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幼少期編

13.お嬢様とふたつの助言

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 気が付くとそこは、真っ白な空間だった。
 上下の感覚も、奥行もわからない、不思議な世界。

「あれ? ここってまさか……」

 自分の格好も確認してみる。会社員時代のスーツ姿。
 なんでまたこの格好かなぁ。

「うふふ、それが一番、前世のクレナちゃんぽいかなって」

 視線の先に、金色で角と羽の生えた少女があらわれた。
 自称かみさまみたいなもの。
 今日はあんまり光ってないので、顔の表情までバッチリ見える。

「あのねー。前世の私、もっとオシャレな服着てましたから! というか、なんで私またここに?」 
「それはですねー、少しヒマだったから、お茶でもしようかなってー」
「ヒマってなにさ!」

 少女が手をパチンとならすと、目の前にティーセットのったテーブルと二人分のイスが現れた。

「まぁまぁ、座って座って」

 私たちはテーブルをはさんで向かい合わせに座った。
 神様みたいなものは、私に紅茶をいれると自分の分のティーカップにも紅茶を注ぐ。

「お菓子もどうぞー」

 再び手をパチンとならすと、テーブルの上にお菓子が現れた。

「ねぇねぇ、ボクの分は?」

 私のひざの上に、子猫みたいなドラゴンがぴょんと飛び乗る。
 喉の下をなでると、ゴロゴロ音がした。
 キナコって、完全に猫だよね、うん。

「キミの分は、これでどう?」

 テーブルの上にフルーツの盛り合わせが現れた。

「わーい、ありがとう!」
 
 キナコは、テーブルの上に飛び乗ると、もぐもぐ食べ始めた。 
 
 なにもないところから、お茶とかお菓子とかフルーツが現れるなんて。
 これも魔法なのかな。
 それとも、神さま的な神秘の力?

 ……さすが、かみさまみたいなもの。
 うーん、長いよね。
 かみた……ちゃんとかどうだろう。

「いいですよ、オッケー。かみたちゃんでー。やっぱり面白いなぁ、クレナちゃん」
 
 しまった。
 心読めるんだった!

 一瞬、きょとんとした顔をしたかみたちゃんは、大きな声で笑いだした。
 そんなに笑われること言ってないでしょ。

「ゴメンね、呼び方わからないから。ちゃんとした名前があったり、嫌だったら違う呼び方で……」
「あはは、全然大丈夫。かみたちゃんね。可愛い名前をありがとうー」

 ホントにいいのかな。
 嫌じゃないなら、よんじゃうからね。

「で。かみたちゃん。ヒマつぶしに呼ばれたの? 私」
「ボクたちヒマじゃないんだけど」

 いやいやいや。
 キナコは基本、出窓で日向ぼっこしながら寝てるだけでしょ!
 かみたちゃんは、私たち二人をにこやかに見つめた後、胸の前でエライ人みたいに手を組んだ。

「建前的には、異世界生活はどうですかーって聞く感じなんですけど」

 建前ってなにさ。 
 
「ここ何にもなくてヒマなんですよー」
「かみたちゃんって、神様的な感じなんでしょ? 世界の為に色々やったりするんじゃないの?」
「私は基本的に、世界そのものには干渉できないんですー」

 そうなんだ?
 神の力を思い知れー! みたいな感じで色々出来るのかと思ってた。 
 
「そういえば、聞きたいことあったんだった」
「なんでしょうー」
「なんだかすごく平和なんですけど。ホントにゲームのように世界って滅びるの?」
 
 ゲームの内容も詳しくわかってるわけじゃないけど。
 前世では、テレビがリビングに一台だけだったので、妹が遊んでるのをよく見ていた。
 普段生意気な妹が、目を輝かせて話しかけてくるのが好きだったし。

 えーと、ゲームだと。
 確か最後に、大きな黒いモンスターと戦った気がする。
 で。負けたら世界が滅びるストーリーだったはず。 

 ……すでに50%の予言が外れてる? とかだといいんだけどなぁ。
 じーっと。かみたちゃんを見つめる。

「ハイ! このままだと確実に滅びますよー」
 
 笑顔で答える、かみたちゃん。ええええ!?

