【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第30話 窮地

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 中庭から兵舎を目指し、走る私とベレニス。

 衛兵に出くわさないのは、街での捜索に重点を置いていたからか、それともオルタナさんがいたからか。

 兵舎の入り口に兵士がいないことに違和感を覚えつつ、物陰で息を整える。

「夜中とはいえ静かね。みんな寝てるんじゃないの?」

「いや、巡回してる兵士がいてもおかしくない。油断しないで行こう」

 警戒しながら兵舎に入り救護室を探す。
 やはり物音一つしない。
 この感覚は、10年前に両親の寝ている寝室に戻った時と同じだった。
 音が全くしないで、私たちの息遣いだけが聞こえる静寂が支配する空間。
 懐かしいのに、凄く恐ろしいこの感覚……

「遮音の魔法が使われてる。ベレニス、気をつけて」

 この扉だ。ここから先は……

 ゆっくりと扉を開けると、そこには椅子に腰掛ける人影……
 月明かりが窓から差し込み、顔がはっきりと見え始める。

「あらあら、あっさりここに辿り着くなんて。……運が良いのね、あなたたち」

 ディアナが私たちを見て、クスリと笑うのだった。
 私とベレニスは互いに目を合わせて頷く。

 ここで決着をつけよう!
 私は杖を構え、ベレニスは風魔法を詠唱する。

 だが、私たちの魔法が発動する前に、ディアナが手を上げ、部屋全体が照らされる。
 ディアナの足元には魔法陣。
 邪教跡地やビオレールの教会で見た以上の、より複雑で禍々しい魔法陣が浮かび上がる。
 そしてディアナの頭上には、一冊の本が浮かんでいたのだった。

「私を殺したいのね? いいわ。殺しなさいな。そうすれば領主殺しの汚名は消え、元の暮らしに戻ることができるわ」

「ベレニス待って! あの魔法陣も贄を置くことで発動する!」

 この贄の魔法陣は今まで見た以上に危険だ!
 発動させたら何が起こるか想像もつかない!

「ふうん。要は、私たちに殺されて自分の死体で発動させるってこと? でも、あんたが死んでから発動するんじゃ、意味ないじゃない。てか、ローゼは別にディアナを殺さないって決めてたし、無意味なんじゃない?」

「あらあら、甘ちゃんなのね。でも無意味ではないわ。私の死体じゃなくて、貴女たちの死体でもいいのだから!」

 空中に浮かぶ本がパラパラと音を立てて捲られ、強大な魔力の塊がディアナの頭上に集まる。

 その時、ゾクリとする殺気が私を襲う!

 キーンと金属音。
 ベレニスのレイピアが火花を散らす。

「ヒャハ♥ 不意打ちを防ぐなんて、エルフちゃんのくせに生意気だねぇ。でも次はどうかなぁ?」

「ベッドに誰も寝てないし、あんたみたいな性格でしょ? 絶対こうしてくると思ってたわ」

 ジーニアの剣をベレニスのレイピアが応戦し、ディアナの魔法が放たれる。

 魔法障壁で防ぐも、兵舎の壁は音を立てて崩れていった。
 ディアナからの魔力弾を、私は辛うじて杖で受け止めるのだった。

 ***

 兵舎内で私たちの戦闘が始まったその頃、リョウはオルタナ相手に死闘を繰り広げていた。

 互いに一歩も引かず、一進一退の攻防が続く。

「思っていた以上にやるね。私とここまで剣を交えてくれたのは父上と兄上以来だよ」

「……愉しそうだな。正直、冗談じゃない」

 リョウは全身いたるところから血を流し、肩で息をしながら剣を構え続ける。

 対峙するオルタナは無傷で呼吸一つ乱れていない。

 リョウの疲労困憊ぶりは誰の目にも明らかである。

「その割には君も笑ってるな」

 そりゃそうだ、とリョウは心の中で返答する。
 強者との戦い以上に心躍ることはない。
 己の腕がどの程度かを知る機会でもあるのだから。

「まだまだ愉しもうぞ」

 交わる剣戟。
 オルタナが必殺の剣を繰り出さないのは余裕か、はたまた遊び足りないのか。

 バルドとヴィムの戦いも、剣の力量で当初はバルドが優勢だった。
 だが、時間が経つにつれヴィムの体力の多さ、若さの勢いに押されつつあった。
 バルドの剣が上空へ飛び、地に刺さる。

