時を戻して、今度こそ好きな人と幸せになります

編端みどり

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41.政略結婚

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「さ、こちらにお仕事もお持ちしましたのでご安心下さいませ」

リリアは、テキパキとわたくしが部屋に引き篭もる準備を進めてくれた。積み上げられる書類に、慄く。確かにこれくらいなら出来る、出来るけど……。

「リリア……、なんだか量が多くない?」

「姫様は、何故か、急に様々な事を学ばれたようですから、これくらい可能です」

わざと言葉を区切りながら淡々と話すリリア。

うっ……、気になるわよね。16歳の頃のわたくしはまだまだ子どもだったわ。それが急に泣き喚いたと思ったら落ち着いて、教えてない事まで知ってたら怪し過ぎるわよね。わたくしの魔法の事は秘密だからリリアにも言えないのよ。もう使えないんだから良いじゃないと思うけど、お父様にも、リュカにも駄目だと言われている。

血筋で魔法が引き継がれるという事は、王族のみが知る事実らしいわ。いくらわたくしの婚約者でも、リュカが知っているのは特例中の特例だ。過去のお父様が、どれだけリュカを頼りにしていたかが分かる。

それはさておき、リリアにどう説明したら良いかしら?

「その……少しは、大人になろうと思って……」

「詮索など致しませんからご安心下さいませ。わたくしが願うのは、姫様の幸せだけでございます。リュカ様なら間違いなく姫様を幸せにして下さいます。さ、邪魔者は全てこちらで対処致しますので、姫様はこちらでごゆっくりなさっていて下さい」

「リリア……いつもありがとう」

リリアは厳しくも優しい、わたくしの大事な侍女。

幼い頃から、ずっと助けてくれていた。

時を戻って初めて気が付くなんて、わたくしはなんて視野が狭かったのかしら。

いつの間にか冷たくなった周りに、仕方ないと諦めてしまっていた。わたくしは嫁ぐのから、もうこの国の人間ではなくなるのだから……と。

だけど、それは偽りだったわ。

それが分かって、良かった。

時を戻る事で、見えなかったものがたくさん見えてきたわ。お母様の仰る通り、わたくしはみんなに愛されていたのね。

あの時のわたくしは、全く気が付かなかった。お母様とお父様しかわたくしを愛してないと思っていたわ。

……でも、そんな時でもリュカだけは信用していたのよね。

それに、さっきだって優しかったし、くしゃりと笑うととっても素敵だったし……。

「姫様、お顔が真っ赤でございますよ?! お熱はありませんか?! 今日全てやる必要はありませんから、お休みになられてはいかがですか?」

オロオロとしているリリアが、わたくしの世話を焼こうとする。

「リリア、大丈夫よ」

「姫様の大丈夫は信用出来ませんわ! すぐに無理をしてしまうのですから! わたくしが悪かったですわ! お部屋に籠るならお仕事を用意しないと姫様は部屋を抜け出してしまうと思ったのです!」

リリアは、やっぱりわたくしの事をとても理解しているわね。確かにこの頃なら、そうだった。だけど、わたくしは少し変わったの。

「そんな事しないわ。リュカやリリアと約束したもの」

「本当に、リュカ様が姫様の婚約者でようございました」

「そうね。わたくし、リュカと婚約してからとっても幸せなの。リリアや、お兄様達、みんなもわたくしを慈しんでくれている事が分かって嬉しいわ。リリア、いつもありがとう。これからもよろしくね」

それから、他の侍女達も全員名前を呼んでお礼を言いました。以前のわたくしは、こんな事をしていなかったわ。

侍女達に改めてお礼を言うと、みんな優しく笑ってくれた。

「姫様はいつもお礼を言って下さっておりますし、お優しいですわ。わたくし達は、姫様に仕えられて本当に幸せです」

「そうですよ。これからもよろしくお願いします」

「ささ、お仕事に戻りますわよ! 本日は、姫様の見張りとしてわたくしが残り、あとは出張です。もうすぐ迎えが来るので、しっかり働いていらっしゃい! いいわね?」

「「「「はいっ!」」」」

「失礼します。お迎えにあがりました」

そう言ってやって来たのは、ルカでした。

「リ……ルカ?! どうして?!」

「陛下のご命令で、わたくしがルイーズ様をお連れします。本日は皆様にルイーズ様のお支度をして頂きます。ご存知の通り、ルイーズ様は姫様のように優しくありませんわ。皆様に目をつけられないように会話はわたくしが行います。腹の立つ事を言われても、今日だけは姫様の為に我慢して下さいませ」

