45 / 55
改稿版
33-2 仕事と称して
「エルザ、疲れてんだろ。片付けは俺がする。少し寝ろ。不安なら、ここに居てやるから」
食事に手を付けず、黙っているわたくしをマックスが心配してくれます。マックスは、優しいです。とっても、優しいです……。だけど、それは仕事だから?
シモン様と会ったショックは思いの外大きく、わたくしの心を蝕んでいきました。普段は思いもしないようなネガティブな感情に、心も身体も支配されています。自分自身が真っ黒に塗り潰され、身体中を支配しているような気持ちです。
喋る元気もなくなったわたくしに、マックスは心配そうにおでこに手を当て熱を測り、なにか魔法を唱えました。暖かい魔法が、身体の疲労を癒してくれます。だけど、真っ黒な気持ちは変わりません。
「俺は帰った方が良いか?」
「……いや」
「なら、ここに居るから少し寝ろ。ちゃんと鍵かけろよ」
「嫌!」
どうしてしまったのでしょう。自分が分かりません。
「エルザ、今どんな気持ちだ?」
「分からない……!」
なんで、優しいの!
なんでよ! 仕事だから?!
ぐちゃぐちゃになった感情は、涙と共に表に出て行きます。自分が何を考えているのか、さっぱり分からなくなってしまいました。
マックスは混乱するわたくしを優しく抱きしめて覚悟を決めた顔で言いました。
「良いか。俺は魔法で心の中を覗ける。けど、すげぇ魔力を使うし、俺の身体は特殊だから、一回使うと30分は止められねぇ。その間、どんどん魔力を吸われていく。俺の身体はエルザやジェラールとは違う。魔力で身体を維持してるんだ。エルザが魔力を上げてくれてても、結構魔力を使う。だから心を覗く魔法を使ったら、俺は消えちまうかもしれねぇ。それでも、エルザの為なら魔法を使う。俺が消えたらジェラールを頼れ。いいな? 今から魔法を使うぞ」
マックスが……消える。
恐怖が襲います。わたくしは、泣きながら止めました。
「やめて!! そんな魔法要らない!! 使わないで!! マックスが消えるなんて嫌! お仕事でも良い! 側に居て!!!」
「仕事か。エルザは俺の事、どう思ってる?」
「大好き!」
するりと出た言葉は、わたくしの本心。口に出して、ようやく自覚しました。わたくしは、マックスが好きなのです。
「俺もエルザが好きだぜ。でなきゃ、仕事と称してこんなにエルザに関わらねぇよ」
「……それって」
マックスは、耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまいました。先程まで身体と心を支配していた真っ黒な気持ちは、どこかへ消え去ってしまいました。
「仕事って言えば、エルザは俺を頼ってくれると思ったんだよ。そりゃ、最初はエルザの本が目当てだった。けど、エルザを見てるとなんか胸があったかくなるんだよ。なんで公爵令嬢が笑顔でドブ攫いが出来るんだよ! 煙突掃除だって、クソ真面目にやりやがって! なんで……あんなに苦労して得た金で俺に飯を奢ったりするんだよ……! 俺は貴族が大嫌いだったのに……エルザは違う、テレーズ様は違う、ジェラールは違う……どんどん例外を見せやがって!! だから……仕事だって思えば……余計な事を考えないで済むって……! 俺はなぁ! とっくにエルザに堕とされてんだよ。エルザを、愛してるんだ」
「お仕事だからじゃ……ないの?」
「仕事でこんなに親身になるかよ! 自分が死ぬかもしれねぇのに、魔法を使おうとするかよ! エルザは鈍いんだよ! どんだけアプローチしても気がつかねぇし! ジェラールの気持ちにも気が付いてねぇだろ!」
「へ? ジェラール様の気持ちって?」
「ジェラールも、エルザが好きなんだよ。けど、エルザ……俺の方が好きだよな?」
