ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう

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目眩

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「武蔵…腹がゴロゴロいってるからちょっと抜ける…」

2限目があと30分ほどで終わるという辺りで、仁が弱々しく袖を引っ張ってきた。
羽織っている上着の内側に、腹を労るように擦る腕が見える。
夏が始まったばかりで、外の茹だるような暑さと講義室内の芯が冷える寒さとの温度差にまだ体が慣れていない。
病気知らずの俺と違い、仁にはこの温度差は辛かろうと家を出る時に仁用の上着を持って出たのだが、それを使っても体が限界を超えたらしい。

「仁の分もノートを取っとくな。帰りたくなったら連絡くれ」

声を落として喋る俺へ、消え入りそうな声で『うん』と応えた仁はスマホをポケットに滑り込ませて講義室を出て行く。
さっきまで仁が書き込んでいたルーズリーフを引き寄せて、どこまで書いているのか目を通した。

『思い遣りのある字だ』

男友達の中には字ともつかぬ何かを書く奴も居たが、仁は後から見直しやすく、読みやすい字を書く。
字はその人の内面を表すってのは、あながち間違いじゃねえんだろう。
進捗を把握してその下に連なるように書き始める。
俺が書道の行書の如く字を書くせいで、仁の凛とした字と並ぶと荒々しく見えるな。
出来るだけ楷書をイメージしてシャーペンを動かしていると、後ろに座っていた友人のかずが俺が座っている椅子を下から小さく蹴ってきた。
振り返れば、机上から頭しか見えないほど滑り落ちていた和が座り直している。

「産気づいたん?」
「保健体育の授業、爆睡してたのか?」
「冗談、ジョーダン!希少種見るような目で見るんじゃねぇー」

和は視線を振りほどくように小さく左右に揺れて、「病気じゃ無いんか?」と少し真面目な顔をして聞いてきた。

「冷え過ぎだな。今日は特に暑ちぃから」

和の方へ傾いていた姿勢を戻しながら、僅かに眉間に皺を寄せて返答する。
ファッ◯ンサマー、と呟いて和の意識が教壇の方に移った。
あまりに長く話すとこの教授は注意してくるんで、会話は最小限だ。
教授がこっち向きながら話してるのを見るに、トイレに出ていったのは気付いてそうだな。
和に習って俺も黙々とノートを取っていると、カバンに入れているスマホが震えた。
教授の目から見えないよう机の影で立ち上げ、連絡内容を確認する。

『頭がクラクラしてきたから、大至急ポラリ買ってくる』
『大学内の保健室に行ったらどうだ?スポドリくれるって聞いたぞ』
『どうせ本調子になるまでに1時間ぐらいかかるし…。次の1コマ休んで家帰って寝たほうが治る気がする』
『この授業はどうすんだ?最後にちょっとだけ戻ってくるか?』
『最後10分だけ戻る。戻って来なかったら荷物一緒に持って出といて』

一緒に帰ってやりたいが、『次の授業のノートも取っといて!』と言われるのが目に見えている。
昼休み中に終わらせなきゃいけねえ課題もあるし、短時間で往復できるほど近くに住んでる訳でもない。
腹立たしいが、しっかり注意をすることで手を打つか。

『何かする"前"にポラリ飲めよ。
荷物は纏めとくからゆっくり休んで戻って来たら良い』
『ありがとう』

仁の返答に少年漫画のキャラクターがウィンクをしているスタンプが後続する。
このキャラクター、チャラい性格の癖に俺と同じ「ムサシ」なんだよな。ちっと承服しかねる。

ちなみに仁と俺はウィンクが出来ない。
何度かウィンク練習会を開催したが、俺も仁もうっっっすら片目を開けることしか出来なかった。
いつだったかそれを和に話したら、小器用に左右交互でウィンクを連投してきたため、顔面を鷲掴みにして地面から浮かそうとしたことは、和が今でも根に持っている。
あの時仁に止められなかったら振りかぶって投げてやったんだがなぁ…。

幾許いくばくか体感温度が下がった席でノートを取り続けていると、驚いたことに授業が5分早く終わった。
いつも時間ぴったりにしか終わらねぇくせにどうした。
背後で和が教授を2度見した気配を感じる。リアクションが暑苦しいぞ。
まあ良い。
仁を労る時間が出来たんだ。有効活用しねぇとな。
俺の荷物と仁の荷物を大急ぎで纏めて教室を出た。
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