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第3章 苦労と、新たなる星に
第8話
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♢♦︎♢
あれから俺は一瞬の出来事だった。
三天衆の戦闘は実に連携の取れた綺麗な戦いで呆気に取られたが、この自由な旅人ライズはまさに一瞬の物語の一行で終わりを迎える程、簡単にモンキーゴーレムを討伐してしまった。
「すまない。僕は生粋のソロだから、パーティプレイは苦手だった様だ」
苦笑しながら、此方を見向きするも、清々しい程で何が起きたかはわからない俺はただただ呆気に取られる。
モンキーゴーレムは、“ただ近付いただけで消滅”したのだ。
ライズと共に洞窟に入り、俺達に気付いたモンキーゴーレムはドラミングを行い突進して来た。
短刀と、少し長めの短剣を引き抜き身構える俺の前に、ライズはふらりと歩き出してモンキーゴーレムが両手を組み振り上げた拳を叩きつける瞬間に、跡形も残らず、それは見事に消滅した。
「ハハ、なんかごめんね。ヴァイス君」
「あ、いえ。ただ驚いて、今のは…?」
「旅をしていてね、僕だけのスキルが無条件に発動したんだ」
それは一体なんのスキル?と、聞きたくなったが彼はそれを言われるのを避ける様に洞窟を後にした。
慌てて追いかけ、少し遅れて洞窟から抜け出すと、ライズは此方を見ながら地図を手に何かを描いて地図を丸めると、俺に投げ渡した。
「わっ、とと!」
「そこの、印に温泉があるよ。スタート地点は、君のお友達が居る場所にしといたから……それじゃあ、用事があるから僕はこれで」
ニコリと笑い、片手を上げて去って行ってしまった。
…一体、本当に何者なんだろうか。だが悪い気もしない、そして何よりも彼、ライズに対しては不思議と警戒心も怪しさも駆り立てず、胡散臭さも微塵も感じないのだ。
なにか、こう憧れ…いや、親しい間の様な。
なんとも言えない気持ちが、ライズと話すと感じてならない。
彼の去って行く後ろ姿を呆然と眺め、漸くまたもや忘れかけていた二人を思い出した俺は、慌てて『速度強化』で二人の元へと帰る事にした。
流石に待たせすぎて怒っているのか、特にアスティアの怒りを不安げに思い浮かべ身震いしながら、二人が居たであろう場所にたどり着く。
「「あははは!」」
音も無く到着すると、バカみたいに何が面白いのか二人は大笑いして寛いでいる光景を目にする。
それも自分を守る武器を手に離し、地面に起き…警戒心無く談笑を楽しんでいる二人に、なにかこう沸々と感情が湧き上がる。
「…………………」
「もうやだー!」
この女子特有の何が「もうやだー」なのか不思議でならないワードを口ずさむイリスに、アスティアは釣られて口元を抑えながら笑う。
…うん、仲良しパーティで良いね。…なんて思うはずが無い。
「…………………」
「そうそう、思い出したんだけ、どっ!?」
アスティアが懐かしむ様子で話出そうとしたが、漸く俺の帰還に気付いたのか口ごもり始める。
ーなんだい、続けなさい。
そう、俺は無言で笑顔のままアスティアに目配せを送っていた。
アスティアはダラダラと冷や汗を流し、視線を此方に向けたまま乾いた笑みを浮かべたまま「マズイ」と危機感を感じながら固まる様子に、少しは自分の愚かさを理解している様だと素直に褒めよう。
その逆にイリスは突然固まるアスティアに、首を傾げながら視線の後を追って行く。
「あ、ヴァイスおかえりー」
ーーーこの子はダメだ。
悪びれる様子も無く、自分の何より間違った事をしている自覚もない。
「あ、ただいまー。って言うと思ったのかな?」
「イタイイタイ、頭割れちゃう!?」
笑顔には笑顔で、そう笑顔で出迎えてくれたイリスに俺は笑顔で返事を返しながら、その綺麗な白銀の頭を鷲掴みする。
頭の圧迫に涙目で、引っ掴む俺の手を両手で剥がしにかかるイリスに、俺は何を怒っているのか説教する。
