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37.聖女様のご希望は?
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「こちらが、聖女様のお部屋です。気に入らなければ、すぐに変更します」
「スイートルームより豪華じゃん……」
「え、えっと、スイートルームを知らなくて……すいませんっ!」
「ごめん。大丈夫。気にしないで。この部屋はとっても素敵だから気に入ったわ。ありがとう」
「良かったです。あの、食事はどうなさいますか? お好きな物があればご用意しますけど……」
「んー……とりあえずこの世界の人が食べる一般的な料理をちょうだい。甘いものがあるなら欲しい。今日はもう、なんにもする事はないのね?」
「はい! ゆっくり休んで下さい。それから、侍女やメイドを……」
「あー……私、部屋ではひとりでゆっくりしたいの」
「やはりそうでしたか」
「やはりって……なんで?」
「歴代の聖女様は、王侯貴族のように甲斐甲斐しく世話をされる事を嫌う傾向があると文献に残っておりました。父や兄は、大量の侍女やメイドを付けようとしましたが、聖女様のご意志を確認するようにと伝えて、待って貰っています。侍女もメイドも、元々雇用されていた者ですから聖女様が不要だと仰ってもクビになる事はありません。どうぞ安心して、ご希望を仰って下さい」
「……ねぇ、侍女とか、メイドって居ないと駄目?」
「そんな事はありませんが……明日は聖女様を歓迎する宴が行われる予定です。ドレスアップをなさるなら、侍女やメイドは必要かと……。あ、もちろん聖女様がお嫌なら宴は取りやめますよ!」
「宴かぁ。やって良いよ。色んな人に会えるし、良い人と悪い人を見極められるし。確かに、この制服じゃ浮きそうね。分かった。準備の時だけ侍女かメイドを付けてくれる?」
「承知しました。どうか、ご無理はなさらないで下さいね」
言葉通りケネスが自分を心配していると分かった小百合は、クスリと笑って言った。
「ねぇ、ケネスさんってお人好しって言われない?」
「え……えっと……最近はよく言われます」
小百合がケネスの心を読むと、こんな声が聞こえてきた。
『確かにジーナが来てから、お人好しだってよく言われるようになったんだよね。前は嫌われてたのに、使用人達はすっかり優しくなったし、おかげで聖女様をお迎えする準備はスムーズに出来たし……』
「ねぇ、ジーナって誰?」
「なななっ! なんで……僕、声に出てましたっ?!」
「出てた出てた。ジーナって、誰? 私には嘘もつかないし隠し事もしないのよね?」
「……うぅ……ジーナは、僕の侍女兼メイドです……」
「え、侍女とメイドって兼任するの?」
「普通はしません……けど、僕の我儘で両方やって貰ってます……」
「ケネスさんって王子様でしょ? 使用人はいっぱい居るんじゃないの?」
「あ、あの、僕に敬称は要りませんよ。この世界で一番偉いのは聖女様ですから。ジーナは、特別なんです。僕に仕えてくれてる使用人はジーナだけです」
真っ赤な顔で説明するケネスを見て、心を読まずともケネスの気持ちを察した小百合は、ケネスを少し揶揄う事にした。
「そうなの?! じゃあそのジーナさんって人、私の侍女にしてよ」
「そ……それはっ……」
泣きそうな顔をしているケネスを見て、小百合は慌てて言葉を撤回した。
「嘘嘘。ごめんなさい。私は、侍女もメイドも要らない。それが私の希望よ。伝えておいて。けど、それだけケネスが信用してるジーナって人に会ってみたいわ」
「……わかりました。すぐに呼んで来ます」
『聖女様がジーナを気に入ったらどうしよう……。でも、きっとジーナなら僕から離れないよね。そういえば、聖女様のお名前を聞けてないなぁ。みんなうるさかったけど、まだ名乗れる程信用されてないんだから当然じゃないか。僕らは、誘拐犯なんだから。ジーナならきっと、聖女様にも気に入られるよね……。うう、どうしよう! ジーナの事だから、僕の為に聖女様の侍女になるとか言うかな?! あ、でも聖女様は侍女は要らないって……』
「どんだけジーナって人が好きなのよ。そういえば名乗ってなかったなぁー……あのナルシストはしつこく名前聞いてきたけど……気持ち悪くて名乗る気になれなかったのよね。名前名乗ったらなんかデメリットあるかな。今のうちにこの本全部読んでおこうっと」
「スイートルームより豪華じゃん……」
「え、えっと、スイートルームを知らなくて……すいませんっ!」
「ごめん。大丈夫。気にしないで。この部屋はとっても素敵だから気に入ったわ。ありがとう」
「良かったです。あの、食事はどうなさいますか? お好きな物があればご用意しますけど……」
「んー……とりあえずこの世界の人が食べる一般的な料理をちょうだい。甘いものがあるなら欲しい。今日はもう、なんにもする事はないのね?」
「はい! ゆっくり休んで下さい。それから、侍女やメイドを……」
「あー……私、部屋ではひとりでゆっくりしたいの」
「やはりそうでしたか」
「やはりって……なんで?」
「歴代の聖女様は、王侯貴族のように甲斐甲斐しく世話をされる事を嫌う傾向があると文献に残っておりました。父や兄は、大量の侍女やメイドを付けようとしましたが、聖女様のご意志を確認するようにと伝えて、待って貰っています。侍女もメイドも、元々雇用されていた者ですから聖女様が不要だと仰ってもクビになる事はありません。どうぞ安心して、ご希望を仰って下さい」
「……ねぇ、侍女とか、メイドって居ないと駄目?」
「そんな事はありませんが……明日は聖女様を歓迎する宴が行われる予定です。ドレスアップをなさるなら、侍女やメイドは必要かと……。あ、もちろん聖女様がお嫌なら宴は取りやめますよ!」
「宴かぁ。やって良いよ。色んな人に会えるし、良い人と悪い人を見極められるし。確かに、この制服じゃ浮きそうね。分かった。準備の時だけ侍女かメイドを付けてくれる?」
「承知しました。どうか、ご無理はなさらないで下さいね」
言葉通りケネスが自分を心配していると分かった小百合は、クスリと笑って言った。
「ねぇ、ケネスさんってお人好しって言われない?」
「え……えっと……最近はよく言われます」
小百合がケネスの心を読むと、こんな声が聞こえてきた。
『確かにジーナが来てから、お人好しだってよく言われるようになったんだよね。前は嫌われてたのに、使用人達はすっかり優しくなったし、おかげで聖女様をお迎えする準備はスムーズに出来たし……』
「ねぇ、ジーナって誰?」
「なななっ! なんで……僕、声に出てましたっ?!」
「出てた出てた。ジーナって、誰? 私には嘘もつかないし隠し事もしないのよね?」
「……うぅ……ジーナは、僕の侍女兼メイドです……」
「え、侍女とメイドって兼任するの?」
「普通はしません……けど、僕の我儘で両方やって貰ってます……」
「ケネスさんって王子様でしょ? 使用人はいっぱい居るんじゃないの?」
「あ、あの、僕に敬称は要りませんよ。この世界で一番偉いのは聖女様ですから。ジーナは、特別なんです。僕に仕えてくれてる使用人はジーナだけです」
真っ赤な顔で説明するケネスを見て、心を読まずともケネスの気持ちを察した小百合は、ケネスを少し揶揄う事にした。
「そうなの?! じゃあそのジーナさんって人、私の侍女にしてよ」
「そ……それはっ……」
泣きそうな顔をしているケネスを見て、小百合は慌てて言葉を撤回した。
「嘘嘘。ごめんなさい。私は、侍女もメイドも要らない。それが私の希望よ。伝えておいて。けど、それだけケネスが信用してるジーナって人に会ってみたいわ」
「……わかりました。すぐに呼んで来ます」
『聖女様がジーナを気に入ったらどうしよう……。でも、きっとジーナなら僕から離れないよね。そういえば、聖女様のお名前を聞けてないなぁ。みんなうるさかったけど、まだ名乗れる程信用されてないんだから当然じゃないか。僕らは、誘拐犯なんだから。ジーナならきっと、聖女様にも気に入られるよね……。うう、どうしよう! ジーナの事だから、僕の為に聖女様の侍女になるとか言うかな?! あ、でも聖女様は侍女は要らないって……』
「どんだけジーナって人が好きなのよ。そういえば名乗ってなかったなぁー……あのナルシストはしつこく名前聞いてきたけど……気持ち悪くて名乗る気になれなかったのよね。名前名乗ったらなんかデメリットあるかな。今のうちにこの本全部読んでおこうっと」
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