凶悪な笑みを浮かべながら、迫って来るマックス。そんな姿を見ても、怖いとは思いません。むしろかっこよくて……ドキドキしてしまいます。
ジェラール様のお気持ちには、全く気が付いておりませんでした。マックスとどちらが好きかと問われると、迷わずマックスを選びます。
ジェラール様を好きだと思っている気持ちもあります。けど、それは友人に向ける好意です。シモン様に会ってハッキリ分かりました。
わたくしは今まで、本気で誰かを愛した事はなかったのでしょう。
お姉様から聞きました。旦那様に他の女性が近寄るとイライラすると。わたくしは、シモン様やジェラール様に他のご令嬢が近付いてもなんとも思いません。
だけど、マックスは。
マックスに女性が話しかけるだけで、なんだかモヤモヤしてしまうのです。街で人気の冒険者であるモーリスは、よく色んな女性に誘われています。最初は、マックスは凄く人気なんだなとしか思いませんでした。だけど最近は、とてもイライラするのです。マックスは毎回ちゃんと断っています。でも、嫌でした。だから、あまり街歩きをしなくなりました。なんだか分からないけど、苦しかったから。
嫉妬。
知識としてはあっても、感じた事のない感情。
きっとそれだったのです。
嫉妬するのは、マックスを愛しているから。ちゃんと、伝えないと。マックスが魔法に頼らなくて良い。そう思って貰えるようにしないと。
「はい。わたくしは、マックスが一番好きです。愛してますわ」
「……マジで言ってる? ジェラールじゃなくて、俺で良いのか? 俺は平民の冒険者だ。優雅な暮らしは出来ねぇぞ」
「そんな暮らし、興味ないわ。ドレスもアクセサリーも要らない。自分の生活費くらい自分で稼ぐわ。だからマックス……どこにも行かないで。ずっと一緒に居て」
「あのな、俺は欲深いんだ。ジェラールみてぇな善人じゃねぇ。愛した女性に好きと言われて諦める程良いヤツじゃねぇんだ。最後にもういっぺんだけ聞くぞ。ジェラールの事は好きじゃねえのか? ジェラールのとこに行くなら連れてってやる」
「ジェラール様も友人として好きよ。けど、愛してるのはマックスだけなの! それに、マックスは良い人よ! 悪い人でも構わない。貴方じゃないと、駄目なの」
「なら、もう離さねぇ。嫌って言っても、やっぱりジェラールが良いって言っても、一生逃してやんねぇぞ」
「望むところよ。一生、わたくしだけを見て」
何も言わずに乱暴に唇を奪われても、嬉しくて幸せです。愛してると呟くと、マックスは何度も強引に口付けをしてきました。息も絶え絶えになった頃、ようやく離してもらえました。
「悪りぃ、やり過ぎた」
「良いの……嬉しいわ……」
意地悪に微笑むマックスの顔が刺激的で、わたくしはそのまま気を失ってしまいました。
食事に手を付けず、黙っているわたくしをマックスが心配してくれます。マックスは、優しいです。とっても、優しいです……。だけど、それは仕事だから?
シモン様と会ったショックは思いの外大きく、わたくしの心を蝕んでいきました。普段は思いもしないようなネガティブな感情に、心も身体も支配されています。自分自身が真っ黒に塗り潰され、身体中を支配しているような気持ちです。
喋る元気もなくなったわたくしに、マックスは心配そうにおでこに手を当て熱を測り、なにか魔法を唱えました。暖かい魔法が、身体の疲労を癒してくれます。だけど、真っ黒な気持ちは変わりません。
「俺は帰った方が良いか?」
「……いや」
「なら、ここに居るから少し寝ろ。ちゃんと鍵かけろよ」
「嫌!」
どうしてしまったのでしょう。自分が分かりません。
「エルザ、今どんな気持ちだ?」
「分からない……!」
なんで、優しいの!
なんでよ! 仕事だから?!
