上 下
170 / 201
星降る世界とお嬢様編

36.公爵令嬢の見る夢

しおりを挟む
<<リリアナ目線>>

 ぷかぷか浮かぶお空の雲のようなところ。
 空にはたくさんのお星さま。

 色鮮やかな七色の鳥たちが、嬉しそうに飛び回っている。

 とってもキレイで美しい場所。

「ねぇ、リリーちゃん。一緒に遊ぼうよ」

 雲の上のお花畑の中に、妖精のような女の子がいる。

 柔らかそうな桃色の髪。
 大きな赤紫のうるうるとした瞳。
 そして白く透き通るような肌。

 髪色に合わせた、ふんわりとした白とピンクのロングドレスを着ていて。
 小さなティアラをつけている。

 息が止まりそうなくらい……可愛らしい。

 この子は誰だろう。
 なんでわたくしを見て、嬉しそうに微笑むんだろう。
 
「見て、花の冠だよ。リリーちゃんにあげるね」

 まるで大好きな絵本の中にいるような
 夢のような世界。
 
「ほら、こっち!」

 女の子は私の手を取ると。
 嬉しそうに走っていく。


**********

 次の瞬間。
 景色が変わって。

 豪華な部屋の中にいた。
 天井のシャンデリアがキラキラと宝石のように輝いている。
 
「踊ろう、リリーちゃん」

 何処からか流れてくる、楽団の演奏にあわせて。
 わたくしたちは踊りだす。

 くるくるくるくる。

 まるで背中に羽があるみたいに、リズムに合わせて軽やかに踊る女の子。
 桃色の髪がふわっと揺れるたびに。
 とても甘い香りに包まれる。

 この妖精のような女の子は。
 なんて。
 可愛らしく笑うんだろう。
 見ていると。なんだか、どんどん幸せな気持ちになってくる。

 まるで。
 まるで。
 
 ――お日様みたい。

 彼女とのダンスに、夢見心地でぼーっとしていると。
 いつのまにか、周囲が暗くなっていく。


***********

「リリーちゃん、逃げて!」

 彼女の言葉にはっとする。

 いつの間にか。
 舞踏会の豪華は部屋は消えていて。
 代わりに、目の前に大きな黒い影が現れていた。

 首が三つあって。
 大きな羽根あって。
 大きな叫び声をあげている。

 絵本で見た悪い魔物にそっくり。
  
 女の子は、赤い槍のようなものを構えると。
 影に向かって進んでいく。

「待って。わたくしもお手伝いしますわ!」

 思わず口にすると、女の子の手をつかんだ。
 彼女のぬくもりが伝わってくる。

「それじゃあ、一緒に倒そう!」
「うん!」

 私たちは、二人でいっしょに大きな槍を持ち上げてると。
 目で合図をする。

「いくよ! せーの」
「せーの!」

「「えいっ!」」」   

 おもいきり、影にむかって投げつけた。

 影はまるでガラスのようにヒビがはいって。
 少しずつ砕けていく。

「もう一回!」
「うん!」

 彼女の言葉にうなずくと、再び出現した大きな槍を一緒に構える。

「「せーの!」」」

 槍の赤い光は、一直線に影に向かって飛び出して。
 
 黒い影は……ばらばらに砕けていった。

 次の瞬間。
 真っ暗だった空が明るくなって。

 色とりどりの花びらが舞い降りてきた。

 やがて。地面に積もった花びらが。
 教会の建物みたいな形になる。

「行こう! リリーちゃん!」

 いつの間にか成長した桃色の少女が、手を差し出してきた。

 彼女の無邪気な笑顔に吸い込まれそうになる。
 
 同性ですのに……この感情は一体……。

 心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。
 顔が蒸発しそうなくらい熱い。

 握りしめた指先から、幸せな感情があふれ出す。
 
 幸せな気持ちを抱きしめながら。
 ぎゅっと目を閉じた。


**********

 教会の大きな鐘が鳴り響く。

「おめでとうー!」
「おめでとうございますー!」

 周囲から祝福されて。
 ゆっくりと祭壇までの通路を歩いていく。

 隣にいるのは、桃色の髪をした美しい女性。
 
 思い出しましたわ。
 この人と……結ばれるのが……わたくしの夢。
 私と視線が合うと、頬を赤く染めて、とろけそうな笑顔を見せてくる。 

 小さい頃からの大親友。
 そして私の大切な大切な人。

 ああ、なんて幸せな気分なのかしら。


「ねぇ、それ全部私によこしなさい!」

 突然、大きな声が響いて。
 銀色の髪をした女の子が、天井から降りてきた。

 胸元から黒い影がのびてくる。

「このまま、幸せな夢の中にいたいでしょ? だったら、それをもらってもいいよね?」

 いつのまにか、隣にいた少女は消えていて。
 私は両手いっぱいの花束を抱えていた。
 薄桃色のキレイな花が、キラキラと輝いている。

「……ダメ。これはわたくしの宝物なの!」

 一本一本が、わたくしの大切な思い出。
 すごく特別で愛おしい……。
 絶対、手放したくない!

「いいから、よこしなさいよ! 代わりにこの花を上げるから!」

 黒い影が、銀色に光る豪華な花束を差し出してくる。

「イヤ! これは私の大切な……」

 私は銀髪の少女から逃げ出すと、慌てて扉を閉める。

「あはは。無駄よ、こんな扉くらい……」

 影が扉をすり抜けて、わたくしに迫ってくる。

 ダメ!
 これは、絶対にダメ。
 手放したくない!!

 あわてて近くにあった宝箱に、すべての花束をしまうと、がちゃりと鍵をかけた。
 庇うように、宝箱を抱きしめる。

 わたくしはどうなってもいいから。
 この美しい花束は……誰にも渡したりしませんわ……。


**********

 唇に柔らかくて幸せな感触が広がる。

 とてもあたたかくて……気持ちいい。
 まるで、春の日差しに包まれているみたい。


 ゆっくりと目を開けると。

 涙で目が零れ落ちそうなクレナちゃんが、目の前にいた。

「……クレナちゃん?」 
 
 桃色の少女は、涙を流しながらゆっくりと微笑む。

「リリーちゃん……私の事わかる?」
「ええ。わたくしの大好きなクレナちゃんですわ……」

 クレナちゃんが嗚咽をもらしながら。
 私を抱きしめてきた。

「ク、クレナちゃん? なにかありましたの?」
「ううん……。もう大丈夫だから……」

 彼女は首を横に振ると。
 優しい声でささやいた。

「おかえりなさい、リリーちゃん」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:155

異世界ツアーしませんか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:72

3次元お断りな私の契約結婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:111

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170,561pt お気に入り:7,833

不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:102

処理中です...