【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ

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第十五話

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 両親からの手紙を読ませてもらい、両親がどれだけエリックのことを信頼しているかどうかがよくわかった。父は随分前からエリックに経営学を教えていたらしく、父の仕事もエリックが手伝っていたらしい。それに母も彼は破天荒だけど、良い人だからと書かれていた。母がそう言うのであればそうなのだろう。

 少しばかりの散歩をして私はエミリアと一緒に軽食を食べていた。

「舞踏会へは旦那さん以外の人と行っても大丈夫なの?」
「ええ。いろんな人が舞踏会へ来て、ルールがあいまいになるじゃない?あの舞踏会は。だから大丈夫だろうって」
「確かにね。愛人と来てた男性とか、旦那さん以外の男性にエスコートされてたり、あの舞踏会じゃザラだものね」

 貴族だけでなく、国に富みをもたらしている大商人、大人気な舞台女優や小説家、なにか賞をもらった科学者。様々な人が集まってくる。貴族だけのルールに囚われなくなる。

「あのね、こんなことを言ったらエリックに怒られちゃうかもしれないんだけど」

 唐突に遠くを見つめながらエミリアはそう話を切り出した。暖炉で燃える火の音だけの沈黙が漂い、一度頷いてから私と目を合わせた。

「エリック、彼って表向きはすごく口が悪くて、悪戯好きなのよ。マジックトイハウスなんておもちゃ屋を経営してるの。子供用の玩具とか、悪戯用の玩具とか。それと、かなり問題行動も多くてね。反社会的っていえばいいのかな」

 飲んでいた紅茶を置き、私は驚いていた。いや驚愕という言葉の方がしっくりくる。確かに言葉遣いが荒くて、たまに人のことを馬鹿にしているようなところはあるけれども、反社会的だなんて、そんな大げさなことはないだろう。ちょっとした問題児、それが私の中で一番カッチリと型にはまる。

「反社会的は少し言いすぎなんじゃない?確かにちょっと言葉遣いが荒いところがあるけど」
「それ、お姉様だけ特別なのよ」

 目を細めてエミリアはそう告げた。そこには意味深な雰囲気がある気がした。

「一番酷かったのは、お姉様が結婚したとき。私ももう夫と婚約の話が上がっていたから、よく夫から話を聞かせてもらったんだけど。あの時彼、夜遊びに耽っていてね。何人も女性と関係を持っていたの。それに酒浸りになって、アルコール依存症になってたこともあったって。たしか暴力事件なんかもあったわね」

 カールと結婚してちょうどの時、エリックからの手紙が途絶えていた時期だった。半年間全くエリックから手紙がやってこなくて心配だった。半年経ったある日、唐突に彼から手紙がやってきた。今まで返事を書けなくて悪かったと、謝られた。

「それは、私がエリックと関係を持つことを懸念してるってこと?」
「いえ、別に、彼お姉様にはとっても優しいし、良い子ちゃんでしょ?自分がやったこと本当はバレたくないのよ」
「それ、貴方分かってるのに、私に話して言いわけ?」

 クッキーに手を伸ばして一口食べたエミリアは、周りを見渡してから、私に手招きした。顔を近づけて、耳を向けると、エミリアは小声で耳打ちした。

「これ全部エリックに言えって言われたの。自分から話す勇気が無かったんじゃない?それとね、ほら、私がこの屋敷に来た時の夜、お姉様いろいろ話してくださったでしょ?自分じゃ聞き出せないからって、私に頼み込んできたの」
「なんで知らせる必要があったの?」
「知らない。お姉様に黙っているのが苦痛だったんじゃない?ほらエリックってお姉様の前だとすごく物静かで、クールなイケメンって感じじゃない?性格も変わるらしくてね、お姉様の前だととっても素直な子犬ちゃんになるの。お姉様の前じゃ良い子ちゃんになるから、隠し事が苦痛になったんでしょ」

 少しばかり私はエリックのことがかわいく思えてしまった。

「それと、あと三日もすれば舞踏会があるじゃない?お姉様エリックと隣を歩くときは気を付けてね」
「なにに?」

 首をかしげると、エミリアは今日の新聞に目をやった。

「悪質な記者、ミランダ・ローズ。エリックの印象操作したのも彼女よ」

 悪質な記者なんていくらでもいると思っているけれども、ミランダ・ローズの名前は良く新聞で目にする。かなり大げさに書かれているのだろうけれども、他の人はそれを全くの事実だと疑わないということも知っている。

「実のこと言うとね、さっきの話もその話の内容が少し混じってるかもしれない、実際エリックと本心で話したことが無いし、私に本心は分からないの」
「いえ、良いのよ。私は彼の本心をいつも手紙の中で見てきたもの」
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