婚約破棄計画書を見つけた悪役令嬢は

編端みどり

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9.褒めて

 互いの気持ちを確認したあと、トムは改めてミランダにプロポーズした。しかし、ミランダの反応は良くない。トムが根気強く話を聞くと、ミランダの本音が零れ落ちた。

「トムは好きよ。けど、わたくしはトムにふさわしくない。要領も悪いし融通もきかないし、可愛くもない。トムは仕事もできるし、かっこいいし優しい。努力して子爵になれる才覚もある。きっと、これから素敵な出会いがいっぱいあるわ」

「そんなものいらない。俺が欲しいのはミランダだ。可愛いし、綺麗だし、努力家だし、仕事もできる。要領だって良い。融通がきかないって言う奴は、自分の思い通りにミランダを動かせなくて八つ当たりしてるだけだから無視して構わない。なぁミランダ、いつも自信満々な顔してたけど、本当は辛かったんだろ?」

「……うん。辛かった。アルフレッドは最初からずっと冷たくて、でも、政略結婚だし頑張らなきゃって……わたくしが王妃になれば、みんなやトムを守れるって……だから……頑張ったの。罵倒されても、馬鹿にされても頑張った。でも、アルフレッドの思惑を知った直後、王妃様に側妃を勧められて心が折れたわ。今更言っても仕方ないんだけど……アルフレッドがちょっとでも優しくしてくれたら……ソフィア嬢の半分でも良いからわたくしを褒めてくれたら……きっともっと頑張れたのに……」

「あの王太子がミランダに優しくしていれば、俺を好きだと自覚しないままミランダは王妃になって一生を終えたんだろうな。その方が良かったか?」

 ポツリポツリと気持ちを吐き出していたミランダは、トムの一言で気持ちを切り替え微笑んだ。

「それは嫌ね。だってわたくし、トムが好きだもの。トムはアルフレッドの一千倍は素敵だし、アルフレッドより優しいし、わたくしを大事にしてくれるし。難しく考える必要なんてなかったわね。もう悩むのはやめるわ」

「くくっ……相変わらず切替が早いな」

「それが、わたくしでしょ?」

「そうだな。昔からそうだ。旦那様に叱られてしょげてても、5分後にはケロッとしてたもんな」

「だって、いつもお父様は正しかったもの。わたくしが悪いなら、改めればいいだけでしょ?」

「その通りだよ。そんなんだからストレスだらけの城暮らしも耐えられたのか?」

「そうかもね。でも結構辛かったわ。マリア姉様が助けてくれたけど、辛いなんて言えなくて、ずっと我慢してた。ねぇトム、わたくしすごいでしょ? お願い、もっと褒めて」

 本来ならば婚約者が担わないといけなかった役割を、王太子は放棄した。だからミランダは感情に蓋をする事で自分を守ってきた。

 たったひとつ。

 幼かった頃の約束だけを心の支えにして。

 恋心を自覚しないまま交わした約束は、ミランダの心の支えになっていた。王太子がミランダに誠実に接すれば、きっとミランダは自身の初恋を自覚しないまま王太子に恋をしたのだろう。

 だが、ミランダが王太子アルフレッドに恋をしたり、愛する日は来ない。ミランダの愛は全てトムのものになった。

 ずっと欲しかった愛する人の心を手に入れたトムは恐る恐るミランダに近づき、問いかけた。

「すげぇよ。本当にすげえ。なぁ、前みたいに頭を撫でてもいいか?」

「うん、いっぱい撫でて」

 トムに撫でられると、ミランダは静かに涙を流し始めた。抱えていた闇を振り払うように、トムはミランダの頭を撫で続けた。

「いっぱい泣け。辛かったな」

「王妃教育で泣いちゃダメって言われたの。ずっと笑ってろって。辛くても笑えって。トムは辛かったら泣いて良いって言ってくれたのに、お城では誰もそんな事言ってくれなかった……家にもあんまり帰れなくて……ずっと見張られて……辛いのに……誰にも言えなくて……」

「辛かったな。あの馬鹿と婚約破棄できたら、好きな時に泣いて、好きな時に笑おうぜ。俺がミランダを守るから」

 ミランダの涙が止まり、赤くなった瞳がじっとトムの目を見つめた。

「……わりぃ、ミランダはそうじゃねぇわ。俺がミランダを守るからさ、ミランダも俺を守ってくれよ。俺は貴族になりたてだから、なーんも分かんねぇんだ」

「何も知らないなんて、下手な嘘を吐くわね。守ってくれるのは嬉しいわ。でも、守られるだけなんて嫌よ」

「知ってる。互いに支え合って、助け合って生きていこうぜ。ミランダと一緒なら、きっと楽しく生きられる。改めて頼む。俺と結婚してくれ」

「うん。結婚する。トム、大好きよ。でも……本当にわたくしでいいの?」

「ミランダが良い。ミランダじゃないとダメなんだ」

「なら、これからもいっぱい褒めて。結婚しても、おばあちゃんになってもいっぱい褒めて欲しいの」

「ああ、いっぱい褒める。だからミランダも俺を褒めてくれよ」

「うん!」

 ふたりの気持ちが通じ合った頃、部屋のドアが開いた。
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