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第4章 改革と祭り

第4話

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「ーーーーーーっぶな!?」

 間一髪だった。
 小太刀に手をかざされた瞬間、身の危険を感じ前に飛び退いた。
 その刹那に、小太刀は地面に叩きつけられていた。

「ーカッカッカッカ、マジかよ?」

 それはこっちのセリフだと言いたげに、腰元の短刀を引き抜き前に翳した直後、虎の獣人族は小太刀で追撃しーーーそれと激しく交差した。
 鉄と鉄の、刃と刃が激しくぶつかり合い火花を散らす。
 自分で翳したのは偶然構える為であった幸運に、目を見開きながら強襲者の圧倒的なスピードに言葉を無くす。

 マズイマズイマズイーー。

 この場をどう切り抜けるかを思考するよりも、目の前の猛攻、速攻に対処する事で精一杯だった。

「ーーっぐぅ!」

 想像したよりもパワーも強く、押し込まれる形が続く。

「ーんだよ、思ったよりも弱ぇ」

 退屈だとばかりな冷めた目に変わる瞬間を見逃さず、両刃剣バゼラードを抜き放ち攻撃に転ずる。
 ーが、それを軽く姿勢を下げて躱した後に回転蹴りが腹部を襲う。

「ーーーッ!? ぐふっ、けほっ……」

 飛ばされて、地面を転がりながら嘔吐する。
 その際に両刃剣バゼラードが手元から抜け、獣人族の後ろへと滑り落ちる。

「名乗れ……どこのどいつだ?」

 そう言われて名乗れる訳がないだろ。などと思いながら、口元を拭いながらよろっと立ち上がる。

 ーふぅ、どうする?

 辺りを見ても、打開策は1つもない事にティファを思い浮かべて本当にめんどくさい事を引き受けたとため息を吐いた。

「ーあ?」

 その溜め息を不快にさせたのか、苛立ち気に凄まれる。

「や、君じゃないよ。俺はただーー」

 セリフを最後まで聞く事なく、虎の獣人族は咆哮と共に襲い来る。
 最後まで聞け、そんな愚痴を思いながらギリギリ捉えられる範囲で小太刀を受け止める。
 本当にギリギリである。

 一瞬消えたかと思う程のスピードで、眼前にて黒い影が見えたかと思い短刀をそこに合わせると、火花と強い衝撃波が短刀を持つ手に伝わる。
 推測、否推定レベルは遥かに自分を超えている。
 倍と言ってもいいぐらいの強者、そして獣人族特徴の速さで剣撃が迫る中で目を瞑りたくなる程の覇気オーラに圧される。

「ーくっ、」

「カッカッカッカッ!!」

 余裕と言った表情で、相手は口元を吊り上げながら犬歯をギラつかせながら楽しんでいる風に見える。
 それが少し憎たらしく舌打ちしたくなる気持ちの中、徐々に逃げ道とされる来た道を回り込まれ拒まれる事に、更に舌打ちする。

 まさに獰猛な虎といった所か、だがそれ以前に彼の動きに親しみを持てるのは何故だろうと考える。

「……君、同業か」

「あ? 同業…?」

職業ジョブだよ。動き方からして上位職かと勘違いしたけど、盗賊だろう?」

 ピクリと耳が動くのを確認する。
 ーどうやらビンゴだ。そう思いながら、今の打開策を考え得られる時間を稼ぐ為に口を動かした。

「周りの連中も大多数はシーフ系統が多いと見た所か。それにしても、モンスターをこんなに集めて何をしようとしてるんだか、死ぬ前に教えてくれよ。俺は謎解きが好きだし、疑問を持ったまま死ぬ気はサラサラない」

「カッカッカッカッ……お前アホだな。疑問に答えてやるつもりもねーし、てめぇから職業ジョブバラしてちゃ、こっちは対処の仕様が増えるってもんだ。…ま、そんな小細工無しでもてめぇは弱ぇーけどな」

