異世界に音楽がない!

編端みどり

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オレはここで生きていく

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「てんてけてーん! 異世界転移ボーナス!」 

はぁ!?
さっきトラックに轢かれたと思ったら、なんかわけわかんない奴が目の前にいんだけど!?

オレは、山下 武。高校一年生で、いまからスタジオいくとこだったんだけど、信号渡ってたらいきなりトラックがつっこんできたんだ。

で、気がついたら目の前にめっちゃ美人が居んだけど?!

「えっと、どちらさまですか?」

「わたしは、まあー、君たちの世界でいうカミサマってやつ?」

「神様ぁ!?」

俺ん家、宗派なんだっけ?!
仏教なのは間違いねーけど、宗派がいろいろあんだよな。オヤジが、法事の時言ってたのに忘れちまった。

「あ、わたしは仏様とかじゃないよー。ってか、別に君の家が何信仰してるかとかは、カンケーないから」

関係ないのか。って、俺今口に出してたか?!

「さっき言ったでしょ? 異世界転生ボーナスだって」

「ボーナスってんなら、元のとこに戻してくれよ。用事もあったし、家のベッドで寝てーっつの」

「んー、それは無理!」

「マジかよ!」

「だって、キミはもう死んじゃったんだよ? 第二の人生歩めるだけ幸せでしょ」

まあ、たしかにそうか。でもなんで俺なんだ?

「あ、君はね。今年に入って死んだ人一億人目なのっ! だから、転生ボーナスだよっ」

そうかー、たまたまかぁ
まあ、そんなもんだよな。
 
第二の人生歩めるだけラッキーかな。

「んで、転生してもらうのは剣と魔法のファンタジー世界!」

「はあ?! そんなもんすぐ死んじゃいそうじゃねーか!」

剣と魔法は、スマホやゲームでやるからいいんだよ。そんな世界、絶対命の危機と隣り合わせじゃん!

「あ、そうそう。命の危機はあるから、キミにも魔法と剣の素養をプレゼント! ついでに言葉と文字も分かって書けるようにしておくね。あっちの世界は、キミみたいに素性分かんない人もいっぱいいるから、とりあえず冒険者になるといいよ。どの街にも冒険者ギルドはあるからね」

ちょっと待て!

「もう時間ないし説明はこんくらいかな? あ、今キミの持ってる持ち物は向こうでも使えるように無限収納にいれとくね。無限収納持ってるだけでめっちゃチヤホヤされるよー!」

待てコラ!
そう思ったのも束の間、俺の意識は途絶えた。

気がつくと、オレは街中にいた。
周りの人は、ちらっとオレを見たが、すぐに興味を無くして去って行く。転移っぽい魔法もあんのかな?

「なんもちゃんとした説明受けてねぇ。なんだあのカミサマとやらは」

ひとまず、冒険者とか言ってたな。こっちの世界には家もないし、仕事見つけねーと餓死しちまう。ったく、金もなんも持たせず異世界行けとか、ふざけんなっつーの!!!

そう思った時、オレのスマホが光った。

「ごめんごめん、今夜宿に泊まるくらいのお金は用意したよ。この世界の一般的なサイフと一緒にどーぞ。ポケットの中にあるからね」

こんや、やどにとまるくらい?

明日からどーすんだ! やべえ! ひとまず冒険者だ!!!

オレは、街の果物屋でリンゴっぽい果実をひとつ買い、冒険者になるにはどうしたらいいか聞いた。

「ああ、あんたもどっかの村の次男坊かい? 継げる畑がないと、大変だよねえ。冒険者ギルドに行ってみな。仕事あっせんしてもらえるよ。で、稼いだらまた買いに来ておくれ」

「ああ、これすげー美味いしまた買いに来るぜ」

よし、オレは食いつめた次男坊として生きて行こう。

って訳で、ギルドの前に来た。

が、オレの格好はどう頑張っても冒険者じゃない。せめて武器を持たないと。あ、そうだ!!!

