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星降る世界とお嬢様編

9.お嬢様と砦の上の告白

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 大陸で最も星空の光に恵まれた国。

 「魔法王国」ファルシア。


 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の主人公が転生してくる国で。
 物語の舞台になっている。 

 ダンジョンから大量に採取される魔法石と、星空の魔力によって。
 ファルシアは大陸でもっとも魔道具が発展していて。
 人々の笑顔があふれる豊かな国なんだけど。

  
 ゲームでは最後に。
 東の大国「アイゼンラット帝国」に攻め込まれる最終イベントがあって。
 主人公の星乙女と、恋愛対象の攻略者たちが一緒になって戦うことになるんだよね。


 でも、今……現実世界では。

 西の大国「セーレスト神聖法国」からも同時に攻められようとしている。
 
 法国は、ゲームだと助けに来てくれるお助けキャラ的ポジションだったのに。

 なんで……こんなに違うんだろう……。

 魔法学校の生徒会交流会でも、すごくいい雰囲気だったのに。


「なによ、こんなところにいたの?!」

 私が飛空船の食堂で一人悩んでいると。

 突然、扉が大きな音をたてて開いて。
 ジェラちゃんが飛び込んできた。

「もうすぐ到着よ。さっさと着替えなさいよね!」

 彼女のすぐ後ろにいるのは、セーラ率いるメイド隊。
 ジェラちゃんの船に同行してきたんだって。

「もう、セーラ! すぐに王都に戻ってっていったでしょ」
「そんなことをしたら、誰がお嬢様を世界一可愛くセットするんです?」

「だから、そんな必要ないんだってばぁ」

「時間がありませんね。この場で着替えましょう」
「ええええ!? ちょっと、セーラ!」
「わかりましたー!」

 セーラの合図で、メイド隊のみなさまが一斉に周りを取り囲こむ。
 ちょっと。

 まだジェラちゃんも食堂にいるんですけど!

 っていうか。
 なんで嬉しそうな顔をして、セーラたちと一緒に私の髪を結い始めるのさ!


**********

 白に金色のラインが入った豪華なドレス。
 みつあみを軽く編み込んだ頭には、可愛らしい星がデザインされたティアラ。

 王国の西の要「フェルニット砦」に着く頃には。
 私はすっかり、王族の衣装に身を包んだお姫様になっていた。

「やっぱり、似合うわね。思ったとおりだわ!」

 ジェラちゃんは、満足そうな顔をして何度もうなずく。
 なんだか、少し頬が赤い気がするんだけど。
 気のせいかなぁ? 

「クレナ……可愛い……すごく似合ってるよ」

 食堂に入ってきたシュトレ様が、とろけそうな声でささやいた。
 王子の衣装も、まるでお揃いのように白地に金の模様が入っていて。

 うわぁぁ、どうしよう。
 声が幸せすぎるし、カッコよすぎるし、お揃いで嬉しいし!
 慌てて、両頬を手で押さえる。

 今絶対、頬の温度が絶賛上昇中だよ、これ……。

「ハイハイ、今はイチャつかないでよね。ほらいくわよ!」

 ジェラちゃんは、私の手をとると、船のタラップまで向かっていく。

「ちょっと、ジェラ! それはオレの仕事だろう!」

「残念ね、お兄様。早い者勝ちよ!」

 私たちがタラップを降りると。
 すでに到着していた王国主力軍が、みごとな隊列で出迎えてくれた。

「ジェラ様とクレナ様だ!」
「お二人ともお美しい……」
「本当に最前線に来ていただけるなんて!」

 飛行場に割れるような大歓声が沸きおこる。
 まるで大地が揺れるような大きな音。

「ちょっと、ジェラちゃん。これって相手にバレちゃうんじゃ」

 慌てて、ジェラちゃんに耳打ちすると。
 イタズラっ子のような笑顔で笑った。

「いいのよ、これもわざとよ。もう主力軍が砦に到着してるんだから。今頃慌ててるんじゃない?」
 
 ジェラちゃんは私の腕に手をからめて。
 嬉しそうに、左右に整列した兵士の間を歩いていく。

「まぁ。これで諦めて引いてくれればいいんだけど。たぶん無理よね?」
「うん、たぶん……」

 ジェラちゃんの真剣な表情に、思わずうなずく。

 でも、かみたちゃんが見せてくれたのはあくまでも予知だから。
 外れてくれたら良いなぁ。    

「ちょっと、ジェラ! ここはクレナとオレが一緒に歩くのが普通だろ!」
「あら、お兄様? 私とクレナのほうが絵になりますわよ?」

 王子は反対側の横に並ぶと、私の手をとった。

 えええ?!

