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第2章 英雄の最期
第18話 伯爵領からの依頼
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隠れ里の入口に到着すると、黒フードを被った女性が片膝をつき待っていた。
その横には銀製の鎧を纏った男が立っていて、こちらへ一礼している。
そして入口付近では、ドワーフの戦士たちが槍や斧を構えて相手を警戒していた。
私たちが近づくと、ゲッペンさんが前に出た。
すると騎士の男が口を開く。
「私はザガン伯爵家に仕えるナフトと申します。この度は我が主君の命により、アランの傭兵であるリョウ・アルバース殿にお願いしに参りました」
騎士の男は胸に手を当てて敬意を表しつつ、丁寧な口調でそう言った。
「俺に?」
「はい。王都に連なる山々に盗賊が居着いてしまいまして。その討伐を依頼したく参上いたしました」
ナフトという騎士はそう言うと、ザガン伯爵から預かったという書状を差し出す。
私も書状の内容を確認した。内容は要約するとこうだ。
山に住み着いた盗賊を討ってほしいという、至極単純な依頼内容。
そして報酬として、小銀貨で50枚が提示されている。
少ないが、ザガン領の懐事情ならこんなものだろう。
「衛兵が直接しない事情があるのか?」
リョウの問い掛けに、騎士は困った顔で頭を掻いた。
どうやら説明をしていいものか悩んでいるようだ。
すると横にいる、黒フードを被った女が前に出てくる。
「ザガン領は、衛兵の数が十数人しかおりません。対する盗賊の数は100名を超えます。冒険者も寄らぬ街ですし、討伐隊の編成すらままならぬ状態でして。ここにリョウ様がおられるとお噂で耳にし、藁にも縋る思いで参上した次第にございます」
「そこですけど、どうしてリョウがここにいると? ドワーフの里をどうして知っていたんです?」
クルトさんたちドワーフが警戒を緩めない中、私はナフトさんに質問する。
「失礼。貴女はドワーフではなく人のようですが?」
「魔女で冒険者のローゼです。リョウとパーティーを組んでいます」
するとナフトさんはちらりと黒フードの女性を見たが、すぐにこちらへ向き直る。
「そうでしたか。ではローゼさん、貴女の疑問にお答えいたします。アランの傭兵がドワーフの隠れ里にいるという噂は、ザガン伯爵の耳にも入っておりました。ですが、リョウ殿がこの里に滞在していることをご存知なのは、私を含めた数名だけでして」
ナフトさんはそう言うと、ドワーフたちを見つめる。
「ご安心ください。こちらの里については公言しません。今回の件も、ドワーフの皆様には関与して頂かなくても結構です。……ただ、武具を売買するのをザガン領でしてくれると助かりますが」
「そりゃ脅しか?」
「め、滅相もございません。従来通りの取引価格で構いません。それと、あくまでお願いですので……あ、あと王都への道が開ければ、王都の上質な酒を仕入れられますので」
ナフトさんは慌てた様子でまくし立てた。
ドワーフたちはきな臭そうにナフトさんを見ているが、酒という単語が出た瞬間ゴクリと唾を飲み込んでいる。
ドワーフって……
「まだそっちの女の素性と、ここを知っていた理由を語ってないぞ」
そんなクルトさんの声に、黒フードの女の人は頭を下げる。
「申し訳ございません。名乗るのが遅れました。私の名はルシエン。旅の魔女です」
まあ、格好からそうだろうとは思ったが魔女か。
ビオレールの街で戦った、ジーニアとディアナさんを思い出す。
邪教関係者と思われるジーニアは逃亡し、利用されていたディアナさんは、領外追放の処分で終わった騒動。
リョウも思い出したのか。一瞬顔を強張らせた。
「フードも取らずに挨拶とはのう」
そんなクルトさんの声に顔を出す女の人。