あのカミサマ、無限収納とか言ってたな。
そう思った瞬間、頭の中にいっぱい文字が浮かんだ。カバンに、教科書、カーチャンの弁当に、バンドスコア。体操服もあるな。

あ、これなら武器っぽいか?!

「おい、あいつ無限収納もちか?!」

「いや、無限収納なら光るだろ。あれはおそらく、空間収納だぜ」

「空間収納かー、それでもうらやましいよな。多いやつは家一軒分くらい収納できるらしいし」

ん? 周りの声を聞くと、オレのは空間収納なのか? 無限収納とか言ってたが?

そういや、カミサマ無限収納はチヤホヤされるとか言ってたな。チヤホヤで済むかわからんし、空間収納ってことにしとくか。空間収納なら、そこまでレアでもなさそうだしな。面倒はゴメンだ。

ひとまず、コレを背負って中に入ろう。

「いらっしゃいませー、ご登録ですか?」

「ああ、よろしく頼む」

周りを見ると、みんなタメ口だ。昔読んだ本で、冒険者は上下が分からないようにタメ口で話すとか言ってたしな。真似してみたが、問題ないようだ。

「では、こちらの用紙に記入ください。字は書けますか?」

「ああ、問題ない」

ありがとう、カミサマ。

「名前は、えっと」

「あ、本名でなくても構いませんよ! 技能は嘘を書かれると困りますが、名前はなんでもいいです」

「ちなみに、お姉さんのお名前は?」

「あ、わたしはリーナと言います。よろしくお願いします」

「オレは、タケシだ」

「タケシさんですね! 珍しいお名前ですが、この間タケルさんという方の登録もしましたし、同じ村のご出身ですか?」

タケルさん、あなたは何人目の記念ですか?

「ああ、オレが住んでいた村はタケルもタケシもよく聞く名前だな」

「そうなのですねー!」

「技能は、なにをお持ちですか?」

「なんか、収納はできる」

「素晴らしいですね! 空間収納ですか? 無限収納ですか? この間のタケル様は無限収納で、王家のお抱えになられましたよ!」

「それが、よくわからないんだ」

「よくわからない?」

「収納は、普通に使えたから違いや名前があると今知ったんだ。最初は、無限収納とか聞いてたが、さっき街中で使ったら、空間収納といわれたんだ。ちなみに、収納にはカバンひとつくらいしか入ってないぞ」

「光ります?」

「いや、普通に取り出せた」

「では空間収納ですね。無限収納は、取り出しで光るんですよ。タケル様は、光がとても少なく密かな運搬も頼めると重宝されているようですが、100年にひとり現れると言われる無限収納が、こんなに頻繁にあるわけないですし、容量もカバンしか入らないなら、間違いなく空間収納です」

「そうなのか。容量はよくわからないんだ」

「収納に、たくさん入れたことはありますか?」

「ない」

「嘘はないようですね。空間収納でもかなりレアで便利なスキルですから、自信持ってください! お暇な時、容量を確かめることをおすすめしますよ。屋敷ひとつ分くらい容量のある方もいるそうですよ」

リーナさんは、ニコニコ笑いながらも耳にある謎の機械をいじっている。

「ああ、職員がつけるもので、嘘を見破れるのです。特に登録事はつける決まりで、嘘をつく人は登録を弾くんですよ。でも、タケシさんは嘘はなかったので大丈夫です」

あぶねえ! なんか嫌な予感して、嘘はやめておいてよかったぜ! 冒険者ギルドで、嘘つくのはハイリスクだな。

オレのスキルは空間収納と記録された。王家のお抱えとか、面倒な匂いしかしないし助かったぜ。タケルさん、検討を祈る。

「ほかに戦闘技能はありますか?」

「戦った事がないから分からない」

「では、入会後戦闘訓練を受けてみてください」

「戦えるか分からないのに合格でいいのか?」

「空間収納もちは、それだけで仕事がありますから」

すげーな、空間収納。あ、無限収納だっけ?
もうなんでもいいや。嘘はつかないで済むように、収納とだけ言おう。

「そうか、ありがとう」

「空間収納もちなので、特別に入会費はタダですよ! こちらが、登録カードです! なくさないように空間収納に入れておくといいですよ! うちでいっぱい働いてくださいね!」

