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16.現実
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「聖帝国ラーアントの王女様……ですか」
「ええ、そうよ。マチルダとミーシャと呼んで。わたくしは王位継承権第一位、妹は第二位よ」
聖帝国は、男女関係なく産まれた順番に王位継承権がつく。だが、女王は存在しない。
聖帝国は、その名の通り神殿が強い力を持っている。国王は神殿の最高権力者となる。神殿の権力者は全員男性だ。だから、女王は存在しない。
聖帝国は戒律が厳しい。女性は慎ましく暮らすようにとの教えがあり……言い方は良くないが、男尊女卑の傾向が強い。
「わたくしを信じて本当の事を教えてくださり、ありがとうございます」
急いで聖帝国ラーアントの言葉に切り替え、頭を下げる。ミーシャ様の表情が明るくなった。ずっと黙っていたのは、言葉が通じなかったのね。
「命令よ。わたくし達の素性を決して誰にも言わないで。夫にもね」
「……夫に事情を話さないと、おふたりを守れません」
「分かってるわ。時期を見てわたくしから伝える。勝手に伝えないで欲しいの。マリアはわたくし達を貴族だと思っていたのでしょう?」
「マチルダ様とミーシャ様の態度や振る舞いから、とても高貴な方なのではないかと察しておりました。ですが、確証はなかったので……」
「わざとマナーを調節して、試したのね?」
「はい。ミーシャ様のご不満そうな態度と、マチルダ様のホッとした表情を見て、国は分かりませんが確実に身分の高い方だと思いました。それから、薔薇の話の反応で聖帝国にいい感情をお持ちではないのだと……まさか、王女様とは思いませんでした」
「いい感情を持ってないか。確かにその通りよ。聖帝国は戒律が厳しくて、女性は生きにくいのよ。わたくしとミーシャは王位継承権があるけど、王になる事は決してない。たとえ、王の子がもう産まれなくてもね」
「聖帝国の王女様は、家に残る事はないと聞いております。おふたりは婚約者がおられるのですか?」
「ミーシャは婚約者が決まっていないわ。わたくしは、オキ共和国に嫁ぐ予定だった。王太子のガルシア様は、とても優しい方なの。いつも会いに来てくれて……優しくて……大好きなのに……もう、お会いできない……」
マチルダ様は、ポロポロと涙をこぼした。つられて、ミーシャ様も泣き出す。
政略結婚でも愛は芽生える。マチルダ様は、ガルシア様を愛しているのだわ。
確かに、聖帝国なら攫われた王女様はあまりいい未来がないだろう。だけど、オキ共和国はおおらかな国だ。これだけマチルダ様がガルシア様を好いているのなら、きっとガルシア様も……!
「考えましょう。マチルダ様とミーシャ様が幸せになる方法を。マチルダ様はこれからどうなさるおつもりでしたか?」
「国に帰れば何をされるか分からない。下手したら恥だと殺されてしまうわ。なんとか工作して、死んだ事にしようと思っていたの。平民としてひっそりミーシャと暮らすつもりだった」
やはり、そうか。
あの国は意味の分からない戒律が蔓延っている。攫われたのは、徳がないからだと判断されてしまう。悪いのは攫った方なのに、本気で意味が分からないわ。
マチルダ様達が国に帰りたがらないのは当たり前だ。
だけど、マチルダ様とガルシア様が結ばれる為にはマチルダ様の身分が必要。聖帝国の国王陛下は、どうお考えなのかしら。周りはともかく、国王陛下が娘を大切にしていれば……やりようはある。
「それは、最終手段です。おふたりのお父上は、どんな方ですか?」
「それ、聞いちゃう? 会うのは年に一度の儀式の時だけ。ガルシア様と会うまで、わたくしは誕生日プレゼントを貰った事がなかったわ。ミーシャが産まれて、母上が死んでも……仕事優先で……」
「そうですか……」
「そんな顔しないで。攫われた娘達を心配する人ではないわ。わたくし達は、死んだ事にして別人として生きる」
「それでは、マチルダ様がガルシア様と結婚できません」
「攫われた時点で負けよ。徳がなかったの」
「わたくしは、そうは思いません。攫った方が悪いに決まっています。徳がなんですか。そんな不確かなものより、マチルダ様とミーシャ様の幸せが大切です。マチルダ様、ガルシア様は攫われたマチルダ様を徳がなかったと切り捨てるお方なのですか?」
「そんな事ない。でも徳がなければ終わりなの」
「オキ共和国はおおらかなお国柄。可能性はあります。このままガルシア様と会わずに諦めるおつもりですか。ガルシア様がお好きなのでしょう?」
「好きよ! 好きに決まってるじゃない!」
「では、考えましょう。夫の協力があれば、ガルシア様と話す事ができるかもしれません」
