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第3章 苦労と、新たなる星に

第7話

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 そうこう言うてる内に、『感知』スキルから読み取れる気配が徐々に近付く。
 目標はどうやら、鼻が効くのか知らないが、俺達の存在に気付いた様だ。

「ねえヴァイス、まだ?」

「ちょっと待て、方角はわかっても性格な位置まではわからない。…けど、どんどん近づいて来てるのはわかる」

 前衛が不安なのかイリスが頻りにこちらを振り向いては、モンスターの位置どりを把握しようとする。
 二人の時は横並びに歩いていたが、三人共なればパーティとしての動きのシステムに慣れなくればならない、ローウェルも加入し四人での動きに、迷宮ダンジョンの攻略に対してもイリスのポジションには変更点はない。
 多少練習として、慣れて貰わねばイリス自身やパーティの生存率を上げるのに必然である為、一人先頭を歩く彼女に「気を付けながら前を向いてて」と言うしかなかった。

 時に親は、可愛い我が子を谷に突き落とすなんて非情な言葉がある。
 イリスが可愛いか云々は別として、後として、この先のパーティメンバーで俺がAランクになった事で付き纏う迷宮ダンジョン攻略は、彼女とアスティアには少し重荷なのだ。
 少しでも二人の生存率を上げなくれば、これがローウェルが最後に「懸念している事がある」と帰る前に言っていたの思い出し、それが二人の事だろうと一瞬にして理解した。

「ん、ちょっと待って」

 不意に『感知』から新たな気配が現れたと思ったら1つが近寄り一瞬にして消えた。
 最初はマズイ事に夫婦が合流したかと思ったが、遠すぎてよく分からない。
 だが、確かに1つの魔力電磁波が消滅した。

「どうしたの?」

 アスティアが後ろから聞いてくるが、聞かれた所でわかるわけもない。

「1つの反応が増えて、1つの反応が消えた」

「は?」

 いや、そんな反応されてもこちらも同じ心境なのだがと、思いながら呼吸を整える。

 ……やれやれ。

「二人は此処に居てくれ、少しだけ様子を見に行ってくる」

 間者、物見、こういった事は盗賊職である俺の仕事だ。
 迷宮ダンジョン探索でもやる事になるだろう。丁度いい、練習がてら行くのも良いかと思う。

「大丈夫なの?」

 イリスの心配そうな表情に髪を撫でながら、「大丈夫」と優しく返す。

「休んでて良いが、何かあるかもしれないし。警戒だけはしててくれよ?」

「アンタも気を付けなさいよね」

 アスティアの言葉に黙って頷き、屈伸運動をした後に小さく息を吐き出す。

 ー『速度強化』発動。

♢♦︎♢

 アスティア、イリスの目から見て一瞬の光景。
 二人は彼が屈伸運動を行い終わり立ち尽くしいたかと思うと、ヴァイスはその場に居なかった、いや消える様に去った。
 完璧に音もなく、地面を蹴る音も聞こえず。ただ立ち尽くしていた盗賊の少年は、二人がどこへ行ったのかも追えないスピードで駆けて行った。

 その光景に呆気にとられるアスティアとイリスは、お互い視線を合わせて固まっていた。

「今の、ヴァイス?」

「うん……見えた?」

 アスティアが信じられないと、イリスは彼が見えたかと聞き、二人は首を傾げた。
 彼女等はヴァイスの敏捷が200オーバーの上昇を知らない、ステータス更新の度に見るものでもないと彼はめんどくさく言っていた。

「流石Aランクってとこかしら」

 ちょっと悔しそうにアスティアが言いながら、イリスはニコニコ笑いながら頷いた。

「やっぱりアタシの感は合ってた」

 ボソリとイリスの言葉に、アスティアは聞こえず聞き返すも、「なんでもないよー」とはぐらかす。

「そういえばさ、イリスはどうしてアイツとパーティ組んだの?」

 アスティアの唐突な質問に、「ほえ?」とイリスが答える。

「そうだなー……」

 ほんの一ヶ月ほど前、もう一ヶ月も経っている。まだ一ヶ月しか経っていない。
 そんな事を思い浮かべながらイリスは、初めてヴァイスと会ったタイラントタートルの話をアスティアに聞かせる。
 そして何故パーティを組む事にしたのか、アスティアの質問の答えの前で少しだけ考える素振りを見せながら…。

「うーん、アタシにもわかんないや! なんかビビッと来た感じ?」

 と、いつもの子供染みた笑顔で首を傾げながら笑って答えた。

「ビビッと……」

 そこに何を引っかかったのか、アスティアはなんとも言えない気持ちにかられながら俯く。
 そんな姿にイリスは「どうしたの?」と心配して近寄るが、アスティアは笑いながら手を振って大丈夫だと言った。

