婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

編端みどり

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4.暗殺者は自己紹介する

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「ははっ、前もそう言ってたな」

「ねぇ……わたくし達会った事あるの? 先程もわたくしに助けられたって……」

「ああ、言ったぜ。姫さんは、オレの命の恩人だ」

「え……?」

クリステルは、ジルの言っている言葉の意味が全く分からなかった。ジルのような男を助けた覚えがなかったからだ。

「覚えてねぇか。姫さんちっさかったもんな。子どもの頃に庭園の隅に倒れてた10歳くれぇの男の子を助けた覚えねぇか?」

「幼い頃……?」 

クリステルは、誰も相手にしてくれずひとりで庭で遊んでいる事が多かった。そのうち家庭教師がついて、遊ぶ暇はなくなったが、常にひとりだった。

だが……一度だけ、庭に倒れていた男の子を助けた事がある。傷だらけで、衰弱していたから傷の手当てをして、食事を運んだ。

まだ幼かったクリステルは、うまく手当が出来なかったが、なんとか助けようと必死だったのは覚えている。

男の子は、自分と同じように全てを諦めた目をしていた。手当てをしようとしたら、幼いクリステルに噛みついてきた。自分は暗殺者だから、放っておけと言われたのは覚えている。

だけど、クリステルはそんなふうに噛みつかれたのも初めてで嬉しかったのだ。自分と会話をしてくれる人もほとんど居なかったし、幼かったクリステルは暗殺者の意味を知らなかった。

怪我してる。痛いでしょ? それだけ言ってクリステルは男の子を必死で看病した。どこから持ってきたか覚えていないが、薬や食料を必死で運んだ。

ようやく男の子が元気になり、少し打ち解けてきたところで男の子は居なくなってしまった。

クリステルは、ひたすら泣いた。だが、その後すぐに家庭教師がつけられて、自由な時間はなくなってしまったから、男の子の事を考える時間は減っていき、思い出は記憶の片隅に追いやられた。

「思い出したわ! あの時の暗殺者のお兄さん!」

「そ、あん時助けてくれたおかげでオレは生きてる。親父が厳しくてな、訓練してたらズタボロになっちまったんだ。ってか、アレは使えなきゃ殺すって事だったんだと思う。兄貴にはあんな事してなかったし、いつもオレは拾ってやったんだから役に立てって言われてたから、道具が使えるか試したんだろうな。死にかけてた時にたまたま姫さんが来てくれたんだ。姫さんは、少ししかない食事までオレに与えてくれた。だから、姫さんはオレの命の恩人なんだ」

「そうだったのね……あの時は、いつの間にか居なくなってて、心配したのよ!」

「悪い、あんまり長居すると、親父達が来て姫さんが危ないと思って」

「そっか、あの時は名前を聞けないままだったわね。わたくしはクリステル。家名はもう捨てたわ。そうね……クリスとでも呼んで」

「あん時と同じ自己紹介だな。家名が無いのが唯一の違いか。オレはジルだ。自己紹介するのは初めてだな」

「そうよ! 名乗ってもくれなかったじゃない!」

「名乗って良いのか判断が出来なくてな。オレは暗殺者だったけど、街に潜む事もあったし普通の仕事も出来る。姫さん大事な父上からたっぷり金も預かってるから、飢えることは無いぜ」
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