「警戒心持って休め、武器を地面に転がすおバカが何処にいる! 迷宮でそれをやってみろ! すぐ死ぬぞ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!! イタイイタイ、離してごめんなさいっ。反省しますからーーーーーーー!!!」
「……アスティア。君も何処へ逃げるつもりだ?」
ギロリと視線だけを音も無く後ずさろうとするアスティアに、逃げ出せない様に睨む。
「ご……………」
「「ごめんなさーーーーーーーい!!!!」」
二人の声が見事にシンクロし、森に響き渡る。
♢♦︎♢
ある程度の説教が終わり、さっきまで楽しいピクニック気分を味わっていた二人はシクシクと涙を流しながら正座している。
俺は石を椅子に見立て、座りながら正座する二人に呆れ果てる。
「何処の冒険者がピクニックする奴がいるんだか、休んでも良いけど気を緩め過ぎると本当に危ないのだけは忘れないでくれ」
「「はい………」」
これだけ怒れば嫌でもトラウマ感覚で記憶に留めてくれるだろうと思いながら、小姑となっている俺は仕方なく今回はこれだけで勘弁してあげる事にする。
次はない。……最近、特にイリスに関しては甘やかし過ぎた面があるのを自覚している分、今後は厳しくしなければと今回の事で決意する。
「それで、どうなりましたか?」
アスティアが珍しく敬語口調でおずおずと問いかける。
「あー、それなんだけど……」
俺は若干疲れてきたせいか、面倒くさくなり。
ふらっと立ち寄った旅人がモンキーゴーレムを倒したとだけ説明する。
…まあ、嘘は言っていない。
それが知り合いである事も、別に説明する程の事じゃないだろう。
「えー! そうしたら依頼どうするの! 家賃!」
イリスの言葉に、アスティアも家賃で反応する。
「まあ、クエスト失敗……にはならないか。一応俺はその場でメスモンキーゴーレムの討伐を見てたから、多少経験値として残ってる可能性があるな…」
「つまり?」
俺が顎に手を当てながら、可能性だけの話をすると、アスティアは早く答えが欲しいのかズイッと前のめりになる。
「メスのモンキーゴーレムは討伐料15万…けど、討伐しては居ないから前金込みで考えて5万くらい?」
「「えええーーーーーーーーー!!!!!!」」
耳を塞ぎながら、まあそうだよな。と思いながら、ライズさんから聞いていた秘湯を思い出す。
説教のせいで、記憶からすっぽ抜けていたが、落ち込んでいる二人を見ながらこれで元気になればと思い、ポーチに入れた地図を取り出す。
「あーでも、旅人さんからお詫びにって天然露天温泉の場所を聞いたんだが……」
“温泉”と言う言葉に、素早く反応する二人は暗く沈んだ表情から、目をキラキラと輝かせて詰め寄る。
感情の起伏が激しく、そして何よりもすぐ釣られる二人に、先程までの説教は多分、もう…忘れているのだろうと呆れ果てる。
「温泉!」
「行きたい!」
「わかったわかった。じゃあ今から行こうか?」
「「やったーー!」」
そうこれから起こる事は、俺すらも想像していなかった。
恐ろしい影が、俺達3人の近くで動いているのを気付く事なく、温泉のある方へと出発した。
『感知』スキルを解除し、モンキーゴーレムが既に追い出したもぬけの殻の山岳地帯を、俺は二人に説教している身分でありながら“油断”していたのだ。
♢♦︎♢
カ、ポーンー。
そんな風情ある音がなる訳でもないが、山岳地帯から少し外れた森深くに、竹藪で囲まれた場所に秘湯は存在していた。
岩の隙間から流れ出る源泉が、岩で囲まれた天然の岩風呂が作られており、硫黄の匂いと湯気が立ち込めていた。
「わーーー!」
イリスがはしゃぎ、アスティアも楽しそうに微笑みながら後ろを付いて行く。
ヴァイスはというと、全速力で街に『速度強化』で戻り、温泉セットを取りに行かされたおかげで岩陰で「ぜー、ぜー」と息を乱れて座り込む。
「くそ……なんで、俺、が…」
岩に背中をもたれながら、後ろで楽しそうにはしゃぐ二人の声を聞く。
「ヴァイスー?」
「なんだよ……疲れてるんだけど…」
アスティアが不意に声をかけると、息切れを起こしながら答える。
「覗いたら殺すわよ」
ドスの効いた声で言い、背後に悪寒が走る。
「バ、バカ! 覗くわけ無いだろ!」
この歳で死にたくも無いと言った思いで、それを強く否定する。
そもそも、わざわざ街に戻ってまで取りに戻ったヴァイスの苦労を、彼女等は感謝して欲しいくらいだと彼は心の中で毒づく。
「はぁ、すっごい気持ちーよー!」
イリスが早速湯に浸かったのか、アスティアを呼んでいる。
いや、俺に声をかけたわけじゃないよな?などとヴァイスは思いながら、黙って暗くなった空を眺める。
見晴らし良く、空は暗く満天の星空が映し出され、月が丸く天然の露天を照らしていた。
「はぁ、見つけたっていうか…教えてもらったの俺なのにな」
走ったせいで汗だくになったシャツを仰ぎながら、そんな独り言を呟いた。
二人、特にアスティアに見張りを頼まれこうして岩壁と竹藪で囲まれた天然温泉の外で、ヴァイスはモンスターの急襲に備えて待機させられている。
と、言っても混浴になるのもそれはそれで、ヴァイスは無い無いと頭を振って否定する。
結局の所、レディファーストという奴だが、何か俺だけは何か嫌な予感で入れない気がしてならないのはフラグだろうか、と考え込んでいるとー。
「「きゃーーーーーーーー!!!!!」」
「ーッ!?」
『感知』スキルに超微弱な反応に気付いた。
「なんで今頃。ーそれよりも最近の急激なレベルアップのせいでスキルの扱いが、くそっ! おい、だぶんっ!?」
「大丈夫か!」そう投げかけようと、岩陰の上に立つと拳サイズの石を顔面に投げつけられる。
そのまま後ろに仰け反り、岩上から落ちかける脇を何かがすり抜けて行く。
「あ、ヴァイス……ごめん」
今の声で、イリスが投げたのだろう。
先程すり抜けた影を狙ったのだろうが、見当違いな方向へ飛んで行き、そこに現れたヴァイスが命中したと理解する。
「ヴァイス! 急いでアイツ追って!」
「ぶへっ!? イッテェ…なんなんだ一体」
アスティアの叫び声よりも、背中から打ち付けた痛みと顔を抑えながら逃げて行った影を見る。
ー『千里眼』。
「へ、サル?」
「モンキーゴーレムの子供よ!」
アスティアがタオルで身体を隠しながら走り寄る。
「どわあっ!? アスティア、なんってかっこー」
「早く追って!! 下着全部盗まれたの!」
………一大事である。
あれから俺は一瞬の出来事だった。
三天衆の戦闘は実に連携の取れた綺麗な戦いで呆気に取られたが、この自由な旅人ライズはまさに一瞬の物語の一行で終わりを迎える程、簡単にモンキーゴーレムを討伐してしまった。
「すまない。僕は生粋のソロだから、パーティプレイは苦手だった様だ」
苦笑しながら、此方を見向きするも、清々しい程で何が起きたかはわからない俺はただただ呆気に取られる。
モンキーゴーレムは、“ただ近付いただけで消滅”したのだ。
ライズと共に洞窟に入り、俺達に気付いたモンキーゴーレムはドラミングを行い突進して来た。
短刀と、少し長めの短剣を引き抜き身構える俺の前に、ライズはふらりと歩き出してモンキーゴーレムが両手を組み振り上げた拳を叩きつける瞬間に、跡形も残らず、それは見事に消滅した。
「ハハ、なんかごめんね。ヴァイス君」
「あ、いえ。ただ驚いて、今のは…?」
「旅をしていてね、僕だけのスキルが無条件に発動したんだ」
それは一体なんのスキル?と、聞きたくなったが彼はそれを言われるのを避ける様に洞窟を後にした。
慌てて追いかけ、少し遅れて洞窟から抜け出すと、ライズは此方を見ながら地図を手に何かを描いて地図を丸めると、俺に投げ渡した。
「わっ、とと!」
「そこの、印に温泉があるよ。スタート地点は、君のお友達が居る場所にしといたから……それじゃあ、用事があるから僕はこれで」
ニコリと笑い、片手を上げて去って行ってしまった。
…一体、本当に何者なんだろうか。だが悪い気もしない、そして何よりも彼、ライズに対しては不思議と警戒心も怪しさも駆り立てず、胡散臭さも微塵も感じないのだ。
なにか、こう憧れ…いや、親しい間の様な。
なんとも言えない気持ちが、ライズと話すと感じてならない。
彼の去って行く後ろ姿を呆然と眺め、漸くまたもや忘れかけていた二人を思い出した俺は、慌てて『速度強化』で二人の元へと帰る事にした。
流石に待たせすぎて怒っているのか、特にアスティアの怒りを不安げに思い浮かべ身震いしながら、二人が居たであろう場所にたどり着く。
「「あははは!」」
音も無く到着すると、バカみたいに何が面白いのか二人は大笑いして寛いでいる光景を目にする。
それも自分を守る武器を手に離し、地面に起き…警戒心無く談笑を楽しんでいる二人に、なにかこう沸々と感情が湧き上がる。
「…………………」
「もうやだー!」
この女子特有の何が「もうやだー」なのか不思議でならないワードを口ずさむイリスに、アスティアは釣られて口元を抑えながら笑う。
…うん、仲良しパーティで良いね。…なんて思うはずが無い。
「…………………」
「そうそう、思い出したんだけ、どっ!?」
アスティアが懐かしむ様子で話出そうとしたが、漸く俺の帰還に気付いたのか口ごもり始める。
ーなんだい、続けなさい。
そう、俺は無言で笑顔のままアスティアに目配せを送っていた。
アスティアはダラダラと冷や汗を流し、視線を此方に向けたまま乾いた笑みを浮かべたまま「マズイ」と危機感を感じながら固まる様子に、少しは自分の愚かさを理解している様だと素直に褒めよう。
その逆にイリスは突然固まるアスティアに、首を傾げながら視線の後を追って行く。
「あ、ヴァイスおかえりー」
ーーーこの子はダメだ。
悪びれる様子も無く、自分の何より間違った事をしている自覚もない。
「あ、ただいまー。って言うと思ったのかな?」
「イタイイタイ、頭割れちゃう!?」
笑顔には笑顔で、そう笑顔で出迎えてくれたイリスに俺は笑顔で返事を返しながら、その綺麗な白銀の頭を鷲掴みする。
頭の圧迫に涙目で、引っ掴む俺の手を両手で剥がしにかかるイリスに、俺は何を怒っているのか説教する。
「警戒心持って休め、武器を地面に転がすおバカが何処にいる! 迷宮でそれをやってみろ! すぐ死ぬぞ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!! イタイイタイ、離してごめんなさいっ。反省しますからーーーーーーー!!!」
「……アスティア。君も何処へ逃げるつもりだ?」
ギロリと視線だけを音も無く後ずさろうとするアスティアに、逃げ出せない様に睨む。
「ご……………」
「「ごめんなさーーーーーーーい!!!!」」
二人の声が見事にシンクロし、森に響き渡る。
♢♦︎♢
ある程度の説教が終わり、さっきまで楽しいピクニック気分を味わっていた二人はシクシクと涙を流しながら正座している。
俺は石を椅子に見立て、座りながら正座する二人に呆れ果てる。
「何処の冒険者がピクニックする奴がいるんだか、休んでも良いけど気を緩め過ぎると本当に危ないのだけは忘れないでくれ」
「「はい………」」
これだけ怒れば嫌でもトラウマ感覚で記憶に留めてくれるだろうと思いながら、小姑となっている俺は仕方なく今回はこれだけで勘弁してあげる事にする。
次はない。……最近、特にイリスに関しては甘やかし過ぎた面があるのを自覚している分、今後は厳しくしなければと今回の事で決意する。
「それで、どうなりましたか?」
アスティアが珍しく敬語口調でおずおずと問いかける。
「あー、それなんだけど……」
俺は若干疲れてきたせいか、面倒くさくなり。
ふらっと立ち寄った旅人がモンキーゴーレムを倒したとだけ説明する。
…まあ、嘘は言っていない。
それが知り合いである事も、別に説明する程の事じゃないだろう。
「えー! そうしたら依頼どうするの! 家賃!」
イリスの言葉に、アスティアも家賃で反応する。
「まあ、クエスト失敗……にはならないか。一応俺はその場でメスモンキーゴーレムの討伐を見てたから、多少経験値として残ってる可能性があるな…」
「つまり?」
俺が顎に手を当てながら、可能性だけの話をすると、アスティアは早く答えが欲しいのかズイッと前のめりになる。
「メスのモンキーゴーレムは討伐料15万…けど、討伐しては居ないから前金込みで考えて5万くらい?」
「「えええーーーーーーーーー!!!!!!」」
耳を塞ぎながら、まあそうだよな。と思いながら、ライズさんから聞いていた秘湯を思い出す。
