【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第8章 砂漠の英雄

第10話 隻眼の衛兵

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「ぱっと見、どこにでもある街ね。ご飯も美味しいし、平和だし最高じゃない♪」

 いつの間に買ったんだか、ベレニスが串焼きを頬張っている。

「だからこそ問題なんすよ。前宰相テスタ時代に流れた噂と乖離し過ぎてるっすね」

「褐色肌の人、そんないないんだね~。南部の人はみんな褐色肌だと思ってたよ~」

「エイエス領は古くから、ベルン周辺に生まれた政権に従属しています。例外は古代アネクネーメ王国の頃ですね。その頃は南部側だったと言われております」

 クリスの疑問にはヴィレッタが答え、私たちは馬車を預かってくれる、そこそこ大きい宿にチェックインし、旅の休息を癒す間もなくマーインの街を調べるべく歩いている。
 日があるうちに調べられることは調べとかないとね。
 それにヘクターさんは商売で来ていて、私たちは護衛って建前だし、ちゃんと商人の行動もしないと怪しまれる。
 ただ人数的に護衛と商人の比重がおかしいってことで、商人役にフィーリアとヴィレッタとレオノールを追加してる。
 作戦的にわかるっちゃわかるんだけど、レオノールのところは私じゃね?
 フィーリアは元々商人だし、ヴィレッタは王立学校の成績優秀者だからわかるけど、レオノールは劣等生だぞ?
 私が商人のほうがよくね? ほら、私って元王女だし、気品ある大商人の娘役が合ってると思うんだけど?
 役割分担が決まった時、そんな不満が顔に出てたのかフィーリアがこんなことを言ってきたのだった。

「ローゼさん、ローゼさんの只者って感じじゃないオーラは一般の方にもわかってしまうっす。交渉のテーブル席で魔法ブッパされちゃたまらないっすから冒険者役がピッタリっすよ。大体、大商人の娘役は算学もできないけど、なぜか自信満々で高貴なオーラある人がピッタリっす。ですんでレオノールさんが適任っすね」

 おにょれ、フィーリア。さりげなく私とレオノールをディスりよって。
 レオノールは照れてたけど、普通の王女相手にそれを口にしてたら怒ると思うぞ?

 とまあ、そんな感じで、ヴィレッタもレオノールも普段の旅装姿のワンピースドレスや鎧から一転して、ケープを羽織り、腰にオーモニエールをぶら下げた商人の格好をしている。
 美少女は何を着ても美少女だって、はっきりわかったよ。
 あとで私もコスプレしてみよ。

 まずはマーインにある商業ギルドに入って情報収集開始!
 なるほどなるほど~。やっぱり安定した、綺麗でいて冷たくて美味しい水に需要があるんだなあ。どこに井戸を掘り、その汲んだ水をどう運ぶかで価値が決まるんだあ。
 
 ふむふむ、南部諸国群の職人が作る絨毯がベルガー側に需要あるのか。今は戦地になってる南部諸国だけど、平和になれば大儲けできるってことだね。
 
 ほほう! 動物は駱駝と羊が人気なんだ! 戦争前はよくこの土地で育てたのを売ってたりしてたんだ~。
 おお! 南部諸国の民族衣装、肌の露出少なっ! 砂漠地帯で暑い所なのにこれを普段着てるの⁉ でもなんかエキゾチックな魅力に溢れてる! 
 なん……だと? 大小百の部族でファッションに独自性がある……だと? これは全部コンプリートしなくては!
 
 ヤバい……私、王女の身分のままだったら南部文化にお小遣いつぎ込んでいそうだったよ。
 恐るべし! 南部諸国群! おいこら商人役のレオノール! 良い席で座ってるのに寝るな! 鼻提灯出すな! 今日は武具の交渉はなしって、ヘクターさんが最初に言った段階でやる気なくすなあああああ!
 護衛者役のクリスとベレニスも、立ったまま寝るなああああ!
 
 まったくもう、それに比べてポンポン価格や価値、どのくらいで売れば儲けになり、購入側も買いたいってなる交渉しているヘクターさんや、的確に「こうしたほうがいいっす」とか、「王都の令嬢たちに、こちらが需要あるでしょう」と合いの手を入れるフィーリアとヴィレッタはさすがだったよ。
 く~、私もあのポジションしたかったあああああ!

「王都の情勢が変わって、この街も重税が終わったから平和になってるんじゃないの~」

 見学って感じで終わった初日の商業ギルドの交渉後、周囲を見渡し、街の人々の服装も観察しているフィーリアに、クリスが疑問を口にする。

「市場に金銀が淀みなく流れてたっすね。圧政の終わりから半年足らずで、ここまで回復するかと問われれば否って答えるっすね」

「政変からまだ半年です。苛烈極まるマーイン伯爵の統治が方針転換されたにしても、痩せこけた人もおりませんし、食料も豊富ですね。農地や牧場が何年も問題なく稼働している証拠でしょう」

 公爵家出身で領地事情に明るいヴィレッタの視点に、私も建物の様子を眺めていく。

「荒れた場所ないのも気がかりね。ちゃんと修復したり、最近建てたっぽい家が多くある。圧政に苦しむ人が、自分たちの家に気をかける時間もお金も気力も湧かないはず」

「噂が嘘だったというオチでは? それが一番嬉しいですね!」

 私の推察に、すかさずレオノールが希望的観測を口にする。

「いや、それはない」

 断言したのはヘクターさんだ。彼は不自然に盛られた、この地帯では貴重な密集した土の一角を指さした。

「……墓ですね。数も多い」

 そこは窪んだ土が茂みとともに多くあるだけ。墓石のようなのは何もないが、リョウが即答する。

「わたくしが購入した『マーイン領食べ歩きガイド』によりますと、お墓は郊外にあるそうですが……」

 ヴィレッタはページをパラパラ捲り、私も覗き込んで目を通すと、たしかにそんな内容が書かれていた。
 てか、ここに到着して、まだ本屋に行ってないのに、どこでこの本を購入したんだヴィレッタ?

「不都合な死や、見せしめの死は正当な墓に入ることはないってとこっすかね? 自分も、今までの旅路で似たような場所を見たことあるっす。多くが元処刑地っすね」

「墓石を買う金も弔う金も、運ぶ気力もねえ。そうなった時に、ああいうのはできるのさ。……まあ、あとは戦争だな。ダーランドの麻薬戦争の時にもよくあったさ。なあ、リョウ? お前さんの場合、デリムでも日常風景だったろ」

 ヘクターさんとリョウは、2年前に起きたダーランドの麻薬戦争に参戦している。
 ヘクターさんは体制派側として、リョウが民衆派側として。

「ヘクターさん、デリムの話は……」

 リョウにとって、いい過去ではない話題を振るヘクターさんを私はちょっと睨んでしまう。
 それをリョウは、大丈夫と言うように目線を送ってきてくれた。

「そうですね。毎日掘って埋めていましたので……土の盛り具合で、大体何年経過したかもわかります。あそこの区画は6,7年は経過しているでしょう」

 6,7年……。南部諸国連合王国の侵攻により、一旦陥落したこの土地がエイエス領からマーイン領となった直後ってこと?

「時間経過までは、わたくしはわかりませんが……邪気というのでしょうか? 盛り土から禍々しい気配を感じます」

 聖女と呼ばれるに相応しいヴィレッタが言うと、緊張感が増す。
 無念が、怨念が、あの空間を淀みに変えているのだろうか?

「奥に……誰かいるよ」

 クリスの呟きに私たちは無言で頷き合う。
 こんなところにいる人だ。何かを知っているに違いない。
 一歩踏み出し、盛り土のほうに向かおうとすると茂みから人の影が出てくる。

「なんだお前ら? 商人と冒険者か? ここは観光地じゃねえぜ」

 現れたのは長身で細身、短い金髪の壮年。革の服に剣を携えている。
 特徴的なのは、右眼に黒い眼帯をしていること。

「王都ベルンの商人、ヘクター・ロンメルです。盛り土が珍しく、眺めておりました」

 ヘクターさんの慇懃な挨拶に、男は「ふうん」と気のない声を漏らす。

「俺はクレバス。この街の衛兵だ。と言っても、下っ端だがな。ここは領民も近寄らない場所だ。何せ薄気味悪いからな。商人ならもっと価値あるところを見つけて宣伝して、街に還元してくれよな」

 歩みを止めず、背を向けて去るクレバスと名乗る衛兵。

「あっ、待ってください。ここって……お墓ですよね? 無念に死んだ人たちの……」

 私の声にクレバスは歩みを止め、こちらを振り向く。

「ああ、南部との戦いで死んだ連中のな」

 ゾクリとする声を残して再び歩き出し、クレバスの姿は見えなくなった。

「相当の腕前だな。世に知られてないのが不思議だ」

 リョウがボソリと呟いたが私にもわかる。
 あの男の隠されない剣気が。

「最後のセリフ、明確な嘘よ。追って知ってることを吐かしたほうがよくね?」

「待つっすベレニスさん、自分たちの目的は、領主マーイン伯爵一族の存在と魔女ヴィルマの確認っす。余計な騒動で、街の人に不信感抱かれたらマズいっす」

「……フィーリアの言う通りね。衛兵ならまた会う機会ある。今日は宿に戻って休みましょ。ヘクターさん、それでいいですか?」

 私の確認に、ヘクターさんは「そうだな。明日の商業ギルドで、城に行く手筈を整えるのが先だろう」と同意してくれた。
 
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