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魔法学校中等部編

20.お嬢様と緊急会議

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「緊急会議!」

 王都にある、屋敷の私の部屋の中で。
 ジェラちゃんが大きな声で叫んだ。

 今、私の部屋にいるのは。
 ジェラちゃんと。
 ガトーくん。
 キナコ。
 あと……リリーちゃん。


「僕は、途中でジェラが止めに入るかと思ってたよ」
「すぐにでも止めて欲しかったですわ!」

 実はちょっとだけ、私も思ってたけど。
 ……攻略対象の先輩が私に告白なんて。
 ゲームと大きく違ってきちゃうから。

「無理よ! あんな本気の告白みたら。とめられない……」

 少し俯きながら、両手を握りしめている。

「あのイベント知ってたのに、ゲームと現実はあんなにも違うものなのね……」

「ゲーム?」

 リリーちゃんが不思議そうな顔をする。
 
「でも、どうするのよ! これじゃあ、星乙女が召喚される前に攻略対象全滅じゃない!」

 興奮した感じのジェラちゃん。
 ちょっと!
 これ、いつもの映像クリスタル会議の感覚で話しているよね!

「ジェラ、ストップ!」
「ジェラちゃん、落ち着いて!」

 この部屋、リリーちゃんもいるんですけど! 
 慌てて、ガトーくんがジェラちゃんの口をふさぐ。

「ふぁふぃするのよ!」
「おちつけって、ジェラ! 周りをちゃんと見ろ」

 ガトーくんが、ちらりとリリーちゃんの方を見る。

「あっ」

 ジェラちゃんも気づいたみたいで。
 しまったって感じの顔をしている。
 

 おそろおそるリリーちゃんを見ると。
 彼女は笑顔で私に話しかけてきた。

「前から、みなさまに秘密があることは気づいてましたけど」

 目の前まで歩いてくると、私の両手をにぎって顔を近づけてくる。

「クレナちゃん。お話聞いたらダメですか?」

 柔らかそうなストレートの髪が少し揺れて。
 青い大きな潤んだ瞳と、柔らかそうな唇に目が吸い込まれそうになる。

 ホントにカワイイ。
 同性なのに……ドキドキする。


「……リリーちゃんに話してもいいかな?」

 私は、リリーちゃんを大切な親友だと思っている。
 だから……いつまでも隠し事は嫌だったし。
 それに、転生者じゃないけど。
 彼女も当事者だよね。
 
 最近忘れてたけどクーデターも怖いし!

「ボクは話した方が良いと思うな。リリーちゃんなら大丈夫だよ!」
「……まぁ、良いわよ。どうせ信じてもらえないとおもうけど」
「うーん。ここまで聞かれちゃうとね」

「あのね、リリーちゃん」

 リリーちゃんに、ずっと大切にしている『ファルシアの乙女メモ』を見せた。


**********


「……つまり、ここに書いてあることが今後おこるのですわね?」

 リリーちゃんはメモをゆっくり読みながら、時々私たちに質問してきた。

「そういうことなんだけど……信じるの?」
「クレナちゃんが、わたくしに嘘をつくわけありませんわ!」

 まっすぐな瞳で見つめてくる。

「……それに」
「それに?」
 
「冒険小説みたいで素敵ですわ!」

 リリーちゃんの目が輝いている。
 いわれてみれば。
 子供の頃から好きだもんね、小説。
 
 これって、考えてみたら「世界を救う物語」なのかなぁ。
 
「主人公が、『会ったこともない星乙女』というのが気に入りませんけど」
「うーん。でも、彼女が召喚されて、世界を救うのが一番確実そうだと思うの」

「つまり、攻略対象者が、星乙女と結ばれれば世界が助かるのですわね?」
「すごく簡単にいうとそうかなぁ?」

 ゲーム通りなら、それが一番だと思う。
 思うんだけど。

「でも、確率は50%なんだって」
「素敵ですわ! ぜひ協力させてくださいませ!」

「簡単にいわないでね。僕たち攻略対象者にも都合があるんだからさ」

 そういえば。
 ガトーくんも攻略対象だったよね。
 転生者同士ってことで、すっかり忘れてたけど。

「そういえば。これって、アンタが星乙女とラブになれば解決じゃない?」

 ジェラちゃんがガトーくんにつめよる。
 確かに、それはありな気もする。

「星乙女ちゃんが、クレナちゃんより魅力的だったらね」
「はぁ、アンタいつもそうよね~」

 ガトーくんが意味ありげな瞳で見つめてくる。
 ほんとに、タラシだよね。

 すごく優しくてカッコいいから。
 そんなセリフを言ったら本気にしちゃう子もいると思うな。


「で! アンタは、先輩にどう返事するのよ?」

 ぐっ。
 忘れてたわけじゃないけど。
 ホントにどうしよう。
 
「とりあえず、十五歳になってからって言ってたし。その時には星乙女ちゃんきてるはずだから!」

「……ダメよ」
「え?」

「ちゃんと告白してきたんだから、しっかり考えてから返事しなさいよ!」

 そっか、そうだね。
 ジェラちゃんの言う通りだ。

 保留なんて失礼だよね。

 私は先輩とどう向き合えばいいんだろう。

「え? クレナちゃん、当然断るんですよね?」

 きょとんとした顔で、リリーちゃんが問いかけてきた。 
 
 え?
 びっくりするくらい、当たり前って顔してるんですけど?

 ……当然ってなんだろう?  

 
**********

「今日は、秘密を打ち明けてくださってありがとうございます」

 みんなが帰るので、駐車場まで見送る。
 すでに、王家と公爵家の自動馬車がそれぞれ待機していた。

 車に乗り込む寸前。
 リリーちゃんが突然抱きついてきた。

「り、リリーちゃん?」
「忘れないでくださいね。わたくしはどんなことがあっても、クレナちゃんの味方ですから!」

「……うん、ありがとう。私もリリーちゃんの味方だからね」

「クーデターなんて絶対におこしませんわ」

「ありがとう。うん、でも。起こすときは二人で一緒におこすみたいだから」
「なるほど。それはそれで、楽しそうですわね」

「あー、ダメだからね!」
「わかってますわよ」

 二人でくすくす笑いあう。

 私は。
 なんて恵まれてるんだろう。

 こんなに大切な親友がいるなんて。

 
 だから。

 彼女の為にも、この世界はまもらなくちゃいけない。

 星乙女ちゃん。
 本物のヒロインの貴女が。
 もし、シュトレ王子をパートナーに選んでも。
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