「待って! ルカ! ルイーズを連れて来るって、どうして?」

確かに、お父様が捕まえると言っていたけどリュカが行くとは思わなかった。

「……もうアレを放っておく事は出来ません。わたくしなら、逃す事はありません。ああ、姫様。御髪が乱れておりますわ」

そうか。なんとか城まで連れて来ても、転移があるだろうから、逃げられてしまう。リュカなら、触れるだけで魔法が使えなくなるから、確実に捕まえられる。

リュカが、おば様に触れるのよね。仕事だし、必要だと分かっていても、少しだけモヤモヤするわ。

大事な作戦ですもの。リュカが他の女性に触れるのが嫌なんて、言えませんわよね。

「……カティが嫌がると思って、ルカの姿になったんだよ。触れるっていっても、拘束するだけだ。俺が触れたいのはカティだけだ」

わたくしの髪を整えながら、ルカが小声で言いました。声はルカの声なのに、言い方はリュカだから頭がこんがらがって……またしてもわたくしは真っ赤になってしまったようです。

ルカ達はすぐに出て行き、わたくしは心配したリリアに寝台に押し込まれてしまいました。

「姫様、本日はお休み下さいませ!」

「本当に平気なのに……」

「なりません! 大人しくしておかないなら、リュカ様をお呼びしますよ!」

「今は無理だと思うわよ」

だって、ルカになっているもの。

「リュカ様なら姫様のピンチだと言えば飛んで来ますわ」

「……確かに、そうねって思うくらいにはリュカの事が好きで、信用してるのよねー……でも、本当に平気。大人しくしてるから、呼ばなくて良いわ」

「さようでございますか。姫様が信頼出来る方と婚約出来てようございました」

「そうよね。王族の結婚は政略結婚がほとんどだもの」

お姉様だって、婚約してから愛を育んだ。お兄様も、一目惚れだとは言ってもお相手は王族。どちらも王族としての務めを果たしている。

わたくしは、我儘ばかりだわ。リュカ以外とは結婚したくない。以前は、王族は誰に嫁ぐか分からないから誰も好きにならないようにと思っていたのに、自覚してしまった恋心は止められない。

誰と結婚しても、きちんとしようと思っていたのに今ではリュカ以外の男性を受け入れられる気がしない。

「姫様、リュカ様との結婚も政略結婚ですわよ?」

「え……?!」

「リュカ様は、それほど価値のあるお方なのですわ。お強いだけなら姫様が望めば結婚出来るくらいで政略結婚とは言い難かったですけれど、パーティーでの立ち振る舞いを見て、近隣諸国の方々はリュカ様を認められました。あの若さであれだけの知識と教養がある方はほとんどおられません。リュカ様が姫様と結婚しなければ、様々な国からお誘いがあるでしょうね。それは、我が国の損失です。リュカ様を引き留められるのは姫様しかおられませんわ。つまり、おふたりの結婚は国の為であり政略結婚です。姫様はご自分の我儘でリュカ様との婚約が決まったとお考えのようですが、姫様はきちんと王族としての務めをを果たしておられます」

「リリア……」

「姫様は大胆で行動力はおありですのに、我儘は仰いませんでしたからね。誰と結婚するか分からないからと恋愛を避けて来られましたけど、リュカ様と話しておられる時はとてもお幸せそうでしたよ。リュカ様は姫様に相応しくなる為に必死だったそうです。騎士達の間では、有名だったそうですわ」

「そうなの? 知らなかったわ」

「騎士は口が堅いですから、わたくしが知ったのも婚約が決まってからですわ。姫様とリュカ様が婚約しなければ、一生知る事はなかったでしょうね。全く、わたくしに教えてくれればもっと早く根回し致しましたのに。あの日、姫様が急にリュカ様を呼んで欲しいと泣かれてからトントン拍子にお話が進んで、本当にようございました」

リリアの旦那様は、騎士団長様なのです。家族にも黙っているなんて、なんて信頼出来るお方なのかしら。

「ごめんなさい……その、怖い夢を見たの。リュカが、死んでしまって……」

時を戻ったとは言えないから、夢を見た事にしてリリアに話す。あの時のわたくしは、とても取り乱していたわ。少しでも理由を伝えて、リリアを安心させたい。

「それであんなに泣いておられたのですね。大丈夫、リュカ様は簡単に死にませんよ。元々お強い上に、姫様と婚約してからは鬼気迫る勢いで鍛錬なさっているそうですから。夫も、抜かれないように鍛錬を増やしたと申しておりました」

「リュカは、どこまで強くなる気なのよ」

「どこまでも。でしょうね。姫様、愛されておりますわね」

リリアが、優しく微笑んでくれました。リュカの戦う姿はとても美しく、優雅で、それからえっと……。

「姫様、またお顔が……まさか……お顔が赤いのは……」

「うぅぅ……そうなの。わたくし、病気ではないから……」

「まぁまぁ、さようでございましたか。では、本日はごゆっくりなさいませ」

「わたくし、病気じゃないわ! ちょっと、リュカの事を考えていたら顔が赤くなっただけだもの!」

「それを、世間では恋煩いと申します。外が騒がしくなって参りましたので様子を見て参りますわ。姫様は、リュカ様の事でも考えていて下さいませ」

その途端、また頭の中にまたもやリュカの顔が浮かぶ。リリアはそんなわたくしに微笑んで、そっと部屋を出て行った。
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