【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第7章 絶望の鐘

第20話 ディンレル王国滅亡 マツバの予知

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「ねえ、ディル。やっぱり最近のマツバ、ちょっと様子がおかしくない?」

 夜も更けた頃、見習い魔女たちの寝室。
 チャービルはベッドの上で書物を読んでいたディルに小声で話しかけた。

「おかしいって……まあ、前からちょっと変わってるところはあったけど。特にアニスのことになると、周りが見えなくなるというか……」

 ディルは書物から顔を上げずに、少し意地悪く答えた。

「そういうことじゃなくて!」

 チャービルは枕をディルに投げつけた。

「もっとこう、思い詰めてるっていうか、何かに怯えてるような……特に、教会で倒れて、アレゼル様にあの忠告を受けてから、顕著だと思うんだよ。『断片的な予知は口外するな』ってやつ」

 ディルは投げられた枕を受け止めると、ようやく書物を閉じた。
 チャービルの言うことにも一理ある。

「……たしかに、あれ以来、マツバは自分の視た未来について、一切口にしなくなったね」

 ディルは顎に手を当てて考え込む。

「兄のヒイラギ殿がアリス姫様と結婚して、彼女自身の身分も大きく変わった戸惑いもあるし、故郷の一族が兄を除いて皆殺しにされたという悲劇もある。宰相に悪魔の力を与えた黒幕も、まだ見つかっていない。……思い詰める理由はいくらでもある」

「それはそうなんだけど……」

 チャービルは納得いかない様子で続ける。

「でも、それだけじゃない気がするんだよ。マツバ、最近、異常なくらい魔法の修練に打ち込んでるじゃない? 何かに追われるように、先生に強さの秘訣を必死で学ぼうとしてる。……まるで、自分1人の力で何かとてつもなく大きなものから、アニス様や、私たち全員を守らなければならない、って思い詰めてるみたいに……」

 ディルも、それには気づいていた。
 以前のマツバは才能はあるものの、どこか淡々としていて、強さへの執着のようなものは感じられなかった。
 だが、今は違う。何かが彼女を駆り立てている。

「……まさかとは思うけど」

 ディルは声を潜めた。

「教会で倒れる直前……私たち全員の顔を、順番に見ていたのを覚えてる?」

「え? ああ……タイムとフェンネルが『私たちの未来は?』って聞いてた時ね。……まさか、あの時、私たちの……良くない未来でも視ちゃった、とか?」

 チャービルの顔が青ざめる。

「それを言おうか言うまいか悩んでいたところに、アレゼル様の『口外するな』という忠告。……だとしたら、辻褄が合うね」

 確実な予知能力は時に人を絶望させる。
 もし自分たちか、大切な誰かの不幸な未来を知ってしまったとしたら……?
 マツバが1人で抱え込んでいる重圧は想像を絶するものがあるかもしれない。

「……でも、本人が言いたくないことを無理に聞き出すわけにもいかないし、アレゼル様との約束もあるだろうし……だから、ディルに相談したんだよ。私たち、どうすればいいのかなって」

 チャービルは心底心配そうな表情でディルを見つめる。

「そうだねえ……」

 ディルが腕を組んでいると、パァッ、と部屋の中に転移魔法の光が満ち、光が収まると、そこには少し気まずそうな顔をしたマツバが立っていた。

「あ……ごめんなさい、2人とも。忘れ物をしてしまって……起こしちゃいましたか?」

 マツバはディルとチャービルが自分について話していたとは夢にも思わず、きょとんとしている。

「……マツバ」

 ディルは意を決して口を開く。

「ちょうど良かった。少し、話がある。……単刀直入に聞くけど、教会で倒れる直前、私たちの未来を視たんじゃない?」

 ディルの真っ直ぐな視線に、マツバの顔からサッと血の気が引いた。
 動揺を隠せない様子で視線を彷徨わせる。

「……言いたくないなら、無理にとは言わない。断片的な予知なら、それが本当に正しいのかもわからないし……」

 チャービルが、優しくフォローするように言う。

「……」

 マツバはしばらく黙って俯いていたが、やがて顔を上げて震える声で話し始めた。

「……視ました。でも、それは……本当に断片的なイメージの連続で……良いことなのか、悪いことなのか……私にも、よくわからないのです。だから、アレゼル様も、混乱を招くだけだから口にするな、と……」

