魔力なしの役立たずだと婚約破棄されました

編端みどり

文字の大きさ
26 / 55
改稿版

26.ジェラール視点

エルザ嬢が、迷っている。

いつも即断即決で、仕事が早い彼女が迷う姿を見るのは初めてだ。

「すぐに決める必要はないんだよ。今のところ、ここは安全だ。僕も転移を覚えたから定期的に様子を見に来る。だから安心して」

優しく声をかけると、嬉しそうに微笑んでくれた。

「ありがとうございます。少し考えてみますわ。そんなにお待たせしません。明日には決めますので」

「締切なんてないんだから、じっくり考えて良いんだよ」

「ですが、貴族にならないのなら早めにきちんとお断りしませんと」

「……ああ、ごめんね。説明不足だった。叙爵しても公表するつもりはないんだ。いずれは公にしないといけないけど、最初は貴族達に通知するだけにするつもりだ。君の正体もシモンが落ち着くまでは隠しておく。勿論、叙爵を拒否しても誰も困らない。だから安心して」

エルザ嬢は今まで、シモンの為に頑張ってきた。

『彼女はシモン様の為に血の滲むような努力をなさっています。エルザ様はわたくしの目標なのですわ』

ナタリーはいつもエルザ嬢を褒めていた。

なんでも簡単にこなしてしまう彼女は我が国でも高い評価を得た。シモンと共に微笑む彼女は心底幸せそうだった。

だけど、ナタリーはエルザ嬢が無理をしていると気が付いていたんだ。エルザ嬢が心配だとナタリーが溢した事が一度だけあった。

あの時、僕はナタリーの言葉を重く受け止めなかった。シモンはエルザ嬢の事を大事にしているように見えたし、エルザ嬢も弱音を一切吐かなかった。多少の無理難題も、エルザ嬢は軽く対処してしまう。シモンに褒められれば、嬉しそうに微笑んでいた。……だから、エルザ嬢は元々賢くて、更にシモンの為に努力して、尽くして、無理難題も簡単にこなせるようになったんだと勘違いしていた。問題なく仕事を出来ているのだし、彼女も望んでいるのだから大丈夫。そんな頓珍漢な事をナタリーに言った。

そんな訳あるか。エルザは成人したばかりの女の子だぞ。友人になったマックスにそう言われて初めて気が付いた。エルザ嬢は、確かに賢い。でも、普通の15歳の女の子だ。

15歳の子が、10カ国語を操る。
15歳になっていない頃から、王族の仕事をする。
15歳の少女の睡眠時間が、3時間。

どれだけ異常な事なのか、マックスに指摘されるまで気が付いていなかった僕は……愚かだ。

15歳にならないと魔力の有無は分からない。最初の魔力検査は国にひとつしかない大型の装置を使わないといけない。装置に手を置いて体内の魔力を外に出す道を作るのだ。成人にならないと身体が耐えられない為、魔力検査は成人の儀式の代わりになった。魔力のない者は、様々な理由で魔力を外に出す道を作れない。体内に魔力があっても、取り出す道が作れなければ利用は出来ない。それで、魔力無しと判定されるのだ。だが、体内の魔力が様々な影響を及ぼし、特殊能力を開花させる者も存在する。

我が国では、魔力検査は将来進むべき道を探す儀式のひとつに過ぎない。魔力検査で魔力無しになれば特殊能力が無いか調べて、無ければ自分の向いている道を探し、進む。魔力無しとなる者の方が多いのだから、魔力があればラッキーくらいのものだ。

だから……僕はシモンの行動が理解出来なかった。

エルザ嬢は魔力が無かった。けど、そんなのどうでも良いじゃないか。僕なら、ナタリーが魔力無しでも気にしない。

けど、国が違えば常識も変わるんだよな。エルザ嬢は冷静だった。淡々とシモンと対峙し、美しく去って行った。僕があの時もっと理性的にシモンと対話していたら……エルザ嬢を国に連れて行く事くらい出来たのに。

結果的にマックスと出会ってエルザ嬢は幸せそうに笑って暮らしているが、一歩間違えば彼女はこの世に居なかった。貴族の令嬢が、誰の助けも借りず平民として暮らせるなんて夢物語だ。

彼女はしっかりしているが、花のように美しい。平民に紛れようとしても目立つ。マックスがこっそり認識阻害魔法をかけているから、街に溶け込めているのだ。でないと、よからぬ輩が次から次へと湧いて来るだろう。そしてきっと……彼女は……。

あの日、シモンと見たエルザ嬢の髪の毛を思い出し……ゾッとする。あの後、僕はシモンと一晩中泣いた。

その時、初めて自分の気持ちを自覚した。

また……大切な人を失ってしまった……。シモンには言えなかったけど、心の中でそう思っていた。

だから、彼女が生きていたと知って嬉しかった。自分の気持ちに蓋をする為に、シモンの元に戻る方が良いと考えてしまったが……それは間違いだった。

もう間違えない。
僕はエルザ嬢の幸せを全力でサポートする。

余計なお世話である事は分かっているが、彼女が望みそうな道は全て用意した。きっとどれかを選んでくれる筈だ。どれを選んでも、エルザ嬢は幸せになれる。マックスもエルザ嬢を好いている。彼は強く、賢く、優しい。

彼を選ぶ方が、エルザ嬢は幸せかもしれない。だけど……。

出来るなら、僕の手を取って欲しい。そんな邪な気持ちで彼女に声をかけようとすると、見透かしたかのようにマックスが帰って来た。
感想 4

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?

未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」 膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。 彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。 「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」 魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。 一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。 家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。 そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。 ハッピーエンドです!

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています