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第十九話

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「まずは店に来る無茶苦茶な貴族の対策ね。店を分けましょう。見た目だけ豪華な店で、貴族は会員制にするの。今取引がある貴族で、マトモな人は会員にして、無茶を言う人には……わたくしが会員になるから、わたくしから紹介して頂くよう言って。バッチリお相手してあげるわ」

事前情報を集めておけば、対策は立てられます。

「マリーに負担をかける訳にいかないよ」

「でもこのままだと従業員は持たないわ。話を聞いたけど、納期を早めろとか、入手困難な布を全面に使えとか、酷いのになると支払い踏み倒しよ?! 傲慢な貴族は大っ嫌いなの。鼻柱を折ってあげるわ。ねぇ、わたくしがお気に入りの店を見つけて、贔屓にするのって問題ある?」

「いや、ないよ。母上も妹も贔屓の店があるし、そこは御用達なんてつけてなくても人気店だ。その辺りは前世みたいに厳しくないんだ。王族は割と自由に出来るよ。そのかわり責任は重くのしかかるけどね」

「そうね、責任を取って辞任する訳にもいかないものね」

「そうなんだ。死ぬまで責任から逃れられない。僕か弟が一生責任を負うんだ。正直逃げたくなるけど、マリーといる為なら頑張るよ」

この世界の国王は、長子相続ではありません。現国王の指名制です。現国王が、辞任を決めたら相続権のある者から最も適した者を指名します。

女性にも相続権はありますが、男性が優先ですからセドリックと弟君のどちらかが次代の国王陛下になるでしょう。

女王も過去には居たようですけど、セドリックの妹君は、既に隣国の王子との結婚が決まっております。おふたりはとても仲が良く、想いあっているのが分かります。とても素敵なカップルですわ。

「わたくしもセドリックといる為ならどんな事でも頑張るわ。対策を考えたんだけど、わたくしが視察でこの店を気に入った事にしましょう。一応わたくしは国王陛下の養子なんだから、わたくしの為に貴族用の店を作った事にすれば良いわ。訪問も予約制にしましょ。ブラックリスト入りの貴族は、わたくしに回して。すんなり会員になれた貴族がいると知れば文句を言ってくるだろうけど、わたくしに会える特別な招待枠だとでも言えば良いわ。今までの店は全て平民しか入れないようにして、貴族が入っても平民と同じ対応しかしないと公言するの。しばらくしたら、わたくしがわざとお忍びで行くわ。わたくしでも平民と同じ対応をされたと噂を回せば、文句言える人は居なくなると思うんだけど……どうかしら?」

「凄いね、それなら問題なさそうだ」

「なんならお母様にも協力頂きましょ、王妃様に文句を言える貴族が居る?」

「いや、居ない」

なるほど、貴族の力は強くても王族がきちんと頂点に君臨しているのね。それなら動きやすいわ。

「わたくし達はあくまでお気に入りの店で買い物しただけ。倫理に反する行動はしていない。問題ないか、お母様達にも確認するけど大丈夫そうならコレでいきましょう。威張るだけの貴族は、サクサク対処するわ」

「マリー、生き生きしてるね。その辺の対応はマリーの方が上手いからね。僕の店の為に迷惑かけてごめんね」

「問題ないわ。そのかわり、少しだけわたくしに投資して」

「もちろん良いよ。何をやるの?」

セドリックとお忍びで街中を散策しました。この世界に生まれて初めてまともに外に出ました。セドリックと出会う茶会までは屋敷から出る事はなかったのですが、この世界は全体的に中世ヨーロッパ風です。

だけど、妃教育で転生者のリストを見せて頂いたら、前世で和傘職人さんや、江戸切子の職人さん、風鈴職人さんが居ました。

今は小物職人や、ガラス職人をしているようですが、和傘も、江戸切子も、風鈴もありません。着物はあるようですが、小物まで和風の物はないようです。

わたくしはそれに目をつけました。和傘、江戸切子、風鈴……どれも前世で持っていました。職人の腕が分かりませんが、作ってみる価値はあると思います。
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