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星降る世界とお嬢様編
67.パルフェの一番長い一日
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私は朝から、一歩も部屋を出ていない。
部屋の中にはたくさんのドレスやアクセサリーが並んでいて。
鏡の中の私は、着せ替え人形のように色んな姿に変わっていく。
「クレナちゃん、やっぱりパルフェちゃんにはこのドレスのほうが……」
「うーん。それもカワイイんだけど。さっきの水色のドレスのほうが……」
「何を着ても似合うから、迷ってしまいますわね」
「せっかくの娘のお誕生日パーティーだし。世界一可愛くコーデしないと!」
お誕生日パーティー。
それは、貴族や王族の子供たちが主役のパーティー。
この国では、八~十二歳の間にお誕生日パーティーを開いて、社交界にプチデビューするんだって。
子供のウチから少しずつ貴族社会に慣れるため仕組みだってお父さまは言ってたけど。
「お母さま、リリアナお母さま。私は普通でいいんです! 別に目立たなくて……」
お母さまは、この国の第一王妃で、救国の星乙女。
お父さまは、この国の国王さま。
ただでさえ目立つ立場なんだから。
見た目くらいは控えめにしたいのに!
「なんだか、昔のクレナちゃんみたいですわね……」
「うーん。私もそう思ってたとこ」
「さて、どうしますか?」
「うーん。そうだ! 私の部屋にあるアクセが似合うかも。取ってくるね!」
子供の頃から親友同士のお母さまたち。
二人ともお父さまの奥さんなんだけど。
こんなに仲が良い王妃同士って珍しいんだって。
でも……。
リリアナお母さまにはうわさがある。
私が生まれる前に、大きな戦争があって。
国を立て直すために、公爵家のリリアナお母さまが……。
「ねぇ、リリアナお母さま?」
「なぁに、パルフェちゃん?」
「お二人で……喧嘩になったりしないのですか……」
「喧嘩? なんでかしら?」
リリアナお母さまはきょとんとした顔をしたあと。
私の意図に気づいたみたいで。
口元を押させて笑いはじめた。
「私、なにかおかしなことを聞きましたか?」
「ううん。きっとウワサを聞いたのね? 心配しないで。シュトレ様のことは、敬愛も尊敬もしてますよ」
「ホントに? リリアナお母さま不幸だったりしない?」
「もちろんですわ。ずっと大切な人と一緒にいられるのですから」
リリアナお母さまは、私をぎゅっと抱きしめた。
お花みたいな優しい香りがする。
「それに、アナタやティラがいます。うふふ、こんなに素敵な人生はありませんわ」
その微笑みは。
見てる私も幸せになりそうなくらい美しくて。
おもわず見惚れてぼーっとしてしまった。
「……私の愛しい人は……人生で唯一人ですから」
「……リリアナお母さま?」
「うふふ、パルフェちゃんも、いずれ運命の人と出会えますわよ」
**********
鏡に映った私は。
二人のお母さまとメイドのみなさまが作ってくれた素敵な作品。
薄い桃色の髪は、三つ編みをまとめてアップにしていて、頭には小さなティアラを乗せている。
ドレスは髪と同じ桃色でグラデーションがかかっている。
背中には羽のような大きなリボン。
まるで、絵本の妖精みたい。
「よし! ウチの娘が世界一可愛い!」
「その通りですわ!」
すぐそばでは、メイドのお姉さんたちが嬉しそうにうなずいている。
だめだ。
緊張で心臓が飛び出しそう。
みんな……よくこんなパーティー開催するよね。
このまま逃げ出したいよぉ。
「パルフェ、準備できたかい?」
部屋の扉が開いて、お父さまが入ってきた。
白と金の衣装に、王家の紋章が入っている赤いマント。
いつも思うんだけど。
なんてウチのお父さまはカッコいいんだろう……。
「可愛いな。まるで小さな妖精みたいだ……まるで小さい頃の君をみているみたいだよ」
「ホントに、昔のクレナちゃんそっくりですわ!」
「そうかな? パルフェちゃんのほうが、はるかにカワイイと思うけど?」
この三人をみてたら。
なんだか緊張が解けてきた。
――うん。
やっぱり私にも、こんな出会いがあったらいいな。
せっかくこの日の為に勉強してきたんだもんね。
よーし頑張る!
私は両手をぎゅっと握りしめた。
**********
私のお誕生日パーティーの会場は、王宮の裏側にある大きな庭園。
私たちが会場に着くころには、すでにたくさんの人でにぎわっていた。
なにこれ……。
こんなにたくさんのひとが来るなんて……聞いてない。
聞いてないよぉ。
でも……頑張るって決めたんだもん。
私はゆっくりと、会場に準備されたステージの上にあがると、丁寧にお辞儀をした。
「本日はわたくしのお誕生日パーティーにお集まりいただきまして、ありがとうございます。どうか楽しんでいってくだだい」
あっ!
