【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第2章 英雄の最期

第3話 商人の少女

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 ダーランド王国から隣国ベルガー王国の国境を越え、ビオレールの街並みが見えてくる。

 商隊の馬車が何台も連なって街道を進む。
 積荷はダーランド王国の特産の服飾品や工芸品などが、幌のついた馬車に山盛りになっていた。

 十数台の馬車を率いるこの商隊は、ダーランドでも指折りであるハンセン商会に属している。

 そして、先頭を行く馬車から御者の声が響く。

「ビオレールが見えてきたぞお!」

 商人の格好をした男は、ハンセン商会の御者台で馬を操っていた。
 年齢は30代半ばだろう。日焼けした肌は浅黒く、茶色の髪は縮れ、黒い目は鋭い眼光を放ち、精悍な体つきと逞しい腕は旅慣れたことを窺わせた。

 名はヘクター・ロンメル。
 彼はダーランド王国では名の知れた冒険者だった男だ。
 しかし、今はハンセン商会の一商人として商隊に交じっている。

 御者台の横では、幼い少女がワクワクしながらビオレールの街並みを見つめていた。
 年の頃は10歳ぐらいだろうか。緑色の髪は肩に届くかどうかという長さでツインテールにしており、好奇心に満ちた茶色い瞳はとても愛らしい。

「5年ぶりの生まれ故郷の王国っすねえ。これで最初の目的の大陸一周を達成したっす。まあスタートの村はまだまだ先っすけど」

「その歳で大陸一周達成って……フィーリア、お前さんも不思議な奴だなあ」

「ま、内側をグルっとしただけで、南部諸国郡やローレン王国に行ってないっすからねえ。まだまだっすよ」

「俺たちはビオレールで取引を終えたら帰るから、この街でお別れだな。それにしても……まさかハンセン商会にその年で飛び込みで紛れ込むとはなあ」

 ヘクターはチラリと横の少女、フィーリアを見る。
 その少女は、えへへと照れ笑いを浮かべた。

 フィーリアは話術、算術、商売の天才だった。
 幼い年齢で大陸各国を渡り歩き、ハンセン商会の商隊に滑り込んだ。
 そして、大人顔負けの交渉力を見せつけたのだ。

 この少女は見た目によらずかなりの食わせ者である。
 取引で法外な値段を吹っ掛けられ、権力すらちらつかせる相手に一歩も臆することなんてない。
 逆に商品の産地から生産の過程、使い方や現在の大陸での価値を楽しそうに説明するフィーリアに、相手がドン引きして気力が削がれていったのだ。
 その時の光景を思い出し、ヘクターはクスッと笑った。

「これからどうするんだ?」

 ビオレールに入る門に並ぶ列にて、ヘクターがフィーリアに話しかけた。
 彼女は、ビオレールの街並みを眩しそうに眺めながら答えた。

「そっすねえ。商売しながら王都ベルン方向へ向かう商隊を探すっす。商売しながら旅するっすよ」

 ヘクターはフィーリアの商魂に感心する。
 しかし、彼は少し心配になる。
 彼女は見た目通り、幼い少女だ。
 1人で大陸中を旅して回るのは、かなりの危険である。

 ヘクターはフィーリアが1人旅をしてきたと知った時、その年齢でよくもまあと、思ったものだ。
 だが、この少女は見た目によらず、かなりしたたかなことも知っている。

「なあ、最後にお前さんの本当の歳を教えてくれねえか? 11歳って嘘だろ?」

 門兵と手続きしつつ、フィーリアに尋ねる。
 本当なら6歳で、生まれ故郷の村に来た商人の荷台に紛れ込んで、旅に出たということになる。

「何言ってるんすか! 自分は正真正銘の11歳っすよ! 女の子の歳を疑うなんて失礼っす。疑っていい女はエルフと魔女だけっすよ? 特にエルフは最悪っすね。耳長で性悪で、なぜかプライドだけは高くて我儘で、人の話を聞かず、自分のことは棚に上げて文句言うっすから。まあエルフは置いておいて、自分の年齢は11歳で間違いないんっすよ!」

「エルフなんて伝説の生き物だろ? って言いたいが、どうやらビオレールに1人いるって噂聞いたな。本当に耳が長いか見てみたいものだ」

「やめておいたほうがいいっすよ。エルフは美醜で人を判断するっすからねえ。ヘクターさんが暴言吐かれて、凹む姿は見たくないっすよ」

「悪かったな! 醜男でよ!」

 それを見ていた他の商人たちが思わず吹き出した。
 それにつられてフィーリアも笑い出し、ヘクターもつられて笑った。

 ようやく門を通り抜け、商隊はビオレールの街に入った。
 街並みはダーランド王国と変わらず石造りの建物が多い。

「そういやエルフがいるって言ったが、どうも魔女と組んで冒険者やってるらしいぜ?」

「魔女っすかあ。関わりたくないっすねえ。魔女って言葉を交渉に使わず、自然のエネルギーを商売にもせず、魔力なんていう暴力で好き放題やる奴らっす。自分、魔女には良い思い出がないんすよねえ」

 ヘクターはフィーリアの過去を知らないが、どうも訳ありらしい。
 フィーリアの愚痴を聞いて、魔女については同意だと、思わず苦笑した。

 それからしばらく進むと、街の広場にたどり着く。
 この街は二つの国の境目にあり、旅人の為の宿や、国境を超える商人たちの為の市場があるので、いつでも賑わっている。
 ヘクターが馬車を止め、御者台から降りると幌の中にいた他の商人たちも降りてきた。

「それじゃ自分はここで。お世話になりましたっす! 皆様お元気で!」

 フィーリアはぺこりとお辞儀すると、他の商隊を探す旅を再開した。

「また大陸一周するんだろ! また会おうな! 次に会う時は美人に成長してろよ!」

「自分は今でも美人っすよ!」

 フィーリアは笑顔を浮かべ、他の商人たちにも手を振る。
 そして色々な店を回りながら商人としての知識を深め、王都ベルン方面へ向かう商隊を探すのであった。

「さてと」

 ヘクターは、去りゆくフィーリアを笑顔で見終えると、表情を引き締めた。
 
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