4 / 16
第四話
しおりを挟む
キャサリンとの生活が始まって、もうすでに五年という月日がたった。成功の人生が続くと思っていたら、なぜだかすべて悪い方へ動いている。両親はキャサリンの事を嫌い始めているし、キャサリンの父親でモンタギュー伯爵には毎月仕送りをしている。王宮に勤めていると聞いていたのに全くモンタギュー伯爵はお金を持っていなかった。キャサリンから聞いたところによると、モンタギュー伯爵は家族にしか言っていない借金があった。その借金は裏社会から借りたもので、返済に目途などつかなかった。
子供を産みたがらないキャサリンとはもう3年近く同じベッドで寝ていない。顔を合わせるたびに父上から母上から子供の事を聞かれる。その話にうんざりしたキャサリンはとうとう僕の両親と顔を合わせなくなった。
そして、最初の一、二年は全然気にしていなかったキャサリンの言動が気になり始めた。キャサリンは最低限のマナーはあるにせよ。上流階級の会話の仕方、お辞儀の仕方、様々な教養が欠けていた。僕の従妹の結婚式の日、新婦よりも目立つ真っ赤なドレスを着てきたときは顔から血の気が引いた。
いくら注意してもキャサリンに悪気はないから太刀が悪い。まるでこの世界は自分を中心に回っているような口ぶりばかりをして、相手を気遣うという事が全くできない。様々な女性に会うとまるで自分の方が立場が上であるかのように、顎も引かず胸を張っている。
出会った頃はそれでもよかった。アンナと違いハキハキとしていて、自分に自信を持っていたから。でもマナーや教養で言えば、アンナの方があった。アンナは男より前に出るような事をしなかったし、確かに上の空の時も多かったが、それでも別に問題はなかった。
アンナは僕より一歳年下だった。今は二十二。まだまだ結婚できる年齢だ。もしかしたらまだ結婚していない可能性が全然あり得る。今ならまだ引き返せる。まだ僕は二十三だし、アンナは二十二。これからだって上手くやっていける。キャサリンのおかげで子供は出来ていないし、離婚だってしようと思えばできる。
きっとアンナは結婚していない。きっと父親であるハミルトン男爵と一緒に宮廷魔法使いとして、王宮に勤めていたはずだ。
王宮に国王陛下の身の回りの世話として勤めている友人のカルロスに連絡を付けた。そいつは王宮の中でも長く勤めている。会うのは本当に久しぶりだけれど、騎士団に所属していたころよく会って話していた。
週末、僕の屋敷へ来てもらう事となった。
「久しぶりだな。エリック。大人びたじゃないか」
「ああ、五年もたてば嫌でも大人になる」
軽くハグをして、リビングへ案内した。廊下でキャサリンが通りかかった。金髪の髪をなびかせながらにっこりと笑った。来客用に見せる笑顔だ。もうずいぶん僕はそういう顔を見ていない。
「どうも奥様。エリックの友人のカルロス・アルバートンです」
「ごゆっくりして行ってくださいね」
優雅に階段を上っていった。その動作一つ一つにカルロは食い入るように見ていた。男たちは皆キャサリンの事に夢中だ。どこへ行っても。
「お前本当にラッキーだったな。あんな美女と結婚できて」
「まあ、良いことばかりじゃないさ。それより入ってくれ。ワインを用意してある」
「ありがとうよ」
お互いに今までの事を話しながら、ワインをちびちびと飲んだ。そこまで昔でもない昔話にも花を咲かせ、お互いに楽しんだ。
「酔う前に聞いておきたいことがあるんだ」
「なんだ?何でも聞いてくれ。俺が応えられる範囲で」
予想ではまだアンナは王宮で働いているだろう。恋愛が好きという風でもないし、男と話しているところも見たことが無かった。
「宮廷魔法使いのハミルトン男爵知ってるか?」
「ああ、知ってる。あの人ちゃんとすごいよ。王宮の政治家より断然役に立つ。器用だし、謙虚だし、国王も信頼してるみたいだぜ。国王陛下の暗殺を二度も助けたとか」
「え?そうなのか?」
そんな話一度も聞いたことが無かった。国王の命を救うなんて英雄じゃないか。なぜそんな人がこの国で有名じゃないんだ。
