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魔法学校中等部編

36.お嬢様と思い出の場所

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 舞踏会の会場に入ると、大きな拍手の音が鳴り響いた。

 扉が開いたときから、すごく眩しくて。
 シャンデリアがすごく豪華なのかなと思ったら。それだけじゃなくて。
 スポットライトみたいな光が、私たちを照らしてるんですけど! 
 
 これ、すごく恥ずかしい……。


 落ち着いて。
 私、お姉ちゃんなんだから。
 横にいる二人に笑顔を向ける。

 ナナミちゃんは、顔が緊張でこわばっていて。
 キナコは……うわぁ、あからさまにふてくされてる。

「ねぇ、二人とも。今日ちゃんとできたら、パンケーキ焼いてあげる。一緒にお祝いしようね!」

 小さな声で話す。

 とたんに、キナコの目が輝きだした。
 さすが、食いしん坊ドラゴン。

 ナナミちゃんも、少し顔の表情がやわらかくなった。

「わかった! じゃあ頑張る!」
「お姉ちゃんのケーキ楽しみ!」

 ふぅ。
 二人とも笑顔になったし。
 まぁ、大丈夫でしょ!

 まずい。私がドキドキしてきたんですけど。
  

「あはは。ずいぶん緊張してるね、クレナちゃん」

 入口のすぐ近くて、ガトーくんが声をかけてきた。

 彼がいるのは、エスコート待機場所。
 
 舞踏会では。初参加の子がいる場合、かならず、一人に一人ずつエスコートがつくんだけど。
 
 男の子には女の子が。
 女の子は男の子が

 主催者にあらかじめ選ばれて、入り口に待機している。


「もしかして、ガトーくんがエスコートしてくれるの?」
「うーん、残念ながら、クレナちゃんのエスコートは僕じゃないんだ」

 ガトーくんは残念そうに首をすくめると、後ろに視線をおくる。

 そこにいたのは。
 ……シュトレ王子。

 王子とは、クーデターの時から、ほとんど話しをしていない。
 あの時のキスシーンを思い出してしまって。

 ちゃんと顔がみれないよ。

 あれってキス……だったよね?
 ……だよね?

 目が合いそうになって、おもわず視線をそらす。
 王子は、私の仕草に気づかなかったように、優しい笑顔で手をとった。

「クレナのパートナーは、オレだよ」

 私に軽く会釈する。
 金色の髪が、黒いタキシードに映えて。
 
 うわぁ。
 かっこよすぎるんですけど。
 ゲームなら、間違いなくイベントのスチル画面だよ。

 でも。
 ずっと決めてたから。
 十五歳になったら、ちゃんと婚約破棄して。
 星乙女ちゃんと、世界を救ってもらうって。

 だから、そんな笑顔くらいじゃ私の気持ちは揺らいだり……しないよ。

 ここは、ヒロインのナナミちゃんに立場を譲らないと。


 ――あれ?

 星乙女のナナミちゃんは、魔法が使えない。
 
 もし。

 もしもだけど。
 攻略対象が彼女とラブラブになったとしても、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のように強くなれないなら。

 だとしたら。
 だとしたら。
 
 ……私は、シュトレ王子を好きなままでも……いいのかな? 
 このまま婚約者でいいのかな?

 抑えられてた感情が、風船みたいに膨らんで、破裂しそうになる。
 罪悪感で胸が苦しい。

 本当に。
 イヤな子だ、私。


**********

「クレナ、大丈夫?」

 気が付くと。
 お城にある空中庭園のベンチに座っていた。

「あれ? シュトレ……様?」

 隣には、シュトレ王子がいる。

「少しは落ち着いた?」
「落ち着いたって? あれ? 舞踏会は?」

 王子は、心配そうな顔で私を見ている。

「もう、終わったよ。クレナの様子が少しおかしかったから、ここに連れてきたんだ」

 そういえば。
 なんだか、さっきまで舞踏会の会場にいたような気がする。

 国王様に挨拶して。
 お父様とお母様と挨拶周りをして。
 
 シュトレ王子とダンスして。
 そのあと、いろんな人と、ぐるぐる踊ってたような。

 この世界の事とか。
 ナナミちゃんへの罪悪感とか。
 シュトレ王子の……こととか。

 いろいろ考えてたら、舞踏会が終わったみたい。


「うわぁ、私完全に失敗してる! 失礼なことしてなかった?」

「いや、クレナは完璧だったよ。本当に……びっくりするくらい完璧だった」

 そっか。
 ほとんど覚えてないけど、迷惑かけてないならよかったぁ。

「でもね」

「え? 実はやっぱり、なにかやっちゃってた?」

 私はおもわず、隣に座っていた王子につめよる。
 王子は優しく微笑んだ。

「何もしてないよ。ただね、笑顔が……いつものクレナじゃなかったよ」
「笑顔?」

 王子は私の質問には答えずに、空中庭園を見渡した。

「ねぇ、クレナ。覚えてる? 初めて二人でこの場所に来た時のこと」
「初めてっていうと、えーと」

 王子とは、たまにここでお茶とかしてたんだけど。
 
 うーん。
 そうだ!

「星降りの夜!」
「ああ、そうだね。覚えてる?」

「うん、すごく綺麗な景色で。私、泣いちゃった……よね?」

 二人で、星降りの夜の空と街の景色を眺めてて。
 その風景があんまりキレイだったので、涙が止まらなかった。
 うわぁ。
 今考えると恥ずかしい。
 
「あはは、そうだったね。懐かしいな。クレナ……オレはね」

 王子の顔が近づく。

「あの頃、クレナの笑顔にずっと救われてたんだ」
「え? 私なにもやってないよ?」

 ちょっと、顔が近い。
 近いんですけど。

「いや、ちがうな。今も、だよ」

 金色の髪が、さらりと流れる。
 私を見つめるまっすぐな瞳は、子供の頃からずっと変わっていない。

「だからさ、もしクレナがなにか悩んでるなら、相談してよ」

 昔は。
 青い瞳がきれいな子だなくらいにしか思わなかったのにな。
 今は……その瞳から目が離せない。 

「うん、ありがとう」

 王子の手が、優しく私の頬を撫でる。

 気が付くと。
 暖かくて柔らかい感覚が唇に重なった。


 ……ああ。やっぱり。
 私は、この人が好きなんだ。
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