 ちょっと、これ。
 歩きづらいし……恥ずかしいんですけど。


**********

 砦に到着した私たちは、各師団長に挨拶したあと。

 それぞれ案内された部屋で少し休憩していた。
 
 綺麗な花柄の壁紙と白を基調としたオシャレな家具たち。
 たぶん、来賓用の部屋なのかな。

 キナコもだいふくもちも、それぞれ別の部屋をもらったので、久しぶりに一人部屋みたい。
 ううん。
 よくかんがえたら、お屋敷でも、キナコとだいふくもちって自分の部屋あったよね?
 ほとんど私の部屋にいるけど……。

 そんなことをベッドの上で考えていると。

 扉をノックする音が聞こえた。

「クレナ、ちょっといい?」

 ジェラちゃんだ。なんだろう?

「どうしたの、ジェラちゃん?」

「んー、少しだけ付き合ってよ。聞いてもらいたい話があるから」

 すごく真剣な表情のジェラちゃんに。
 私は、ゆっくりとうなずいた。


 砦の城壁から法国の方向をみると、草原地帯が広がっていて。
 その奥は大きな森になっている。

「キレイな景色よね。これから戦争が起こるんてほんとに信じられないわ」
「うん、そうだね……」
「まぁ、竜騎士なんて近づけさせないわよ、安心して」

 ジェラちゃんは、真っ赤な顔のまま、早口で話しかけくる。

 やっぱり。
 最近の彼女はすごく……変だと思う。

「ねぇ、ジェラちゃん。なにか悩みがあるなら聞くよ?」

 大事な幼馴染で。
 大親友で。
 同じ転生仲間。

 だからね。私、ジェラちゃんの為ならなんでもするよ?

「そっか、聞いてくれるんだ。戦争始まったらどうなるかわからないし。それに隠しとくのももう限界だから」
「……ジェラちゃん?」

 彼女は、私の前に向き直ると。
 大きな瞳でまっすぐ見つめてきた。 
 紫色の髪が風に揺れている。

「私、私はね。あなたの事が大好きよ!」

 ……。
 
 …………。

 え?

 ジェラちゃんは真っ赤な顔で、今にも泣きそうな表情をしている。

「わ、私も大好きだよ?」

「そういうのじゃなくてね。ああ、もう!」

 ジェラちゃんは、私の肩をつかむと。
 顔を近づけてきた。

 おどろいて固まった私の唇に。
 柔らかい感触が触れた。

「ジェ、ジェラちゃん?!」

「……つまりこういことよ! あなたの事を恋愛対象として好き……なのよ……」

 え。

 えええ。

 ええええええええええ!?

 今の……告白なの?
 でも、ジェラちゃんは同性なのに。
 
「答えてくれる必要はないわ。私が一方的に好きなの。どうしようもなく好きなのよ」

 ジェラちゃんは真っ赤な顔でうつむきながら叫ぶと。

 そのまま、走り去っていった。


「はぁ、ご主人様……ホントに罪作りですよね」

 そばに積んであった箱の後ろからキナコの声がする。

「キ、キ、キナコ? なんでそんなところにいるのよ!」
「ボクがいたところに、二人が来たんですよ」

「……今の聞いてた?」
「ええ、聞いてましたよ」

 キナコは、ぴょんと箱の後ろから飛び出してきた。
 ツインテールの髪が大きく揺れる。

「ねぇ、どうしよう、キナコ! ジェラちゃんに告白されてキスされて……」
「落ち着いてください、ご主人様。この世界では同性同士でも結婚できますし平気ですよ?」

 え。
 同性同士って……。
 
「もしかして、知らなかったんですか?」

 私はその場で呆然とたちつくした。


 そんなの。
 乙女ゲームの世界で、出てこなかったよね!?
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