ロバート様を味方にするメリットをひとつずつ説明する。最初は顔をしかめていた王女様達の表情が、少しずつやわらいでいった。
「ええ、そうよ。マチルダとミーシャと呼んで。わたくしは王位継承権第一位、妹は第二位よ」
聖帝国は、男女関係なく産まれた順番に王位継承権がつく。だが、女王は存在しない。
聖帝国は、その名の通り神殿が強い力を持っている。国王は神殿の最高権力者となる。神殿の権力者は全員男性だ。だから、女王は存在しない。
聖帝国は戒律が厳しい。女性は慎ましく暮らすようにとの教えがあり……言い方は良くないが、男尊女卑の傾向が強い。
「わたくしを信じて本当の事を教えてくださり、ありがとうございます」
急いで聖帝国ラーアントの言葉に切り替え、頭を下げる。ミーシャ様の表情が明るくなった。ずっと黙っていたのは、言葉が通じなかったのね。
「命令よ。わたくし達の素性を決して誰にも言わないで。夫にもね」
「……夫に事情を話さないと、おふたりを守れません」
「分かってるわ。時期を見てわたくしから伝える。勝手に伝えないで欲しいの。マリアはわたくし達を貴族だと思っていたのでしょう?」
「マチルダ様とミーシャ様の態度や振る舞いから、とても高貴な方なのではないかと察しておりました。ですが、確証はなかったので……」
「わざとマナーを調節して、試したのね?」
「はい。ミーシャ様のご不満そうな態度と、マチルダ様のホッとした表情を見て、国は分かりませんが確実に身分の高い方だと思いました。それから、薔薇の話の反応で聖帝国にいい感情をお持ちではないのだと……まさか、王女様とは思いませんでした」
「いい感情を持ってないか。確かにその通りよ。聖帝国は戒律が厳しくて、女性は生きにくいのよ。わたくしとミーシャは王位継承権があるけど、王になる事は決してない。たとえ、王の子がもう産まれなくてもね」
「聖帝国の王女様は、家に残る事はないと聞いております。おふたりは婚約者がおられるのですか?」
「ミーシャは婚約者が決まっていないわ。わたくしは、オキ共和国に嫁ぐ予定だった。王太子のガルシア様は、とても優しい方なの。いつも会いに来てくれて……優しくて……大好きなのに……もう、お会いできない……」
マチルダ様は、ポロポロと涙をこぼした。つられて、ミーシャ様も泣き出す。
政略結婚でも愛は芽生える。マチルダ様は、ガルシア様を愛しているのだわ。
確かに、聖帝国なら攫われた王女様はあまりいい未来がないだろう。だけど、オキ共和国はおおらかな国だ。これだけマチルダ様がガルシア様を好いているのなら、きっとガルシア様も……!
「考えましょう。マチルダ様とミーシャ様が幸せになる方法を。マチルダ様はこれからどうなさるおつもりでしたか?」
「国に帰れば何をされるか分からない。下手したら恥だと殺されてしまうわ。なんとか工作して、死んだ事にしようと思っていたの。平民としてひっそりミーシャと暮らすつもりだった」
やはり、そうか。
あの国は意味の分からない戒律が蔓延っている。攫われたのは、徳がないからだと判断されてしまう。悪いのは攫った方なのに、本気で意味が分からないわ。
マチルダ様達が国に帰りたがらないのは当たり前だ。
だけど、マチルダ様とガルシア様が結ばれる為にはマチルダ様の身分が必要。聖帝国の国王陛下は、どうお考えなのかしら。周りはともかく、国王陛下が娘を大切にしていれば……やりようはある。
「それは、最終手段です。おふたりのお父上は、どんな方ですか?」
「それ、聞いちゃう? 会うのは年に一度の儀式の時だけ。ガルシア様と会うまで、わたくしは誕生日プレゼントを貰った事がなかったわ。ミーシャが産まれて、母上が死んでも……仕事優先で……」
「そうですか……」
「そんな顔しないで。攫われた娘達を心配する人ではないわ。わたくし達は、死んだ事にして別人として生きる」
「それでは、マチルダ様がガルシア様と結婚できません」
「攫われた時点で負けよ。徳がなかったの」
「わたくしは、そうは思いません。攫った方が悪いに決まっています。徳がなんですか。そんな不確かなものより、マチルダ様とミーシャ様の幸せが大切です。マチルダ様、ガルシア様は攫われたマチルダ様を徳がなかったと切り捨てるお方なのですか?」
「そんな事ない。でも徳がなければ終わりなの」
「オキ共和国はおおらかなお国柄。可能性はあります。このままガルシア様と会わずに諦めるおつもりですか。ガルシア様がお好きなのでしょう?」
「好きよ! 好きに決まってるじゃない!」
「では、考えましょう。夫の協力があれば、ガルシア様と話す事ができるかもしれません」
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