「お腹減ったの?」

 変な勘繰りは、お互い知力数値が低いおかげか、両者の思いとは検討はずれの方向に思わずアスティアが笑いを吹き出した。

「ぷっ、あはは」

 アスティアの唐突な笑い声に、イリスもなんだか解らず釣られて笑い出した。

 ーその二人の談笑に一人颯爽と近付く影あった。

♢♦︎♢

「確か…この辺りで」

 『感知』スキルを全開に辺りを見回す。
 岩肌が露出した、大小の岩の群を見渡しながら、ヴァイスは反応が消えたであろうポイントに到着した。
 近付くにつれて、1つの反応がまた消えた。
 今度のは一瞬の消滅ではなく、ゆらりとした隠遁の様な気持ち悪い消え方を感じ取った。

「こんな場所で隠れる場所なんて…」

 どうも広範囲に広げすぎたおかげで、小さく『感知』スキルを発動させているのだが、上手くコントロールが出来ない。
 反応があっても鳥であったりと、敏感になり過ぎてしまった。

「ちょっと気持ち悪いな…」

 そう思いながら、スキルを解除にして一息いれる。
 自身のレベルアップに伴い、ヴァイス自身も驚きを隠せない身体能力の向上に自分の身体や筋肉の付き具合を触りながら確かめる。

 ー今の所変わった気はしない。

 自分の身体の変化は、触っても日々毎日見ている変わらない自分のままであった。
 特段ムキムキになったり、カチカチの筋肉質ではない、いつも通りのちょうどいい肉体のままだった。

「おや、誰かと怯えていたら君か…」

 不意に背中から投げかけられた言葉に、身を素早く反転させ短刀を構える。
 正体は、金髪碧眼の容姿端麗の男。岩に身を寄りかかりながら、挨拶を交わす彼はー。

「ライズさん!?」

「やあ、ヴァイス君。また、会ったね」

 スズレンの前の村で、温泉で一緒になったライズがその場にいた。

「いや~、勢い良く誰かが近付くから息を殺して隠れてしまったよ」

 飄々とした態度で「今日は暑いね」と羽根つきのハットを被りながら、ライズは呆気に取られるヴァイスの元へと歩み寄る。

「ライズさん、どうしてこんな所に?」

「いやなに、この辺にね。秘密の秘湯があるんだよ。僕は温泉に目が無くて、近々クロムで都市入祭がやるじゃないか。それを思い出したら此処も思い出してきてね」

「秘湯、ですか?」

「そーそー、すっごい綺麗な天然露天温泉さ。気になる様なら教えてあげるけど、今日も一人なのかい?」

 ライズの言葉にすっかり忘れていたお荷……大事な仲間を思い出し、本来の目的も思い出すヴァイス。

「そうでした!モンキーゴーレムの討伐で、ちょっと様子見で……」

 ヴァイスの説明にライズはニコニコと頷きながら、楽しそうに聞き入り「あー」と手を叩いて思い出した様に呟いた。
 そのついでにスズレンの出来事も話をして、ライズは「災難だったね」や「凄いじゃないか」と、普段褒められない言葉が嬉しくてヴァイスはたまらなかった。

「そうか、屍の巨人兵と……。それと、今日はモンキーゴーレムの討伐か。それに仲間も増えて3人とは、話を聞いてると君は飽きないね」

 ライズがイリスとアスティアの事を楽しそうに反応しながら、モンキーゴーレムを誤って討伐してしまった事を告げられる。

「ええ!?倒しちゃったんですか?」

「はは、オスの方をね。ゆっくりと湯に浸かっていたら邪魔をされて……つい。それにまあ、裸で追いかけたものだから驚いたよ、君が来て」

 ついで倒すとは、それにモンキーゴーレムも愛の巣でまさか温泉に浸かっている侵入者を見つけて動揺しただろうなと思いながら、裸で狩りに行くライズを想像し辛く、ヴァイスは苦笑いを浮かべる。

「うん、なんならお詫びと言っては付いてくるといい。僕がメスの居場所まで案内しよう」

 ライズはそう言って歩を進める。

「あ、でも仲間が」

「何、呼びに行く間にメスは新たなオスを探しに出てしまうよ? 達成報酬はメスの方が確か高かったはずだ。つがいというものは不思議で、半身がやられるのは敏感に察知してしまうのだよ。だからメスは大半が逃げ出して討伐が不完全になってしまう事が多い」

 それは知らなかったとヴァイスが驚いていると、「長いからね」とクスリと笑ってライズは歩みを進める。

「僕のせいでもあるから、このまま行って手伝おう。何、お友達は温泉に連れてってあげればご機嫌になるさ」

 確かに、と思いながら、単純思考の二人を思い浮かべて、何よりも少し会話をしただけで憧れてしまうオーラを持つライズと一緒に少しだけでも戦えるのだ。
 ヴァイスは自分の気持ちを優先して、ライズの後を追うのを選んだ。
 『感知』スキルを放ったが、二人が居る場所にはモンスターの気配はなかった。

 一応モンキーゴーレムの習性の1つとして、愛の巣の邪魔者を排除してから子作りすると本で読んだ事がある。
 子を襲われない様に山にいる他のモンスターを追い出してから、ゆっくりと子を育てるとの事だ。

「場所は近い、良いね?」

 ライズはニコリと笑いかけ、ヴァイスは小さく頷きながら、二人の視線の先にある洞窟を見た。
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