 ごもっともだと頷きかけながら、その言葉の中にある対処の仕様によって相手の職業ジョブも割り出せる事は知らない様だ。
 等と、打開策から検討はずれな脱線思考をしながら小太刀を躱す。

「ーっと!」

 本当に油断出来ないと、首筋を掠められ血を拭いながら目の前の男を見る。

「確かにシーフ系統が多いが、俺はー」

「ーッ、?」

 ニヤリと笑うのを見た後に、獣人族の姿が消えた。
 その瞬間、背後からの殺気にー。

 ヴァイスは命の危機を感じながら振り向いた。

♢♦︎♢

 ー同刻。

 ティファは1人ギルドにてヴァイスの帰りを待っていた。
 最初は直ぐに戻ってくるだろうと高を括っていたが、一向にギルドへ戻る気配のないヴァイスを心配しながら右往左往と仕事に手を付けられずにいる。
 今日はオフであるも、ヴァイスに依頼した以上は自分も仕事をせねばといつもの服装に着替えてやって来たもののー。

「遅い、大丈夫かな…ヴァイス君」

 弟の様に思う赤髪の少年を思い浮かべながら、入口に視線を送る。
 だが、それと同じタイミングで中央エリア方面より爆破音が轟いた。

「ーーーっ!? な、なんだー!?」

 溜まりに溜まった書類に埋もれていたエルフの職員が、眠りこけそうになっていた頭を上げながら窓の外へと視線をやる。
 本来なら色鮮やか灯りで、祭音頭が聞こえる筈が轟々と爆破音と共に住民達の悲鳴が聞こえる。

「ティ、ティファー?」

 同僚の小人族のエリーが泣きそうな目で寄ってくる。
 ティファは頭を撫でて、落ち着かせた彼女を確認してから外へと出ようとすると、それより早く扉が勢い良く開けられ冒険者の1人が駆け込んで来た。

「ーぜっ、ぜぇ…大変だ!」

 ここまで全速力で駆けて来たのだろう。
 冒険者が息切れを起こしながら語り出した。

「モンスターが突然街の中に!?」

 それも爆発と共に大地が割れ、その下からである。

「中央エリアって……確か」

 そう、ヴァイスに頼んだ地下道が通っている事に気付いたティファは青ざめた。

(嘘、まさかここ最近のうめき声と関係が?)

 情報が足りない。彼女は一旦考えるのを止めて、冒険者に水を渡すエリーに声をかける。

「お願いエリー、非常警報と直ぐ動ける冒険者に中央エリアへ向かう様に報せて?」

 これは通信スキルが使える小人族のエリーにお願いする。
 遠くにいるギルド職員に思念伝達を行い、そして現場指揮している冒険者へ報せ対処してもらう。
 咄嗟の判断にしては、ティファはマニュアル通りに、そして正しい判断をギルドの上司陣よりも早く口にした。

「それと、君…もう動ける?」

「ふぅー、うっす! ティファちゃんの為なら全然!」

 さっきまで息切れを起こしていた冒険者が、水分を補給できた事で一息ついて立ち上がる。

「じゃあ1つお願い、貴方のパーティに地下道へ急行してくれる? 事前に調査依頼出した冒険者の救援に行って欲しいの」

「救援?地下道? モンスターじゃなくて?」

「そう、でも気を付けて。モンスターはきっと地下道・・・からやって来た」

 ティファは元々腕利きとして期待のルーキーとして名を馳せた元冒険者、彼女はその昔のカンにより辿り着いた。
 冒険者であり、王宮特務機関にも半年滞在した凄腕の経歴を親友のエリーとギルド上層部の一部しか知らない彼女の裏が、表となって頭の中で回転し思考する。

「で、でもよティファちゃん。仲間はモンスターの対処で合流するのに時間かかるっすよ」

 確かに、この冒険者は中央エリアから冒険者エリアの境界近くの警備担当だったのを思い出す。

「なら、私が行くわ。それとあと一人……」

「それは俺が行こう」

 あと一人誰かと告げようとする前に一人の男がティファへと歩み寄る。
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