腹黒公爵の狩りの時間

編端みどり

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ポンコツ公爵は愛を誓う【番外編】

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「エミリー様、本当に良かったですね」

エミリーの結婚式が終わり、2人でマチルダの家の庭園でお茶をしているのだが、先程からマチルダはエミリーの話ばかりだ。デヴィッドは、デヴィッド・ドゥ・シヴィルとなってエミリーと婚姻した。エミリーなら平民であろうとデヴィッドの元に行くだろうが、それではデヴィッドが気にするだろうとマチルダの兄のジョセフ様が強引に養子にしてしまったらしい。

薔薇を通じて、ふたりは親交が深まっていたそうだ。それも、マチルダの采配だろうと容易に想像がついた。

マチルダは本当にいい子だ。最近ようやく婚約者になれて、私は幸せいっぱいだ。まだ接近すると照れるようだが、それも可愛らしい。

「私達の式ももうすぐだよ。まさかエミリーに先を越されるとは思わなかったよ。私達も1年待ってエミリー達のように誓いをするかい?」

「えー……でも、予定では式は半年後ですよね。わざわざ伸ばすのもめんど……えっと、招待客の方に悪いので、予定通りでよろしいのでは?」

婚約者になってから、マチルダは少しずつ素を見せてくれるようになった。本人は取り繕えていると思っているが、被った猫がだいぶ逃げ出している。

だが、今のマチルダの方が愛らしくて良い。他の者の前では決して見せない気を抜いた姿は私だけが知っていれば良いと思う。私の婚約者になってからは、マチルダは夜会で必死に気を張るようになった。私の為だとかなり勉強してくれているらしい。

そんな彼女を逃したくない。デヴィッドのように、この日を狙って婚姻を結ぶ者は多い。まさか、マチルダはそれを嫌がっているのだろうか?

私は、少し不安になりながらもマチルダに問うた。

「神に誓えば結婚を覆せないよ?」

「そんな誓約、意味がありませんよ。デヴィッド様みたいにわたくしが名を捨てれば終わりです」

「確かに、そうだね」

マチルダはやはり頭が良く冷静だ。普通の人は、みんなこの日に嘘を吐かないように必死なのに。逆に、一生縛れると思って愛を誓う者も居る。それが意味を成さないとデヴィッドとエミリーの婚姻で広がってしまうかもしれないな。

まぁ、会った事のない他人などどうでも良いか。

嬉しそうな妹の姿が見れれば構わない。デヴィッドも、今度こそエミリーの手を離す事はないだろう。

あの日、頭に血が上った私の剣をマチルダが止めてくれなければ、エミリーは一生泣き暮らしただろう。

あの場で心からエミリーを心配してくれたのはマチルダだけだった。そんな彼女に惹かれるのは当然だ。なのに、私の気持ちはマチルダに全く伝わらなかった。

散々口説いているのに、相手にされずに自信を失いかけた。

だが、彼女は私の元に来てくれた。もう逃す気はない。マチルダが望むものはなんでも用意するから、私の元から離れないで欲しいと言ったら、欲しいものは自分で手に入れるから、結婚しても自身の財産を築く許可が欲しいと言われた。

彼女が私に望んだのはそれだけだった。

やはりマチルダは普通の令嬢とは違う。高価な宝石や煌びやかなドレスを欲しがる女性は多いが、欲しい物は自分で手に入れたいと望む女性は珍しい。そんなところも愛おしい。

「それよりもサイモン、わたくし良い事を思いついたの!」

マチルダは最近私の名を呼び捨てにしてくれるようになった。何度も頼んで、ようやく実現した。少しずつ敬語が取れて親しげに話してくれるマチルダが可愛くて仕方ない。

「今度は何を思いついたんだい?」

「エミリー様達の結婚式で、花びらが舞ったでしょう? それがとっても素敵だったの。だから、結婚式で花弁を舞わせるのはどうかしら?」

「なるほど、確かに神秘的だったね。どうやるんだい?」

「んー……風が都合良く吹くとは限らないし……」

そう言ってマチルダは考え込んでしまった。彼女は、革新的な考えをしていて良いと思ったものをすぐに取り入れる柔軟性がある。

だが、思いついても形にするのはまだまだ苦手のようだ。

「ねぇ、マチルダ。花弁が舞うのが素敵だったんだよね? だったら、花弁をシャワーのように振りかけて貰うのはどう?」

マチルダが、目を見開いて私に抱きついてきた。私はこの瞬間が大好きだ。

「さすがサイモンだわ! なら、招待客の皆様に花弁をお渡しして振りかけて頂くのはどうかしら? 誓いの後、お披露目として皆様にアーチを作って頂くのでしょう? でも、あれだと子どもは出来ないし最後の方は待つのもお辛いだろうから出来たらやりたくないと思っていたの。でも、伝統だから駄目かしら……?」