説教のせいで、記憶からすっぽ抜けていたが、落ち込んでいる二人を見ながらこれで元気になればと思い、ポーチに入れた地図を取り出す。
「あーでも、旅人さんからお詫びにって天然露天温泉の場所を聞いたんだが……」
“温泉”と言う言葉に、素早く反応する二人は暗く沈んだ表情から、目をキラキラと輝かせて詰め寄る。
感情の起伏が激しく、そして何よりもすぐ釣られる二人に、先程までの説教は多分、もう…忘れているのだろうと呆れ果てる。
「温泉!」
「行きたい!」
「わかったわかった。じゃあ今から行こうか?」
「「やったーー!」」
そうこれから起こる事は、俺すらも想像していなかった。
恐ろしい影が、俺達3人の近くで動いているのを気付く事なく、温泉のある方へと出発した。
『感知』スキルを解除し、モンキーゴーレムが既に追い出したもぬけの殻の山岳地帯を、俺は二人に説教している身分でありながら“油断”していたのだ。
♢♦︎♢
カ、ポーンー。
そんな風情ある音がなる訳でもないが、山岳地帯から少し外れた森深くに、竹藪で囲まれた場所に秘湯は存在していた。
岩の隙間から流れ出る源泉が、岩で囲まれた天然の岩風呂が作られており、硫黄の匂いと湯気が立ち込めていた。
「わーーー!」
イリスがはしゃぎ、アスティアも楽しそうに微笑みながら後ろを付いて行く。
ヴァイスはというと、全速力で街に『速度強化』で戻り、温泉セットを取りに行かされたおかげで岩陰で「ぜー、ぜー」と息を乱れて座り込む。
「くそ……なんで、俺、が…」
岩に背中をもたれながら、後ろで楽しそうにはしゃぐ二人の声を聞く。
「ヴァイスー?」
「なんだよ……疲れてるんだけど…」
アスティアが不意に声をかけると、息切れを起こしながら答える。
「覗いたら殺すわよ」
ドスの効いた声で言い、背後に悪寒が走る。
「バ、バカ! 覗くわけ無いだろ!」
この歳で死にたくも無いと言った思いで、それを強く否定する。
そもそも、わざわざ街に戻ってまで取りに戻ったヴァイスの苦労を、彼女等は感謝して欲しいくらいだと彼は心の中で毒づく。
「はぁ、すっごい気持ちーよー!」
イリスが早速湯に浸かったのか、アスティアを呼んでいる。
いや、俺に声をかけたわけじゃないよな?などとヴァイスは思いながら、黙って暗くなった空を眺める。
見晴らし良く、空は暗く満天の星空が映し出され、月が丸く天然の露天を照らしていた。
「はぁ、見つけたっていうか…教えてもらったの俺なのにな」
走ったせいで汗だくになったシャツを仰ぎながら、そんな独り言を呟いた。
二人、特にアスティアに見張りを頼まれこうして岩壁と竹藪で囲まれた天然温泉の外で、ヴァイスはモンスターの急襲に備えて待機させられている。
と、言っても混浴になるのもそれはそれで、ヴァイスは無い無いと頭を振って否定する。
結局の所、レディファーストという奴だが、何か俺だけは何か嫌な予感で入れない気がしてならないのはフラグだろうか、と考え込んでいるとー。
「「きゃーーーーーーーー!!!!!」」
「ーッ!?」
『感知』スキルに超微弱な反応に気付いた。
「なんで今頃。ーそれよりも最近の急激なレベルアップのせいでスキルの扱いが、くそっ! おい、だぶんっ!?」
「大丈夫か!」そう投げかけようと、岩陰の上に立つと拳サイズの石を顔面に投げつけられる。
そのまま後ろに仰け反り、岩上から落ちかける脇を何かがすり抜けて行く。
「あ、ヴァイス……ごめん」
今の声で、イリスが投げたのだろう。
先程すり抜けた影を狙ったのだろうが、見当違いな方向へ飛んで行き、そこに現れたヴァイスが命中したと理解する。
「ヴァイス! 急いでアイツ追って!」
「ぶへっ!? イッテェ…なんなんだ一体」
アスティアの叫び声よりも、背中から打ち付けた痛みと顔を抑えながら逃げて行った影を見る。
ー『千里眼』。
「へ、サル?」
「モンキーゴーレムの子供よ!」
アスティアがタオルで身体を隠しながら走り寄る。
「どわあっ!? アスティア、なんってかっこー」
「早く追って!! 下着全部盗まれたの!」
………一大事である。
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