、でもすごく頼もしい足取りでついてくる。
岐阜の空は、これから夜の闇が訪れる。
でも私たちの前には、見たこともないほど明るい未来が広がっている。
「者共、準備はいいか! 京の都まで一気に進軍するぞ!」
「「「オオオオオッ!」」」
戦国時代、美濃を平らげた織田家による、天下統一という名のリーグ戦が開幕する。
「なんで私⁉」
私の叫びを号砲に、信長様が不敵に叫んだ。
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