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40.最強のコンビ

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「よぉ、おはよう。カティ」

目覚めると、目の前にリュカと、呆れた様子の侍女のリリアが居た。

「え?! なんで?! なんでリュカが居るの?!」

「わりぃ、昨夜カティを送り届けてから色々あって。俺は婚約を辞退する為にこの部屋に来たって事にしねぇといけなかったんだ。リリアさんも付き合わせてすいませんでした」

「リュカ様が部屋に入ろうとした時はお止めしようとしたのですが……尾行されているとおっしゃるので仕方なくお通ししました。そろそろ朝ですから国王陛下にご報告してあります。リュカ様、ご指示通り騎士の方をお呼びしましたのでそのまま連行されて下さいませ」

「はい。了解しました」

「わたくしは、準備をして参ります。姫に、指一本触れてはなりませんよ」

「もちろんです。俺を信用してくれたリリアさんを裏切ったりしません」

「良いご縁があったようで、ようございました」

リリアはニコニコしながら部屋を出て行ってしまった。わたくしは、リュカに枕を投げつけて叫ぶ。

「リュカ! 説明!」

リュカは笑いながら枕を投げ返してきた。もう! 余裕のある笑顔が憎たらしいわっ!

「カティを送ってからクリストフ様に会ったんだ。んで、俺に魅了魔法をかけてきたんだ」

「もちろん、効かなかったのよね?」

「いや、2回目は効いた。大量の魔力量を注ぎ込んだみたいだな。けど、カティとクリストフ様のどちらが好きだ? なんて質問してくれたから、正気に戻れたんだ。理由は分かんねぇ。俺の魔法無効化が効いたのか、愛する人が居る奴は魔法が効きにくいってのが本当なのか……とにかく、正気に戻ってからは魔法にかかったフリをして情報を聞き出した。んで、適当なとこでカティの名前を呟いたら、魔法が切れると思ったのか焦って婚約を辞退して来いって言って部屋を追い出されたんだ」

「魔法が切れたフリってどういう事よ?」

「魅了魔法に時間制限があると匂わせたんだ」

「なるほどね。ところで、本当に辞退なんてしないわよね?」

「する訳ねぇだろ」

「そうよね。なら良いわ」

「カティ、クリストフ様にひと泡吹かせてやろうぜ。あの方は賢いけど、俺を、いや……俺達の国を舐めてる。普通さ、魔法が効いたかもっと慎重に確認するとか、万が一効かなかった時のために抜け道のある言い方をするもんだろ? 身分は下でも、俺はカティの婚約者なんだから。けど、魔法が効いてるって思ってからは言いたい放題だったぜ。俺の事はお前呼ばわりだし、舌打ちもするしな。ルイーズ様がだいぶ情報漏洩してくれてたみたいで、王家の血筋が魔法使えるってとこまでバレてたから、慌てて訂正しておいた。今んとこ、魔法が使えるのは俺とルイーズ様と、シャヴァネル公爵夫人だけって事になってるから、覚えといてくれ」

「分かったわ。やっぱりおばさまはルイーズに全部喋ってしまったのね」

「予想出来てただろ」

「まぁね。お姉様みたいにちゃんとしてるなんて期待してなかったもの。じゃあ、わたくしがクリストフ様に会う必要はないのね?」

「ない。もし会わなきゃいけないなら絶対俺が一緒に居るから安心してくれ。あの人の魔力、ものすげえ強力だ。俺は魔法を無効化できるのに魅了されちまった。やっぱり自分の力を過信するのは良くねぇな」

「リュカが魔法にかかったって……クリストフ様に好きだ! とか言ったの?」

「言わねぇよ! 俺はカティだけが好きなの! けど、危なかった。頭ん中、クリストフ様でいっぱいになって、あの人の言葉を聞くとすげぇ幸せになるんだ」

なんだかムッとする。魔法のせいだと分かっているのに、つい意地悪な言い方をしてしまう。

「わたくしと話すよりも幸せだった?」

「今ならカティが良いって言えるけど、魅了をかけられてる時は、頭の中にクリストフ様以外存在しねぇんだよ。クリストフ様が喋ると異常な幸福感があるっつうか……ありゃやべえわ」

「クリストフ様が言えばなんでもしちゃう感じ?」

「それはねぇな。例えばだけど、クリストフ様が市民を虐殺してこいって言っても俺はやらねぇって言える。けど、大抵の事は聞いてしまいそうだな。例えて言うなら国王陛下に命令されて出来る事ならなんでもやるって感じだな」