「やれやれ、一介の兵にやられるとはな。歳を取るもんじゃないな」

「そんじゃとどめを刺しますか。言い残したことはあるかい?」

「ないな。とっととやれ」

 ヴィムの剣がバルドの胸を貫く。

 ……ように思われた刹那、ヴィムの身体が宙を舞い地面に叩きつけられた。

 ヒュー♪ とオルタナの口から口笛が漏れる。

 バルドは剣を避けヴィムの懐に入ると、その勢いを利用し一本背負いをかけたのだ。

「何だ……それ?……」

 ヴィムは気絶し、バルドも力を出し切ったのか、そのまま地面に倒れ意識を失う。

「体術か。中々どうして、あのギルドマスターもやるじゃないか」

 オルタナのそんな呟きを耳にしながら、リョウは渾身の一撃を繰り出していく。

 その時だった。
 ドゴーン! という凄まじい音と共に、兵舎の壁や天井が崩れる音が響き渡った。

「ローゼ! ベレニス!」

「よそ見をする余裕が君にあるのかね? まだまだこれからだろ!」

 一瞬の隙をついて斬り込んでくるオルタナに、辛うじてリョウは反応するが……
 ドンッ! という衝撃と共に、腹部に剣の柄頭がめり込み、そのまま吹っ飛ばされてしまう。

 剣を床に突き刺し倒れることだけは回避したリョウだったが、その口からは鮮血が吐き出される。

 オルタナの追撃を防ぎながら見る、兵舎の跡地に立つ四つの人影と二つの攻防。

 こっちを気にさせるわけにはいかんな。

 そう思いながらリョウは剣を構え、オルタナの剣を受け止めるのだった。

 ***

「ああ~残念。あたしもぉ傭兵と戦いたかったなぁ。でもぉ、あの化け物の獲物を横取りするのは無理だしぃ、ちびっ子エルフで我慢するとするわぁ♥」

「舐めないで! 我慢するのはこっちのセリフ! あんたなんかに負けない!」

 ジーニアの剣戟を凌ぐベレニス。
 重い剣の一撃が何度も襲いかかり、受け止める度にその衝撃が腕を痺れさせる。
 風魔法を使おうにも詠唱する隙がなく、防戦一方だった。

「ヒャハ♥ お姫様に傭兵にエルフちゃん。この3人で一番のハズレってエルフちゃんだよねぇ。だってレイピアなんて弱っちい武器使って魔法の腕前も中途半端。魔女で剣士のあたしとじゃ勝負にならないじゃん」

「うるさいわね! だからってあんたに負けるわけにはいかないのよ!」

 ベレニスは渾身の突きを繰り出すが、それを嘲笑うかのように躱される。
 そして足元からドンッと衝撃が走り、気がつけば床に倒されていた。

「魔法……何が起こったの?」

 ベレニスの手首に、金属の輪っかが嵌められていた。

「くっ!……このっ!」

「ヒャハ♥ 無駄な抵抗しちゃダメダメぇ。その輪っかは奴隷の首輪を改造したものさ。安心しなって♥ 希少種のエルフだ。あたしがすんごい良い所へ高く売ってあげるからさぁ♥」

「このお! 外れろ外れろ外れろおおおお!」

 ジーニアに戦闘不能にされた以上、ベレニスの敗北は決まったも同然だった。

「キヒ♥ ヒャッーハッハッハ♥」

 ジーニアの高嗤いが月明かりの大地に響いていった。
 
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