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星降る世界とお嬢様編

38.お嬢様とアイドル

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 このお話は。
 魔法王国ファルシアが。

 西のセーレスト神聖法国とも。
 東のアイゼンラット帝国とも戦っていない。

 少しだけ前の平和な時間のお話。


**********
 
「今日のメインゲストが来られないって!」

 宰相の大きな声が響き渡る。
 王宮は朝から大騒ぎになっていた。

「前もって、今日の日程は伝えてあったんだろうな!」
「ハイ、それはもう……」
「だったら何故!」
「……それが、気分が乗らないから…と」
「くそう、あの人はホントに気まぐれな……」

 伝令も宰相も、青ざめた顔をしている。
 

「ねぇ、ジェラちゃん。今日何かあったの?」

 私は横にいたジェラちゃんにそっと耳打ちする。

「うぁ。ちょ、ちょっと顔が近いわよ…!?」

 ジェラちゃんは、慌てて飛びのくと、両手で顔を覆い隠した。
 よく見ると耳が真っ赤になっている。

 どうしたんだろ?

「……ジェラちゃん?」
「な、なんでもないわ。今日はね、四年に一度、大道芸人達が集まってショーをやるのよ」
「え? そうなの?」

 そっか。
 四年前だったら、まだハルセルト領にいた頃だから。
 そんな楽しいイベントあったなんて知らなかった。

 大道芸っていったら……。
 ボールとか剣とかを自在に操ったり。
 パントマイムとか、手品とか。
 上手な歌を歌う人もいるよね? 

 うわぁ、すごく楽しみ。
 
「すごく大きなイベントなのよ。前世でいったら、そうねぇ。紅白歌合戦? そんな感じかしら?」
「すごい! そんなイベントあったんだぁ」
 
 興奮する私に、ジェラちゃんが不思議そうな顔をする。

「映像クリスタルで録画した画像は、王国中の街や村々に配られるはずなんだけど……ホントに知らない?」
「配ってどうするの?」
「上映会とかしてるみたいよ? ほら、この世界ってテレビとかないから」
「あー。そっかぁ」

 ファルシア王国は豊かな国だから。
 魔法で動かすチェスのようなものとか。
 トランプみたいなカードとか。
 いろんな娯楽があるんだけど。
 
 きっとその映像は……みんなを幸せにしてるんだろうな。
 
 ……あれ?
 でもその四年に一度のイベントのメインゲストが来れない?

 紅白のトリが参加出来ないとか……大事な気がするんですけど?

「ねぇねぇ、今年の紅白のトリはどんな人だったの?」
「紅白は例えだからね? んー、確か有名な大物女性歌手だったはずよ」

 この世界にも大物歌手とかいるんだ。
 あれかな。
 ゴージャスな衣装を着てたり、派手な舞台装置があってり。

 うわぁ、なんかホントにすごそう!
 
「どうするか……国民に絶大な人気があって……今からみんなが納得するようなゲスト……」

 ふと、宰相の目が、庭園のベンチで座っていた私たちのところで止まった。
  
 ………え?
  
**********

「ちょっと、なんで私がこんなことしないといけないのよ!」
「そういうな、これも王族の務めだよ。それに、うん。似合ってて可愛いよ」

 ジェラちゃんが、真っ赤な顔をして。
 国王様と宰相様に抗議している。
 
 今、私たちがいるのは、出演者が待機する休憩スペース。
 時々、ステージから楽しそうな音楽と歓声が響いてくる。

「やっぱり私の目に狂いはなかったわ。二人ともすごくカワイイ!」

 王妃のトルテ様が満面の笑みで私たちに抱きついてきた。
 私たちが出演するって聞いて、急遽衣装を準備してくれたんだけど。

「私ね、前からこの世界に足りないものはこれだと思ってたのよね」
 
 私たちのこの格好って。
 制服みたいなブラウスに、チェックのブレザーとネクタイ。
 同じデザインの短いスカート。

 うわぁ。
 なんだか。前世でみたことあるんですけど。

「やっぱり、どんな時でもアイドルは必要よ! ああ、私がもっと若かったら一緒に参加したのに!」 

 ジェラちゃんは、紫の髪を編み込んでサイドにまとめてリボンで留めている。
 もう、すっごいカワイイ!

 本当にアイドルみたいなんですけど!?

「ジェラちゃん、すごくカワイイ!」
「あ、ありがと。アンタも……すごく……カワイイわよ」

 ジェラちゃんは頬を染めながらボソッとつぶやいた。
 
「さぁ! 時間がないわ! あとは練習あるのみよ!」

 トルテ様が張り切って私たちの指導を始めた。
   

***********

 舞台に立つと。
 ステージにはたくさんの人が詰め掛けていた。

 照明がすごくまぶしい。

「よし、いこうジェラちゃん!」
「わかったわよ。こうなったらやってやるわ!」

 よく考えたら、前世の営業先でたまに歌わされたりしたんだよね。
 ホントにブラック企業だったけど……まさかその経験が異世界で役に立つなんて。

 人生ってわからないなぁ。

  
 私たちが歌うのは、前世で流行っていた女性グループの歌。

 歌って、くるくる回って。
 ステップふんで、大きくジャンプ。

 なるべく可愛らしい振り付けで、笑顔を見せながら。

 この世界にはない音楽だから。
 きっとびっくりするだろうな。

 そういえば、ジェラちゃんもこのグループ好きっていってたもんね。
 通信クリスタルで最初に二人でカラオケしたのも、この曲だったし。

 ジェラちゃん、すごく楽しそうに踊ってる。
 振り完璧なんですけど!

 ……私も負けないから!

 やがて曲が終わると。

 会場全体が大歓声に包まれた。

「アンコール! アンコール!」

 私たちがステージから降りた後も、声援がやまなかったみたいで。
 控室で脱力していた私たちに、トルテ様が嬉しそうに声をかけてきた。

「ほら、アンコールがかかってるわよ? 早くステージにあがらないと!」

 ――え?

 紅白みたいなイベントなんだよね。
 アンコールなんてあるの?

 一曲だけで、身体はもう悲鳴を上げそうなくらい疲れてるんだけど。

 でも。
 
 私はジェラちゃんと目を合わせる。

「アンコールだって……まだいける?」
「当り前よ! 前世でどれだけ歌ってたとおもってるのよ」

 私たちは息を切らして額をくっつけあうと。
 思わず二人で笑いあった。


 この幸せな時間が、王国の平和が。
 ずっとずっと続きますように。
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