「……ほんとに? だってすごく平和だよ?」
「すでに、モンスターはどんどん増えてますよー。流れ星の数も少しずつ減ってきてますー」

 そうだったんだ。
 私は、先日の星降りの夜を思い出す。
 あんなに流れ星がいっぱいで綺麗だったのに。

「一部で気づいてる人もいるふぃふぁいですよー。もぐもぐ、そふぉで、くれふぁちゃんにがんばってもらいたいのです!」 
「ほぉうですよ、ごしゅじんしゃま。もぐもぐ」
 
 口に食べ物を頬張りながら、私を指さす、かみたちゃんとキナコ。
 って、なんでキナコも一緒に指さすのさ。

「だって、私なんの力もないんでしょ? ゲームの知識って言っても、そんなに覚えてるわけじゃ……」
「ふぁいじょうぶです!」

 お菓子をもぐもぐしながら、胸を張るかみたちゃん。
 全然大丈夫そうじゃないんですけど。
 
「今回は特別に~。そんなクレナちゃんの為に、ふたつ助言を用意しましたー」
「助言? 予言じゃなくて?」
「ハイ! 助言ですよー」

 にこにこした笑顔を向くてくる。
 ゲームの内容は予言だったはず。
 ……追加でほかの情報をもらえるってことなのかな?
 
「ひとつ目、第二王子に会ってくださいー」 
「え?」
「ふたつ目、お屋敷の奥に隠してある鎧をさがしてくださいー」
「え? え?」
「順番を間違えないでくださいね。かならず、ひとつ目からです~」

 第二王子? 会って何をすればいいの?
 お屋敷って、ウチでいいのかな? それとも、どこのお屋敷を探せばいいの?
 ……よくわからない。

 それが世界を救うのと、どう関係あるんだろう?

「ねぇ、かみたちゃん」
「なんでしょう?」
「思ったんだけど。こういうのって、私じゃなくて星乙女に頼んだ方がよくない? ゲームではヒロインだったわけだし、魔法も使ってたし」

 そう、ゲームの星乙女は、異世界から来たのに魔法も使ってたはず。
 異世界転生のヒロインって感じだし、チート能力もちじゃん。

「魔法は別に特別じゃないですよ、こちらの世界ではふつーに使える力なので~」
「ご主人様、魔法つかいたいんですか? 」
「使えるなら、使いたいにきまってるじゃん!」
 
 だって、魔法だよ?
 ファンタジーの王道じゃん。

「うーん」

 少し考える仕草をしたかみたちゃんが、私をじっと見つめる。

「まぁ、名前を付けてもらったから、今回は特別ですよー」

 かみたちゃんは、両手を伸ばして私の手を握った。
 握られた手に熱がこもる。

「え!? なにこれ」

 私の手が金色に眩しく光る。何かの文字が浮かび上がってる?
 かみたちゃんが手を離すと、やがて光が消えていった。

 両手をかざしてみる。特に変わった感じはしないけど、なんだったんだろう。

「これで使えますよー。魔法~」 
「え! ホントに?」

 主人公みたいに、魔法が使えるの?
 手から炎をばばっと出したり、ケガをした人を治したり?
 まって、普通にすごくない!?
 
「それじゃあ、楽しいお茶会はここまでー。そうそう、大事なこと話してなかったですー」
「大事なこと?」
「クーデターで死なないでくださいねー」

 かみたちゃんの光が強くなって、だんだん姿が見えなくなっていく。 

「え? 待って、今クーデターって言ったよね。かみたちゃん! まだ聞きたいことが……」

 視界が完全に金色に埋め尽くされて、何も見えなくなった。
 

**********
 
 目を開けると。そこは自分のベッドの上だった。   
 しばらくぼーっとしてると、だんだん意識がはっきりしてきた。

 夢? じゃないよね。

 うわー、失敗したよー!
 もっと色々聞きたかったのにー!

 頭を抱える私の横で、キナコが幸せそうに寝ていた。

「むにゃむにゃ、もう食べれないよー、えへへ」

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