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番外編 誰が兄上壊したの?
第四話
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「イオス様、ご機嫌いかがですか?」
「フランツか、何の用だ?」
「そのようにつれない事を仰らないで下さいな」
「フランツは、兄上の侍従だろう? オレに構う必要がどこにある?」
イオスとセーラの婚約が決まって1年、フランツは変わらずフォスの侍従をしていた。だが、イオスの教育が始まり、イオスが優秀だと噂になると急にフランツが話しかける事が増えた。
「イオス様は、将来皇帝になられるほど優秀だとお聞きしました」
「皇帝に相応しいのは兄上だ」
過去のイオスは、優秀と褒められて調子に乗っていた。兄と競うつもりもなかったが、兄が知らない事を知ると得意げに周囲に話していた。
我ながら、可愛げがなかったとイオスは思う。
恐らく、自分は知らないうちにフォスのプライドを傷つけていたのだろう。そんな兄に、少しずつ悪意を埋め込んだんだ。恐らく、この男が。
記憶が曖昧ではあるが、確かに幼い頃の自分をやたら褒める男が居た。名前も知らないし、顔もあまり覚えていないが、もしかしたらフランツだったのかもしれない。
「そんな事はありません! イオス様は皇帝に相応しい」
「オレも兄上もまだ幼い。そんな事が今分かる訳ないだろう。それに、万が一オレが皇帝になってもフランツを重用する事はないぞ」
「なっ……何故ですか?!」
「兄上の侍従の癖に、オレに媚を売るような蝙蝠、信用できる訳がない」
まだ幼いイオスから、冷たい視線を浴びせられたフランツは、腹立たしく思いその場を去ろうとした。しかし、イオスの炎が道を阻む。
「何をするんですか?!」
「都合が悪いとすぐ逃げる癖はやめたほうが良いぜ。いつもなら邪魔だから逃げてくれて構わないんだが、今日は困る。もうちょっとオレに付き合ってくれよ」
怒りを露わにするフランツだが、さすがに炎に飛び込む勇気はない。
しばらく睨みあっていたふたりだが、不意にイオスの炎に水が掛かる。その瞬間、イオスが全ての炎を消した。
「イオス、証拠は揃ったよ。不快な仕事を任せてすまなかったね」
「兄上! 兄上や父上の苦労に比べたらこれくらいなんて事ありません。蝙蝠狩りの準備は出来ましたか?」
「ああ、既に当主をはじめ関係者は捕らえてあるよ。あとはフランツだけだ」
「……フォス様? 私だけとは……どういう事でしょうか?」
「サッシャー侯爵家は、母上の暗殺未遂の容疑で捕縛されたよ。実行犯は君だね。フランツ。ああ、言い訳は要らないよ、確かな証拠は揃っているからね。言いたい事があれば裁判で話してね。ついでに、今日限りで僕の侍従は辞めてもらうから。1年間色々とご苦労様。母上に毒を盛って、僕とイオスが対立するように仕向けて、ほんっと色々やってくれたよねぇ……オマケに最近はイオスにまでちょっかいを出してきてさぁ……これでイオスに嫌われたら、どうしてくれるつもりだったのかなぁ……」
フォスの目は、怪しく歪んでいた。イオスは思わずゾッとするが、ここが正念場だと気合いを入れ直す。
「兄上。オレが兄上を嫌う事などあり得ません。兄上から悪意を向けられても、オレは兄上が好きですよ」
過去のイオスも、そう思っていた。母の死で荒れてはいたし、兄を拒絶もしたが、兄が嫌いになった訳ではなかった。
皇帝を目指したのもただ、それ以上に大事な人が居たから降りかかる火の粉を払う覚悟を決めただけ。だから、イオスはフォスを処刑する事は無かった。
「僕がイオスを嫌う訳ないじゃないか」
先ほどとはうって変わって、優しい顔でフォスは微笑む。
「フランツ、確かにオレと兄上はどちらかが皇帝になる。そういった意味ではライバルだ。だが、対立する必要はない。お前は、対立を煽って何がしたかったんだ?」
「……皇帝は、常に孤独であるべきだ。兄弟で信頼しあってしまったら、側近は必要なくなるではないか」
「ふん、お前は皇帝の側近になれる器じゃない」
「何故?! 私は優秀で、由緒正しい貴族の家柄だぞ!」
「貴族である事は国を治めるには必要な要素ではない。そもそも貴族は半分以上が元々平民だ。血筋を誇るなんて馬鹿のする事だ。兄上は既に気がついておられたぞ。側にいた筈のお前は何故気がつかないんだ? 兄上こそ皇帝に相応しい」
「ふふっ、この歳で既に気がついているイオスこそ、皇帝に向いてると思うけどね」
「どちらが皇帝になっても問題ないように精進するのが我々の役割です」
「そうだね。僕が皇帝でも、イオスが皇帝でもどちらでも構わない。僕達は王族だ。どちらにしても国の為に働く義務があるからね」
「何故……どうして……フォス様は……」
「皇帝になれば、好き勝手出来ると思っている筈、だっけ?」
フランツは、真っ青な顔をして震えている。ニコニコ笑いながら、フォスはフランツの周りに水を纏わせ、身体の体温を奪う。このままではフォスはフランツを殺してしまう。イオスは兄をなんとか宥める事にした。