噛んだ!
……うそ。
……しっぱいした。
……しっぱいしちゃったよぉ。
あんなに練習してきたのに!
恥ずかしくて……頭を上げられない。
ステージを降りた後は、出席した貴族の子供たちがひとりずつと挨拶するんだけど。
頭の中は、挨拶の失敗のことで頭がいっぱいで。
誰と何をどんな話をしたのか全然わからなかった。
ちゃんと笑顔で話せていたか自信ないよぉ。
お母さまもお父さまも、大丈夫だよって笑ってくれたけど。
だって!
みんなから、お母さまのときは、本当に素敵だって聞いてたのに!!
**********
最後の一人の挨拶が終わったから、あとは終了時間まで自由だけど。
私はイスに座ったままぼーっとしていた。
「あんなに可愛くて拍手もいっぱいもらったのよ? 子供同士のパーティーなんだから、みんな同じよ?」
「むしろすごく可愛かったですわ」
「うん、とても可愛かったよ、パルフェ」
「ねぇ、みんなとお話してこないの?」
お母さまの太陽みたいな笑顔に、私は首を横にふった。
だって。
だって。
私はやっぱり……二人のお母さまとは違うんだ。
あんなに優雅にお話したり動いたりできないもん。
「あの、あらためてご挨拶してもよろしいでしょうか?」
突然、目の前に男の子と女の子が立っていた。
緑色の少し長い髪の男の子と。
絹のようなキレイな白い髪に、青くて大きな瞳の女の子。
隣をみると、お母さまたちが嬉しそうに笑っている。
「先ほどはゆっくりお話しできませんでしたので、もしよろしければ」
なんだか。
大人の人みたいな話し方。
ちょっと怖い。
「セーレスト神聖法国のセタールと申します」
「大丈夫なのだ! こいつはちょっとお堅いけどいいやつなのだ!」
隣にいた女の子が、男の子の肩をぽんぽんと叩く。
「ちょっと、やめてくださいよ、だいふくもち様」
「お姫様に一目ぼれして、どうしてもお話がしたくなったらしいのだ!」
「だ、だいふくもち様!!」
男の子が慌てて、銀髪の少女の口をふさぐ。
「おひさしぶり、だいふくもち。元気そうね!」
セタールくんの手を振り払って、少女が嬉しそうに答える。
「ひさしぶりなのだ! この子が、アカリちゃんの娘が気になるらしいので来たのだ!」
「そっかぁ。仲良くしてあげてね、セタールくん」
「は、はい。あの……はい……」
顔を真っ赤にして俯いている。
最初の印象と違って……なんだか、カワイイ。
「うふふ、ありがとう。リュート様、ルシエラ様も、アンネローゼちゃんもお元気ですか?」
「りょ、両親も、アンネローゼもよろしくいっておりました」
あれ、まって。
法国のリュート様って……法王さまだよね?
それに。だいふくもちって……。
法国の聖竜、だいふくもち様!?
「やっほー! お姉ちゃん、うちの子連れてきたよ! ほら、ご挨拶!」
私が、だいふくもち様をみて驚いていると。
帝国の皇妃アリアさまに手を引かれてやって、男の子がやってきた。
銀色のキレイな髪に、アリア様そっくりな可愛らしい顔立ち。
まるで女の子みたい。
「あの……はじめまして……エトです。あの……」
「あはは、パルフェちゃんが可愛くて緊張してるのよ、この子!」
「お母さま! やめてください!」
「いいじゃない。どうせそのうち婚約するんだから」
「由衣! それは本人同士でっていったでしょ?」
「大丈夫! うちの子絶対いい子だから! よろしくねパルフェちゃん」
えーと。
よろしくって言われても。
「ちょっとお母さま! パルフェと結婚するのはボクですよ!」
……。
………。
なんで、ここでティラが飛び込んでくるのよ!
慌てて、お母さまたちの方をみると。
驚いた表情でぼそっとつぶやく声が聞こえた。
「なにこの……乙女ゲーみたいな展開……お母さんビックリなんですけど」
「うふふ、そうですわね。やっぱりクレナちゃんの娘ですわ~」
「乙女ゲーとか許さんぞ! 娘はどこにもやらんわー!」
会場に、お父さまの大きな声が響きわった。
乙女ゲーって……なんだろう?
