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29.侍従
「くそっ! まだミランダは見つからないのか! 影はどこに消えた!」
アルフレッドはイライラしていた。完璧に計画通りとはいかなかったが、ミランダと婚約破棄できた。ミランダのような完璧な淑女が、婚約破棄。降ったばかりの雪に足跡を付けるような快感がアルフレッドを襲った。
ソフィアは少し頼りなく見えたが、母のお気に入りだから大丈夫だろう。母が気に入っている子だ、全力で王になる自分をサポートしてくれる。そうアルフレッドは思っていた。それなのに、母は気を失った。今もベッドから起き上がれないらしい。
烈火のごとく怒った父に幽閉され、アルフレッドはひたすら仕事をさせられている。五人いた侍従は二人になった。
「くそっ! 口うるさいミランダがいなくなった代わりに、大量の仕事が回って来るようになったではないか! おい! こんなの無理に決まっているだろ!」
「ミランダ様なら一時間で終える量を一日かかるなんて、今まで何をなさっておられたのですか? こちら、追加になります」
侍従のニコラスは、痛烈な言葉でアルフレッドを批判した。
「ふざけるな! お前も手伝え!」
「私はミランダ様のように優しくありません。ご自分でおやりください。草案も書きません」
「ふざけるな! こんなの終わるわけがないだろう! 少しでも間違えたら書き直し! 時間がいくらあっても足りん!」
「おやおや、おかしいですねぇ。草案を写すだけとはいえ、ご自分でお書きになっていた筈ですよね? まさかと思いますが、やはりミランダ様に代筆をさせていたのですか?」
「それはっ……違う! 自分で書いていた!」
そう言うしかないアルフレッドは、悔しそうに唇を歪めた。ニコラスは淡々とアルフレッドが書き上げた書類を回収し、冷たく微笑む。
「では、それを証明なさって下さい。今までアルフレッド殿下が出していた書類の半分もないのですから、終わるはずですよ。それでは、おやすみなさいませ」
言うだけ言うと、ニコラスはすぐに部屋を出て行った。アルフレッドの怨嗟の声を無視して歩くニコラスは、潜んでいたトムをあっさり見つけると冷えた声で呟いた。
「あんな人でも、見捨てられないのです。手を出さないでいただけますか?」
「なんのことですか? 私はこれを届けるように命じられただけです。アルフレッド殿下にお会いすることは出来ますか?」
「そうですか。早とちりだったようですね。殿下に会えるのは、私ともう一人だけです。いかなる理由があろうとも、殿下にはお会いできません。届け物は私がお持ちします」
侍女達と同じ言い訳は通じないと思ったトムは用意していた手紙をニコラスに手渡した。
「分かりました。こちらです。よろしくお願いいたします」
「確かにお預かりしました。すぐには渡せません。手紙は全て検閲します」
検閲と言われ、トムは焦った。ソフィアからの手紙だと分かれば、どこから預かったのか追及される。アルフレッドを動かすためにソフィアの名を騙ったのは失敗だった。焦ったトムは更に失敗を重ねてしまう。
「王太子殿下の手紙を検閲ですか?」
「あの方が王太子のままでいるためには、こうするしかないのです」
「そうですか。では、これはアルフレッド殿下の手に渡らないかもしれませんね」
ニコラスは目を細め、冷たく微笑んだ。月明かりに美しく照らされたニコラスの微笑みは、ゾッとするなにかを孕んでいた。
トムはすぐに、自身の失言に気付いた。バーナード侯爵家で影と対等に渡り合い、セルの人達に認められ、ミランダと婚約できた。自分が失敗などするわけがないと、驕っていた。影の世界は、失敗は許されない。自分の正体が王太子側に付いているニコラスに知られればどうなるか。自分だけでなく、ミランダ達の未来も閉ざしてしまうかもしれない。トムは必死で頭を働かせた。
ニコラスはトムの焦りを見透かしているかのように、淡々と質問を重ねる。
「貴方はこれを読んだのですか?」
「私は検閲する権限などありません」
「ふぅ。エドガー様の影は優秀ですねぇ。嘘を吐かず、うまく乗り切ろうとなさっている」
トムの背中に、一筋の汗が流れ落ちた。ニコラスが纏う気配が濃くなり、トムを見定めるように見つめる。トムは、ニコラスの探るような目を見て、形勢逆転するチャンスがあると気付いた。
「影とは?」
「とぼけても無駄ですよ。あなたはエドガー様の影でしょう?」
「私は、エドガー様の影ではありません」
きっぱりとニコラスの目を見て言い放つ。ニコラスの目に、迷いの炎が灯った。トムは、自分の予想が当たり胸を撫で下ろした。
嘘を見抜く方法はトムも習ったが、まだ習得できていない。エドガーの教えを受けたトムはすぐに分かった。ニコラスは、嘘を見抜く術を完璧にマスターしている。
だからこそ、彼は迷っていた。エドガーの影ではないトムが、アルフレッドを探そうとしていた理由が分からず、戸惑っている。
アルフレッドはイライラしていた。完璧に計画通りとはいかなかったが、ミランダと婚約破棄できた。ミランダのような完璧な淑女が、婚約破棄。降ったばかりの雪に足跡を付けるような快感がアルフレッドを襲った。
ソフィアは少し頼りなく見えたが、母のお気に入りだから大丈夫だろう。母が気に入っている子だ、全力で王になる自分をサポートしてくれる。そうアルフレッドは思っていた。それなのに、母は気を失った。今もベッドから起き上がれないらしい。
烈火のごとく怒った父に幽閉され、アルフレッドはひたすら仕事をさせられている。五人いた侍従は二人になった。
「くそっ! 口うるさいミランダがいなくなった代わりに、大量の仕事が回って来るようになったではないか! おい! こんなの無理に決まっているだろ!」
「ミランダ様なら一時間で終える量を一日かかるなんて、今まで何をなさっておられたのですか? こちら、追加になります」
侍従のニコラスは、痛烈な言葉でアルフレッドを批判した。
「ふざけるな! お前も手伝え!」
「私はミランダ様のように優しくありません。ご自分でおやりください。草案も書きません」
「ふざけるな! こんなの終わるわけがないだろう! 少しでも間違えたら書き直し! 時間がいくらあっても足りん!」
「おやおや、おかしいですねぇ。草案を写すだけとはいえ、ご自分でお書きになっていた筈ですよね? まさかと思いますが、やはりミランダ様に代筆をさせていたのですか?」
「それはっ……違う! 自分で書いていた!」
そう言うしかないアルフレッドは、悔しそうに唇を歪めた。ニコラスは淡々とアルフレッドが書き上げた書類を回収し、冷たく微笑む。
「では、それを証明なさって下さい。今までアルフレッド殿下が出していた書類の半分もないのですから、終わるはずですよ。それでは、おやすみなさいませ」
言うだけ言うと、ニコラスはすぐに部屋を出て行った。アルフレッドの怨嗟の声を無視して歩くニコラスは、潜んでいたトムをあっさり見つけると冷えた声で呟いた。
「あんな人でも、見捨てられないのです。手を出さないでいただけますか?」
「なんのことですか? 私はこれを届けるように命じられただけです。アルフレッド殿下にお会いすることは出来ますか?」
「そうですか。早とちりだったようですね。殿下に会えるのは、私ともう一人だけです。いかなる理由があろうとも、殿下にはお会いできません。届け物は私がお持ちします」
侍女達と同じ言い訳は通じないと思ったトムは用意していた手紙をニコラスに手渡した。
「分かりました。こちらです。よろしくお願いいたします」
「確かにお預かりしました。すぐには渡せません。手紙は全て検閲します」
検閲と言われ、トムは焦った。ソフィアからの手紙だと分かれば、どこから預かったのか追及される。アルフレッドを動かすためにソフィアの名を騙ったのは失敗だった。焦ったトムは更に失敗を重ねてしまう。
「王太子殿下の手紙を検閲ですか?」
「あの方が王太子のままでいるためには、こうするしかないのです」
「そうですか。では、これはアルフレッド殿下の手に渡らないかもしれませんね」
ニコラスは目を細め、冷たく微笑んだ。月明かりに美しく照らされたニコラスの微笑みは、ゾッとするなにかを孕んでいた。
トムはすぐに、自身の失言に気付いた。バーナード侯爵家で影と対等に渡り合い、セルの人達に認められ、ミランダと婚約できた。自分が失敗などするわけがないと、驕っていた。影の世界は、失敗は許されない。自分の正体が王太子側に付いているニコラスに知られればどうなるか。自分だけでなく、ミランダ達の未来も閉ざしてしまうかもしれない。トムは必死で頭を働かせた。
ニコラスはトムの焦りを見透かしているかのように、淡々と質問を重ねる。
「貴方はこれを読んだのですか?」
「私は検閲する権限などありません」
「ふぅ。エドガー様の影は優秀ですねぇ。嘘を吐かず、うまく乗り切ろうとなさっている」
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☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)