「兄上、今は捕縛しましょう」
「ああ、そうだね。良かったね、フランツ。僕の弟は、優しいだろ?」
「フランツか、何の用だ?」
「そのようにつれない事を仰らないで下さいな」
「フランツは、兄上の侍従だろう? オレに構う必要がどこにある?」
イオスとセーラの婚約が決まって1年、フランツは変わらずフォスの侍従をしていた。だが、イオスの教育が始まり、イオスが優秀だと噂になると急にフランツが話しかける事が増えた。
「イオス様は、将来皇帝になられるほど優秀だとお聞きしました」
「皇帝に相応しいのは兄上だ」
過去のイオスは、優秀と褒められて調子に乗っていた。兄と競うつもりもなかったが、兄が知らない事を知ると得意げに周囲に話していた。
我ながら、可愛げがなかったとイオスは思う。
恐らく、自分は知らないうちにフォスのプライドを傷つけていたのだろう。そんな兄に、少しずつ悪意を埋め込んだんだ。恐らく、この男が。
記憶が曖昧ではあるが、確かに幼い頃の自分をやたら褒める男が居た。名前も知らないし、顔もあまり覚えていないが、もしかしたらフランツだったのかもしれない。
「そんな事はありません! イオス様は皇帝に相応しい」
「オレも兄上もまだ幼い。そんな事が今分かる訳ないだろう。それに、万が一オレが皇帝になってもフランツを重用する事はないぞ」
「なっ……何故ですか?!」
「兄上の侍従の癖に、オレに媚を売るような蝙蝠、信用できる訳がない」
まだ幼いイオスから、冷たい視線を浴びせられたフランツは、腹立たしく思いその場を去ろうとした。しかし、イオスの炎が道を阻む。
「何をするんですか?!」
「都合が悪いとすぐ逃げる癖はやめたほうが良いぜ。いつもなら邪魔だから逃げてくれて構わないんだが、今日は困る。もうちょっとオレに付き合ってくれよ」
怒りを露わにするフランツだが、さすがに炎に飛び込む勇気はない。
しばらく睨みあっていたふたりだが、不意にイオスの炎に水が掛かる。その瞬間、イオスが全ての炎を消した。
「イオス、証拠は揃ったよ。不快な仕事を任せてすまなかったね」
「兄上! 兄上や父上の苦労に比べたらこれくらいなんて事ありません。蝙蝠狩りの準備は出来ましたか?」
「ああ、既に当主をはじめ関係者は捕らえてあるよ。あとはフランツだけだ」
「……フォス様? 私だけとは……どういう事でしょうか?」
「サッシャー侯爵家は、母上の暗殺未遂の容疑で捕縛されたよ。実行犯は君だね。フランツ。ああ、言い訳は要らないよ、確かな証拠は揃っているからね。言いたい事があれば裁判で話してね。ついでに、今日限りで僕の侍従は辞めてもらうから。1年間色々とご苦労様。母上に毒を盛って、僕とイオスが対立するように仕向けて、ほんっと色々やってくれたよねぇ……オマケに最近はイオスにまでちょっかいを出してきてさぁ……これでイオスに嫌われたら、どうしてくれるつもりだったのかなぁ……」
フォスの目は、怪しく歪んでいた。イオスは思わずゾッとするが、ここが正念場だと気合いを入れ直す。
「兄上。オレが兄上を嫌う事などあり得ません。兄上から悪意を向けられても、オレは兄上が好きですよ」
過去のイオスも、そう思っていた。母の死で荒れてはいたし、兄を拒絶もしたが、兄が嫌いになった訳ではなかった。
皇帝を目指したのもただ、それ以上に大事な人が居たから降りかかる火の粉を払う覚悟を決めただけ。だから、イオスはフォスを処刑する事は無かった。
「僕がイオスを嫌う訳ないじゃないか」
先ほどとはうって変わって、優しい顔でフォスは微笑む。
「フランツ、確かにオレと兄上はどちらかが皇帝になる。そういった意味ではライバルだ。だが、対立する必要はない。お前は、対立を煽って何がしたかったんだ?」
「……皇帝は、常に孤独であるべきだ。兄弟で信頼しあってしまったら、側近は必要なくなるではないか」
「ふん、お前は皇帝の側近になれる器じゃない」
「何故?! 私は優秀で、由緒正しい貴族の家柄だぞ!」
「貴族である事は国を治めるには必要な要素ではない。そもそも貴族は半分以上が元々平民だ。血筋を誇るなんて馬鹿のする事だ。兄上は既に気がついておられたぞ。側にいた筈のお前は何故気がつかないんだ? 兄上こそ皇帝に相応しい」
「ふふっ、この歳で既に気がついているイオスこそ、皇帝に向いてると思うけどね」
「どちらが皇帝になっても問題ないように精進するのが我々の役割です」
「そうだね。僕が皇帝でも、イオスが皇帝でもどちらでも構わない。僕達は王族だ。どちらにしても国の為に働く義務があるからね」
「何故……どうして……フォス様は……」
「皇帝になれば、好き勝手出来ると思っている筈、だっけ?」
フランツは、真っ青な顔をして震えている。ニコニコ笑いながら、フォスはフランツの周りに水を纏わせ、身体の体温を奪う。このままではフォスはフランツを殺してしまう。イオスは兄をなんとか宥める事にした。
「兄上、今は捕縛しましょう」
「ああ、そうだね。良かったね、フランツ。僕の弟は、優しいだろ?」
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