「自分から優秀さを見せびらかす人じゃないし、良い噂ってのは広まりにくいものだからな」
「ああ、それでそのハミルトン男爵の娘。アンナ・マリー・ハミルトン。知ってるか?」
しばらく唸り声を上げながら額を親指でトントンとしていた。
「あ、ああ、思い出した!王女様の面倒見てた。娘の方も優秀でさ。花畑は出すわ。花火は打ち上げるわ。あの泣き虫で乳母を困らせてた王女様を手懐けてたよ」
「それで、そのアンナは今も王宮で働いてるのか?」
やっぱりそうだ。王宮で働いていた。
「いや、隣国の公爵と結婚したんだよ。エリックも知ってると思う。ウィンチェスター公爵っていう。騎士団の団長やってる男と」
「は?」
子供を産みたがらないキャサリンとはもう3年近く同じベッドで寝ていない。顔を合わせるたびに父上から母上から子供の事を聞かれる。その話にうんざりしたキャサリンはとうとう僕の両親と顔を合わせなくなった。
そして、最初の一、二年は全然気にしていなかったキャサリンの言動が気になり始めた。キャサリンは最低限のマナーはあるにせよ。上流階級の会話の仕方、お辞儀の仕方、様々な教養が欠けていた。僕の従妹の結婚式の日、新婦よりも目立つ真っ赤なドレスを着てきたときは顔から血の気が引いた。
いくら注意してもキャサリンに悪気はないから太刀が悪い。まるでこの世界は自分を中心に回っているような口ぶりばかりをして、相手を気遣うという事が全くできない。様々な女性に会うとまるで自分の方が立場が上であるかのように、顎も引かず胸を張っている。
出会った頃はそれでもよかった。アンナと違いハキハキとしていて、自分に自信を持っていたから。でもマナーや教養で言えば、アンナの方があった。アンナは男より前に出るような事をしなかったし、確かに上の空の時も多かったが、それでも別に問題はなかった。
アンナは僕より一歳年下だった。今は二十二。まだまだ結婚できる年齢だ。もしかしたらまだ結婚していない可能性が全然あり得る。今ならまだ引き返せる。まだ僕は二十三だし、アンナは二十二。これからだって上手くやっていける。キャサリンのおかげで子供は出来ていないし、離婚だってしようと思えばできる。
きっとアンナは結婚していない。きっと父親であるハミルトン男爵と一緒に宮廷魔法使いとして、王宮に勤めていたはずだ。
王宮に国王陛下の身の回りの世話として勤めている友人のカルロスに連絡を付けた。そいつは王宮の中でも長く勤めている。会うのは本当に久しぶりだけれど、騎士団に所属していたころよく会って話していた。
週末、僕の屋敷へ来てもらう事となった。
「久しぶりだな。エリック。大人びたじゃないか」
「ああ、五年もたてば嫌でも大人になる」
軽くハグをして、リビングへ案内した。廊下でキャサリンが通りかかった。金髪の髪をなびかせながらにっこりと笑った。来客用に見せる笑顔だ。もうずいぶん僕はそういう顔を見ていない。
「どうも奥様。エリックの友人のカルロス・アルバートンです」
「ごゆっくりして行ってくださいね」
優雅に階段を上っていった。その動作一つ一つにカルロは食い入るように見ていた。男たちは皆キャサリンの事に夢中だ。どこへ行っても。
「お前本当にラッキーだったな。あんな美女と結婚できて」
「まあ、良いことばかりじゃないさ。それより入ってくれ。ワインを用意してある」
「ありがとうよ」
お互いに今までの事を話しながら、ワインをちびちびと飲んだ。そこまで昔でもない昔話にも花を咲かせ、お互いに楽しんだ。
「酔う前に聞いておきたいことがあるんだ」
「なんだ?何でも聞いてくれ。俺が応えられる範囲で」
予想ではまだアンナは王宮で働いているだろう。恋愛が好きという風でもないし、男と話しているところも見たことが無かった。
「宮廷魔法使いのハミルトン男爵知ってるか?」
「ああ、知ってる。あの人ちゃんとすごいよ。王宮の政治家より断然役に立つ。器用だし、謙虚だし、国王も信頼してるみたいだぜ。国王陛下の暗殺を二度も助けたとか」