「……それでも、聞かせてほしい」

 ディルはマツバの手をそっと握りしめる。

「私たちはマツバが何を視て、何に怯えているのかを知りたい。1人で抱え込まないで。私たちは仲間だろ?」

「そうだよ、マツバ。それに、ディルは私たちの中で一番物知りなんだから。もしかしたら、断片的なイメージの意味を解き明かせるかもしれないし」

 チャービルもマツバのもう片方の手を握り、力づけるように微笑んだ。

 2人の温かい言葉と眼差しに、マツバの瞳に涙が滲む。
 彼女は深呼吸を一つすると、意を決して語り始めた。

「……まず視えたのは……夥しい数の、死体の山でした。どこかの戦場のような場所で……鮮血に染まった雪の中に、数えきれないほどの亡骸が……」

 マツバの声が震える。

「それから次に……場面が変わって……私たち、見習い宮廷魔術師7人が……老婆の姿になって、円卓を囲んでいる光景が視えました」

「「老婆……⁉」」

 ディルとチャービルは思わず顔を見合わせた。

「はい……でも、雰囲気が……とても、不気味だったのです。まるで、何か恐ろしい儀式でもしているような……世界を裏から操る、邪悪な魔女の集会のような……それに、その場にはアリス様もアニス様もいらっしゃらなかった……だから、私は……怖くなったのです。私たちが将来、道を誤って、姫様たちと敵対するような存在になってしまうのではないか、と……」

 マツバはそこまで言うと再び俯いてしまう。
 それが彼女が抱えていた恐怖の正体だったのだ。
 自分たちの死ではなく、自分たちが邪悪な存在へと変貌してしまうかもしれない未来。

「……なるほどね」

 ディルはマツバの話を聞き終え、静かに頷いた。

「つまり、私たちに関する予知は二つ。『死体の山』と『老婆の円卓』のどちらも不吉なイメージ、と」

「……うん」

 チャービルは少し考えてから、意外にも明るい声を出した。

「でもさ、老婆になるってことは少なくとも、それまで長生きしてるってことじゃない? それって、結構良いニュースじゃない?」

「チャービル……」

 ディルはチャービルの、師クレマンティーヌのような楽観主義に呆れたような視線を送る。

「だって! 死体の山だって、もしかしたら私たちが見た幻覚とか、あるいは誰か別の敵と戦った跡かもしれないじゃない? 円卓だって、何か大事な会議をしてただけかもしれないし! それに、アリス様やアニス様がいなかったのだって、たまたまその時だけかもしれないし!」

 チャービルは必死にポジティブな解釈を並べ立てる。
 それはマツバを安心させようという優しさからくるものだろう。

「……ありがとう、チャービル」

 マツバはチャービルの言葉に、少しだけ表情を和らげた。

「そう……かもしれませんね。断片的なイメージに、私が過剰に怯えていただけなのかも……」

「そう、きっとそう!」

 チャービルは力強く頷いた。

「それに、もし本当に私たちが道を誤りそうになったら、その時はマツバが予知能力で、私たちを正しい道に引き戻してくれればいいじゃない!」

「……はい!」

 マツバの顔に、ようやく笑顔が戻った。

「……ふう。これで、少しは胸のつかえが取れたね」

 ディルも安堵のため息をつく。

「ところで、マツバ。忘れ物って、何だったの?」

「あ、そうでした!」

 マツバは慌てて、部屋の隅に置いてあった小さな刺繍の入った袋を手に取った。

「これはヒイラギ兄様に頼まれたお守りで……すみません、お騒がせしました!」

 マツバは2人に向かって深々と頭を下げると、再び転移魔法でその場を去っていった。

「さてと……それじゃあ、私たちは寝るか」

 チャービルは大きなあくびを一つしてから続ける。

「ま、やるべきことは変わらないね。アリス様とヒイラギ様を支えて、アニスのお婿さん候補を探して……って、あれ? これじゃあ、私たち、本当に未来で円卓囲んで裏から国を操るお局様になってたりして……うわっ!」

 チャービルは自分で言った冗談に自分で怖くなり、慌てて布団に潜り込んだ。
 すぐに、すうすうと寝息が聞こえ始める。

「……円卓、ねえ……」

 ディルは窓の外の月を見上げた。
 チャービルの言うように、考えすぎなのかもしれない。
 だが、『老婆の円卓』のヴィジョンには何か……言葉にできない、強い違和感が残る。
 まるで未来からの警告のような……ディルは胸騒ぎの正体を探ろうとしたが、やがて襲ってきた眠気に抗えず、静かに眠りへと落ちていった。
 
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