結婚式は、地域や国によって様々なやり方があるが、私の国では誓いの後に招待客が作ったアーチを新郎新婦が潜るという伝統がある。招待客が新郎新婦の門出を祝う道を作るという意味があるのだが、狭いので1人ずつ潜らないといけないし、タチの悪い招待客が紛れていると花嫁に触れようとしてくる。

だから、やらない夫婦も増えているし私もやるつもりはなかった。というか、伝統だと言っているのは一部の保守的な貴族だけだ。その中には、初心な花嫁を困らせてやりたいと願う下衆も紛れている。だから私はマチルダに伝えてなかったのに、余計な事を吹き込んだ奴が居たらしいな。

「マチルダ、それは誰に聞いたの? 伝統だと言っても今はあまりやる人も居ないし、うちの両親もやらなくて良いと言っていたよ」

父もやらなかった。当然だ。誰が愛する人を危険に晒す可能性がある事を好き好んでやるんだ。父は見事なスピーチでその場を切り抜けたらしい。私も同じようにするつもりだった。だから、マチルダには何も言わないようにしていたのに。

「この間の夜会で、サイモンがライディ王子とお話ししていたでしょう? その時話しかけられたの。名乗りをされなかったから適当にやり過ごしたんだけど、妹はライディ王子の妻だって仰ってたからおそらくカテリーナ様のお兄様ね」

……なるほど。シュボール家は我が家を本気で怒らせたいらしいな。しかし付き合い上結婚式に呼ばない訳にもいかない。ちょうどいい。恥をかいてもらおう。

それにしても、会話をしっかり聞き取り理解して情報を吸い上げる。さすがマチルダだ。

「よく気が付いたな」

「目元がカテリーナ様に似ておられたからそうだろうなとは思っていたの。無知な令嬢のフリをして色々お話ししていたら、ポロッとカテリーナ様の事を話して下さったから確信したわ。ご本人は、有頂天だったから多分気が付いていないわ。わたくしもわざとカテリーナ様の名前を出さずに妹君で通したから」

「さすがマチルダだ。報復は任せろ」

「報復って何?! 確かに名乗りはされなかったけど、それはわたくしが格下だからでしょう?! 名乗り以外に失礼な事はなかったわよ。まぁ、ちょっと馴れ馴れしいなとは思ったけど」

「……報復を倍にする」

「待って! 何で増えるの?!」

涙目のマチルダが必死に説得するから、報復はやめておく事にする。だが、恥はかいてもらおう。

「それじゃあ、式で花弁を私達に振りかけて貰うようにしようか。アーチと同じ意味を持つからきっと受け入れられるよ。それに、私は式で一瞬たりともマチルダと離れたくない。だから元々アーチをする予定はなかったんだ」

「そうだったの? 通りで聞いた事ないと思ったわ。そうよね。サイモンが、教えてくれない訳ないものね」

そうやってすぐに信用するから、私みたいな男に捕まるんだ。だけど、マチルダの好みは腹黒い男だそうだから、私は彼女の好みにマッチしているのだろう。

「そう、私はマチルダを愛してる。マチルダが嫌がる事は決してしないと約束するよ」

「あら! わたくしだってサイモンが嫌がる事はしないわ! それに、サイモンの喜ぶ事はしたいわ。まぁ、犯罪とかは困るけど。だってわたくしもサイモンを愛しているもの!」

強気な目でそう宣言するマチルダは、女神のように美しい。

「私は、神ではなくマチルダに愛を誓うよ」

そう言ってマチルダの手にキスをすれば、真っ赤になってプルプル震えている愛しい婚約者の姿が私の青い瞳に映った。
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