ワインレッドの髪に、伏し目がちな目に綺麗な鼻筋。
自然な唇の色の、お淑やかそうな美人さんだ。
ただ……右目から上の皮膚が火傷で爛れていた。
「顔に自信がなく、フードを被っていた無礼をお許しください」
「ふ、ふむ」
「この里を知っていたのは、実は恥ずかしながら偶然ここへ向かうリョウ様たちをお見かけして、こっそりついてきてしまったのです。ただの好奇心で、特に理由はありませんでした。その後、ザガンで盗賊の話を耳にし、リョウ様ならばと領主様にお願いしたのです。ですが今思うと、この里の存在は黙っていたほうが良かったかもしれません。ただ盗賊をなんとかしてもらいたいとしか頭が回らず、かような事態になってしまい改めてお詫び申し上げます」
「俺を知っていたのか?」
「はい。黒髪黒瞳で、アランの傭兵が纏う黄土色の皮鎧を着用されてましたので。私はダーランド王国出身でございます」
そういうことか。
私と出会う以前に、リョウが傭兵として戦ったダーランド王国での麻薬戦争。
そこでリョウは結構活躍したらしく、フィーリアともその縁で声をかけられたし、知名度と実績って影響力あるんだなあ。
リョウも、ドワーフのおっさんたちも納得したようだ。
私も、ルシエンと名乗った魔女の人に悪感情は湧かない。
何より盗賊の出没で困っている人が大勢いるのを、なんとかしようとしてリョウに頼ろうとしたのだ。
邪教に関わる魔女には考えられない行動だろう。
魔女ルシエンは、信用して大丈夫だと感じた。
どんな魔法を使うのかな? 旅の目的は何かな?
この件が終わったらお話したいかも。
……ただ、この依頼をリョウに受けさせるのはどうかとも私は思った。
相手は100名の盗賊だ。盗賊にも質があり傭兵崩れや元兵士も混ざっているかも知れない。
そんな相手の情報が、ただ盗賊だけという戦いにリョウだけを送り出すなんて心配だ。
「あの、私も盗賊退治に加わっていいですか?」
「構いませんが、報酬料は変わりませんよ?」
「はい! それで大丈夫です!」
私はナフトさんに快諾した。
その横で黒フードを被り直したルシエンの口元が歪んだのを、誰も気づかなかった。
その横には銀製の鎧を纏った男が立っていて、こちらへ一礼している。
そして入口付近では、ドワーフの戦士たちが槍や斧を構えて相手を警戒していた。
私たちが近づくと、ゲッペンさんが前に出た。
すると騎士の男が口を開く。
「私はザガン伯爵家に仕えるナフトと申します。この度は我が主君の命により、アランの傭兵であるリョウ・アルバース殿にお願いしに参りました」
騎士の男は胸に手を当てて敬意を表しつつ、丁寧な口調でそう言った。
「俺に?」
「はい。王都に連なる山々に盗賊が居着いてしまいまして。その討伐を依頼したく参上いたしました」
ナフトという騎士はそう言うと、ザガン伯爵から預かったという書状を差し出す。
私も書状の内容を確認した。内容は要約するとこうだ。
山に住み着いた盗賊を討ってほしいという、至極単純な依頼内容。
そして報酬として、小銀貨で50枚が提示されている。
少ないが、ザガン領の懐事情ならこんなものだろう。
「衛兵が直接しない事情があるのか?」
リョウの問い掛けに、騎士は困った顔で頭を掻いた。
どうやら説明をしていいものか悩んでいるようだ。
すると横にいる、黒フードを被った女が前に出てくる。
「ザガン領は、衛兵の数が十数人しかおりません。対する盗賊の数は100名を超えます。冒険者も寄らぬ街ですし、討伐隊の編成すらままならぬ状態でして。ここにリョウ様がおられるとお噂で耳にし、藁にも縋る思いで参上した次第にございます」
「そこですけど、どうしてリョウがここにいると? ドワーフの里をどうして知っていたんです?」
クルトさんたちドワーフが警戒を緩めない中、私はナフトさんに質問する。
「失礼。貴女はドワーフではなく人のようですが?」
「魔女で冒険者のローゼです。リョウとパーティーを組んでいます」