ぐちゃぐちゃになった感情は、涙と共に表に出て行きます。自分が何を考えているのか、さっぱり分からなくなってしまいました。
マックスは混乱するわたくしを優しく抱きしめて覚悟を決めた顔で言いました。
「良いか。俺は魔法で心の中を覗ける。けど、すげぇ魔力を使うし、俺の身体は特殊だから、一回使うと30分は止められねぇ。その間、どんどん魔力を吸われていく。俺の身体はエルザやジェラールとは違う。魔力で身体を維持してるんだ。エルザが魔力を上げてくれてても、結構魔力を使う。だから心を覗く魔法を使ったら、俺は消えちまうかもしれねぇ。それでも、エルザの為なら魔法を使う。俺が消えたらジェラールを頼れ。いいな? 今から魔法を使うぞ」
マックスが……消える。
恐怖が襲います。わたくしは、泣きながら止めました。
「やめて!! そんな魔法要らない!! 使わないで!! マックスが消えるなんて嫌! お仕事でも良い! 側に居て!!!」
「仕事か。エルザは俺の事、どう思ってる?」
「大好き!」
するりと出た言葉は、わたくしの本心。口に出して、ようやく自覚しました。わたくしは、マックスが好きなのです。
「俺もエルザが好きだぜ。でなきゃ、仕事と称してこんなにエルザに関わらねぇよ」
「……それって」
マックスは、耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまいました。先程まで身体と心を支配していた真っ黒な気持ちは、どこかへ消え去ってしまいました。
「仕事って言えば、エルザは俺を頼ってくれると思ったんだよ。そりゃ、最初はエルザの本が目当てだった。けど、エルザを見てるとなんか胸があったかくなるんだよ。なんで公爵令嬢が笑顔でドブ攫いが出来るんだよ! 煙突掃除だって、クソ真面目にやりやがって! なんで……あんなに苦労して得た金で俺に飯を奢ったりするんだよ……! 俺は貴族が大嫌いだったのに……エルザは違う、テレーズ様は違う、ジェラールは違う……どんどん例外を見せやがって!! だから……仕事だって思えば……余計な事を考えないで済むって……! 俺はなぁ! とっくにエルザに堕とされてんだよ。エルザを、愛してるんだ」
「お仕事だからじゃ……ないの?」
「仕事でこんなに親身になるかよ! 自分が死ぬかもしれねぇのに、魔法を使おうとするかよ! エルザは鈍いんだよ! どんだけアプローチしても気がつかねぇし! ジェラールの気持ちにも気が付いてねぇだろ!」
「へ? ジェラール様の気持ちって?」
「ジェラールも、エルザが好きなんだよ。けど、エルザ……俺の方が好きだよな?」
凶悪な笑みを浮かべながら、迫って来るマックス。そんな姿を見ても、怖いとは思いません。むしろかっこよくて……ドキドキしてしまいます。
ジェラール様のお気持ちには、全く気が付いておりませんでした。マックスとどちらが好きかと問われると、迷わずマックスを選びます。
ジェラール様を好きだと思っている気持ちもあります。けど、それは友人に向ける好意です。シモン様に会ってハッキリ分かりました。
わたくしは今まで、本気で誰かを愛した事はなかったのでしょう。
お姉様から聞きました。旦那様に他の女性が近寄るとイライラすると。わたくしは、シモン様やジェラール様に他のご令嬢が近付いてもなんとも思いません。
だけど、マックスは。
マックスに女性が話しかけるだけで、なんだかモヤモヤしてしまうのです。街で人気の冒険者であるモーリスは、よく色んな女性に誘われています。最初は、マックスは凄く人気なんだなとしか思いませんでした。だけど最近は、とてもイライラするのです。マックスは毎回ちゃんと断っています。でも、嫌でした。だから、あまり街歩きをしなくなりました。なんだか分からないけど、苦しかったから。
嫉妬。
知識としてはあっても、感じた事のない感情。
きっとそれだったのです。
嫉妬するのは、マックスを愛しているから。ちゃんと、伝えないと。マックスが魔法に頼らなくて良い。そう思って貰えるようにしないと。
「はい。わたくしは、マックスが一番好きです。愛してますわ」
「……マジで言ってる? ジェラールじゃなくて、俺で良いのか? 俺は平民の冒険者だ。優雅な暮らしは出来ねぇぞ」
「そんな暮らし、興味ないわ。ドレスもアクセサリーも要らない。自分の生活費くらい自分で稼ぐわ。だからマックス……どこにも行かないで。ずっと一緒に居て」
「あのな、俺は欲深いんだ。ジェラールみてぇな善人じゃねぇ。愛した女性に好きと言われて諦める程良いヤツじゃねぇんだ。最後にもういっぺんだけ聞くぞ。ジェラールの事は好きじゃねえのか? ジェラールのとこに行くなら連れてってやる」
「ジェラール様も友人として好きよ。けど、愛してるのはマックスだけなの! それに、マックスは良い人よ! 悪い人でも構わない。貴方じゃないと、駄目なの」
「なら、もう離さねぇ。嫌って言っても、やっぱりジェラールが良いって言っても、一生逃してやんねぇぞ」
「望むところよ。一生、わたくしだけを見て」
何も言わずに乱暴に唇を奪われても、嬉しくて幸せです。愛してると呟くと、マックスは何度も強引に口付けをしてきました。息も絶え絶えになった頃、ようやく離してもらえました。
「悪りぃ、やり過ぎた」
「良いの……嬉しいわ……」
意地悪に微笑むマックスの顔が刺激的で、わたくしはそのまま気を失ってしまいました。
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?
未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」
膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。
彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。
「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」
魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。
一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。
家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。
そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。
ハッピーエンドです!
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています