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魔法学校高等部編

33.お嬢様と金色の飛竜

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 私とキナコは。
 宮殿の廊下を二人で並んで歩いている。
 
 リリーちゃんとナナミちゃんには、お泊り部屋に向かってもらっている。
 どうしても。
 キナコに、リュート様と話していた時のことを聞きたかったから。
 
「ねぇ、さっきのだけど……」
「さっきのって、ご主人様に似てるって言われたこと?」

 キナコは、満面の笑みで、顔を近づけてくる。
 リュート様に、私と似てるって言われてから。
 ずっとこんな感じなんだけど。

「違うわよ。ゲームみたいに空中にメッセージが浮かんでたでしょ?」
「あー!」

 キナコが私と手をつないでいない方の指を、くるりと小さくまわすと。

 私の目の前に、さっきと同じようなメッセージが表示された。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『キナコ、えらいね』
『キナコ、優秀だね』
『キナコ、私とそっくりだね』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 
「そうこれ!」

 メッセージの表示されているあたりの空間に手を伸ばすと、そのまま突き抜けていく。
 選択画面って。
 現実世界でみると、かなりシュールな光景なんだけど。

「これって、なんなの?」
「これは、ご主人様が思っていることや、これから思うことを魔法で表示してるんですよ」

 思っていることを表示って。
 心が読めるってことなのかな?

 ……まるで、かみたちゃんみたい。

「え? じゃあ、ゲームになかったメッセージは、これから思うことなの?」
「一応、そうなりますねー」

 これから思う……?

 まって!
 絶対おかしなメッセージあったから!

「これからのことは、あくまでも予言みたいなものですよ」
「キナコって……そんなことが出来たんだ……」
「ふふん、これでもドラゴンですからね!」

 え?
 普通のドラゴンは出来ないんじゃないかなぁ。

 ――でも。
 
 もしも。
 もしもだけど。
 
 キナコって……。
 シュトレ王子の心も……読めたりするのかな?
 もしそうなら……。


「読めますよ? 王子様との会話の時に表示しましょうか?」
「え、うそ?」

 ……。

 ………。

 王子の心の中。
 知りたいような……怖くて知りたくないような……。
 
 胸の鼓動が体中に鳴り響いてる感じがした。
 頬がすごく熱くなって……。
 思わず両手でおさえてしゃがみ込む。

「やっぱりダメ! この魔法も。心を読むのも禁止!」
「えー?」

「えー! じゃないから。今後絶対使っちゃダメだからね!」

 しゃがみ込んだまま。
 不満そうなキナコを、びしっと指さした。
 

 あれ?
 よく見たら。
 キナコの後ろに誰かいるような?
 
「ごきげんよう、クレナ様、キナコ様」
  
 緑色の髪に、整った顔立ちの美青年が微笑みかけてくる。

 ……リュート様?!

 私は立ち上がると、慌ててお辞儀をする。

「リュ、リュート様。ごきげんよう」  
「リュートくん、こんばんはー」
「お二人に会いに行こうと思ったんですけど、ちょうどよかった」 

 私とキナコに用事?

 えーと。
 
 なんだろう? 


**********

 私たちは、宮殿の少し外れにある、大きな塔に来ていた。
 すごく不思議な形をしていて。

 どのフロアにも、大きな扉がたくさん並んでいる。
 ううん。もっと正確にいうなら。
 
 たくさんの扉で作られた塔のように見える。

「どう? 変わった建物だと思わない?」
「そうですね。こんなに扉がある建物、初めて見ました」

「あれはね、飛竜たちが自由に出入りするためのものなんだ」

 この建物には飛竜たちが住んでいて。
 竜騎士たちは、ここでパートナーを探したり、仲良くなったりするんだって。

「人間は、ここから入るんだよ」

 リュート様は、建物の横にある人間サイズの扉を指さした。

 確かに。
 人間がこの大きな扉を開けるのは大変そうだもんね。 


 ドキドキしながら中に入ると。
 塔の中は全部吹き抜けになっていて。

 飛竜たちが自由に中を飛び回っていた。

「うわぁ、すごい……」

 おもわず、両手で口を押させて絶句する。
 色とりどりの竜たちが。

 散歩していたり。
 じゃれあっていたり。
 丸まって寝ていたり。

 ちらちら、こっちをみている子もいる。

 ……すごい
 ……すごいよ!

 ゲームや絵本の中でも。
 こんなにたくさんの綺麗なドラゴンがいる風景、見たことない!

「喜んでもらえたかな。クレナ様はドラゴンがお好きそうだったので」
「ありがとうございます! ハイ、とても……すごいです」

 感動して言葉がうまくでこない。

 リュート様は優しそうな表情で、私たちを見つめている。
 ゲームでも素敵な人だったんだけど。
 同じくらい……ううん、それ以上に。

 本物のリュート様は、いい人オーラが溢れ出している。

「僕もね、本当は竜騎士見習いなんだけど。お目当てのパートナーが振り向いてくれなくてさ……」

 リュート様が、部屋の奥に目線をうつすと。
 そこには、金色の大きな飛竜が退屈そうにうずくまっていた。

 パートナーが振り向いてくれないって。
 なんだか。

 ……まるで恋愛みたい。

 でも。
 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でリュート様が助けにきてくれるシーンでは。
 彼は金色の飛竜に乗っていたはず。
 
 それって。
 どう見ても、この子だよね?
 
 
「ねぇ、ご主人様。あの金色の飛竜に話を聞いてみたら?」
 
 キナコは、嬉しそうに飛び跳ねると、飛竜に近づいていく。

「ちょっと、キナコ!」

 私は、慌ててキナコの後を追う。
 彼女は、私の耳元に近づくと、こっそりささやいた。

「テイミングの魔法で、あの子に何で振り向いてくれないのか聞いてみたら?」

 確かに、あの魔法なら、金色の飛竜とお話できると思うけど。
 でも、テイミングの魔法って……。

 テイミングの魔法は。
 動物ならどんな子でも巨大化して乗せてもらうことができる。
 もちろん、会話もできるんだけど。

「そんなのかけたら、あの飛竜大きくなっちゃうよ?」
「なりませんよ。ご主人様がそう願うなら」
   
 ホントかなぁ。

「クレナ様? キナコ様?」

 後ろから、慌ててリュート様が追いかけてくる。

 もう。
 どうなっても知らないからね!

「テイミング!」

 私は片手を上げてポーズを取ると。
 魔法を詠唱した。

(なによ、びっくりするじゃない!)

 見た目は全然変わってなかったんだけど。
 突然、飛竜の声が聞こえるようになった。

「初めまして、金竜ちゃん」

(金竜ちゃん? 失礼ね、私にはちゃんとアンネローゼっていう立派な名前があるんだから!)

 金竜……アンネローゼちゃんは、首を持ち上げて、私をゆっくりと眺めている。

「ねぇ、アンネローゼちゃん。リュート様があなたとパートナーになりたんだって」

 アンネローゼちゃんは、少し固まった後。
 まるまって、首を体にうずめる。

(突然何言いだすのよ! ……そんなの……知ってるわよ)

「そうなの? じゃあ、リュート様にお伝えしてもいい?」

(ダメよ! それはダメ!)

 彼女は、慌てたように、羽をバタバタさせる。

「アンネローゼちゃんは、リュート様の事……嫌いなの?」

(そんなこと! あるわけないじゃない! 子供の頃から毎日会いに来てくれるのよ……)

「それじゃあ……」

(だって……人を乗せて飛ぶのよ? もしも……リュートに何かあったら……怖いじゃない!)

 アンネローゼちゃんは。
 ちらりと、リュート様を見た後。
 再び、顔をうずめる。

 そっか。
 本当は。

 彼女も、リュート様とパートナーになりたんだね。

 でも、人をのせたことが無くて怖いんだ……。

 横にいるリュート様が、興奮した表情で私に話しかけてくる。

「クレナ様! この子の言ってることがわかるんですか?」
「え、ええ。なとなくですけど」

 さて。
 どうしようかな。

「主人様なら、大丈夫。なにかあってもボクがフォローしますよ」

 キナコが、にこにこしながら、話しかけてきた。
 ……もう。
 わかったわよ。
 
「ねぇ。試しに私が乗っても……いいかな?」

(え?)

 再び首をあげると、ビックリした表情で私を眺めている。

 テイミングの魔法を使ってるから。
  
 ……たぶん大丈夫……だよね?
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