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44.男は知らない
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『やっべぇ、もっと嘘を考えておけば良かった……。もう、俺しか残ってねぇんだぞ! この女とやりあっても、多分勝てねぇ。けど、お貴族様の依頼を失敗したら……俺は殺される。くっそ、考えろ! 考えるんだ!!!』
「話がないなら、あなたを騎士団に引き渡します」
『騎士団の方が、死なないだけマシか? どーすんだよ、どうしろってんだよ! こんなやべーヤツなら先に言えよ! 何が出来損ないだ! こんなのが心酔してんなら王子もすげえ奴に決まってるじゃねぇかよ! とにかく、この女を……女? そうだ、そうだよ。この女は、身分差があって王子と結婚出来ないんだよな。でも、相思相愛だって城中の噂だ。なら、愛しい王子の不貞を明かしてやりゃあ良い。嘘でも、恋人の不貞って言えば話くらいは聞くだろ。自分が邪魔者だと思えばきっと……』
「俺は、ケネス殿下の元恋人から雇われた。アンタが来てから、ケネス殿下は全く会ってくれなくなったそうだ。王子に捨てられたって言っても納得しねぇ。だから、アンタと話がしたい、連れて来てくれと頼まれた。ちなみに、アンタと違って貴族のご令嬢だ。殿下と婚約の話も出ていたらしい」
「それはどなたですか?」
『くそっ……そう簡単に騙されねぇか。お貴族様の名前なんて知らねぇぞ! 誰か……誰でも良い……! そうだ! あのジジイ、娘の名前を連呼してたな……!』
「家名は言えねぇ、ジェシカ様にご迷惑はかけられねぇからな」
「なるほど……ジェシカ様という事は……」
『かかった!!』
「ハント公爵家か……それとも……しかし、ケネス殿下とお会い出来る立場という事は……それに……先程のご様子は……でも、ケネス殿下は……」
ブツブツと考え込むジーナに、男が声をかける。
「とにかく、来てくれよ。ちょっと話がしたいってだけだ。手荒な事をしたのは謝る。な、うちのお嬢様と、話をしてやってくれ」
「……分かりました。では、伝言を残して来ます」
「ちょ、それは困る!」
「何故ですの?」
「お嬢様は、アンタが居るから身を引こうとしてんだよ! アンタが伝言なんて残して消えたら、お嬢様の家は取り潰されるぞ! あの王子はアンタの為なら貴族くらい取り潰すだろ! 王子は、アンタが好きなんだから!」
「……は? 何を勘違いなさっているのですか? わたくしは殿下を心底尊敬しておりますし、わたくしも臣下として大事にして頂いておりますが、わたくしの為に貴族を取り潰す? ケネス殿下はそのような私的な事で貴族を取り潰したりなさいません。あれだけ無礼な使用人達を庇い続けた方ですよ。そんな事、する訳ないじゃありませんか。殿下を侮辱するなんて許しません。そこになおりなさい!」
「そそそ……そんなこと言われても困る! お前ら、城中の噂だぞ!!! ケネス殿下は侍女にご執心だってな!!!」
「……城中の? 噂?」
「そうだよ! アンタは殿下の身分違いの恋人なんだろ! おかげで、うちのお嬢様は倒れたんだ!」
「そんな! わたくしはそんなつもりでは……! ケネス殿下の大切な方に誤解を与えていたなんて……! では、先程お見かけしたのは……」
「な、ちょっとだけ、話に来てくれよ」
動揺したジーナを言いくるめ、男はジーナを城から連れ出す事に成功した。
依頼を成功したとほくそ笑む男は知らなかった。
依頼人がとっくに捕縛されており、報酬は前金しか手に入らない事に。
ジーナを溺愛する者達はかつてない程に怒っている事に。
ジーナは王族よりも大事にされる聖女に好かれてるいる事に。
今この場で、騎士達に捕縛された方が遥かに幸せだった事に。
男は、知らない。知った時に後悔しても、もう遅い。
「話がないなら、あなたを騎士団に引き渡します」
『騎士団の方が、死なないだけマシか? どーすんだよ、どうしろってんだよ! こんなやべーヤツなら先に言えよ! 何が出来損ないだ! こんなのが心酔してんなら王子もすげえ奴に決まってるじゃねぇかよ! とにかく、この女を……女? そうだ、そうだよ。この女は、身分差があって王子と結婚出来ないんだよな。でも、相思相愛だって城中の噂だ。なら、愛しい王子の不貞を明かしてやりゃあ良い。嘘でも、恋人の不貞って言えば話くらいは聞くだろ。自分が邪魔者だと思えばきっと……』
「俺は、ケネス殿下の元恋人から雇われた。アンタが来てから、ケネス殿下は全く会ってくれなくなったそうだ。王子に捨てられたって言っても納得しねぇ。だから、アンタと話がしたい、連れて来てくれと頼まれた。ちなみに、アンタと違って貴族のご令嬢だ。殿下と婚約の話も出ていたらしい」
「それはどなたですか?」
『くそっ……そう簡単に騙されねぇか。お貴族様の名前なんて知らねぇぞ! 誰か……誰でも良い……! そうだ! あのジジイ、娘の名前を連呼してたな……!』
「家名は言えねぇ、ジェシカ様にご迷惑はかけられねぇからな」
「なるほど……ジェシカ様という事は……」
『かかった!!』
「ハント公爵家か……それとも……しかし、ケネス殿下とお会い出来る立場という事は……それに……先程のご様子は……でも、ケネス殿下は……」
ブツブツと考え込むジーナに、男が声をかける。
「とにかく、来てくれよ。ちょっと話がしたいってだけだ。手荒な事をしたのは謝る。な、うちのお嬢様と、話をしてやってくれ」
「……分かりました。では、伝言を残して来ます」
「ちょ、それは困る!」
「何故ですの?」
「お嬢様は、アンタが居るから身を引こうとしてんだよ! アンタが伝言なんて残して消えたら、お嬢様の家は取り潰されるぞ! あの王子はアンタの為なら貴族くらい取り潰すだろ! 王子は、アンタが好きなんだから!」
「……は? 何を勘違いなさっているのですか? わたくしは殿下を心底尊敬しておりますし、わたくしも臣下として大事にして頂いておりますが、わたくしの為に貴族を取り潰す? ケネス殿下はそのような私的な事で貴族を取り潰したりなさいません。あれだけ無礼な使用人達を庇い続けた方ですよ。そんな事、する訳ないじゃありませんか。殿下を侮辱するなんて許しません。そこになおりなさい!」
「そそそ……そんなこと言われても困る! お前ら、城中の噂だぞ!!! ケネス殿下は侍女にご執心だってな!!!」
「……城中の? 噂?」
「そうだよ! アンタは殿下の身分違いの恋人なんだろ! おかげで、うちのお嬢様は倒れたんだ!」
「そんな! わたくしはそんなつもりでは……! ケネス殿下の大切な方に誤解を与えていたなんて……! では、先程お見かけしたのは……」
「な、ちょっとだけ、話に来てくれよ」
動揺したジーナを言いくるめ、男はジーナを城から連れ出す事に成功した。
依頼を成功したとほくそ笑む男は知らなかった。
依頼人がとっくに捕縛されており、報酬は前金しか手に入らない事に。
ジーナを溺愛する者達はかつてない程に怒っている事に。
ジーナは王族よりも大事にされる聖女に好かれてるいる事に。
今この場で、騎士達に捕縛された方が遥かに幸せだった事に。
男は、知らない。知った時に後悔しても、もう遅い。
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