【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第7章 絶望の鐘

第13話 ディンレル王国滅亡 vsフレイムウルフ

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 パルパティーン宰相が高々と掲げた古びた書物が、禍々しい紫黒の光を放つ。
 空間が歪み、王の間に異界の空気が流れ込む。
 書物に描かれていた黒き獣の紋様が実体を持って蠢きだし、みるみるうちに巨大化する。

 異次元から這い出るかのように現れたのは、まさしく伝説の悪魔フレイムウルフ。
 漆黒の体毛、蝙蝠のような四枚の翼、狼の頭部に剥き出しの牙、全てを憎悪するかのように赤く爛々と輝く双眸。
 その巨体から放たれるプレッシャーだけで、並の兵士なら気を失うほどだ。
 空間を満たす硫黄の臭いと、魂を直接焼くような邪悪な波動。
 アニスが運び込んだ幻影の獣など、比較にならない本物の脅威が、そこに顕現した。

「……宰相……貴様、何を……」

 アノス王は目の前の光景が信じられず、ただ茫然と呟く。

「陛下! お下がりください!」

 ヒイラギとマツバが、咄嗟に王の前に立ち塞がり、剣と闇の魔力を構える。
 フレイムウルフは低い唸り声を上げながら、ゆっくりと獲物を見定めるように、赤い瞳を王の間全体に向けた。

「フ、フハハハ! そうだ、これで良いのだ!」

 パルパティーン宰相はもはや正気を失ったかのように高笑いを始めた。

「フレイムウルフよ! 我が命に従い、ここにいる者どもを皆殺しにせよ! ただし、アノス王だけは生かしておけ! この私に逆らった愚か者どもに、真の絶望を味あわせてやるのだ!」

 王の狂気の命令を受け、フレイムウルフは大きく息を吸い込み巨大な顎を開いた。
 喉の奥が溶鉱炉のように赤熱している。

「来るわ! 全員、最大防御!」

 アリスの鋭い声が響くと同時に、彼女と、アニス、ローレル、アロマティカス、ディル、チャービル、タイム、フェンネル、マツバ……集結した9人の魔女たちが一斉に魔力を解放。
 幾重にも重ねられた魔法障壁が、アノス王と彼女たち自身を包み込むように展開された。

 ゴォォォォッ!

 フレイムウルフの口から放たれた地獄の業火。
 王の間全体を飲み込まんばかりの炎の奔流が、魔法障壁に叩きつけられる。
 凄まじい熱量と衝撃。障壁は激しく軋み、ひび割れ、今にも砕け散りそうだ。
 壁や天井の一部はブレスの余波だけで溶解し、崩れ落ちる。

「なっ……⁉ 馬鹿な、この私のフレイムウルフの炎を防ぐだと⁉」

 宰相が信じられないといった表情で叫ぶ。

「パルパティーン! 貴様の悪行も、ここまでだ!」

 ヒイラギが障壁の内側から、漆黒の剣の切っ先を宰相に向け、鋭く言い放つ。

「何故キルア族を襲わせた! その書物はどこで手に入れた! 全て話せ!」

「フン! キルアなどという蛮族、どうでもよいわ! あれは儂がこの宰相の地位に留まるため、邪魔になりそうなアリス姫の取り巻き……忌々しいクレマンティーヌの影響力を削ぐための、布石にすぎん!」

 宰相は開き直ったように叫び始めた。

「そうだ! 全てアメリア王妃が悪いのだ! 何が正統な血筋だ! 何が慣習による一代限りの宰相だ! 儂はまだこの国を動かしたいのだ! あの女がもっと長生きしていれば、アノス陛下がもっと早く決断してくだされば……! だが、アリス姫が王位を継げば、キルア族への仕打ちを進言した儂は真っ先に粛清される! それが怖かった! だから先にキルアを完全に滅ぼし、クレマンティーヌに罪を着せるしかなかったのだ! 完璧な計画だったはずなのだ! フハハハ!」

 パルパティーンのあまりに身勝手で歪んだ動機。
 アノス王は幼馴染でもある宰相の変わり果てた姿に、怒りよりも深い悲しみを覚えていく。

「パルパティーン……! 何故だ……何故、余にもっと早く、不安を打ち明けてくれなかったのだ……! 余が、長年の友であるお主を見捨てるとでも思ったか⁉」

「陛下! 陛下が甘いからこうなったのです! 何故、アリス姫とアニス姫をあのように自由に育てたのです! 何故、キルアの者を姫の側仕えになど……!」

 宰相の言葉は支離滅裂だった。長年の恐怖と猜疑心が彼を狂わせていたかのように。

「……パルパティーン宰相」

 アリスが強い意志を込めて口を開く。

「あなたの恐怖は理解できます。王家の歴史には血塗られた権力闘争があったことも事実。ですが私やアニスが、そのような過去の悪習に倣うと、本気で思っていたのですか? 私には、あなたを断罪するつもりなど毛頭ありませんでしたのに。……あなたの猜疑心が、取り返しのつかない悲劇を生んだのです」

「そうです!」

 アニスも続ける。

「姉様も私も、魔女として、この国の未来を担う者として、力を持っています! 側近のみんなも、こうしてフレイムウルフの炎を防げるほどの実力がある! 私たちは過去の権力者のように、誰かを恐れたり、陥れたりせずとも、自分たちの力で道を切り開くつもりでした! あなたの心配は全くの杞憂だったのですよ!」

 姉妹の言葉は宰相の心に届かなかった。
 いや、届いていたのかもしれない。だが、もう後戻りはできなかった。

「黙れ、黙れ黙れぇ! 小娘どもが、知ったような口を!」

 宰相は耳を塞ぐように叫んだ。

「フレイムウルフ! そこの生意気な魔女どもを八つ裂きにしろ!」

 命令を受け、フレイムウルフは再び動き出す。
 今度は炎のブレスではなく、強靭な前脚による物理攻撃だ。
 狙いは障壁維持に集中する魔女たちではなく、その前に立つヒイラギ!
 凄まじい速度と質量を伴った一撃が、魔法障壁に叩きつけられる。
 先ほどのブレスに耐えた障壁も、今度の一撃には耐えきれず、ガラスのように砕け散った!

「ぐっ……!」

 ヒイラギは咄嗟に漆黒の剣でガードするが、衝撃を殺しきれず、壁まで吹き飛ばされ、瓦礫の中に埋もれてしまう。

「ヒイラギ!」

 アリスの悲鳴が響いた。
 
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