「なるほどね。じゃあ、リュカを笑いながら殺したクリストフ様ってやっぱり怖いわよね」

「そうだな。とにかく魅了したフリが難しかった。澱んだ目を炎魔法を応用して作り上げたんだ」

「そうなの? 凄いわね」

「国王陛下が、魅了のかかった人の特徴を教えてくれたんだ。だから練習して、炎魔法で再現したんだよ。熱さを無くして、炎の揺らぎだけを出すのは難しかったけど、なんとか誤魔化されてくれた。クリストフ様は炎魔法が得意だからバレやしないかとヒヤヒヤしたけどな。魅了はかなり怖いぜ。あんなのカティにかけて貰おうなんて、俺は馬鹿だったって思う。あの人が、最初に自分の事以外考えるなと指示してたら、俺は元に戻ってなかったかもしれねぇ。一応対策は取っておいたけど、クリストフ様がカティの事を聞いてくれたから、なんとか根性で解除出来た。俺の魔法無効化があっても、過信するもんじゃねぇな」

「じゃあ、もしかしたらリュカがクリストフ様の言いなりになってたかもしれないの?」

「そうなるな。ま、そうなった時の為に色々と対策は取っておいたけど、なんとか魔法が切れて助かった。あんなに権力のある人が、2回も人を意のままに操れるなんてヤバすぎる。俺に全部使ってくれて良かったぜ」

「クリストフ様の魅了魔法はなくなったのよね?」

「多分、な。俺の後に、メイドにかけて確かめようとしてたけど、全く態度が変わらなかったし、魔法にはかかってないと思う。念の為、急いでローラン様に鑑定を頼むつもりだ」

「分かったわ。ねぇ、わたくしはもうリュカと離れたくないわ。ずっと側に居ても良い?」

「俺、一応王女に無礼な事をしたって体で連行される予定なんだぞ。まだルイーズ様達の連行が済んでないから、もうちょっとクリストフ様を騙しておいた方が良いから」

「ふーん、で、リュカが居ない間にクリストフ様が来たらどうする?」

「……それは……」

「しかも、リュカとの婚約は無くなってるって思い込んでるのよね? 慰めるとか言い出して、いきなり迫られたらどうする? あの人、わたくしに剣を向けたのよ? リュカをあっさり殺したし。そんな怖い人と、わたくしが会っても良いの? ちなみに、わたくしはクリストフ様の顔も見るのも嫌よ」

「あー……駄目、駄目だ!」

「でしょう? ふふっ! なら一緒に行きましょう」

「……分かったよ。カティには敵わねぇなあ」

くしゃりとリュカが笑ったら、ドアをノックする音がして何人もの騎士様がいらっしゃいました。

「「「リュカ! お前何やったんだ!!!」」」

ドアを開けて中に入った途端に、リュカは取り囲まれてしまいましたわ。

騎士様達が、わたくしとリュカを引き離そうとするから無理矢理リュカの腕を取ったら、リリアの怒鳴り声が響き渡りました。

「姫様! 最近は落ち着いてこられたと思っておりましたのに……これではご結婚は早いとご報告せねばなりませんわよ!」

「やだ! それは困るわ! ごめんなさいっ!」

「リュカ、お前……カトリーヌ王女に無礼な事したんじゃねぇのか?」

「しませんよ。ちょっと色々あって……とりあえず俺を連行する感じでお願いします。高貴な方が絶対来ない所に連れて行って下さい」

「お、おう。分かった」

「わたくしも行きますからね!」

「それはちょっと……」

「なんでよ! 絶対にリュカから離れないからっ!」

またリュカに近寄ろうとすると、リリアから睨まれてしまいました。

「姫様っ! 今日はご予定が詰まっておりますわ!」

「あー……じゃあリリアさん、カティは落ち込んでるから部屋から出ないし、誰とも会わないって言って貰えますか? 今日の予定は、部屋で勉強でしたよね? 多分、クリストフ様がカティを訪ねて来るんです」

「はぁ?! どうしてそんな事になるんですの?!」

「説明したいんですけど、とりあえず声を抑えて貰えますか? あ、すんません、部屋の外に誰も居ないか確認して下さい」

「おう、分かった」

リュカがテキパキと指示をしてくれて、リリアに軽く説明をしてくれました。魔法の事はリリアも知らないので、曖昧な説明になってしまったのですが察しの良いリリアは納得してくれました。

部屋の外で聞き耳を立てようとした男が居たそうです。その為、リュカに説得されてわたくしは部屋に篭る事になり、一緒には居られなくなってしまいましたわ。

念のために、部屋の外に騎士様が立って下さる事になりました。

「姫様はずっと泣いており、国王陛下の訪問も拒否した事に致しましょう。その状態で無理矢理会おうとする方はいらっしゃらないでしょう。もし会おうとするなら……しっかり証人を集めて訴えさせて頂きますわ」

リリアは、リュカの話を聞いてテキパキと部屋の守りを固めます。他の侍女に指示を出し、大量の勉強道具も運び込まれました。これ、本気で部屋から出す気がありませんわよね?!

「さすがですね」

「長年、姫様のお世話をしておりますから。姫様を納得させる手腕はお見事です。姫様のお相手が、リュカ様でようごさいました」

リュカとリリアが手を組んだら、勝てる訳ありません。なんだか最強のコンビが誕生してしまった気が致しますわ。
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