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第二十九話
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戴冠式は、滞りなく進められた。呆然としているフォスは、部屋の隅に追いやられてしまった。
国民へのお披露目も済んで、思ったよりも受け入れられた事にイオスは不思議に思っていた。国民の人気は、フォスの方があった筈なのだが……。
「なんでも、ミッドナイト商会の女主人が大金をイオス様に賭けていたそうです。その利益で、イオス様のお祝いだと食事や酒を振る舞っているそうですぞ。イオス様のおかげでタダ酒が飲めるとイオス様の人気は上がっております」
イオスは、万が一の為に全財産をセーラに預けて、女主人の衣装や鬘も渡していた。自分が死んでも、セーラはミッドナイト商会の女主人として生きられるように。だが、セーラはイオスから預かった全財産をイオスの勝利に賭けた。
「イオス様がきちんと統治なされば、人気は不動のものとなりましょう。これからですぞ」
「ああ、私に投票してくれた方も、しなかった方も、どうかこの国を良くする為に協力して欲しい。私が実現したい事は、おいおい発表していく。貴族の汚職や不正は厳しく取り締まるから、そのつもりでいてくれ」
何名か、青くなっている貴族が居るが、イオスの言葉は概ね受け入れられた。
「何故だ……何故だ……」
ただひとりを除いて。
「兄上、皇帝は私です」
「あり得ない、あり得ない……」
「兄上、しっかりして下さい! 貴方は負けました。皇帝は私です」
「イオス! 何故だ! 貴様は皇帝になりたくないと言っていただろう!」
「ええ、兄上がセーラを暗殺者にしたりしなければ、私は皇帝になろうとは思いませんでした」
イオスの言葉に、周りは大騒ぎをしている。セーラとイオスが、婚約寸前までいっていた事は有名だ。
「セーラを殺したのはイオスだろう!」
「いいえ、わたくしは生きておりますわ」
セーラは、美しいドレスに身を包み、イオスの腕を取る。宰相の娘の協力を得て、この場に駆けつけた彼女は、気品に溢れており全員の目を引いた。
「セーラ、おかえり」
「ただいま戻りましたわ。イオス、皇帝就任おめでとうございます」
「何故だ! セーラの国はオレが滅ぼした! その罪はイオスに擦りつけた! イオスを恨んだセーラは、イオスに焼き殺されたんじゃないのか!」
「あら、わたくしの国を滅ぼしたのは、フォス様でしたの?」
「そうだ! もっと絶望しろ!」
「わたくし、絶望などしませんわ。だってイオスが居ますもの」
そう言ってセーラは、イオスの腕をとり心底幸せだと笑う。イオスは、貴族全員の前で宣言する。
「私の伴侶はセーラ・アステリただひとりだ。異論がある者は、この場で申し出ろ」
大歓声が上がり、セーラは歓迎された。仲睦まじい様子に、反対する者は誰一人居なかった。
すぐさま国民に通知されて、愛を貫いた皇帝陛下の話は、物語として出版されて大人気となった。マリアが、セーラであった事も公表され、ミッドナイト商会は皇帝陛下が溺愛している妃を匿った忠誠心の高さを評価され、国の御用達の商会とすると通知された。しかし、女主人は頑なに拒否した。
「我々のお客様は、国ではなく人です」
国は商会の方針を受け入れて御用達とすることは取りやめた。その言葉を聞いた民衆は大喜びして、ミッドナイト商会の人気は更に不動のものとなった。
また、非道な事をたくさんしていた事が判明したフォス・イクリーポは、王位継承権を剥奪され、生涯幽閉される事になった。
国民へのお披露目も済んで、思ったよりも受け入れられた事にイオスは不思議に思っていた。国民の人気は、フォスの方があった筈なのだが……。
「なんでも、ミッドナイト商会の女主人が大金をイオス様に賭けていたそうです。その利益で、イオス様のお祝いだと食事や酒を振る舞っているそうですぞ。イオス様のおかげでタダ酒が飲めるとイオス様の人気は上がっております」
イオスは、万が一の為に全財産をセーラに預けて、女主人の衣装や鬘も渡していた。自分が死んでも、セーラはミッドナイト商会の女主人として生きられるように。だが、セーラはイオスから預かった全財産をイオスの勝利に賭けた。
「イオス様がきちんと統治なされば、人気は不動のものとなりましょう。これからですぞ」
「ああ、私に投票してくれた方も、しなかった方も、どうかこの国を良くする為に協力して欲しい。私が実現したい事は、おいおい発表していく。貴族の汚職や不正は厳しく取り締まるから、そのつもりでいてくれ」
何名か、青くなっている貴族が居るが、イオスの言葉は概ね受け入れられた。
「何故だ……何故だ……」
ただひとりを除いて。
「兄上、皇帝は私です」
「あり得ない、あり得ない……」
「兄上、しっかりして下さい! 貴方は負けました。皇帝は私です」
「イオス! 何故だ! 貴様は皇帝になりたくないと言っていただろう!」
「ええ、兄上がセーラを暗殺者にしたりしなければ、私は皇帝になろうとは思いませんでした」
イオスの言葉に、周りは大騒ぎをしている。セーラとイオスが、婚約寸前までいっていた事は有名だ。
「セーラを殺したのはイオスだろう!」
「いいえ、わたくしは生きておりますわ」
セーラは、美しいドレスに身を包み、イオスの腕を取る。宰相の娘の協力を得て、この場に駆けつけた彼女は、気品に溢れており全員の目を引いた。
「セーラ、おかえり」
「ただいま戻りましたわ。イオス、皇帝就任おめでとうございます」
「何故だ! セーラの国はオレが滅ぼした! その罪はイオスに擦りつけた! イオスを恨んだセーラは、イオスに焼き殺されたんじゃないのか!」
「あら、わたくしの国を滅ぼしたのは、フォス様でしたの?」
「そうだ! もっと絶望しろ!」
「わたくし、絶望などしませんわ。だってイオスが居ますもの」
そう言ってセーラは、イオスの腕をとり心底幸せだと笑う。イオスは、貴族全員の前で宣言する。
「私の伴侶はセーラ・アステリただひとりだ。異論がある者は、この場で申し出ろ」
大歓声が上がり、セーラは歓迎された。仲睦まじい様子に、反対する者は誰一人居なかった。
すぐさま国民に通知されて、愛を貫いた皇帝陛下の話は、物語として出版されて大人気となった。マリアが、セーラであった事も公表され、ミッドナイト商会は皇帝陛下が溺愛している妃を匿った忠誠心の高さを評価され、国の御用達の商会とすると通知された。しかし、女主人は頑なに拒否した。
「我々のお客様は、国ではなく人です」
国は商会の方針を受け入れて御用達とすることは取りやめた。その言葉を聞いた民衆は大喜びして、ミッドナイト商会の人気は更に不動のものとなった。
また、非道な事をたくさんしていた事が判明したフォス・イクリーポは、王位継承権を剥奪され、生涯幽閉される事になった。
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