【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第6章 雪原は鮮血に染まる

第19話 ディンレル王国滅亡 実況のアリスと解説のアニス(前編)

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 王都リュンカーラは、年に一度の祭りの活気に包まれていた。
 建国以来続く伝統のディンレル王国武芸大会が、今年も青空の下で盛大に開催されようとしていたのだ。
 円形闘技場を埋め尽くした観客の熱気が、冬の冷たい空気を押し上げるほどだった。

 キースの頭の中はハテナマークでいっぱいだった。

 王城で簡易な挨拶を交わしたキースは本番である婚約の儀が明日控えているため、今日は宿所で休むつもりだった。
 にもかかわらず、王城白亜宮、王の間でディンレル王国の王侯貴族重臣たちへの挨拶を堂々と終えた途端、宰相の声が響いたのだ。

「ではディンレル王国精一杯の饗しとして、闘技場で武芸を披露しましょう」

 闘技場には民衆も無料で入れるらしく、大群衆が押し寄せている。

「ア、アノス陛下。このような催しはディンレル王国の習わしなのでしょうか?」

 思わず彼の顔は引きつった。
 良席だと思われる場所に着席しているのはアノス王とアメリア王妃、自分とミフェルだけ。
 婚約者であるアリス王女の姿も、妹のアニス王女の姿も見当たらない。

「このような大規模なのは初めてでな。毎年、この時期は武芸大会をしていてな。キース殿が来るから今年は延期にしようと思っていたのだが、アリスとアニスめが、どうせならキース殿たちビオレールの方々にお見せしようと言い出してなあ。『近隣諸侯が集まるのです、再び集めるのは負担が大きいでしょう』と言いおってな。すると重臣たちも賛成して、あれよあれよという間に、今年は剣のみならず弓と馬術もやろうという流れになったのだ」

 アノス王の笑いはどこか王族らしくない快活さを帯びていた。彼はまるで子供のように楽しんでいる。

「は、はあ」

 キースは苦笑いを無理に作るしかない。

「ミフェル、これは冗談ではなさそうだな。よもや社交界ではなく武を披露するとは、文明の遅れた国よ」

 キースの戸惑いはますます募る。

「聞こえてしまいますよ、公子。よろしいではないですか? ディンレルの戦力を見せてもらえるのですから」

 ミフェルは意外と楽しそうだ。

「だが、こういう場では普通、婚約者を俺の隣に座らせないか?」

 キースは不満を漏らす。

「どうやら、その答えが闘技場にあるようですな」

 ミフェルが目を輝かせた。

 そう言われてキースは闘技場の中央、参加者たちを見渡すと……いた。アリス姫と妹のアニス姫がいる。

「ハハ、まさか参加するということは?」

 キースの心に期待と不安が入り混じる。

「いえいえ、キース公子。娘たちは実況と解説でございます。上手いのですよ?」

 アメリア王妃が微笑みながら言う。

「審判は我がディンレル最強、いや大陸最強のクレマンティーヌよ」

 王の言葉に、キースとミフェルは注視した。
 あの銀髪の美女がクレマンティーヌであると知り、胸の内に秘めた感情が高まっていく。
 ディンレル王国を手中にするためには、あの魔女は是非とも手駒にしなければ。

 ……だが今はアリス姫が最優先だ。

 興奮が最高潮に達したのは大会の開幕を告げる2人の王女アリスとアニスが、光の粒子を纏いながら闘技場の中央にふわりと舞い降りた瞬間、割れんばかりの歓声と拍手が2人を迎える。

「今年も待ちに待ったこの日がやってきました! 数多の名だたる武人を世に送り出してきた、ディンレル王国武芸大会! この栄えある大会の実況はわたくし、アリス・ディンレルが務めさせていただきます!」

 アリスの澄み渡る声が、魔力によって増幅されて闘技場の隅々まで響き渡る。観客は更なる大歓声で応えた。

「そして解説はもちろんこの私、アニス・ディンレルがお送りします! まずは審判のご紹介! 我がディンレル最強、いや、あるいは大陸最強との呼び声も高い、我らが師、クレマンティーヌ先生! 愛称はクレア!」

 アニスも姉に負けじと声を張り上げると、闘技場の中央に進み出た銀髪の美女クレマンティーヌが、優雅に一礼した。
 VIP席に座る、王アノスと王妃アメリアにも丁寧に礼をする姿は威厳と神秘性を同時に感じさせる。

「さあ、注目の選手紹介といきましょう! やはり最大の注目はこの男! 大会10連覇中の絶対王者、ブロッケン将軍!」

 アリスが紹介すると、屈強な体躯の将軍が姿を現し、観客席から地鳴りのような歓声が上がる。

「いやあ、相変わらず眉間に皺が寄ってますねえ。もう少し笑えばいいのに」

 アニスののんきな解説に、観客席からどっと笑いが起こる。
 ブロッケン将軍は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、これも大会の恒例行事だ。