入会費、あったんだ。金額聞いたら、ちょうどオレの持ち金全てだったよ。

「早速、働きたいんだが?!」

「働き者ですねぇ」

「仕事がないと、宿にも泊まれないんだっ!」

「あらあら、そんなに食い詰めていらしたんですか? ご立派な武器もお持ちだから、お金はあるかと思ってました」

「これは、オヤジから貰ったんだ」

嘘ではない。

「そうなのですね! いいお父さんですね。お金がないなら、ギルドの宿に泊まるといいですよ。仕事してる間だけですが、通常の10分の1で泊まれます。質素ですけど、一応鍵付きひとり部屋です」

「働きます。仕事します。だからそこに泊めてください」

オレは、リーナさんに土下座した。プライド? そんなもん命に変えられる訳ないだろ。今のオレは、明日にはご飯が食べられなくなるんだからな。

「あはは、わかりました! 今は部屋も空いてますし、荷運びの仕事が明日出発で入ってますから、それを受けて下さるなら、宿は無料でかまいません。ただし、収納量のチェックと、戦闘訓練を受けてください」

「もちろんです!」

「ああそれから、敬語はダメですよ?」

「ああ、上下関係が分かるからか」

「そうです! ちゃんとご存知なら大丈夫ですね! さっきから、敬語になってますよ? 気をつけてください」

「宿とご飯の、感謝を伝えるには敬語が必要だったんだ」

「あはは、それだけ感謝してもらえたならお仕事頑張ってもらえそうですね!」

「もちろんだ、必死で働くぜ」

リーナさんは、笑顔で訓練所へ案内してくれた。

「ガットさぁぁん! 空間収納持ちの新人さんですよー! 明日の荷運びの依頼を受けるから、収納量のチェックと、戦闘訓練お願いしまーす!」

「おう! 武器はなんだ?! 見たことねーなあ。刃がないし、鈍器の類か?」

オレが武器として出したのは、生前持っていたギターだ。勢いで背負ったが、壊れるんじゃないか?!

「おう、まず魔法の素養があるか確かめるぜ」

そう言ってガットさんは、オレの手を握った。どうせなら、リーナさんみたいな美人の手を握りたい。オレは、オッさんの手を握りながら、リーナさんを見つめることにした。これで、リーナさんの手を握ってる気持ちに……ならねーよ!
めっちゃゴツゴツしてんじゃん! しかもなんかあったけーし! つか、あちーよ!

「おし、魔力はあるな。ひとまず身体強化だ」

ガットさんの指示に従い、身体強化、武器強化を習う。さっき感じたあついのが魔力らしく、それを身体や武器にコーティングすれば良いらしい。
1時間程で習得し、ギターを武器として振るってみたら傷ひとつない。これならひとまずギターでいけるな。だけどやっぱり剣とかの刃物の方が良いって言われた。なのでリーナさんにも頼んで、安全で戦う必要が少なそうな仕事を選んでもらうことにした。金貯めてから武器を買うことにしよう。ギターは宝だからな。

収納量の調査は、いっぱい入った。
リーナさんと、ガットさんが驚いた顔をしたあたりで、わざと入らないと伝えてみたら、ホッとした顔してた。リーナさんが例の耳飾りしてなくて助かったぜ。まあ、念のためジェスチャーだけで入らないと表現してみたが、ふたりとも

「無限収納かと思った」

と言ってホッとした顔してた。無限収納なら、すぐ国に報告して、国のお抱えになるからギルドの仕事は受けられないらしく、ギルドとしては空間収納の方がありがたいとのこと。容量は申し分なく、かなり多いとの事だった。ギルドカードに明記されたくらいだから、よっぽどだろうな。もうちょっと少なく言えばよかったぜ。

こうして、異世界の夜はふけていった。
ちなみに宿のベッドは、めちゃくちゃ硬かった。早くまともなベッドで寝たい!