するとナフトさんはちらりと黒フードの女性を見たが、すぐにこちらへ向き直る。
「そうでしたか。ではローゼさん、貴女の疑問にお答えいたします。アランの傭兵がドワーフの隠れ里にいるという噂は、ザガン伯爵の耳にも入っておりました。ですが、リョウ殿がこの里に滞在していることをご存知なのは、私を含めた数名だけでして」
ナフトさんはそう言うと、ドワーフたちを見つめる。
「ご安心ください。こちらの里については公言しません。今回の件も、ドワーフの皆様には関与して頂かなくても結構です。……ただ、武具を売買するのをザガン領でしてくれると助かりますが」
「そりゃ脅しか?」
「め、滅相もございません。従来通りの取引価格で構いません。それと、あくまでお願いですので……あ、あと王都への道が開ければ、王都の上質な酒を仕入れられますので」
ナフトさんは慌てた様子でまくし立てた。
ドワーフたちはきな臭そうにナフトさんを見ているが、酒という単語が出た瞬間ゴクリと唾を飲み込んでいる。
ドワーフって……
「まだそっちの女の素性と、ここを知っていた理由を語ってないぞ」
そんなクルトさんの声に、黒フードの女の人は頭を下げる。
「申し訳ございません。名乗るのが遅れました。私の名はルシエン。旅の魔女です」
まあ、格好からそうだろうとは思ったが魔女か。
ビオレールの街で戦った、ジーニアとディアナさんを思い出す。
邪教関係者と思われるジーニアは逃亡し、利用されていたディアナさんは、領外追放の処分で終わった騒動。
リョウも思い出したのか。一瞬顔を強張らせた。
「フードも取らずに挨拶とはのう」
そんなクルトさんの声に顔を出す女の人。
ワインレッドの髪に、伏し目がちな目に綺麗な鼻筋。
自然な唇の色の、お淑やかそうな美人さんだ。
ただ……右目から上の皮膚が火傷で爛れていた。
「顔に自信がなく、フードを被っていた無礼をお許しください」
「ふ、ふむ」
「この里を知っていたのは、実は恥ずかしながら偶然ここへ向かうリョウ様たちをお見かけして、こっそりついてきてしまったのです。ただの好奇心で、特に理由はありませんでした。その後、ザガンで盗賊の話を耳にし、リョウ様ならばと領主様にお願いしたのです。ですが今思うと、この里の存在は黙っていたほうが良かったかもしれません。ただ盗賊をなんとかしてもらいたいとしか頭が回らず、かような事態になってしまい改めてお詫び申し上げます」
「俺を知っていたのか?」
「はい。黒髪黒瞳で、アランの傭兵が纏う黄土色の皮鎧を着用されてましたので。私はダーランド王国出身でございます」
そういうことか。
私と出会う以前に、リョウが傭兵として戦ったダーランド王国での麻薬戦争。
そこでリョウは結構活躍したらしく、フィーリアともその縁で声をかけられたし、知名度と実績って影響力あるんだなあ。
リョウも、ドワーフのおっさんたちも納得したようだ。
私も、ルシエンと名乗った魔女の人に悪感情は湧かない。
何より盗賊の出没で困っている人が大勢いるのを、なんとかしようとしてリョウに頼ろうとしたのだ。
邪教に関わる魔女には考えられない行動だろう。
魔女ルシエンは、信用して大丈夫だと感じた。
どんな魔法を使うのかな? 旅の目的は何かな?
この件が終わったらお話したいかも。
……ただ、この依頼をリョウに受けさせるのはどうかとも私は思った。
相手は100名の盗賊だ。盗賊にも質があり傭兵崩れや元兵士も混ざっているかも知れない。
そんな相手の情報が、ただ盗賊だけという戦いにリョウだけを送り出すなんて心配だ。
「あの、私も盗賊退治に加わっていいですか?」
「構いませんが、報酬料は変わりませんよ?」
「はい! それで大丈夫です!」
私はナフトさんに快諾した。
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