政略結婚の指南書

編端みどり

文字の大きさ
16 / 35

16.現実

しおりを挟む
「聖帝国ラーアントの王女様……ですか」

「ええ、そうよ。マチルダとミーシャと呼んで。わたくしは王位継承権第一位、妹は第二位よ」

聖帝国は、男女関係なく産まれた順番に王位継承権がつく。だが、女王は存在しない。

聖帝国は、その名の通り神殿が強い力を持っている。国王は神殿の最高権力者となる。神殿の権力者は全員男性だ。だから、女王は存在しない。

聖帝国は戒律が厳しい。女性は慎ましく暮らすようにとの教えがあり……言い方は良くないが、男尊女卑の傾向が強い。

「わたくしを信じて本当の事を教えてくださり、ありがとうございます」

急いで聖帝国ラーアントの言葉に切り替え、頭を下げる。ミーシャ様の表情が明るくなった。ずっと黙っていたのは、言葉が通じなかったのね。

「命令よ。わたくし達の素性を決して誰にも言わないで。夫にもね」

「……夫に事情を話さないと、おふたりを守れません」

「分かってるわ。時期を見てわたくしから伝える。勝手に伝えないで欲しいの。マリアはわたくし達を貴族だと思っていたのでしょう?」

「マチルダ様とミーシャ様の態度や振る舞いから、とても高貴な方なのではないかと察しておりました。ですが、確証はなかったので……」

「わざとマナーを調節して、試したのね?」

「はい。ミーシャ様のご不満そうな態度と、マチルダ様のホッとした表情を見て、国は分かりませんが確実に身分の高い方だと思いました。それから、薔薇の話の反応で聖帝国にいい感情をお持ちではないのだと……まさか、王女様とは思いませんでした」

「いい感情を持ってないか。確かにその通りよ。聖帝国は戒律が厳しくて、女性は生きにくいのよ。わたくしとミーシャは王位継承権があるけど、王になる事は決してない。たとえ、王の子がもう産まれなくてもね」

「聖帝国の王女様は、家に残る事はないと聞いております。おふたりは婚約者がおられるのですか?」

「ミーシャは婚約者が決まっていないわ。わたくしは、オキ共和国に嫁ぐ予定だった。王太子のガルシア様は、とても優しい方なの。いつも会いに来てくれて……優しくて……大好きなのに……もう、お会いできない……」

マチルダ様は、ポロポロと涙をこぼした。つられて、ミーシャ様も泣き出す。
政略結婚でも愛は芽生える。マチルダ様は、ガルシア様を愛しているのだわ。

確かに、聖帝国なら攫われた王女様はあまりいい未来がないだろう。だけど、オキ共和国はおおらかな国だ。これだけマチルダ様がガルシア様を好いているのなら、きっとガルシア様も……!

「考えましょう。マチルダ様とミーシャ様が幸せになる方法を。マチルダ様はこれからどうなさるおつもりでしたか?」

「国に帰れば何をされるか分からない。下手したら恥だと殺されてしまうわ。なんとか工作して、死んだ事にしようと思っていたの。平民としてひっそりミーシャと暮らすつもりだった」

やはり、そうか。
あの国は意味の分からない戒律が蔓延っている。攫われたのは、徳がないからだと判断されてしまう。悪いのは攫った方なのに、本気で意味が分からないわ。

マチルダ様達が国に帰りたがらないのは当たり前だ。

だけど、マチルダ様とガルシア様が結ばれる為にはマチルダ様の身分が必要。聖帝国の国王陛下は、どうお考えなのかしら。周りはともかく、国王陛下が娘を大切にしていれば……やりようはある。

「それは、最終手段です。おふたりのお父上は、どんな方ですか?」

「それ、聞いちゃう? 会うのは年に一度の儀式の時だけ。ガルシア様と会うまで、わたくしは誕生日プレゼントを貰った事がなかったわ。ミーシャが産まれて、母上が死んでも……仕事優先で……」

「そうですか……」

「そんな顔しないで。攫われた娘達を心配する人ではないわ。わたくし達は、死んだ事にして別人として生きる」

「それでは、マチルダ様がガルシア様と結婚できません」

「攫われた時点で負けよ。徳がなかったの」

「わたくしは、そうは思いません。攫った方が悪いに決まっています。徳がなんですか。そんな不確かなものより、マチルダ様とミーシャ様の幸せが大切です。マチルダ様、ガルシア様は攫われたマチルダ様を徳がなかったと切り捨てるお方なのですか?」

「そんな事ない。でも徳がなければ終わりなの」

「オキ共和国はおおらかなお国柄。可能性はあります。このままガルシア様と会わずに諦めるおつもりですか。ガルシア様がお好きなのでしょう?」

「好きよ! 好きに決まってるじゃない!」

「では、考えましょう。夫の協力があれば、ガルシア様と話す事ができるかもしれません」

ロバート様を味方にするメリットをひとつずつ説明する。最初は顔をしかめていた王女様達の表情が、少しずつやわらいでいった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

どうぞお好きになさってください

はなまる
恋愛
 ミュリアンナ・ベネットは20歳。母は隣国のフューデン辺境伯の娘でミュリアンナは私生児。母は再婚してシガレス国のベネット辺境伯に嫁いだ。  兄がふたりいてとてもかわいがってくれた。そのベネット辺境伯の窮地を救うための婚約、結婚だった。相手はアッシュ・レーヴェン。女遊びの激しい男だった。レーヴェン公爵は結婚相手のいない息子の相手にミュリアンナを選んだのだ。  結婚生活は2年目で最悪。でも、白い結婚の約束は取り付けたし、まだ令息なので大した仕事もない。1年目は社交もしたが2年目からは年の半分はベネット辺境伯領に帰っていた。  だが王女リベラが国に帰って来て夫アッシュの状況は変わって行くことに。  そんな時ミュリアンナはルカが好きだと再認識するが過去に取り返しのつかない失態をしている事を思い出して。  なのにやたらに兄の友人であるルカ・マクファーレン公爵令息が自分に構って来て。  どうして?  個人の勝手な創作の世界です。誤字脱字あると思います、お見苦しい点もありますがどうぞご理解お願いします。必ず最終話まで書きますので最期までよろしくお願いします。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

政略転じまして出会いました婚

ひづき
恋愛
花嫁である異母姉が逃げ出した。 代わりにウェディングドレスを着せられたミリアはその場凌ぎの花嫁…のはずだった。 女難の相があるらしい旦那様はミリアが気に入ったようです。

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

処理中です...