次の日の荷運びの仕事は問題なく終了して、お金を貰えた。うちの店に来ないかと言われたが、異世界の雇用関係がわからないので断った。社畜は勘弁だ。だが、困ったらいつでも雇うと言われたので店の場所だけは覚えておくことにする。

そして、はじめての異世界での外食である。できるだけ人が出入りしている清潔そうな店を選び、大成功した。

「リーナさん! 仕事終わったぜ!」

「タケシさん、お疲れ様です。ずいぶん評判良かったみたいですね。引き抜かれたり、しませんでした?」

「ああ、店で働かないかと言われたが断ったぞ」

「断って正解です。あそこは、お金払いは良いのですが、空間収納もちを引き抜こうとするんですよね。引き抜きして、安く使おうとするんです。報酬は、今日貰った額が一か月分だとか言って一か月拘束するんです。タケシさんが受けてたら、抗議に行くつもりだったんですが、受けなかったみたいでよかったです」

「そうなのか? 断ったらあっさり引き下がったが」

「でも、困ったら店に来いとか言ったでしょ?」

「ああ」

「荷運びする冒険者は、初心者だしよく食い詰めるから、そこを狙うんです。長期の契約で縛って、安くこき使うんですよ。だけど最近は、冒険者にも噂が回って、あまりうまくいってないようです」

「そういうのは、教えてくれ」

「依頼人が、どんな人か私に聞けば一発でしたよ。聞かなかったのはタケシさんでしょ?」

「確かにそうだな。次からはちゃんと調べることにする」

「はい、それで結構です。それに、ギルドもタケシさんを引き抜いたら、もう2度と依頼は受けないと脅すつもりでしたし」

「フォローはしてくれる予定だったんだな。ありがとう」

「いえいえ、これも経験です。タケシさんには、期待していますよ」

そうか、異世界、いろいろ自己責任だな。
気をつけよう。今回の仕事で、1ヶ月は宿暮らしできるが、まだまだ、危険だな。

「ギルドの宿は、まだ泊まれるか?」

「んー、今は依頼がないのですが、待機期間として3日は宿泊できますよ」

「では3日頼む」

「かしこまりました」

仕事ねーのかー。やばいな。
そうだ!

「なあ、音楽をここで弾いていいか?」

「音楽? なんですかそれ?」

「ギター、はわからないよな。えっと、歌ったりとか、楽しい音出すとか」

「よくわかりませんが、ここは騒いでもいいので構いませんよ?」

そうか、異世界ギターないよな。
オレはギターを取り出して、チューニングをする。

「その武器、武器以外にも使い道があるんですか?」

「ああ、こっちが本来の使い道だ」 

オレは、ギターを掻き鳴らし、何度も練習したポップスを歌った。

リーナさんも、ほのヤツらも、固まってる。やはり聞いた事ない音楽は受け入れられないか。

「なんですか、いまの」

「歌だな」

「なんだかすっごく楽しくて、ワクワクしました!」

「そうか!」

「はい! 楽しいです!!!」

「これは、音楽ってんだ。オレが1番好きなものだ」

「そうなんですね!」

よく見ると、周りはみなキラキラした顔でオレを見ている。

「まだ聴きたいか?」

「「「うおおお!!!」」」

この日、冒険者ギルドはライブハウスになった。
この世界に、音楽というものがなかったと知ったのは次の日だ。

一年後……

「みんな、盛り上がってるか!」

「「「うおおおおおお!!!!」」」

オレは、全国ツアーを行っている。とは言え、場所は街の広場、ステージは簡単なものだ。
オレの収納のおかげで、大量のセットは問題なく運べる為、設置の人員は街の冒険者ギルドで雇えばいい。だから、常設スタッフはひとりだけ。

「はーい、近くで見れる特別チケットはこちらでーす!」

「リーナさん、いつもありがとな」

オレはこの世界で、音楽とともに生きていく。
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