なんだか、幸せそうな響きがするんだけど。
いつか……わかるようになるのかなぁ。
部屋の中にはたくさんのドレスやアクセサリーが並んでいて。
鏡の中の私は、着せ替え人形のように色んな姿に変わっていく。
「クレナちゃん、やっぱりパルフェちゃんにはこのドレスのほうが……」
「うーん。それもカワイイんだけど。さっきの水色のドレスのほうが……」
「何を着ても似合うから、迷ってしまいますわね」
「せっかくの娘のお誕生日パーティーだし。世界一可愛くコーデしないと!」
お誕生日パーティー。
それは、貴族や王族の子供たちが主役のパーティー。
この国では、八~十二歳の間にお誕生日パーティーを開いて、社交界にプチデビューするんだって。
子供のウチから少しずつ貴族社会に慣れるため仕組みだってお父さまは言ってたけど。
「お母さま、リリアナお母さま。私は普通でいいんです! 別に目立たなくて……」
お母さまは、この国の第一王妃で、救国の星乙女。
お父さまは、この国の国王さま。
ただでさえ目立つ立場なんだから。
見た目くらいは控えめにしたいのに!
「なんだか、昔のクレナちゃんみたいですわね……」
「うーん。私もそう思ってたとこ」
「さて、どうしますか?」
「うーん。そうだ! 私の部屋にあるアクセが似合うかも。取ってくるね!」
子供の頃から親友同士のお母さまたち。
二人ともお父さまの奥さんなんだけど。
こんなに仲が良い王妃同士って珍しいんだって。
でも……。
リリアナお母さまにはうわさがある。
私が生まれる前に、大きな戦争があって。
国を立て直すために、公爵家のリリアナお母さまが……。
「ねぇ、リリアナお母さま?」
「なぁに、パルフェちゃん?」
「お二人で……喧嘩になったりしないのですか……」
「喧嘩? なんでかしら?」
リリアナお母さまはきょとんとした顔をしたあと。
私の意図に気づいたみたいで。
口元を押させて笑いはじめた。
「私、なにかおかしなことを聞きましたか?」
「ううん。きっとウワサを聞いたのね? 心配しないで。シュトレ様のことは、敬愛も尊敬もしてますよ」
「ホントに? リリアナお母さま不幸だったりしない?」
「もちろんですわ。ずっと大切な人と一緒にいられるのですから」
リリアナお母さまは、私をぎゅっと抱きしめた。
お花みたいな優しい香りがする。
「それに、アナタやティラがいます。うふふ、こんなに素敵な人生はありませんわ」
その微笑みは。
見てる私も幸せになりそうなくらい美しくて。
おもわず見惚れてぼーっとしてしまった。
「……私の愛しい人は……人生で唯一人ですから」
「……リリアナお母さま?」
「うふふ、パルフェちゃんも、いずれ運命の人と出会えますわよ」
**********
鏡に映った私は。
二人のお母さまとメイドのみなさまが作ってくれた素敵な作品。
薄い桃色の髪は、三つ編みをまとめてアップにしていて、頭には小さなティアラを乗せている。
ドレスは髪と同じ桃色でグラデーションがかかっている。
背中には羽のような大きなリボン。
まるで、絵本の妖精みたい。
「よし! ウチの娘が世界一可愛い!」
「その通りですわ!」
すぐそばでは、メイドのお姉さんたちが嬉しそうにうなずいている。
だめだ。
緊張で心臓が飛び出しそう。
みんな……よくこんなパーティー開催するよね。
このまま逃げ出したいよぉ。
「パルフェ、準備できたかい?」
部屋の扉が開いて、お父さまが入ってきた。
白と金の衣装に、王家の紋章が入っている赤いマント。
いつも思うんだけど。
なんてウチのお父さまはカッコいいんだろう……。
「可愛いな。まるで小さな妖精みたいだ……まるで小さい頃の君をみているみたいだよ」
「ホントに、昔のクレナちゃんそっくりですわ!」
「そうかな? パルフェちゃんのほうが、はるかにカワイイと思うけど?」
この三人をみてたら。
なんだか緊張が解けてきた。
――うん。
やっぱり私にも、こんな出会いがあったらいいな。
せっかくこの日の為に勉強してきたんだもんね。
よーし頑張る!
私は両手をぎゅっと握りしめた。
**********
私のお誕生日パーティーの会場は、王宮の裏側にある大きな庭園。
私たちが会場に着くころには、すでにたくさんの人でにぎわっていた。
なにこれ……。
こんなにたくさんのひとが来るなんて……聞いてない。
聞いてないよぉ。
でも……頑張るって決めたんだもん。
私はゆっくりと、会場に準備されたステージの上にあがると、丁寧にお辞儀をした。
「本日はわたくしのお誕生日パーティーにお集まりいただきまして、ありがとうございます。どうか楽しんでいってくだだい」
あっ!