「え?そうなのか?」
そんな話一度も聞いたことが無かった。国王の命を救うなんて英雄じゃないか。なぜそんな人がこの国で有名じゃないんだ。
「自分から優秀さを見せびらかす人じゃないし、良い噂ってのは広まりにくいものだからな」
「ああ、それでそのハミルトン男爵の娘。アンナ・マリー・ハミルトン。知ってるか?」
しばらく唸り声を上げながら額を親指でトントンとしていた。
「あ、ああ、思い出した!王女様の面倒見てた。娘の方も優秀でさ。花畑は出すわ。花火は打ち上げるわ。あの泣き虫で乳母を困らせてた王女様を手懐けてたよ」
「それで、そのアンナは今も王宮で働いてるのか?」
やっぱりそうだ。王宮で働いていた。
「いや、隣国の公爵と結婚したんだよ。エリックも知ってると思う。ウィンチェスター公爵っていう。騎士団の団長やってる男と」
「は?」
229
あなたにおすすめの小説
こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~
狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。
もう、こんな婚約者知らない。
私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。
みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
(完結)私は一切悪くないけど、婚約破棄を受け入れます。もうあなたとは一緒に歩んでいけないと分かりましたから。
しまうま弁当
恋愛
ルーテシアは婚約者のゼスタから突然婚約破棄を突きつけられたのでした。
さらにオーランド男爵家令嬢のリアナが現れてゼスタと婚約するとルーテシアに宣言するのでした。
しかもゼスタはルーテシアが困っている人達を助けたからという理由で婚約破棄したとルーテシアに言い放ちました。
あまりにふざけた理由で婚約破棄されたルーテシアはゼスタの考えにはついていけないと考えて、そのまま婚約破棄を受け入れたのでした。
そしてルーテシアは実家の伯爵家に戻るために水上バスの停留所へと向かうのでした。
ルーテシアは幼馴染のロベルトとそこで再会するのでした。
婚約破棄された令嬢は、それでも幸せな未来を描く
瑞紀
恋愛
伯爵の愛人の連れ子であるアイリスは、名ばかりの伯爵令嬢の地位を与えられていたが、長年冷遇され続けていた。ある日の夜会で身に覚えのない婚約破棄を受けた彼女。婚約者が横に連れているのは義妹のヒーリーヌだった。
しかし、物語はここから急速に動き始める……?
ざまぁ有の婚約破棄もの。初挑戦ですが、お楽しみいただけると幸いです。
予定通り10/18に完結しました。
※HOTランキング9位、恋愛15位、小説16位、24hポイント10万↑、お気に入り1000↑、感想などなどありがとうございます。初めて見る数字に戸惑いつつ喜んでおります。
※続編?後日談?が完成しましたのでお知らせ致します。
婚約破棄された令嬢は、隣国の皇女になりました。(https://www.alphapolis.co.jp/novel/737101674/301558993)
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
[完結]愛してもいいんですか?
青空一夏
恋愛
エレノアはニューマン侯爵家の一人娘で天性の歌の才能に恵まれた美しい令嬢である。エレノアの恵まれた立場と美しさ、才能に嫉妬した従姉のセリーナ。彼女は巧妙な言葉で「愛することで人を不幸にする」とエレノアに信じ込ませた。罪悪感に囚われたエレノアは、婚約者デイミアンと結婚したものの……
※作者独自のゆるふわ設定の世界です。異世界設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる