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星降る世界とお嬢様編

49.お嬢様と未来の可能性

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「ようは、そこのわがままな皇女に当てなければいいのよね!」

 暗黒竜とその周囲の魔物に、氷の塊が降り注ぐ。
 ストップの魔法が効いてるみたいで。
 竜の動きがすごく遅い。

「この! ゲームでは弱気なブラコンお姫様だったくせに!」

 由衣が両手を広げると、暗黒竜の周りに黒いシールドが発生した。
 氷の塊は黒い壁にはじかれていく。

「それなら、これはどうかな!」

 大きな音と共に。
 頭上から、稲妻が降り注いだ。
 ゲームでもガトー王子が得意だった雷魔法だ。

 黒いシールドに大きなヒビが入る。

「もっと……もっと吸収さえできれば……」

 砦に魔法のぶつかる音と由衣の焦る声が響き渡る。

 その間も、周囲の魔物たちは黒い壁をすり抜けて暗黒竜に吸収されていく。
 竜の体は大きくなっていて。
 ストップの魔法をかける前の巨体に回復していた。

「これ以上吸収はさせませんわ!」

 暗黒竜の周りに巨大な樹木がたくさん現れて、周囲を繭のように枝で覆っていく。
 魔物たちは、枝に阻まれて近づくことができなくなった。

「お姉ちゃんの邪魔をする奴はみんな敵です!」

 ナナミちゃんの周囲に生み出された、たくさんのハートが。
 枝の間をすり抜けて暗黒竜を攻撃する。
 竜の体は、ハートの当たった場所から溶けるように消えていく。

「クレナ、オレたちも行くよ!」
「……うん!」

 シュトレ様の手を取ると。
 体中が幸せな気分に包まれていく。

 私たちの周囲を再び星がキラキラと取り囲む。


 ――次の瞬間。

 紫髪と赤髪の女性が立ちふさがって、私たちの突撃を止めた。
 カレンさんと。
 サキさんだ。

「うふふ、ずいぶん幸せそうな魔法よね、それ」
「まさか本物がこんな魔法とか! 自分なら恥ずかしくてパスだよ!」

 周囲の星々は、私とシュトレ様の思い出。
 そして未来を映し続けている。

 目の前の星に、桃色の可愛らしい女の子のアップが映し出された。

 (お母さま、頑張れー!)   

 柔らかそうな頬を赤く染めながら、大きく両手を振っている。

 ……え?
 ……この声、心に直接響いてる?

 星は強い光を放つと、カレンさんとサキさんを吹き飛ばした。

 (お母さま、すごいー!)

 嬉しそうぴょんぴょんと飛び跳ねる、女の子。
 
 まさか……。
 声が聞こえてるの?

 (うん、きこえてるよ。お星さまから、お父さまとお母さまがみえるよー)
 
 ……うそ。

 (パルフェ、うそつきじゃないもん!)
 
 パルフェちゃん。
 パルフェちゃんっていうんだ。

「それは、星乙女が見せている、未来の一つの可能性ですよー」

 かみたちゃんがそっと近づいてきて。
 愛おしそうに星を眺めていた。


「いやぁ、さすが主人公側だよね。私ら簡単に吹き飛ばすなんてさぁ」
「でもね。クレナちゃんからの攻撃を受けたら、アリアが悲しむわ……クレナちゃんには絶対、アリアを攻撃させない!」

 カレンさんとサキさんは、再び武器を構えて。
 私たちの突撃を止めようと攻撃をしてきた。

 (お父さま、お母さま、あぶない!)

 パルフェちゃんの大きな声が響いて。
 私は慌ててシールドを出して受け止める。

 周囲の星たちも、二人の攻撃を受け止めて。
 バラバラに砕け散った。
 キラキラと星のかけらが周囲に舞う。

 (おかあさま……がんばってね……)


 ……ウソ。
 ……ウソだよ。
 ……パルフェちゃん!


 ショックで固まる私をシュトレ王子が抱きしめてきた。

「かわいい……娘だったね。いつか会える日が楽しみだよ」

 シュトレ様の青い瞳は、涙でいっぱいの私を映すと。
 優しい笑顔でゆっくりと頷いた。

 そうだよね。

 あの子は……未来の可能性の一つ……。
 だから今は。

 暗黒竜を倒して……世界を救おう……。


**********

「まずいわね。せめてストップの魔法さえ止められれば!」
「これさ、私ら降参したほうがいいんじゃないかなぁ?」
「バカなこと言わないでよ!」

 サキさんたちは。
 焦った表情で攻撃を仕掛けてくる。

 私たちは、魔法のシールドを構えながら攻撃を受け流していく。


「いやぁ、これもうムリでしょ! 降参降参~」

 しばらくすると。
 カレンさんは両手を広げてると大きなため息をついて。
 その場に座り込んだ。

「ねぇ、サキさん。もうやめよう?」
「そんなこと出来るわけ……ないでしょ!」
「これ以上続けても意味なんてないだろ!」

 サキさんは、私たちの説得に応じずに。
 攻撃を繰り返してくる。
 

 ――暗黒竜の方に目を移すと。

 魔物たちは、リリーちゃんジェラちゃん、ガトーくんの攻撃と。
 いつのまにか巨大なドラゴンになった、キナコとだいふくもちの攻撃のおかげで。
 竜に近づけずに次々と倒されている。
 
 身動きの取れない暗黒竜は、ナナミちゃんの魔法で、影がどんどん小さくなっているのが見えた。
 さすすが、ゲームのヒロイン!
 もう一人の、ううん。真の星乙女だよね!


「……クレナ!」
「ううん、平気。大丈夫だから」

 突然目の前の景色がゆがみだして。
 シュトレ様に支えられた。

 ストップの魔法でどんどん魔力が使われてるから。
 あとどれくらい持つんだろう。

 ゲームと違って……ステータスが見えないから。


「許せない……許せない……許せないぃぃぃ!!」

 突然。

 由衣の……ううん。違う……。
 由衣と……なにかが混ざったような恐ろしい声が周囲に響き渡った。

「滅ぼす。この世のすべてを……飲み込んでやる!」

 
 急に周囲が暗くなって。
 空を黒い影が覆っていく。

 太陽の近くでも輝いていた星たちが、影の中で次々と消えていく。


 まさかこれって。

 
 ――空の星を吸収しているの?!
 
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