噛んだ!
……うそ。
……しっぱいした。
……しっぱいしちゃったよぉ。
あんなに練習してきたのに!
恥ずかしくて……頭を上げられない。
ステージを降りた後は、出席した貴族の子供たちがひとりずつと挨拶するんだけど。
頭の中は、挨拶の失敗のことで頭がいっぱいで。
誰と何をどんな話をしたのか全然わからなかった。
ちゃんと笑顔で話せていたか自信ないよぉ。
お母さまもお父さまも、大丈夫だよって笑ってくれたけど。
だって!
みんなから、お母さまのときは、本当に素敵だって聞いてたのに!!
**********
最後の一人の挨拶が終わったから、あとは終了時間まで自由だけど。
私はイスに座ったままぼーっとしていた。
「あんなに可愛くて拍手もいっぱいもらったのよ? 子供同士のパーティーなんだから、みんな同じよ?」
「むしろすごく可愛かったですわ」
「うん、とても可愛かったよ、パルフェ」
「ねぇ、みんなとお話してこないの?」
お母さまの太陽みたいな笑顔に、私は首を横にふった。
だって。
だって。
私はやっぱり……二人のお母さまとは違うんだ。
あんなに優雅にお話したり動いたりできないもん。
「あの、あらためてご挨拶してもよろしいでしょうか?」
突然、目の前に男の子と女の子が立っていた。
緑色の少し長い髪の男の子と。
絹のようなキレイな白い髪に、青くて大きな瞳の女の子。
隣をみると、お母さまたちが嬉しそうに笑っている。
「先ほどはゆっくりお話しできませんでしたので、もしよろしければ」
なんだか。
大人の人みたいな話し方。
ちょっと怖い。
「セーレスト神聖法国のセタールと申します」
「大丈夫なのだ! こいつはちょっとお堅いけどいいやつなのだ!」
隣にいた女の子が、男の子の肩をぽんぽんと叩く。
「ちょっと、やめてくださいよ、だいふくもち様」
「お姫様に一目ぼれして、どうしてもお話がしたくなったらしいのだ!」
「だ、だいふくもち様!!」
男の子が慌てて、銀髪の少女の口をふさぐ。
「おひさしぶり、だいふくもち。元気そうね!」
セタールくんの手を振り払って、少女が嬉しそうに答える。
「ひさしぶりなのだ! この子が、アカリちゃんの娘が気になるらしいので来たのだ!」
「そっかぁ。仲良くしてあげてね、セタールくん」
「は、はい。あの……はい……」
顔を真っ赤にして俯いている。
最初の印象と違って……なんだか、カワイイ。
「うふふ、ありがとう。リュート様、ルシエラ様も、アンネローゼちゃんもお元気ですか?」
「りょ、両親も、アンネローゼもよろしくいっておりました」
あれ、まって。
法国のリュート様って……法王さまだよね?
それに。だいふくもちって……。
法国の聖竜、だいふくもち様!?
「やっほー! お姉ちゃん、うちの子連れてきたよ! ほら、ご挨拶!」
私が、だいふくもち様をみて驚いていると。
帝国の皇妃アリアさまに手を引かれてやって、男の子がやってきた。
銀色のキレイな髪に、アリア様そっくりな可愛らしい顔立ち。
まるで女の子みたい。
「あの……はじめまして……エトです。あの……」
「あはは、パルフェちゃんが可愛くて緊張してるのよ、この子!」
「お母さま! やめてください!」
「いいじゃない。どうせそのうち婚約するんだから」
「由衣! それは本人同士でっていったでしょ?」
「大丈夫! うちの子絶対いい子だから! よろしくねパルフェちゃん」
えーと。
よろしくって言われても。
「ちょっとお母さま! パルフェと結婚するのはボクですよ!」
……。
………。
なんで、ここでティラが飛び込んでくるのよ!
慌てて、お母さまたちの方をみると。
驚いた表情でぼそっとつぶやく声が聞こえた。
「なにこの……乙女ゲーみたいな展開……お母さんビックリなんですけど」
「うふふ、そうですわね。やっぱりクレナちゃんの娘ですわ~」
「乙女ゲーとか許さんぞ! 娘はどこにもやらんわー!」
会場に、お父さまの大きな声が響きわった。
乙女ゲーって……なんだろう?
なんだか、幸せそうな響きがするんだけど。
いつか……わかるようになるのかなぁ。
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