 次々と紹介される参加者たち。王国騎士団の精鋭、地方領主の推薦を受けた腕自慢、果ては他国から武者修行に来た者まで、今年もそうそうたる顔ぶれが揃っていた。

「そして、今年の注目株はこの3人! まずは初出場、エルフの美少女双子姉妹、エレノアとエレミア! リュンカーラに来てまだ日は浅いですが、美貌と弓の腕とお騒がせぶりで、すでに街の人気者! 実力は未知数!」

 アリスが紹介すると、金髪と銀髪をなびかせたエルフの姉妹が、手を振って観客に応える。
 ひときわ大きな歓声が上がる。
 ディルたち魔女仲間も、観客席から野次混じりの声援を送っていた。

「でも、どっちがエレミアでどっちがエレノアか、本当に見分けがつきませんねえ」

「ええ、髪の色以外、全部同じに見えるよね」

 アニスとアリスの解説実況に、エレノアとエレミアが「むーっ!」と頬を膨らませて抗議の視線を送ってくる。

「あらあら、ごめんなさいね、冗談よ。ちゃーんとわかっているから安心して」

「そうそう、私も完璧に区別ついてるから大丈夫よ~」

 アリスとアニスが悪戯っぽく笑うと、観客もつられて笑い、会場の空気が和む。

「ええっ⁉ 私たちでも時々間違えるのに⁉」

「2人とも……すごすぎない⁉」

 エルフ姉妹の素直な驚きに、アニスがすかさずツッコミを入れる。

「いや、髪の色が違うんだから、普通はわかるでしょ!」

 会場は再び大きな笑いに包まれた。

「最後にご紹介するのも、初出場! キルア族の族長ソテツが嫡男にして、わたくしアリスと、妹アニスの側仕えを務める者! ヒイラギ!」

 アリスが力強く紹介すると、黒髪の青年が静かに闘技場へと足を踏み入れた。

「いやあ、こちらも相変わらずの無愛想ですねえ。でも、秘めたる闘志は感じます!」

 アニスの解説通り、ヒイラギの表情は硬い。
 だが瞳の奥にはこの大舞台に懸ける強い決意が宿っている。
 彼は心の中で、主であるアリス姫のためにも、全力を尽くすことを誓っていた。
 観客は未知数の実力を持つこの青年に、期待と不安の入り混じった視線を送っていく。

 最初の競技は弓術。精密な技術が要求されるこの競技ではエルフ姉妹が真価を発揮した。
 エレミアとエレノアは次々と的の中心を射抜き、満点を叩き出して同着1位。エルフの腕前を存分に見せたのだ。
 ブロッケン将軍が3位、ヒイラギが4位につけ、初出場ながら上位に食い込む健闘を見せる。
 予想外の展開に観客席は大いに盛り上がった。

 続く馬術競技。
 ここではヒイラギが卓越した騎乗技術を披露した。
 まるで馬と一体になったかのような滑らかな動きで障害物を次々とクリアし、見事1位を獲得。遊牧の民としての誇りを見せつけた。

「遊牧の民、恐るべし」

 という声が観客席からキースの耳にも届いてくる。
 ブロッケン将軍が安定した実力で2位に入り、総合得点でヒイラギと同点になる。

 エルフ姉妹は馬との相性が悪かったのか、残念ながら下位に沈んで優勝争いから脱落した。

 ちらっとアノス王の顔を確認すると、どうやら快く思っていないようだ。
 ブロッケン将軍を頑張れと応援する様子が見えて、キースはなんとなく察した。
 対照的に、アメリア王妃は終始穏やかな微笑みを浮かべて競技の行方を見守っている。

「使えるな、あの男」

 キースの心には複雑な思惑が渦巻いていく。

「微妙な立場のようですね。王女2人には気に入られているようです。特にアリス姫様に」

 ミフェルが静かにつぶやく。

「殺してもディンレル王国にとって好都合っぽい。アリス姫を御するのにも利用できそうだ」

 キースは心中の計算を練った。

「ふ、公子の悪い癖が出ましたな」

 ミフェルの笑い声が小さく響く。

 闘技場内の微妙な空気を察したのか、アリスが笑顔でヒイラギに声をかけた。

「ヒイラギ、見事な騎乗でした。1位獲得を祝して、何か得意な芸を皆に披露してちょうだい!」

 突然の無茶振りにヒイラギは一瞬戸惑ったが、すぐに意を決する。

「ではお言葉に甘えて」

 彼は手綱を引き、馬を数歩後退させると一気に助走をつけて駆け出し、闘技場の中央で力強く踏み切り、人馬一体となって宙を舞ったのだ。
 跳躍距離は実に10メートルを超えていた。
 観客席からは驚嘆の声と割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「いやあ、まるで馬とお友達みたいですねえ。素晴らしい跳躍でした!」

 アニスの解説に、会場は再び和やかな笑いに包まれた。

 やがて大会の華である剣術競技が始まった。
 斧や大剣を振るう屈強な戦士、槍を巧みに操る騎士たちが、互いの技と意地をぶつけ合い、火花散る激しい試合を繰り広げる。
 激戦を勝ち上がってきたのはやはりこの2人だ。初出場ながら快進撃を続けるヒイラギと、11連覇を目指す王者ブロッケン将軍である。
 
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