盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか!

桐条 霧兎

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第4章 改革と祭り

第6話

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「ウッソでしょー!」

 今目の前の危機よりも、彼女ーイリスの非力さへの驚きが上回り、つい大声を上げてしまった。
 そのつい・・が仇となり、大型モンスター【リオクルス】が2人に気付いた。

「グルルルルルルゥ……」

「あ、ヤバイ」、「重いよぉこれ!」

 2人が口々に焦りと涙目でリオクルスを見上げる。
 Aランクに届かぬが、リオクルスはBランクモンスターの中ではかなりの上位モンスターに位置する。
 推定職業ジョブレベル56以上とされ、凶暴な気性を持つリオクルスに2人が思わず逃げる事を忘れ抱き着く。

「グアアアアッ!!!!」

 大きな口を広げ、2人を一瞬にして飲み込もうと襲いかかった。
 2人は思わず悲鳴を上げて目を閉じる。

 …………………………………。

 ………………………。

 一向に死を覚悟してしまった2人は、痛みも無く食べられた気配も無い事に恐る恐る瞳を開く。

「なーにしてんだか……」

 目の前には力無く倒れ伏したリオクルスの亡骸が眼前に広がり、思わず後退りするが…。
 ハッと2人は、目の前の光景よりも声の方角へと振り向いた。
 月の光をバックに、建物の屋根に1人の人影が立っている。

 ーヴァイス!

 そう言葉にする前に、月明かりに照らされる人物の輪郭がはっきりと映る。

「悪いね、ヴァイスじゃなくて」

 ローウェルが片目を瞑り、若干そっぽを向きながら言った。

「あ、ごめん。そんなつもりじゃなくて……ごめ、いやありがとうローウェル…」

「礼は良い、それよりこれ…お前らのだろ?」

 表情は読み取れないが、声色で若干拗ねた様な不機嫌さを感じる声で2人へ布に包まれた荷物を渡す。
 投げ渡され、乱暴に弧を描いて飛んでくる荷物をイリス、アスティアは混乱気味に受け取った。

 中身はなんなのか、手元に届いた瞬間にガチャガチャと金属音の擦り合う音によって理解した。
 案の定布を紐解くと、現れたのは2人の愛用している武具だった。

「流石に服までは重いからな、その格好でなんとかしてくれや」

 にぃっと意地の悪そうな笑みで2人を見遣る。
 イリスもアスティアも、彼の深い意味までは理解せずに有り難く自分達の装備品を手に取る。
 アスティアはナイフを、イリスは超軽量の片手剣を手に取りながら感触を確かめる。

 準備を終えた2人にローウェルが近付きながら、背中に背負う矢筒から一本取り出して弓を引く。

「2人は前衛、俺様がサポートだ。ヴァイスは今の所心配無いだろうぜ。とりあえずは、ヴァイスに飽きられない様にしっかり生き残る事を考えて動こうや」

 ローウェルの言葉に2人が頷きながら、周りの状況へ視線を見渡す。

♢♦︎♢

 クロムから出て南東方面、深い森林の中で血濡れたヴァイスが荒い息で駆けていた。
 しまった。忘れていた。ドジった。そう思いながら反省するヴァイスは脳裏に大反省会を開きながら思った。
 彼はソロ時代から高い知識力によって無駄の無い、完璧な仕事をして来ていた。
 無知な物へは警戒を強め、観察し対処する。
 無知のまま終わらせず、調べ、反省し、反復する。
 それが今までソロでありながら生き残れた“技”であったのだ。

「はぁ…はぁ……はっ、はぁ…」

 どれくらい走ったのか、生身の肉体で久方ぶりの全力疾走と身体中にある大小様々な傷に、肩からの大きな切り傷により体力も気力もほぼ限界値を振り切っていた。
 身体が重かろうが、今足を止めたならば死ぬ事は予想明ていた。

 ー立ち止まるな。走り続けろ。

 心の中でずっと叫び、自らを奮い立たせる精神力で今生き残れている。
 この森の危険度は夜になればなるほど高い、一刻も早く抜ける事をヴァイスは1番にした。

「クソ、最初は森経由なんて安直な考え……」

 するべきではなかったと後悔する。
 自分の判断が思ったよりも疲労と傷により落ちていたせいか、見事に深夜の森で様々なモンスターから熱い歓迎会を開かされている。
 ファルゴを倒し終えた後から次々と森の守護者とばかりにモンスターが襲いくる。
 しかもだ、予想外な事に追っ手にすら追い付かれる始末に、阿鼻叫喚しながら今こうして走り“逃げる”事を選択している。

 そうこうしている内に、また目の前からモンスターが現れる。
 そう、こいつがいるからこの森は危険なのだ・・・・・・・・・

 アンデット系モンスター、ある一定時刻限定から出没し出会う事は少ない筈のモンスター。
 【ワイトスモッグ】黒い霧であり、何処か以前戦った【シャドー】や【屍の巨人兵】と似た得体であり、雷雲の様な雲の形状で頭蓋骨から赤い光を放ちながらヴァイスを追い掛ける。

 シャドーを倒せるヴァイスでも、これだけは無理である。
 いや、寧ろほとんどの冒険者自体【コイツワイトスモッグ】を触れる事は出来ない・・・・・・・・・のだから、必然的に逃げるのが定石なのだ。
 だからと言って、触れる事が出来ないなら害は無いとは別である。
 このモンスターは、逆に人間達を触れられ狩れる側なのだ。
 物理攻撃無効、魔法攻撃耐性微弱、一種の鬼畜モンスターの1つであるワイトスモッグは、基本的に人を襲う事は少ない。

 だが、1つだけ問答無用に襲いかかる条件がある。
 それは……“ワイトスモッグの活動時間内にて、テリトリーに侵入した者”の排除。
 ワイトスモッグは別名“森の守護者ガーディアン フォレスト”なんて呼ばれている。

 森の住民では無い者は、この森に決まった時刻からは一切立ち入る事をしないのがクロム、又は冒険者旅人の世界共通ルールである指定された場所の1つなのだ。
 ヴァイスは本当に自分の判断能力、知識が狂うのを反省した。

 普段イリスに説教している身分としては、これは初歩的なミスであり、1番やってはいけない事なのだから。
 イリスがそれを犯そう者なら、かなりの勢いで怒り説教しているであろう自分を想像し、げんなりしながら目の前に無数に現れるワイトスモッグの攻撃を躱しながら逃げる。

 もうさっきから一直線に走る事でしか、唯一の体力消費を抑える方法であるので、少しの方向転換、躱す動作でごっそりと無い体力が削られる。
 1つの必要であるも無駄な動作をする度に、肩が大きく上下し息が荒く呼吸が止まりそうになる。
 いや、酸素が足りなさ過ぎて酸欠になる勢いだ。

 攻撃したくてもヴァイスには、耐性があっても微弱で唯一の攻撃手段のマジックスキルは持ち合わせていない。
 盗賊である彼としては当たり前であり、不可能な攻撃手段に恨めしそうに睨む事が攻撃となっていた。
 だが、それすらも体力が削られる事に立ち止まらずに考えずに走り続ける。

 今立ち止まれば、きっと全身から節々までガクガクと震え指一本動かす事すら出来ない程力無く倒れ込むだろうと理解しているからだ。
 ワイトスモッグは森の侵入者なら誰だろうと襲う。
 一応、それにより追撃者からは逃げられる事に安堵しながら鬱陶しく逃げ惑う。

 生き残るなら、さっさと森を抜ける事。
 それがワイトスモッグに為すすべの無い者達の唯一の対処法なのだ。

 ーーーそれが簡単に出来れば苦労しないのも、ヴァイスは知っている。

 ワイトスモッグの黒い霧は一種の幻覚作用があり、森を迷宮化させてその者を逃さず殺すまで諦めない。
 逃したら又来るだろう?そう告げられているかの様に、執拗に排除するまで追うのだ。

 だがらヴァイスは走る。
 偶然森を抜ける・・・・・・・まで………。
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